大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~道~  第121回

2014年07月29日 14時47分38秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第110回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第121回



正面玄関で待っていると野瀬が車を運転してやってきた。

(うわぁ、これって前と違う車じゃない。 それもまた外車・・・) 左にハンドルが付いているから外車と分かるようだが右ハンドルの外車もある。 そしてこれはベンツである。

ホテルのドアマンが車のドアを開け更紗と琴音は車に乗り込んだ。

「更紗さんって ホントに超有名なんですね」

「違うってば」

「だって、この間も今日も外車・・・ですよね?」 自信なさ気に聞いた。

「外車はその2台しか持ってないわよ。 あと国産の軽自動車。 全部経費で買ってるのよ。 一つの節税対策みたいなものよ」

「はぁー、外車を2台も持ってるんだぁ」

「だから違うってば」 笑いながらそう言い、続けて

「一番大きな経費って普通は人件費でしょ? でもうちは野瀬君と私の二人だけでやってるから人件費がかからないのよ。 だからどこかで使わなきゃ税金に取っていかれるだけじゃない? だからと言って二重帳簿なんてことはしたくないし。 で、こうして使ってるわけ。 名義も事務所名義だから私の私物じゃないのよ」

「それでも買える収入っていうのがすごいですよ」 そう言う琴音の顔を見て

「車、これも一つの商売アイテムでもあるのよ」

「え? どういうことですか?」

「例えば今みたいにホテルに呼び出されることもあるわけ。 そんな時にオンボロの車では行きにくいでしょ? ホテルに呼び出すようなお客さんだもの。 オンボロ車で来たりしたら引いちゃうじゃない。 こんな仕事をしていると見た目も考えなくちゃいけないときもあるのよ」

「うちの会社じゃ無理だわ」 大きく溜息をついた。

「何処も不況だからね。 そんな相談も多いわ」

「そうなんですか?」

「ええ。 やっぱりね・・・。 聞いていて 何とか命を取り留めてもらわないとっていう事も少なからずよ」 更紗の表情が悲しげな顔になった。 

運転をしている野瀬は会話に入ってこない。 そして車はホテルの正面に着いた。 

「あら? ここだったの? ここのラウンジも結構静かでいいところよ」 琴音を見て更紗が言った時、ドアマンが車のドアを開けた。

「野瀬君 急がなくていいから。 琴音さんと先に行ってるわ」

「場所、分かるんですか?」 運転席から振り返り半笑いの顔だ。

「失礼ね。 何度も来てるんだから分かるわよ」 どうも更紗も琴音と同じように方向音痴のようだ。

「行きましょ」 またもや更紗のウインクだ。


ラウンジは少々暗めの落ち着ける雰囲気だ。 更紗の顔を見るなりすぐBOYが席に案内した。

「わぁ、素敵なお店」 琴音はキョロキョロとしている。

「ワインでいいかしら?」

「こんな所にきたのは初めてですからお任せします」 

「お腹は空いてない?」

「バイキングで食べてきました」 まだキョロキョロしている。

「バイキング?」

「あ!」 やっと更紗の顔を見た。

「さっきのホテルには友達とバイキングを食べに行ってたんです」

「そうだったの。 あそこのお料理は美味しいわよね」

「はい、初めて行ったんですけどとっても美味しかったです。 更紗さんはあそこのホテルにはよく行かれるんですか?」

「何度かね。 でも仕事関係ばかりよ」 更紗が赤ワインを頼んだ。

「更紗さんのお客さんってさっきみたいな感じの人が多いんですか?」

「ふふ、やっと話が出来るわね。 そこのホテルで会ってた人の事を同じホテルの中じゃ話しにくいじゃない?」 またもやウインク。 

「あ、そういう事だったんですか」 やっとウインクの意味が分かったようだ。

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みち  ~道~  第120回

2014年07月25日 15時05分53秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第120回



「おお、そうか、もう時間か。 せっかく更紗先生と久しぶりにお逢いしてもっと話をしたかったのになぁ。 いやぁ、せっかく足を運んでいただいたのに慌しくてすみませんね」 そういいながら立ち上がるとその言葉を待っていましたとばかりに更紗も立ち上がった。 
それを見た琴音もすぐに立ち

「お忙しいのは何よりですわ。 それでは今日は楽しいお話を有難うございました」 お辞儀をする更紗の横で慌てて琴音もでペコリとお辞儀をした。

入ってきた時と反対に今度は更紗が先頭を切って部屋を出た。 琴音もその後に続きドアの横に立っていた強面な男性にもペコリとお辞儀をして部屋を出た。 

更紗はそのままエレベーターに向かって歩いて行ったが野瀬がまだだ。 琴音はまだやってこない野瀬の事が気になってはいたが、とにかく誘拐ではなかったようだと胸をなでおろし更紗の後を歩いた。

