大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~未知~  第34回

2013年09月24日 14時00分54秒 | 小説
『みち』 目次

第 1回第 2回第 3回第 4回第 5回第 6回第 7回第 8回第 9回第10回
第11回第12回第13回第14回第15回第16回第17回第18回第19回第20回
第21回第22回第23回第24回第25回第26回第27回第28回第29回第30回


                                             



『みち』 ~未知~  第34回



ある日、森川が琴音の横に来て

「年末の賞与なんだけどね。 これだけ出ることになったの」 森川がメモを見せた。 メモには社長の字で『全員、80% 織倉さん 5万円』 と書かれていた。

「織倉さんのは お駄賃みたいだけど・・・ゴメンね。 不景気じゃなかったらよかったんだけど」 森川が申し訳なさそうに琴音に言った。

「謝らないでください。 森川さんのせいじゃないですよ」 慌ててそう言った琴音であったが

「多分会長が渋ったのよ。 社長が頑張ってくれてここまでだったんだと思うわ。 それにしても もう何ヶ月も会長来てないわね」

「そうですね。 見かけませんね」

「顔も見たくないから丁度いいけど」

「え?」

「うふ。 本音が出ちゃった。 でもね、私だけじゃないわよ、全員。 社長もよ。 あ、それから会長が来ないから これからは織倉さんが会長の自宅に判子をもらいに行かなくちゃならないわね。 この計算が終わったら自宅を教えるわ。 すぐ近くだから歩いていけるわよ」 

「はい」 

「とにかく計算しましょうか。 賞与計算は給与計算とちょっと違うから少しでも出てよかったわ」 賞与の計算の仕方を教わった。



とうとう 年末。

社内の大掃除を済ませ 午後からは忘年会兼森川の送別会。

会場に行く前に ロッカーで 

「森川さん 今まで有難うございました」 そう言って 用意してあったストールと手袋のプレゼントを渡した。

「まぁ! こんな事しなくてもいいのに」 思いがけないプレゼントに森川が驚いている。

「本当は大きな花束をお渡ししたかったんですけど 森川さん原付だから持って帰るのに大変だろうと思って だからこれも。 長い間のお勤めご苦労様でした」 そう言って小さなブーケも手渡した。

「うふふ かわいい。 有難う。 きっとこれを見たらドリアも喜ぶわ」

「ドリア?」

「そう、うちの万犬」

「まんけん?」

「そうなの。 病院代がバカほどかかる犬。 一万円札がどんどん飛んでいくの。 だから万犬」

「え? 犬を飼ってらっしゃるんですか?」

「あら? 言わなかったかしら? ずっと病院通いだった犬なんだけどね、もう歳なの。 ヨロヨロ歩いてるんだけど目はまだかろうじて見えてるから こんなに色んな色のお花を見るときっと喜ぶわ。 ありがとう」 最後に見た森川の笑窪だ。

会社近くの忘年会会場へは各自で向かうのだが 自転車を出している琴音と原付を出している森川を見て一人の男性社員が

「森川さん、織倉さんと二人で僕の車に乗って一緒に行きませんか?」 声をかけてきた。

「織倉さんどうする? 私は原付だから会場に行ってそのまま帰るけど 織倉さん自転車じゃあちょっと遠いわよ。 乗せてもらったらどう?」 森川が琴音に言った。

「大丈夫です。 自転車で行きます」 その会話を聞いていた男性社員が

「織倉さん道分かりますか?」

「さっき森川さんに聞きましたから分かります」

「それじゃあ、大丈夫ですね。 じゃあ、僕先に行ってますね」

「ありがとうございます」 声をかけてくれたことに礼を言った琴音。

「じゃあ 行きましょうか」

「はい」 会社を出発したが森川も道を教えたものの琴音を心配して ちょっと先に行っては止まって待ってを繰り返していた。

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みち  ~未知~  第33回

2013年09月20日 13時01分39秒 | 小説
『みち』 目次

第 1回第 2回第 3回第 4回第 5回第 6回第 7回第 8回第 9回第10回
第11回第12回第13回第14回第15回第16回第17回第18回第19回第20回
第21回第22回第23回第24回第25回第26回第27回第28回第29回第30回


                                             



