『---映ゆ---』 目次
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「婆様の?」
年のころならシノハと同じくらいか、少し若いくらいだ。
だが、タムシル婆からは孫どころか、子の話も聞いたことがなかった。
「はい、婆様からシノハ様のお話は小さい頃より時折、聞いておりました」
はぁー? コッチは聞いてないけどー? と言いたかったが、それより気になることがあった。
「あの、“様”は・・・」 と言うと
「あ・・・シノハさんの方がよろしいでしょうか?」 と、問われた。
「いえ、シノハだけで・・・」 と言うと
「それは・・・」 と、言われてしまった。
心の中でペロッと舌を出しながら “さん”付けなんて慣れてないから気持ち悪いんだけど。 と思うと、断られた事にバツ悪くなり話を変えた。
「ここはいったい?」
「我が村は地の揺れが多いので、揺れる時にはいつもここに逃げ込んでいるのです。 木々の根が張られて安全ですので」
「ああ、それで小屋や椅子などがあるのですね」
「はい。 一日二日くらいならここで生活できますが、今は長いですから不便が多くて。 遠い所を来て下さったシノハさんにもご不便をおかけすると思います」
「いえ、そんな事は気になさらないで・・・それより」 言うと、気になることを聞いた。
「婆様の背に傷はないのでしょうか?」
「あります」
(やはりか・・・)
「傷の具合は?」
「決して良いものではないと思います。 ですが―――」 ここまで聞くと、トデナミの言葉を遮ってすぐにシノハが問うた。
「どのような傷であられるのか? すぐにでも持ってきた薬草を塗らなければ」
「それが・・・」 トデナミが言葉を濁す。
「まさか! なにか良くないことが!?」 語気を荒げた。
「いえ、そういうわけではありません。 ただ、婆様は自分は一番最後でいいと仰るのです。
あの恐ろしい地の怒りを受けた時は、畑作業の時でした。 畑作業でこの森の前で働いていた皆は森へ逃げ込みました。
地の怒りが収まると男達は森に女を残し村へ帰り、あの時村に残っていた長と婆様たちと小さな子達、その母たちを潰れた家から助け出すと、次に薬草の小屋を掘り起こしたのですが、乾燥させていた薬草は粉々になって土と一緒になっていました。
その中で何とか使えそうな僅かな薬草を手にして森へ帰ってきたのですが、僅かな薬草は乳飲み子の母や子供に一番に使えと、婆様は薬草を塗るのを拒んでいらっしゃるのです。
一度だけ・・・婆様を助け出した後、森の中で血だらけになった衣の着替えを手伝うのに背を見ましたが、大きな傷が・・・」
心配が溜まっていたのであろうか、堰を切ったように一気に話した。
「婆様・・・」 思わず背もたれに身体を預けているタムシル婆を見た。
「それなのにシノハさんがこられる前、今日は地の怒りが治まっている、村を見に行くと仰って、先ほどは村から帰ってきたところだったのです」
「その状態で村に行かれたのですか?」
「はい。 それがここに帰った途端、急にラワンの声がすると仰って、また森の外の方へ歩いていくと、シノハさんの声が聞こえてきたのです」
「ラワンの声・・・あんなに離れていたのに婆様には聞こえたのか・・・」 独り言の様に呟くと続けて言った。
「我が村の婆様、セナ婆様が持たせてくれた薬草は沢山あります。 すぐにでも婆様の背に塗りたい。 トデナミさん、お願いできますか?」
「はい、ザワミドさんと共に婆様の背に塗りますが・・・」 ザワミドと言うのは先ほど薬草を預けたこの村の薬草師、小太りの女のことだ。
「・・・が?」
「シノハさんから婆様を説得していただけますでしょうか」
「ああ、薬草を塗るという事をですね」
「はい。 私達の言葉では受け入れてもらえませんが、先ほどあんなに喜ぶ婆様を見たのは初めてでした。 シノハさんの言葉だったら、聞いてくださるかもしれません」 何故か寂しげな目が気になったが、今はそれどころではない。
「分かりました」 二人で目を合わせると、互いに次の行動に移った。