エレベーターのボタンを押した更紗が

「ごめんなさいね、もう少し待ってね」 琴音にそう言った。

エレベーターを待っていると野瀬がやって来た。 丁度エレベーターのドアが開いた。
野瀬がドアが閉まってこないように手で押さえ琴音に「どうぞ」 と言ったがそんなシチュエーションになれていない琴音はすぐに足が前に出なかった。

「琴音さん行きましょ」 更紗が琴音に声をかけ琴音の背に手を添えた。

野瀬もすぐに入ってエレベーターのドアが閉まった。 その途端、更紗が地団太を踏むように、そして声を殺して叫んだ。

「あ“――― 」 

「更紗さん、織倉さんの前ですよ」 野瀬が冷静に言った。

「分かってるわよ・・・でも、あのタヌキったら・・・」 言いかけて口をつぐんだ。 そして琴音に

「ごめんなさいね。 こんな事に付き合わせて」 琴音にしてみればさっきまでの更紗と別人が話しているようで・・・いや、先程の更紗が別人に感じ何が何だか全く分からない。

エレベーターのドアが開いた途端 更紗が飛んで出た。

「あー、息が苦しいわ」 後に出た琴音と野瀬。 野瀬が後姿の更紗に

「更紗さんこれからどうします? ホテルを変えましょうか?」

「そうね、同じホテルっていうのもね。 ね、琴音さんもいいでしょ?」

「あの 私、何が何だか」

「そりゃそうよね。 とにかく私に時間をくださる?」

「はい・・・」 更紗の言葉に押された。

「ね、野瀬君 今日はもう予定が無いんだからどこか良い雰囲気のところでワインなんてどう? 琴音さん飲める?」

「少しくらいなら」

「それじゃあ・・・そうですね、少し待っていていただけますか?」

「うん。 お願いね」 野瀬が携帯を片手に見えないところに行った。

「ホントは今すぐにでもお話を聞きたいんだけどここじゃちょっとね」 更紗がウインクをした。 琴音はその意味が分からない。

少しして野瀬が帰ってきた。

「ここから30分くらい走ったところのホテルになりますが そこが今空いているそうなんですけどそちらで宜しいですか?」

「え~? 30分も走るの~? もっと近くにないの? 早く飲みたいのにー」

「分かりました」 野瀬がすぐにまたどこかへ行った。 その後姿を見ながら琴音が更紗に言った。

「野瀬さんって出来たマネージャーさんなんですね」 

「でしょ、私のワガママをちゃんと聞いてくれるのは野瀬君くらいよ」

「あ、更紗さんがワガママって言ってるんじゃなくて・・・」

「ふふ、いいのよ。 分かっててわざとワガママを言ってる所もあるから」

「え? そうなんですか?」

「不思議よね。 野瀬君だけには甘えられるの」

「あの? 聞いていいですか?」

「なぁに?」

「お二人は・・・恋人同士?」

「まさかー?! ぜんっぜん違うわよ」 そこへ野瀬がやってきて

「更紗さんの仰るいい雰囲気っていう所からは少し外れますけど10分も走らないで空いている所がありますのでそこに行きましょう。 もう嫌って言っても駄目ですよ。 キープしましたからね」

「はい、はい。 じゃ、琴音さん行きましょ」 そう言って更紗は歩き出し野瀬は車を取りに行った

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みち  ~道~  第119回

2014年07月22日 14時39分41秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第119回



睨みの利いた目で野瀬を見ると「どうぞ」 と一言。

「失礼します」 野瀬が先頭を切って入って行った。 琴音が更紗の後ろに付こうとしたとき更紗が琴音の背を押して先に歩かせた。

「え?・・・」 背中がそっくり返る。

(ちょっと待ってよ、これって誘拐じゃないでしょうね)

野瀬がさっさと廊下を歩き中の部屋に入って行った。 すると 

「やぁ、野瀬君久しぶりだね」 中から声がした。 その時

(わっ、この空気って何? 異常じゃない?)

