大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第33回

2013年09月20日 13時01分39秒 | 小説
『みち』 目次

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『みち』 ~未知~  第33回



そしてこの日も図書館に寄って帰った。

「戒名の本、他のものも借りて読もうかしら。 1冊だけだったら作者の思い込みもあるだろうから 真実が分からないものね」 そう思いながら棚を見ていると 仏教の本が並べられてある棚が目に入った。

「仏教か・・・仏教を知らずに 儒教だ何だと言ってても始まらないわよね」 そして釈迦の本を手に取った。

「取り敢えず今日のところは これを借りて帰りましょう」 そう言って借りてきた本を読み始めたが 取り敢えずが取り敢えずでなくなってしまった。 すぐに読み終え、次から次へと仏教の本を借り 空海、最澄と平安時代まで読み漁った。 もう戒名のことなんてどうでもよくなったようだ。

「凄い空海って こんな人だったんだ 第8代阿闍梨・・・すごい」



琴音が本を読んでいる間にも 時は刻々と過ぎていた。 会社での仕事はずっと座りっぱなしである。 もう12月、足元が異常に冷える。
家に帰って足の指を見ると 全部の指が赤く腫れあがっていた。

「うわ! しもやけになっちゃった。 中学校以来だわ」 それからと言うもの 仕事をしていても足の指が痒くてたまらない。 机の下で自分の片方の足をもう片方の足で踏んで痒さを紛らわしていたが

「もう、森川さんが辞めるって言うのに こんな痒さで仕事に集中できないなんてどうしよう」 琴音の心の中は焦りでいっぱいであった。 


翌日、朝の掃除をしていると 斜め前のビルが目に入ったが

「やっぱり何も感じないわよね」 そうなのだ。 窓が開けられてからは視線を感じなくなったのだ。

男性社員がやってきて朝のコーヒーを社員の机に置いている時にもう一度ビルを見てみたが やはり今まで感じていた不気味な視線を感じない。

「どうしたの?」 ビルを見ている琴音を見て森川が話しかけてきた。

「あ、いえ何も・・・」

「あのビルを見てたの?」

「あ・・・はい」

「あのビルには嫌な思い出しかないわ。 あの真ん中の窓があるでしょ、いつもあの窓からあそこのビルのオーナーがこっちを睨んで立ってたのよ」

「え?!」 琴音が視線を感じていた窓だ。

「以前うちとちょっと一悶着あったの。 それからずっとあの窓から睨んでたのよ。 でも1年位前にそのオーナーが入院したって聞いたんだけどどうなったのかしら?」 その話を聞いていた営業の社員が

「森川さん知らないんですか? 入院して半年位で亡くなったそうですよ。 丁度織倉さんがうちに来た時くらいじゃないかなぁ?」

「あら? そうなの? じゃあ、もうあの睨む姿は見なくていいのね」

「あの、この間あの窓が開いてたんですけど・・・」 琴音がそう言うと営業の社員が

「ああ、前のオーナーには子供がいなかったから 甥っ子があのビルの守をすることになったらしいんです。 それで長い間閉めっ放しだった窓を開けにきてたみたいですよ」 

「そうなんですか・・・」 まだ琴音には分からないだろうけど窓が開けられたことによって変わったんだよ。 雨も降っていたしね。 覚えておくといい。 念だよ。

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