『みち』 ~未知~  第33回



そしてこの日も図書館に寄って帰った。

「戒名の本、他のものも借りて読もうかしら。 1冊だけだったら作者の思い込みもあるだろうから 真実が分からないものね」 そう思いながら棚を見ていると 仏教の本が並べられてある棚が目に入った。

「仏教か・・・仏教を知らずに 儒教だ何だと言ってても始まらないわよね」 そして釈迦の本を手に取った。

「取り敢えず今日のところは これを借りて帰りましょう」 そう言って借りてきた本を読み始めたが 取り敢えずが取り敢えずでなくなってしまった。 すぐに読み終え、次から次へと仏教の本を借り 空海、最澄と平安時代まで読み漁った。 もう戒名のことなんてどうでもよくなったようだ。

「凄い空海って こんな人だったんだ 第8代阿闍梨・・・すごい」



琴音が本を読んでいる間にも 時は刻々と過ぎていた。 会社での仕事はずっと座りっぱなしである。 もう12月、足元が異常に冷える。
家に帰って足の指を見ると 全部の指が赤く腫れあがっていた。

「うわ! しもやけになっちゃった。 中学校以来だわ」 それからと言うもの 仕事をしていても足の指が痒くてたまらない。 机の下で自分の片方の足をもう片方の足で踏んで痒さを紛らわしていたが

「もう、森川さんが辞めるって言うのに こんな痒さで仕事に集中できないなんてどうしよう」 琴音の心の中は焦りでいっぱいであった。 


翌日、朝の掃除をしていると 斜め前のビルが目に入ったが

「やっぱり何も感じないわよね」 そうなのだ。 窓が開けられてからは視線を感じなくなったのだ。

男性社員がやってきて朝のコーヒーを社員の机に置いている時にもう一度ビルを見てみたが やはり今まで感じていた不気味な視線を感じない。

「どうしたの?」 ビルを見ている琴音を見て森川が話しかけてきた。

「あ、いえ何も・・・」

「あのビルを見てたの?」

「あ・・・はい」

「あのビルには嫌な思い出しかないわ。 あの真ん中の窓があるでしょ、いつもあの窓からあそこのビルのオーナーがこっちを睨んで立ってたのよ」

「え?!」 琴音が視線を感じていた窓だ。

「以前うちとちょっと一悶着あったの。 それからずっとあの窓から睨んでたのよ。 でも1年位前にそのオーナーが入院したって聞いたんだけどどうなったのかしら?」 その話を聞いていた営業の社員が

「森川さん知らないんですか? 入院して半年位で亡くなったそうですよ。 丁度織倉さんがうちに来た時くらいじゃないかなぁ?」

「あら? そうなの? じゃあ、もうあの睨む姿は見なくていいのね」

「あの、この間あの窓が開いてたんですけど・・・」 琴音がそう言うと営業の社員が

「ああ、前のオーナーには子供がいなかったから 甥っ子があのビルの守をすることになったらしいんです。 それで長い間閉めっ放しだった窓を開けにきてたみたいですよ」 

「そうなんですか・・・」 まだ琴音には分からないだろうけど窓が開けられたことによって変わったんだよ。 雨も降っていたしね。 覚えておくといい。 念だよ。

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みち  ~未知~  第32回

2013年09月18日 12時25分25秒 | 小説
『みち』 目次

第 1回第 2回第 3回第 4回第 5回第 6回第 7回第 8回第 9回第10回
第11回第12回第13回第14回第15回第16回第17回第18回第19回第20回
第21回第22回第23回第24回第25回第26回第27回第28回第29回第30回


                                             



『みち』 ~未知~  第32回



「じゃあ、もし父の兄がお墓をみていたら 私の父は分家っていう事なのかしら?」

「そうなりますね」 声が小さくなる。

「そうなの」 考えながら声を発した森川の声が小さい。

「ああ、分かったわ それで父の兄のお嫁さんがいい顔をしなかったのね」

「いい顔・・・ですか?」

「そうなの。 睨むわけでもないんだけど どう言えばいいのかしら・・・。 やっぱり睨むかしら?」

「その土地で色々違いますし 同じ土地で同じ檀家さんでも お線香の立て方も違ったりすることがあるって聞いたこともあります。 だから一概には言えないので何とも分かりません。 そのとき森川さんのお母さんとかご兄弟さんは何か仰ってませんでしたか?」