琴音もゆっくりと中に入っていくとソファーに座っている恰幅のいい60歳くらいであろうか、その男性一人とソファーの横には40歳代位に見える細身の男性一人が立っていた

(うわー、何? この嫌な感じ) 

「おお、更紗先生お元気でしたか? あれ? この方は?」

「今、野瀬君と一緒に行動をとってもらってお勉強をしてもらっていますの。 まだ名前を名乗れるほどではないので今日のところはご紹介できないんですが、同席させて頂いて場の経験をしてもらおうと思っているんですけどよろしいかしら?」 先程までの更紗と別人のように話し始めた。 琴音はどうしていいのか分からない。

「そうですか、野瀬君も忙しいだろうから助手が必要なわけですな。 結構ですよ。 何も隠さなければならないこともありませんからね。 立ったままではなんですから さぁさ、座ってください」

「有難うございます。 彼女には一緒に座って話を聞いてもらいますけどあまり気になさらないで下さいね」 更紗が琴音に自分の横に座るように促した。 

とにかく何が何だか訳が分からないが誘拐ではなさそうだと更紗の隣に座った琴音であった。 琴音が座った横に野瀬が立った。

「こんな美人を気にするなと言われても無理でしょう。 なぁ?」 隣に立っている細身の男性を見て言った。 男性は何もしゃべらず頷くだけであった。

「まぁ、そんな風に言っていただいて野瀬君も鼻が高いわね」 野瀬を見ながら白々しく更紗が言った。

「いや・・・まぁ。 それよりどうでしたか? 海外旅行のほうは?」

「まぁまぁだったよ。 久しぶりに仕事も何も忘れての旅行だったからね」 それを聞いた更紗が話を膨らませようと

「奥様孝行が出来ました?」 

「孝行どころじゃありませんよ。 あちこちの店に行っては何かと買わされましたよ」

「まぁ、それは奥様、お幸せだこと」 

「女性はどうしてあんなにバッグや宝石が好きなんでしょうなぁ」

「奥様はご趣味がお宜しいから。 きっと素敵なものをお買い求められたんでしょうね」

「行く国、行く国で買わされましてね、あんな物のどこが良いんだか私には分かりませんよ」 琴音にとって雲の上の話が延々と続いた。
話が続く中、琴音はと言うと

(ああ、息がしにくい・・・ここで吐いたりしたらこの綺麗な絨毯の弁償をしなくちゃいけないのかしら) 全く違う事を考えていた。

暫く更紗の受け答えを聞いていた野瀬が空気を読み、すかさず更紗に代わり話の方向を変えた。

「お嬢様はご一緒に行かれなかったのですか?」 

「ああ、娘は友達とアメリカへ行っていたようなんですよ」

「あら? アメリカのどちらかしら?」

「いやー。 どこだったかな、確か今はやりの・・・セ・・・何とかっていう所だったと思うんですけど」

「セドナかしら?」 野瀬の方を見て言う更紗の姿を見た男性が

「ああ、確かそんな名前だったと思いますよ。 私は良く知りませんが 今、流行りだそうですね」 すぐに男性に向き直った更紗が

「そうですね、スピリチュアルブームに乗って 若い世代に流行っているようですわ」

「ほぅー、スピリチュアルですか。 娘がそんな事に興味を持っていたなんて知りませんでしたな。 という事は娘も更紗先生のような女性になるという事ですかな?」

「まぁ、私はスピリチュアル系ではありませんわ。 単なる悩み相談のようなものですわ」

「何をご謙遜を仰います。 私がこうしてやってこられたのも更紗先生のお陰なんですから」

「まぁ、それこそご謙遜ですわよ。 充分お力をお持ちになってらしたんですから。 私はそのお話を聞かせていただいただけですわ」 野瀬が更紗の限界を感じ細身の男性に聞いた。

「時間の方はまだ大丈夫ですか?」 すると無表情ではあるがいいパスをもらえたとばかりに

「はい。 社長、そろそろ」 饒舌に話していた恰幅のいい男性に話しかけた。

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みち  ~道~  第118回

2014年07月18日 15時04分50秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第118回




「ねぇ、彼女!」 琴音の真正面に人影が写り顔を上げるとそこには和尚の話を聞きに行ったときのカウンセラーといわれる女性が立っていた。

「あ!」

「やっと気付いてくれたわね」

「こんにちは、まさかこんな所でお逢いするなんて」

「あの時お名前を聞いていなかったから つい、彼女って呼んじゃったけど」 鞄の中から名刺入れを出して

「私、未来更紗(みきさらさ) と言います。 こんな事をやってるの」 差し出された名刺にはカウセリングと書かれてあった。

「あ、私名刺を持ってないんですけど・・・織倉琴音といいます。 カウンセリングされている事はあの日若い女の子達に聞きました。 超有名な方だって聞きました」

「えぇ! 超有名? ちょっと有名の間違いじゃないかしら?」 すると後ろから

「更紗さん、急に居なくならないで下さいよ。 探したじゃないですか」 男性が歩いてきた。

「あら、ごめんなさい」 男性が琴音を見て会釈をし

「こちらの方は?」 

「この間話してたでしょ。 和尚の所であった人よ」

「ああ、貴方でしたか。 いや、失礼しました。 私、更紗のマネージメントをしております野瀬(のせ)と申します」 内ポケットから出した名刺を琴音に差し出した。

「織倉琴音です」

「ねぇ、えっと・・・」 更紗は少々、天然のようだ。

「織倉琴音さんですよ」 野瀬が素早く言った。

「ごめんなさい。 貴方に逢えてあまりに嬉しくてテンションが上がっちゃってるわ。 あ、貴方じゃなくて織倉さんだったわね・・・うーん、固いわね。 琴音さんでいいかしら?」