トデナミは薬草師ザワミドの元へ、シノハは荷の片づけを一旦置きタムシル婆の元へ。
「婆様」 椅子の背もたれにユルリと身体を預けていたタムシル婆が目を開いた。
「ああ、シノハ。 ザワミドから聞いた。 たんと薬草を持ってきてくれたそうじゃな」 伏せていたラワンが首を上げる。
(熱? 先ほど支えている時は気付かなかったが・・・もしや・・・) タムシル婆の口から漏れる空気が熱い。
「婆様、薬草は沢山あります。 ご安心下さい、皆に行き渡ります」 その言葉を聞いてタムシル婆がコクリと頷いた。
「婆様の背に傷があると聞きました。 婆様、薬草を塗らせてください」
「わしは最後でよい。 皆の傷が治まってからじゃ」
「婆様! 薬草は皆に行き渡ります。 セナ婆様が沢山持たせてくれたのです。 セナ婆様の気持ちを汲んでください」
「セナ・・・セナイルか・・・。 セナイルにも心配をかけたのう。 ・・・今日は少し疲れた」 そう言うタムシル婆がどこかに行く気がした。
「婆様?」 目を瞑ったまま返事がない。
ラワンが飛び起き、タムシル婆の周りを膝を高く上げ、せわしなく歩き始めた。
「トデナミ!! ティカの葉を今すぐ! 早く!」 大声で叫んだ。
すぐさまトデナミとザワミドがいくつかの薬草を持ってきた。
ティカの葉はオロンガ村特有の葉。 今回初めて持ってきた薬草の内の一つであった。
先ほどザワミドが説明を聞いたが、急に言われてどれがティカの葉か分からなくなってしまったようだ。
シノハがその中から乾燥をさせていない一本の薬草を取ると、肉厚のある葉を一枚取り丁寧に拭き、次に裂こうとしたとき
「あ・・・」 一瞬考えると続けて言った。
「水と、何でもいいので椀はありませんか?」 すぐにトデナミが走った。
帰ってくると手には小さな木の椀を二つ持っていた。 一つの椀には水が入っていると手渡されたが、見てみると少し濁っている。
「今はこの水しかないのです」
「そうですか・・・でも今の婆様にこの水は・・・」 どうしようかと考えると思い出した。
「せっかくなのだが、この水はお返しする」 そういうと水の入った椀を返した。
そしてすぐに腰に下げている筒を手に取り蓋を開けた。
あの水の流れ、山の恵みであり清らかで滑らかな生(せい)を慈しむ力を持ったあの水が入っている。
「この筒を持っていてください」 筒をトデナミに渡すと代わりに空の椀を受け取った。
すぐにティカの葉を裂くと空の椀にその黄色い汁を絞った。 絞り終えたティカの葉をザワミドに渡すと「まだ使えますから」 と言葉を添えた。
次にトデナミから筒を受け取り、その水を小さな椀いっぱいに入れた。
「婆様、聞こえますか?」 その声にうっすらと目を開けた。
「ティカの葉の汁を入れた水です。 飲んでください」 椀をタムシル婆の口につけるとその椀をゆっくりと傾けた。
ゴクリ、小さく一口飲むと椀を口から離し様子を伺った。 また椀を口につけてゆっくりと傾けるとまた小さく一口飲む。 これを繰り返し、椀の中のティカの汁を入れた水を全て飲み終えた。
タムシル婆はまるで寝ているかのように、そのまま動かなくなった。
後ろで心配気な顔をしていたザワミドとトデナミに向き直ると、トデナミに椀を渡しながら二人に説明をした。
「今の婆様の状態では、汁をそのまま口に入れると効きすぎると思い、水で薄めたのですが、これで少しは良くなると思います」 その言葉にホッと安心した顔で二人が互いの顔を見やった。
続いてタムシル婆の周りをせわしげに歩いていたラワンにも声をかけた。
「ラワン、婆様は大丈夫だ」 その声に必要以上に高く上げていた足が止まり、タムシル婆を覗き込んだ。
シノハはまたザワミドとトデナミを見た。
「婆様の身体の中は熱を帯びているようです。 外に出ない熱、身体を触っても分からない熱です。 オロンガによく見られる体質です。
ティカの葉は、身体の中にこもった熱を外に出しますので、急に婆様の身体が熱くなってきますが心配しないで下さい、悪いことではありません。 そしてこれからどんどん汗が出てきます。 それで熱も下がるでしょう。