「それがね その時母は入院していたの。 話せる状態じゃなかったし 妹がいるんだけどね、妹も私もこんなことに疎くて何も知らないのよ」

「そうなんですか でも私もよく知りませんよ」

「そんなこと無いわよ。 70近くになる私がどうして織倉さんに聞いたと思う?」

「・・・どうしてでしょうか?」

「この歳になって誰にも聞けないって言うのもあるけど どうしてかしら 織倉さんってそんなこと知ってそうな感じがするのよ」

「え? そうですか? あんな本を読んでるからかしら」

「うーん そうじゃなくて そういう風な感じがするの」

「どう考えても 私の母の実家でよく法要があったんですけど その時、和尚様がお説教されるのを聞くのが好きで」 琴音がここまで言うと

「お説教? お説教されるのが好きなの? わざわざ何か悪いことをするの?」 目を丸くして森川が聞いてきた。

「あ、違います。 そのお説教じゃなくて 和尚様がして下さる色んなお話の事です」 慌てて説明をした。

「へぇー、お話の事をお説教って言うの?」 えらく驚いたようだ。

「そうみたいです。 それでそのお説教を小さい時からよく聞いてましたけど それ位のもので あとは母が時々お墓やお仏壇の話をするくらいでしたから 特に知ってるって訳じゃないんですけど どうしてなんでしょうね」

「少なくとも私よりは知ってるじゃない。 でも、有難う。 父の兄のお嫁さんが いい顔をしなかったのが長い間の疑問だったの。 結果はどうあれ疑問が解決してサッパリしたわ。 仕事に戻りましょうか。 あら? 雨が降ってきたわね」

「そういえば天気予報で今日は午後から雨って言ってましたね」 そう言って何気なく斜め前のビルを見るとふと気付いた。

「あら? あの窓が開けてあるわ。 雨なのに・・・」

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みち  ~未知~  第31回

2013年09月13日 14時44分44秒 | 小説
『みち』 目次

第 1回第 2回第 3回第 4回第 5回第 6回第 7回第 8回第 9回第10回
第11回第12回第13回第14回第15回第16回第17回第18回第19回第20回
第21回第22回第23回第24回第25回第26回第27回第28回第29回第30回



                                             



『みち』 ~未知~  第31回



「陰気な本を読んでます」 恥ずかしげに言うと 

「うううん、そんなことじゃないの。 確か以前は陰陽師関係の本を読んでいたわよね?」

「はい。 森川さん陰陽師ご存知なんですか?」

「よく知らないけど 占いは好きだから」

「そうなんですか。 でもこれはちょっと陰気すぎますよね」 そう言いながら引き出しに入れてあった小さな鞄に本を入れ、引き出しを閉じた。

「織倉さんって お墓とかお葬式とか・・・何て言ったらいいのかしら」

「仏事ですか?」

「そういう風に言うのかしら? そんなことをよく知っていそうなんだけど そうなの?」

「いえ、何も知りません。 せいぜい父母から聞いた話くらいです」

「そうなの。 でも私より知ってるはずよね。 知ってたら教えて欲しいんだけど」

「何でしょうか?」

「実はね、私の父親が亡くなった後 お墓に入れたんだけど そのことでちょっと分からないことがあるの」

「私に分かるでしょうか?」

「とにかく言っちゃうから 一応聞いてもらえる?」

「はい」

「私の父と父の兄が私のお爺さんが亡くなった時に 父と父の兄がお墓を立てたのよ。 だからそのお墓は父と父の兄に 権利って言うかそんなものがあるわけじゃない。 それでその後、父の兄が亡くなって 父の兄がそのお墓に入ったの。 それで次に亡くなったのが私の父なんだけどそのお墓に入れたのね。 そうしたら父の兄のお嫁さんが どうも怒っているみたいなんだけど どうしてなのかしら分かる?」