「はい・・・」 話のテンポの速さについていけないようだ。

「私のことは更紗って呼んでね」

「はい。 ・・・更紗さんですね」

「呼び捨てでいいわよ」 更紗の横で野瀬が時計を見ながら

「更紗さん、時間・・・」

「あ、そうだったわね。 ねぇ、琴音さん時間空いてる?」

「・・・はい。 別に何もありませんけど」

「私と一緒してくれない?」

「更紗さん、そんな事を急に言っても織倉さんの心づもりもあるでしょうし」 野瀬がそこまで言うとその言葉を打ち消すかのように

「琴音さんの目を見てみたいの」

「え? 私の目?」

「そう。 目っていうか貴方・・・じゃない、琴音さんを見てみたいの」 何を話されているのか分からない琴音は思わず野瀬を見た。

「更紗さんは思ったらすぐの人だからついて行けませんよね。 最初は僕もそうでしたから今の織倉さんの気持ちがよく分かります」

「ねぇ、野瀬君 琴音さんについてきてもらってもいいでしょ?」

「それは織倉さん次第ですけど・・・そうですね、更紗さんの言ってたとおりなら それもいいかもしれませんね。 織倉さんどうでしょうか? 今からある人に会うんですけど そこに同席していただけませんか? お時間があるようですしどうでしょうか?」

「ある人って、大切なお客様か誰かじゃないんですか? そんな大切な席に私がなんてとんでもありません」

「大切と言えば大切なんですけど・・・ね」 野瀬がそう言い更紗を見た。

「ね、いいじゃない。 黙って座っているだけでいいから」 琴音の腕を引っ張って歩き始めた。

「あ・・・えっ?」 野瀬が手を引かれている琴音の横に来て

「すみません。 織倉さん諦めてください。 決して悪いようにはしませんから」 ロビーを抜けエレベーターに乗ってそのままホテルの客室の前まで連れて行かれた。

「会う人はこの部屋の中に居るの」

「私こんな立派なホテルのお部屋って入った事がないですよ」

「どのホテルでも一緒よ。 旅行で泊まったホテルも旅館も単にみんな個室って言うだけよ」 野瀬が部屋のベルを鳴らすと中から黒いスーツを着た強面な男性が現れた。

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みち  ~未知~  第117回

2014年07月15日 14時11分08秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~未知~  第117回



暦が琴音の顔を見ながらウーロン茶を一口のみ、言葉を続けた。

「だって、会社でしょ? 相手もどこかで気を使ってるわよ。 嫁にはしない事でも会社では女子社員に気遣うとかさ」

「うーん・・・そうなのかなぁ? そんな風に感じないんだけどなぁ。 家でも奥さんを気遣ってる感じよ」

「家では掃除どころか全く何もしない旦那が会社に行くと箒を持ってるってよく聞く話よ」

「あー・・・確かに聞くわね。 でも会社の人たちはお料理も作ってるみたいだから家でもやってそうよ」

「ふーん。 ま、私は琴音の会社の人たちを知らないから何とも言えないけどね。 でも琴音がそうやって会社の人たちを切っ掛けに結婚に気がいってくれればいいんだけどね。 ねっ、年下でもいいじゃない?」 

