大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第37回

2013年10月07日 22時37分08秒 | 小説
『みち』 目次

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『みち』 ~未知~  第37回



「こんな山の中って地図に描かれていなかったと思うんだけどなぁ。 ・・・引き返してみよう」 車をUターンさせ来た道を引き返し2回目に聞いた場所まで戻ってくると 今度は自転車を押しながら女性が歩いていた。 
自転車の籠の中は今買ってきたであろう 夕飯の材料が入っているのかスーパーの袋が見えた。

「あら? そういえば今まで聞いたのはみんな男性だったわね。 あの女性は主婦さんのようだからこの辺りをよくご存知かしら」 バックミラーで後ろを見ると車は来ていない。 
車を止め今度は車から降りて聞いてみた。 すると

「乙訓寺? ここですよ。 ここが裏門への入り口になってるんですよ。 私今からここを通るから案内してあげたいけど 一緒に行こうにもこの細い道、車は入られへんからねぇ」 軽自動車くらいの幅であろう細い道だ。 勿論車用の道ではない。

「案内は出来ませんけど表門の方に駐車場がありますから そこに車を停めてから入ったらどう? そこの角をまがっってちょっと行くと右側に大きな駐車場があるから そこが乙訓寺の駐車場ですよ。 それとちょっと小さな看板なんだけど 角を曲がってから数メートル注意して左側の上のほうを見ていると乙訓寺と書かれた看板がありますから 駐車場に車を置いてからその看板の所を入っていくと道は狭いけど正面に乙訓寺が見えますよ」

「有難うございます。 迷っていたので助かりました」

「シーズンでもないのに ここに来るなんて珍しいですね。 じゃあね」 そう言って裏門の入り口へとつながる細い道を自転車を押して歩いて行った女性であった。

「シーズン? ここのお寺にシーズンがあるの? それに看板?」 そう思いながら 琴音は言われるままに角を曲がって注意して見ていると さっきの女性が言っていた乙訓寺と書かれている看板を見つけた。

「これが看板ね、案内板の事だったのね。 こんな小さな案内板じゃあ・・・じゃなかった看板じゃ見逃すわよ・・・」 大きく溜息をついて

「あ、あそこが駐車場・・・あら、最初に私が車を停めた所じゃない。 うわ、乙訓寺駐車場って書かれてるじゃないの、全然気付かなかった」 今度は違う意味の溜息が出た。

車を駐車場に停め向かい側へ渡り 女性の言う看板があった細い道を入って行った。 少し歩くとすぐ正面に乙訓寺と書かれた門があった。

「ここね」 門前で一礼して入って行った。 宗教の本を読み漁った事で寺や神社に礼を覚えた琴音であった。

左右を見ると これから春に咲くであろう 牡丹の株があった。

(まぁ、なんて沢山の牡丹の株 これから沢山咲くのね。 ああ、そう言えば空海といえば牡丹だったわ。 ああ、シーズンってそういう事。 この牡丹を見に来る人が沢山居るのね) 独り言のように心で呟きずっと進んでいくと左側に小さなお堂であろうか 中が開けられていて女性がこれから掃除をしようとしていた。 そこを横目に見て歩くとすぐに道が左右に分かれている。

本堂に行くには左へ曲がらなければならない。 だが琴音は吸い込まれるように右に曲がった。 すぐに供養塔が目にはいった。 供養塔の前で足を止め正面に立ちじっと見た。 
何かがそうであって何かがそうでない。 そんな思いがあったのだがそれを琴音が認識する事はできなかった。 今の琴音は琴音であって琴音ではないのだ。 

今度は更に右を見た。 見た先には門があるだけだ。 

「何? この感覚!?」 押し潰されるような感覚でもあり懐かしい感覚でもある。 それが波のように押し寄せてくる。

琴音はずっと右を見ている。 何かを思い出したのであろうか。 いや、琴音自身は何も分かっていない。 それどころか琴音の心の中は無だ。 琴音の頬に一筋の涙がつたっていた。 その涙にも気付かない琴音。 先程の女性が ガタガタと掃除を始めた音で我に戻った。

「あ、どうして涙なんか出てるのかしら・・・」 掃除をしている女性に見られまいとさっと涙を拭いて左側を向き女性に会釈をして本堂のほうへ向かって行った。

本来琴音はどこのお寺に行っても怖いという気持ちがあり「南無阿弥陀仏」 と唱えるだけだったが本を読み漁ったお陰か、少々知識が出来たようで知識と供に怖さもなくなったのか 本堂の前に立っても余裕で考えるという事が出来た。

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