「あ・・・」 琴音は返事に困った。 そして

「あの、そのお墓は誰がみてらっしゃるんですか?」

「誰っていう事はないと思うんだけど 多分父の兄のお嫁さんだったんでしょうね。 だから今はその子供が見てるのかしら? 私は何も知らないの」

「それじゃあ・・・」 言葉に詰まる。

よく考えて 森川の心を傷つけない言葉を選んで話し出した。

「そこの土地はそこの土地でやり方があるでしょうから 何とも言えないんですが」

「いいの、織倉さんの知っていることを教えて」

「少なくとも私の母の田舎では 枝ばえはよくないって言われてるんです」

「枝ばえって何?」

「お墓やお仏壇に入るのは 本家を継ぐ一本の筋だけで その筋に入ってない分家などを枝ばえって言うらしいんです。 簡単に言ってしまえば 代々受け継がれる 本家の長男と長男のお嫁さんだけが そのお墓とお仏壇に入るっていうことです。 だから分家は分家でその分家が初代になって新しくお墓とお仏壇を作るんです」

「分家ってなあに?」

「長男が家を継いだとしたら 次男以降の男の子が 独立して構えた家庭って言えばいいんでしょうか」

「ちょっと待ってね。 頭を整理して見るわ」 口元に右人差し指をつけて空(くう)を見た。

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みち  ~未知~  第30回

2013年09月10日 21時27分22秒 | 小説
『みち』 目次

第 1回第 2回第 3回第 4回第 5回第 6回第 7回第 8回第 9回第10回
第11回第12回第13回第14回第15回第16回第17回第18回第19回第20回


                                             



『みち』 ~未知~  第30回



会社に行けば仕事である。
相変わらず森川は 一つ一つを丁寧に教えてくれる。

「分からなかったら何度でもいいから聞いてね」 この言葉は琴音にとって最高の安心材料である。

仕事の合間

「そういえば森川さんの旦那さん 毎日どうされてます?」 琴音が入社して少し経ったころに 森川の旦那が長年勤めていた会社で嘱託として働いていたが 完全に退職したと聞いていたのだ。

「毎日元気にしてるわよ。 元気すぎて困っちゃうくらいよ」

「それは何よりじゃないですか」

「この間なんて 愛宕山に登ってきたのよ。 何が楽しくて山に登るのかしら」

「山登りですか いいですね」

「あんなに疲れることをよくやるわよ」

「一緒に登ったりはされないんですか?」

「何年か前に一度一緒に行ったのよ。 でも、もうイヤ。 何が楽しくて山を登るのか分からないわ」 そんな会話があったのだが 琴音、気付かないかい?


毎日の仕事を何とかこなし 家に帰るとテレビを見たり本を読んだりするが やはり課長のことは頭から離れない。

そんなある日 会社から帰ってくると 一枚の葉書がポストに入っていた。

「誰からかしら?」 見てみると 忌明けの挨拶状であった。

「ああ、支店長。 もう四十九日だったのね。 ・・・立派な戒名」 葉書を持って部屋に入り テーブルの上に置いた。

その置かれた葉書をじっと見つめている。

「戒名・・・戒名って何なの?」 勿論、戒名を知らないわけではない。

「何のために戒名ってあるのよ 死んでからの名前が必要なの?」 何かが引っ掛かったようだ。 正確にはチャンスを与えてもらい そのチャンスに気付いたのだ。


翌日、会社の帰りに図書館へ行き戒名に関する本を借りた。 マンションに帰り部屋で読んでいると

「どういうこと? お位牌のルーツが中国の儒教って・・・仏教はインドよね」 だが琴音の知識はこれだけだ。 今の知識だけでは前に進むことが出来ない。

「この本だけがこんなことを書いているのかしら。 他の本を読んだら 違うことが書かれているのかしら・・・とにかく最後まで読んでみなくちゃ分からないわよね」 夜遅くまで読んでいたが 最後まで読むにはまだある。 
翌日会社には連日読んでいた本は家に置き 昨日の続きを会社の昼休みに読んでいた。 あまり分厚い本ではない事と 昨日遅くまで読んでいたことで 昼休み中に読み終えた。

「やっぱりお位牌は儒教から でもそれっておかしいじゃない。 仏教がインドから中国を渡って日本にやって来た。 その中国を渡っている間に儒教が混ざったってこと? それともお位牌だけ後でやってきてくっついちゃったの? それじゃあ日本人が信じている仏教って 本来の仏教じゃないじゃない」 何かに疑問を持つと納得いくまで調べなければ気が済まない性格。 これ以上のチャンスの与え方は無いね。