「年上でも年下でも結婚はお断りよ」

「あー・・・ホンットに強情だわ」 話しながらもしっかりと食べ二人とも満足して食べ終えた。 

「ああ、美味しかった。 ここホントにいいわね。 また何ヵ月後に来ない?」

「うん。 そうね。 それに琴音がそう言ってくれるとここを教えてくれた役員さんにいい報告が出来るわ」

「うん。 有難うって言っておいてね。 ね、どこか違う所でコーヒーでも飲む?」 

「うーん、どうしようかなぁ」 暦が腕時計を見た。

「あ、時間ない?」

「無くはないけど これから移動してコーヒーとなるとちょっときついかな?」

「じゃあ、タイムリミットまで時間がまだあるからここで落ち着く?」

「うん。 そうしよう」 話は尽きない。

コーヒーも飲み終えタイムリミットも近づいてきた。

「そろそろ出ようか」 暦が言い出しにくいであろうと琴音が声をかけた。

「うん、そうね。 美味しくいただきました。 ご馳走様でした」

「こちらこそ。 楽しい一時をありがとう」 お互いの社交辞令に笑いが出た。

「琴音も車でしょ? 最初に出すのを忘れてたけど駐車券に判子を押してもらいましょうよ」 出口近くに行った時、暦が鞄の中の財布を出しながら言った。 

「最初はそのつもりだったんだけど 今日は電車で来たの」

「え? そうなの?」 財布の中に入れてあった駐車券を出しながら

「琴音、もう用事があるわけじゃないんでしょ? 送っていくわよ」

「いいわよ暦も忙しいんだから。 それに滅多にこんな所に来ないんだから駅周辺とかちょっとウロウロして帰るわ」

「え? そうなの? ほんとにいいの?」

「いいってば。 ほら時間がなくなってくるわよ」 暦が判子を押してもらい現地解散だ。

「じゃあ、また電話するね」 暦が言った。

「うん。 待ってるね」 暦と別れた後、特に今日の予定があるわけではない琴音。

「えっと・・・どうしようかな。 とにかく先におトイレは何処かしら」 キョロキョロしながら探すとすぐに見つかった。

トイレの個室に入り自分の太腿が目に入った。

「え! なにこれ?」 赤いブツブツが太腿一面に出ていたのだ。

「気持ち悪い! お腹は?」 服をたくし上げ見てみると、お腹にもわき腹にも沢山の赤いブツブツが出来ていた。

「嘘でしょー!」 腕を見たが腕には出ていない。 個室を出て鏡で顔を見ると顔にも首にも出ていない。

「良かった」 ほっと胸を撫で下ろしたが

「何か悪い物を食べたかしら? 特に変わった食材なんて無かったわよねぇ・・・高級だから身体がビックリしたとか?」 少し考えて

「痛くも痒くもないけど・・・これってアレルギー? でもアレルギーって痒くなるのよね・・・とにかくこれからは気を付けて様子を見なきゃ」 トイレを出て一旦ロビーへ行き

「さて、どこへ行こうかしら」 ロビーのソファーに座って考えていると

「彼女―!」 遠くで一人の女性が叫んでいる。 周りはその女性を見たが琴音はまさか自分のこととは思わず考え事をしていた。

「山の恵み・・・そうよね山って、地球って凄いのよね」 暦と和尚の話がリンクしている事に気付いた。

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みち  ~未知~  第116回

2014年07月11日 15時07分39秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~未知~  第116回



「うん。 最近食べる物が変わってきたみたいなの」

「パン食は変わらないの?」

「うん。 パンは今まで通り好きなんだけど、それがご飯も好んで食べるようになってきたの」 

「え? 琴音がご飯? 白いご飯ってこと?」

「そうなの。 白いご飯にお味噌汁」

「へぇー、今までの琴音のメニューじゃないじゃない。 ちゃんと好みが変わったら言ってよ。 また動けない時に琴音の好きなご飯作らなくちゃならないんだから」

「それはもうないわよー。 でも暦のそのステーキも美味しそうね」

「美味しいわよ。 琴音も取って来たら?」

「うーん・・・美味しそうなんだけどお肉もあまり食べたくなくなってきたの」

「えー? そうなの? どうしたのよ」

「分からないわ。 でも美味しそう」

「じゃあ、ちょっとだけ食べる?」 自分のステーキの2切れを琴音の皿に乗せた。

「もっと食べたかったら言ってよ」

「うん」 一口頬張ると

「わぁ、美味しい。 お肉久しぶりだぁー」

「え? そんなに食べてなかったの?」

「うん。 何でだろうね、食べたい気にならなかったのよ」

「じゃあ、もっとお食べ」 そう言ってまたステーキを乗せようとしたとき

「あ、ありがとう。 もういいわ」

「そう? 後で後悔しない?」

「子供じゃあるまいし。 食べたかったら自分で取りに行くわ」


外は小雨になった。 窓の外を見た暦が


「あ、琴音あそこ見て!」 暦の指をさす方を見るとそこにはこのホテルのチャペルがあり ホテルのあらゆる所から見られるようになっている。 
そしてそのチャペルで今まさに結婚式を挙げようとしていたのだ