それと、我が村ではティカの葉の汁や、磨り潰したものを膿の出来た所に塗ります。 今の様に飲んでも効き目はありますが、膿には塗るほうが良く効きます」
「膿?」 ザワミドが聞き返した。
「はい。 婆様の背の傷は、膿んできていると思います。 熱は疲れもあるでしょうが、発端は膿によるものだと思います。 これ以上酷くならぬよう、すぐにでもティカの葉を塗ってもらえないでしょうか」
最初、タムシル婆がラワンの背に乗ったときのあの臭いは、膿んでいる臭いに違いなかった。
「勿論、そうしたいのは山々なんだけど、婆様が薬草を塗るのを拒まれるんだよ」 どうしたものかとザワミドが言った。
「トデナミから聞きました。 ですが、これ以上放っておいては婆様の命に関わってきます。 それに今なら婆様も断る元気もないでしょう」
「今?」
「はい、ティカの葉の汁を飲んで暫くは眠っておられると思います」
「その間にと?」 少し困ったように聞いたザワミドの問いにシノハが頷く。
困り顔のザワミドを見てトデナミが言う。
「大丈夫です。 薬草は私が塗ります。 ザワミドさんは薬草を作ってください。 ザワミドさんが眠っておられる婆様に触れることはありません」
(何の話をしているのだ?) 思ったが、そのシノハを見たトデナミが続けて言った。
「でも、ここでは・・・」 そう言うとザワミドと目を合わせた。
「どちらにせよ汗が出てくるので、横になるのが良いです。 それにこのままここに居て風に当たっていては良くなるものも良くなりません。
どこか横になれる所はありますか? そこでティカの葉を塗ってもらえませんか?」 ザワミドに問うと、ザワミドがコクリと頷いたが
「場所はあるけど、婆様を起こして歩いて頂くわけにはいかないし・・・」 ザワミドとトデナミがどうしたものかと、顔を見合わせた。
「男である我が背負うわけにはいきませんので、どちらかが婆様を背負ってくださいませんか?」 その問いに間髪居れずに答えたのはザワミドだった。
「とんでもない! 婆様を背負うなんて!」 ザワミドが顔色を変えて叫んだ。
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- 映ゆ - ~Shinoha~ 第12回
「婆様の?」
年のころならシノハと同じくらいか、少し若いくらいだ。
だが、タムシル婆からは孫どころか、子の話も聞いたことがなかった。
「はい、婆様からシノハ様のお話は小さい頃より時折、聞いておりました」
はぁー? コッチは聞いてないけどー? と言いたかったが、それより気になることがあった。
「あの、“様”は・・・」 と言うと
「あ・・・シノハさんの方がよろしいでしょうか?」 と、問われた。
「いえ、シノハだけで・・・」 と言うと
「それは・・・」 と、言われてしまった。
心の中でペロッと舌を出しながら “さん”付けなんて慣れてないから気持ち悪いんだけど。 と思うと、断られた事にバツ悪くなり話を変えた。
「ここはいったい?」
「我が村は地の揺れが多いので、揺れる時にはいつもここに逃げ込んでいるのです。 木々の根が張られて安全ですので」
「ああ、それで小屋や椅子などがあるのですね」
「はい。 一日二日くらいならここで生活できますが、今は長いですから不便が多くて。 遠い所を来て下さったシノハさんにもご不便をおかけすると思います」
「いえ、そんな事は気になさらないで・・・それより」 言うと、気になることを聞いた。
「婆様の背に傷はないのでしょうか?」
「あります」
(やはりか・・・)
「傷の具合は?」
「決して良いものではないと思います。 ですが―――」 ここまで聞くと、トデナミの言葉を遮ってすぐにシノハが問うた。
「どのような傷であられるのか? すぐにでも持ってきた薬草を塗らなければ」
「それが・・・」 トデナミが言葉を濁す。
「まさか! なにか良くないことが!?」 語気を荒げた。
「いえ、そういうわけではありません。 ただ、婆様は自分は一番最後でいいと仰るのです。
あの恐ろしい地の怒りを受けた時は、畑作業の時でした。 畑作業でこの森の前で働いていた皆は森へ逃げ込みました。