昼休みが終わったが 考え事をしている琴音は気付かなかった。

森川が見ていたテレビを消し 琴音をチラッと見た。 テレビを片付け琴音に近づき

「織倉さん?」

「えっ? あ、すみません お昼休み終わりましたよね」 慌てて本を引き出しに入れようとした時に

「いいのよ、慌てなくて。 それよりその本・・・」 森川の目が本を見ていた。

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みち  ~未知~  第29回

2013年09月07日 14時48分51秒 | 小説
『みち』 目次

第 1回第 2回第 3回第 4回第 5回第 6回第 7回第 8回第 9回第10回
第11回第12回第13回第14回第15回第16回第17回第18回第19回第20回


                                             



『みち』 ~未知~  第29回



車を発車させ間もなく

「あれ、何かしら?」 琴音が見ているほうを文香が見ると

「水の神様って書いてあるわね。 寄ってみる?」 丹生川上神社下社だ。

「うん」 あれほど社寺仏閣を嫌がっていた琴音がどうしたことだろうね。 よく考えるといいのだけれど 全く琴音は気付いてないようだ。
車を端に停め よく見てみると『日本最古の水の神様』 と書かれていた。

「日本最古だって。 それに水の神様って誰?」 琴音が聞いた。

「知ってるはず無いじゃない。 あれ? 下社って書いてあるということは 上社があるって事?」 今度は文香が琴音に聞いてきた。

「あ 本当だ。 下があったら上があるはずよね」 何とも単純だ。

ここでも手を合わせた二人だが 参拝作法などは全く無い。

その後、車を走らせ何とか陀羅尼介を買うことが出来たのだが 頼まれ物を確保出来た事で気が緩んだのか 文香のお腹が空いてきたらしい。

「ねぇ琴音、お腹空かない?」

「そうね、お腹と言うより喉が渇いたわ」 朝用意していたペットボトルはもう空になっていた。

「コンビニなんてなさそうだし どうしようか。 それにお手洗いにも行きたいし」

「文香のお腹はとおトイレは 待ったがきかないからね。 とにかく走って行って 何かありそうな所で車を停めましょうよ」 どれくらいか走っていると

「琴音、見て あれってスーパーじゃない?」

「どこ? ・・・あ、本当だ。 あそこで何かあるかもしれないわね」 駐車場に車を停めると 

「私先にお手洗いに行きたい」 

「行ってくるといいわよ。 先に買い物してるわね」 琴音はそんなにお腹が空いているわけではなかったので 缶コーヒーとパンを一つ買った。

トイレから文香が出てきた。

「文香、ゆっくり選んでくるといいから。 私先に車に帰ってるわね」

「あ、じゃあ これ」 車のキーを琴音に渡した。
琴音は運転席に乗り込み 急いでパンを頬張った。 コーヒーを飲みながらバックミラーを見ていると 文香が歩いてくる。

「文香、助手席に乗って」 朝と同じシチュエーションだ。 

「琴音が運転してくれるの?」

「文香が食べ終わるのを待ってたら 日が暮れちゃうわ」

「琴音は? コーヒーしか買わなかったの?」

「パンを買って もう食べたわよ」

「早食いねー」

「文香が遅すぎるの。 行くわよ」 その後、何度か運転を代わりながらやっと 琴音の家に着いた時には もう真っ暗になっていた。

「遅くなっちゃったわね」 

「ま、お互い待ってる人が居ないから 気楽よね」 シートベルトを外しながら琴音が言った。

「それは言えてる」

「じゃあね、今日は有難う。 まだ運転があるんだから気をつけて帰ってね」

「うん。 こっちこそ付き合ってくれて有難う。 じゃあね」


翌日の日曜日は 久しぶりの遠出で疲れたのか お昼まで寝ていた。

「うわぁー もうこんな時間だわ」 布団から起きて遅がけからの洗濯機だ。 洗濯機が回っている横で 洗面所の鏡を拭きながらふと気付いた。

「そういえば昨日、あんまり課長のことで思い悩まなかったわ。 ・・・文香のお陰ね」 この日は一日ゆっくりと過ごした。

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みち  ~未知~  第28回

2013年09月03日 13時36分34秒 | 小説
『みち』 目次

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第11回第12回第13回第14回第15回第16回第17回第18回第19回第20回