「わぁ、雨で気付かなかったけどチャペルがあったのね」 屋外のチャペルではあるがちゃんと屋根はついていた。

参列者達が傘をさしてやってきて屋根のついている参列席に座った。 その様子を見ていた琴音が

「雨の挙式かぁ・・・それもいいかもね。 なんでも順風満帆に行くより何かトラブルがあったほうが記憶に残るものね」

「そうね、こんな時は晴れて欲しいけど参列者も「あの時は雨に濡れてー」 なんて覚えているものよね。 琴音も雨の日にする?」

「またそんなことを言って! 結婚はしません! ・・・でもね」

「わ! なになに? 気が変わったの? あ、それともいい人が出来たの?」

「どっちも無いわよ。 ただね、大切にしてもらえるっていいなと思ってね」

「キャ~ 誰に大切にしてもらったの?」

「そんなんじゃないわよ。 ただ、今の会社の人たちがとっても優しいって言うか・・・」

「会社の中にいい人いないの?」

「私の年のころの人は既婚者だし、結婚してないのは年下。 それに結婚をしないことには変わりないの!」

「はぁー、強情だわ」

「暦も旦那さんにあんな風に大切にされてるのよねー」

「あんな風がどんな風かは知らないけどうちはすごく適当よ。 それに結構、手のかかる旦那よ。 まぁ、確かに旦那は私のことを気には留めてくれてるみたいだけど。 でも、結婚した後って人それぞれなんじゃないかなぁ?」

「人それぞれ?」

「釣った魚には餌をやらないとかさ」

「会社の人たちはそんな事なさそうだわ。 こっちが気付かない事にも気付いてくれるって言うか」

「それって 琴音に免疫がなさすぎるだけじゃない?」

「えー! そうなのー?」

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みち  ~未知~  第115回

2014年07月08日 14時10分08秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第115回



週末、雨。

待ち合わせ場所はバイキングをしているホテルになった。 現地集合、現地解散というわけだ。

「ホテルに行くんだからGパンっていうのもね・・・ちょっとはお洒落しておいたほうがいいわよね」 暦との待ち合わせ場所に傘をさして向かった琴音。

朝起きた時には車で行くつもりであったが 時間が経過して行くと雨が降っているのにもかかわらず何故かバスと電車で行こうと思いなおした。

ホテルに着くと折りたたみ傘を畳んで、鞄の中が濡れないよう厳重にビニール袋にも入れて鞄の中に入れた。 ホテルへは早目に着いたが、しっかりと本を持って来ているのでロビーで本を読んで時間を潰した。 

暫くたち

「琴音!」 振り向くとそこに暦の顔があった。

「相変わらず本を読んでるのねぇ」 琴音が持っている本を覗き見ると

「なに? 字ばっかりじゃない!」

「当たり前でしょう。 漫画じゃないんだから」

「わ、頭が爆発しそう」

「そんな事言っても 学校の役員なんてしてたらプリントとかで字ばっかりでしょ?」

「そうだけど、それでもA4数枚くらいじゃない」

「本って結構面白いわよ。 暦も読んでみればいいのに」

「絶対読まない」

「そこまで拒否する? ま、いいか。 行こうか」 本を鞄に入れ立ち上がった。

「ここのホテルのバイキングって結構美味らしいのよ」

「へぇー、そうなんだ」

「1階らしいんだけど」 案内板を前に暦が探し出した。

「あ、ここ、ここ。 現在地がここだから・・・こっちね」 暦が先に歩いた。

歩いて行くと

「わ、賑わってるあそこがそうじゃない?」 琴音が言うと

「そうみたいねぇ。 入られるかしら?」 受付で聞いてみると

「大丈夫ですよ。 団体さんがもう出られますから」 そういわれて中の人たちの胸元を見てみると『○○ツアー』 と書かれたバッジを付けていた。

「ああ、ツアーのお昼にここが入ってたのね。 琴音どうする? 中の人が出て行ってからにする?」

「そうね、ちょっとゴタゴタしてるわよね」 そういった途端、次から次へとその団体さんが出て行った。

「あ、もう出るみたいね。 暦、入ろうか」

「そうね」

「じゃあ、大人二人でお願いします」 しっかりと琴音が支払った。

「素直にいただきますでいいの?」 

「勿論じゃない。 でないと一生言われそうだわ」

「そんなにタチ悪くないわよ」 さっきのゴタゴタした雰囲気とは全然違って充分落ち着いて食べられる。 

テーブルの場所を決め、一人が鞄の留守番だ。 交互に取り皿に取って来た。

「暦のも美味しそうだわね」

「でしょ」 まずは和食を取って来た暦であった。 琴音はサンドイッチ。

「もう、琴音ったらこんな所へ来てもパン食なの? もっと違うものを食べなさいよ」

「美味しそうなサンドイッチだったから、ついね」

「偏食にも程があるわよ」

「ああ、お母さんに怒られてるみたいだわ」 それからはお皿が空になると洋食、中華と続けざまに取って来た暦。

「暦、胃の中がおかしくならない?」

「美味しいものに国境は無いわよ」 

「国境!? そう来る?」

「美味しいものを美味しく頂く。 それが食べられる食材の何よりもの幸せだし、食べる方の礼儀よ」

「へぇー 暦がそんなこと言うんだ」 

「何言ってるのよ 私そんなに冷血人間じゃないわよ」

「冷血人間だなんて言ってないけど・・・へぇ~」

「お婆さんがよく言ってたのよ。 うちのお婆さんよく山菜を取りに出かけるじゃない? 山の恵みで山菜を食べさせてもらってるんだから感謝していただきなさい。 ってよく言われたものよ。 だから美味しくいただくって言うのは大切な事よ」