地の怒りが収まると男達は森に女を残し村へ帰り、あの時村に残っていた長と婆様たちと小さな子達、その母たちを潰れた家から助け出すと、次に薬草の小屋を掘り起こしたのですが、乾燥させていた薬草は粉々になって土と一緒になっていました。
その中で何とか使えそうな僅かな薬草を手にして森へ帰ってきたのですが、僅かな薬草は乳飲み子の母や子供に一番に使えと、婆様は薬草を塗るのを拒んでいらっしゃるのです。
一度だけ・・・婆様を助け出した後、森の中で血だらけになった衣の着替えを手伝うのに背を見ましたが、大きな傷が・・・」
心配が溜まっていたのであろうか、堰を切ったように一気に話した。
「婆様・・・」 思わず背もたれに身体を預けているタムシル婆を見た。
「それなのにシノハさんがこられる前、今日は地の怒りが治まっている、村を見に行くと仰って、先ほどは村から帰ってきたところだったのです」
「その状態で村に行かれたのですか?」
「はい。 それがここに帰った途端、急にラワンの声がすると仰って、また森の外の方へ歩いていくと、シノハさんの声が聞こえてきたのです」
「ラワンの声・・・あんなに離れていたのに婆様には聞こえたのか・・・」 独り言の様に呟くと続けて言った。
「我が村の婆様、セナ婆様が持たせてくれた薬草は沢山あります。 すぐにでも婆様の背に塗りたい。 トデナミさん、お願いできますか?」
「はい、ザワミドさんと共に婆様の背に塗りますが・・・」 ザワミドと言うのは先ほど薬草を預けたこの村の薬草師、小太りの女のことだ。
「・・・が?」
「シノハさんから婆様を説得していただけますでしょうか」
「ああ、薬草を塗るという事をですね」
「はい。 私達の言葉では受け入れてもらえませんが、先ほどあんなに喜ぶ婆様を見たのは初めてでした。 シノハさんの言葉だったら、聞いてくださるかもしれません」 何故か寂しげな目が気になったが、今はそれどころではない。
「分かりました」 二人で目を合わせると、互いに次の行動に移った。
トデナミは薬草師ザワミドの元へ、シノハは荷の片づけを一旦置きタムシル婆の元へ。
「婆様」 椅子の背もたれにユルリと身体を預けていたタムシル婆が目を開いた。
「ああ、シノハ。 ザワミドから聞いた。 たんと薬草を持ってきてくれたそうじゃな」 伏せていたラワンが首を上げる。
(熱? 先ほど支えている時は気付かなかったが・・・もしや・・・) タムシル婆の口から漏れる空気が熱い。
「婆様、薬草は沢山あります。 ご安心下さい、皆に行き渡ります」 その言葉を聞いてタムシル婆がコクリと頷いた。
「婆様の背に傷があると聞きました。 婆様、薬草を塗らせてください」
「わしは最後でよい。 皆の傷が治まってからじゃ」
「婆様! 薬草は皆に行き渡ります。 セナ婆様が沢山持たせてくれたのです。 セナ婆様の気持ちを汲んでください」
「セナ・・・セナイルか・・・。 セナイルにも心配をかけたのう。 ・・・今日は少し疲れた」 そう言うタムシル婆がどこかに行く気がした。
「婆様?」 目を瞑ったまま返事がない。
ラワンが飛び起き、タムシル婆の周りを膝を高く上げ、せわしなく歩き始めた。
「トデナミ!! ティカの葉を今すぐ! 早く!」 大声で叫んだ。
すぐさまトデナミとザワミドがいくつかの薬草を持ってきた。
ティカの葉はオロンガ村特有の葉。 今回初めて持ってきた薬草の内の一つであった。
先ほどザワミドが説明を聞いたが、急に言われてどれがティカの葉か分からなくなってしまったようだ。
シノハがその中から乾燥をさせていない一本の薬草を取ると、肉厚のある葉を一枚取り丁寧に拭き、次に裂こうとしたとき
「あ・・・」 一瞬考えると続けて言った。
「水と、何でもいいので椀はありませんか?」 すぐにトデナミが走った。
帰ってくると手には小さな木の椀を二つ持っていた。 一つの椀には水が入っていると手渡されたが、見てみると少し濁っている。
「今はこの水しかないのです」
「そうですか・・・でも今の婆様にこの水は・・・」 どうしようかと考えると思い出した。