                                             



『みち』 ~未知~  第28回



「わぁ、何あれ? 龍の形をしてるんだ」 琴音が嬉しそうに近づいて行った。 手水舎である。

「手を洗う所よね」 文香が言うと 今度は琴音が

「確か口も洗うのよね」 二人で鞄を持ち合いながら順番に手と口を洗ったが 順序が逆である。 拝殿に行く前に済ませておくべき事柄だ。 何も知らなかったと言えど 神様に失礼なことをしたんだぞ。
それからは神社の周りを歩いたり、裏の小路を散策したりと充分に自然を満喫できた。

「ああ、美味しい空気。 生き返ったようだわ」 文香が両手を広げ大きく空気を吸った。

「だからそういう事は言わないでって・・・」

「あ、ごめん。 ねぇ、あんまり道を外れたら方向が分からなくなっちゃうから そろそろ元に戻らない?」

「そうね」 とは言っても 来た道をそのまま帰らず少し違う道から帰ると 

「あった!」 文香が叫んだ。

「何? どうしたの?」

「あれよ、あれ」 指差された先には木で囲われた大きな石があった。

「石?」

「隕石だって言う話よ」 そう言いながら隕石に向かって歩き出した。

「へぇー」 文香の後をついて歩き二人で隕石の前に来ると

「手をかざしてみるでしょ?」 そう言って文香が隕石といわれるその石に手をかざした。 琴音も真似て手をかざすと

<何これ? 温かい> 心の中でそう感じたことを口にしようとした時

「温かくない?」 文香が先に言った。

「うん、ポワーンと温かいわ」 その返事を聞いた文香が

「やっぱり」 そう言って落ち込んだそぶりを見せた。

「何なの?」

「やっぱり琴音には分かるのね。 私には全然分からない」 かざしていた手を引いた。

「え? 何言ってるの? 温かいじゃない」

「だーかーらー 私には分からないのよ。 ここに来るように勧めてくれた子が・・・その子が能力を持ってるんだけどね、言ってたのよ。 隕石って言う噂の石があるから 手をかざしてみて、温かく感じるわよ なかには感じない人も居るみたいだけど って、だから私はその何も感じない内の一人なのよ」 文香の話を聞きながら琴音もかざしていた手を引いた。

「気のせいかな? ほら、手を下にしたから血流が止まって 鬱血した感じで温かく感じるのかもしれないわ」

「手を下にしていたのは私も同じじゃない」

「あ、そうね。 うん・・・と じゃあ、石に集中してみて そうすると温かく感じるかもよ」 そう言われてもう一度手をかざし、じっとしていた文香であったが

「琴音、聞いていい?」

「何?」

「集中ってどうやってするの?」

「は? 集中は集中よ どう説明するのよ」

「そうよね、駄目だ私には集中っていう事が出来ない」 結局、文香は事前に聞いていた 隕石に手をかざすと温かく感じる という体験は出来なかったのである。
そんな時に 法螺貝の音がした。

二人は顔を見合わせ

「きっとさっきの人達よね」 駐車場で見かけた人というのは 修験道の装束を身につけていたのだった。

「関わりたくないわよね・・・」 琴音が言うと

「ブラブラしながら帰ろうか」 文香がそう言った。 

「うん」 琴音の返事を聞いて駐車場に帰り エンジンをかけた。 

「ねぇ、会社の子に『陀羅尼介』 を買ってきてって言われてるの。 付き合ってくれる?」

「だらにすけ? 何それ?」

「お薬なんだって。 よく効くらしいわよ」

「へぇー。 何だか分からないけどいいわよ。 道は分かってるの?」

「その辺を走っていれば何処にでもあるって言ってたから ナビを家に合わせながら あちこち走るわ」

「私は助手席に乗ってるだけだからいいわよ。 文香のいいようにして」 来た道からは帰らず 山を抜け、町に出ようと道を選んだ。

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