「山の恵みねぇ」

「そうよ、せっかく命を差し出してくれたのにそれを残して捨てたり、イヤイヤ食べたりって失礼じゃない?」

「そう言われればそうだけど。 暦がねぇ・・・」

「ちょっとその言い方何よ、もう! それより琴音の食べるのをさっきから見てると お野菜とシーフードばっかりね」

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みち  ~未知~  第114回

2014年07月04日 14時57分39秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~未知~  第114回



午後の業務に入ると同時に 古いデスクトップのPCを琴音の机に移動させるため 少々ゴタついたが何とか収まりこれからはPCを使いたい放題だ。

「これでエクセルで数字の管理が出来てワードを使えば苦手な字を書かなくて済むわ」


会社を終え部屋に帰るとPCで見た事を思い出していた。

「ひいお爺さんって陰陽に興味があったのかしら。 興味があったくらいであんな物を手にするのかしら・・・あれをお経だと思ってたお父さんに聞いても分からないだろうし」 琴音も陰陽道に興味があって本を読み漁っただろう? 時代の違い、対象物が違うだけで琴音のやっている事と同じ事だよ。 

そしてPCで見た気になる文面を思い出していた。

「宇宙の形相が約象されている・・・神々によって人間の魂を向上させるため・・・森羅万象の霊妙なる力を宿している・・・。 確かに陰陽道は宇宙よね。 でもそんな風に今まで本を読んでこなかったわ。 ・・・宇宙・・・?」 頭の中が切り替わった。

「・・・宇宙・・・魂・・・地球・・・マクロとミクロ・・・」 和尚の話だ。

「私・・・」 うん? どうしたんだい? 次の言葉に期待していいかい?

「何か見落としてないかしら? 何か忘れてないかしら?」 そうだよ、よく考えてごらん。

「・・・今思いつくことって・・・」 うん、うん。 なんだい言ってごらん。

「・・・あっ! ケチャップを買ってくるのを忘れたわ! あーん、今日の夕飯はオムライスを食べたかったのにぃ!」 あ、そう。


翌日会社では朝からPCを立ち上げ、古いバージョンではあったがエクセルでデータ作りを始めた。

そして昼休みは調べたかった事を調べ始めた。 愛宕山に登り空也滝を下りた時に膝下しか見えなかったあの服だ。

「あの服・・・秦の時代の服かしら?」 その時代の服の画像を見るが同じような物が見当たらない。

「違う・・・いつの時代の服かしら・・・」 色んな時代の画像を検索していると

「あ、これだわ! よく似てる」 それは写真ではなく絵であり、中国ではなく日本の画像であった。

「あら? 他の画像は全部写真で日本の神官の服って書かれてあるわ・・・一緒にあるってどういうこと? この絵も神官の服なのかしら・・・でもどうしてこれだけ絵なの?」 じっとよく見てみる。

「ちょっと違うかしら・・・覚え間違いかしら」 



電話が鳴った。 

「もしもし」

「は~い、元気?」 暦である。

「久しぶり! どうしてたのよ」

「毎日バタバタよ。 それよりまた8月に山に登りにいったんだって?」

「わ、早いわね。 もう知ってるの?」 

「お婆さんからまたもや電話があったのよ」

「おばさん何か言ってた?」

「琴音に誰かいい人を紹介してあげれば? って言ってたわよ」

「それと山を登るのとどう関係があるのよ?」

「デートで山登りどころじゃないでしょ、ってことよ」

「もう、お母さんってば何を言ったのかしら」

「ね、それよりランチの事覚えてる?」

「勿論よ。 あ、食べに行く時間できた?」

「今週末の土曜日のお昼、唯一空いたんだけど どう?」

「OKよ。 何を食べたい?」

「バイキングに行きたいなぁ」

「バイキング? バイキングがいいの?」

「和洋中、全部食べたいの」

「ああ、それじゃあバイキングになっちゃうわね」

「でしょ?」

「行きたい所なんてあるの?」

「サーチ済み」

「さすがは暦ね」

「ただね、夕方からまた出かけなきゃなんないからその後ゆっくりは出来ないんだけど」

「相変わらず忙しそうね」

「まぁね。 じゃあ、どこで待ち合わせをする?」 話は弾む。

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みち  ~未知~  第113回

2014年07月01日 14時48分37秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第110回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~未知~  第113回