「せっかくなのだが、この水はお返しする」 そういうと水の入った椀を返した。
そしてすぐに腰に下げている筒を手に取り蓋を開けた。
あの水の流れ、山の恵みであり清らかで滑らかな生(せい)を慈しむ力を持ったあの水が入っている。
「この筒を持っていてください」 筒をトデナミに渡すと代わりに空の椀を受け取った。
すぐにティカの葉を裂くと空の椀にその黄色い汁を絞った。 絞り終えたティカの葉をザワミドに渡すと「まだ使えますから」 と言葉を添えた。
次にトデナミから筒を受け取り、その水を小さな椀いっぱいに入れた。
「婆様、聞こえますか?」 その声にうっすらと目を開けた。
「ティカの葉の汁を入れた水です。 飲んでください」 椀をタムシル婆の口につけるとその椀をゆっくりと傾けた。
ゴクリ、小さく一口飲むと椀を口から離し様子を伺った。 また椀を口につけてゆっくりと傾けるとまた小さく一口飲む。 これを繰り返し、椀の中のティカの汁を入れた水を全て飲み終えた。
タムシル婆はまるで寝ているかのように、そのまま動かなくなった。
後ろで心配気な顔をしていたザワミドとトデナミに向き直ると、トデナミに椀を渡しながら二人に説明をした。
「今の婆様の状態では、汁をそのまま口に入れると効きすぎると思い、水で薄めたのですが、これで少しは良くなると思います」 その言葉にホッと安心した顔で二人が互いの顔を見やった。
続いてタムシル婆の周りをせわしげに歩いていたラワンにも声をかけた。
「ラワン、婆様は大丈夫だ」 その声に必要以上に高く上げていた足が止まり、タムシル婆を覗き込んだ。
シノハはまたザワミドとトデナミを見た。
「婆様の身体の中は熱を帯びているようです。 外に出ない熱、身体を触っても分からない熱です。 オロンガによく見られる体質です。
ティカの葉は、身体の中にこもった熱を外に出しますので、急に婆様の身体が熱くなってきますが心配しないで下さい、悪いことではありません。 そしてこれからどんどん汗が出てきます。 それで熱も下がるでしょう。
それと、我が村ではティカの葉の汁や、磨り潰したものを膿の出来た所に塗ります。 今の様に飲んでも効き目はありますが、膿には塗るほうが良く効きます」
「膿?」 ザワミドが聞き返した。
「はい。 婆様の背の傷は、膿んできていると思います。 熱は疲れもあるでしょうが、発端は膿によるものだと思います。 これ以上酷くならぬよう、すぐにでもティカの葉を塗ってもらえないでしょうか」
最初、タムシル婆がラワンの背に乗ったときのあの臭いは、膿んでいる臭いに違いなかった。
「勿論、そうしたいのは山々なんだけど、婆様が薬草を塗るのを拒まれるんだよ」 どうしたものかとザワミドが言った。
「トデナミから聞きました。 ですが、これ以上放っておいては婆様の命に関わってきます。 それに今なら婆様も断る元気もないでしょう」
「今?」
「はい、ティカの葉の汁を飲んで暫くは眠っておられると思います」
「その間にと?」 少し困ったように聞いたザワミドの問いにシノハが頷く。
困り顔のザワミドを見てトデナミが言う。
「大丈夫です。 薬草は私が塗ります。 ザワミドさんは薬草を作ってください。 ザワミドさんが眠っておられる婆様に触れることはありません」
(何の話をしているのだ?) 思ったが、そのシノハを見たトデナミが続けて言った。
「でも、ここでは・・・」 そう言うとザワミドと目を合わせた。
「どちらにせよ汗が出てくるので、横になるのが良いです。 それにこのままここに居て風に当たっていては良くなるものも良くなりません。
どこか横になれる所はありますか? そこでティカの葉を塗ってもらえませんか?」 ザワミドに問うと、ザワミドがコクリと頷いたが
「場所はあるけど、婆様を起こして歩いて頂くわけにはいかないし・・・」 ザワミドとトデナミがどうしたものかと、顔を見合わせた。
「男である我が背負うわけにはいきませんので、どちらかが婆様を背負ってくださいませんか?」 その問いに間髪居れずに答えたのはザワミドだった。
「とんでもない! 婆様を背負うなんて!」 ザワミドが顔色を変えて叫んだ。