会社では締め業務。 もう慣れたものだ。 

「今月も売上少ないわねぇ」 そんな事は大きな声で言っちゃいけないよ。

「売上が少ないときの仕入れ支払いは嫌になっちゃうわ」 あまり儲かっていないといっても会社をやっている以上、仕入れは発生している。
だが、仕入れも無いようじゃもっと困ったものだ。

数日かけ締め業務を一通り終わらせ、支払日にあわせて準備をするが

「小切手は7社で 支払手形は・・・今回は5社ね」 琴音の嫌いな分野である。

「ああ、いつになっても小切手と手形を切るのには慣れないわ。 みんな振込みにしてくれればいいのに・・・」 まとめて振込みが一番簡単である。

琴音は小切手と手形を切るときには何度も何度も見直す。 印字を終えても見直す。

「送り状も書かなきゃ。 字を書くのは苦手なのに・・・」 なにかと文句が入る。

今はまだ準備段階だが支払日当日がくると手形と小切手に会長の判子をもらい、手形は書留にして郵便局へ持っていくが朝一番、判子をもらったあと送り状と手形を封筒に入れてもすぐに封はしない。 

祝儀袋にお金をちゃんと入れたか何度も見直すように 郵便局へ行く寸前まで何度も見直すのだ。 そしてやっと席を立つ前に封をする。

「その内、胃に穴が開きそうだわ」 琴音の胃に穴が開くより先に何度も見られた小切手か手形の方に穴が開くんじゃないかい? 

「あ、封筒に切手も貼っておかなくちゃ」 一度切手を貼り忘れて郵便局へ行ったことがあるが、行った先が郵便局だから慌てる事もない。

席を立ち切手を入れてある引き出しを開け500円切手を5枚手に取り席に着いた。 そしていざ封筒に切手を貼ろうとしたとき

「え? これ・・・」 そうだよ、やっと気付いたんだね。 まったく、気付くのが遅いよ。

「これって・・・ウソ!」 ちゃんと調べてごらん。 納得がいくはずだよ。


昼休み。 早めに弁当を食べ終え、またもや会社のPCを借りようと

「あの、またPCを借りていいですか?」 とりあえず奥の事務所から持ってきたものの 仕事としては誰も使わないので事務所の隅においてある。

「余ってますからいつでもどうぞ・・・って、あ・・・」

「はい?」

「そう言えば 織倉さん、オフィス使えるんでしたっけ?」

「はい、少しくらいでしたら」

「それじゃあ・・・ああ、いいですよ使っててください」 琴音にそう言ったかと思うと

「社長!」 事務所の引越し以来、みんな同じ事務所で弁当を食べている。 社長もゆっくりと弁当を食べながらもう一人の社員と話をしていた。

「何だ?」

「あの余ってるPCですけど 織倉さんの机に移してもいいですか?」

「ああ、余ってるんだったらいいんじゃないか?」

「ってことだから、織倉さんの机に後で移しますね」 琴音を見て言った。

「え? いいんですか?」

「古いですけどちゃんとオフィスも入ってますから 自由に使っていいですよ」

「有難うございます」 これで遠慮なく調べたいものがあればすぐに調べられる。

PCの前に座り電源を入れすぐに調べ始めた。 

「えっと、太上神仙だったわね」 調べてみるとやはり経ではなく陰陽道が関係していた。  

「やっぱり陰陽道・・・」

あちこちを調べて行くとその掛け軸は江戸時代に出回ったとも書かれていた。

「江戸時代に出回った? その時代ってお爺さんのお父さんくらいの時代なのかしら? ひいお爺さん? それともその前のひいひいお爺さん? それをずっとお爺さんが持っていたの?」 腕を組み考えた。

「ああ、特に陰陽道と関係していたわけじゃなくて 単にブームに乗っていただけなのかしら?」 するとクスクスと笑い声が聞こえてきた。
琴音が声をするほうを見るとみんながこちらを見ていた。

「あ・・・」 手で口を覆った。

「いつも賑やかですね」 以前愛宕山のことを調べていた時にも「何をブツブツ言ってるんですか?」 と笑っていた社員にまたもや言われてしまった。 その癖早く直そうね。

だがこの時、琴音は気になる文面を見つけていた。

「あ、そうだわ忘れる所だったわ」 500円切手だ。 調べてみると

「やっぱり、しっかり500円切手の絵は伐折羅大将だったのね」 これで信じたかい?

「どうして今まで気付かなかったのかしら」 気付くって大切だろう?

「それにしても 雨の小屋根の絵、この切手・・・私の知る先・・・行く道を分かってたみたいに・・・まるでヒントみたいに準備してあったみたいじゃない」 やっと偶然って言わなくなったね。

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