『---映ゆ---』 目次
『---映ゆ---』 第1回から第120回までの目次は以下の 『---映ゆ---』リンクページからお願いいたします。
『---映ゆ---』リンクページ
「ねぇ翼君、例のゲームどうなってるの?」 雅子が和室の座卓に茶を置くと座った。
「うん、毎日やってるよ」 渉の巫女姿をアニメ化したRPGゲーム。
翼の隣に座る渉がチラッと翼を見て言う。
「悪趣味」
「なんでだよ。 渉ちゃんの巫女姿可愛いよ」
以前、翼の友達が作ったゲーム。 主役のキャラクターは渉の巫女姿の写真を参考に出来上がっている。
「そうよ。 小母さんも翼君がスマホで撮った渉ちゃんの写真を元にしたキャラクターって言うの? 見せてもらったけど可愛く出来てたじゃない」
「巫女姿の渉ちゃんが馬に乗って敵をバンバン倒していくってところが現実の渉ちゃんとちょっと違うけどね」
「当たり前。 そんな残酷なことしないもん」
「あ、それと村人にいっぱい聞いて回って、それをヒントに敵地へ乗り込むってのも違うな」
「どういう意味よ」
「ヒントをもらって考えて行動するんだよ。 渉ちゃんにはそんな回転するアタマないでしょ?」
「あるわよっ!」
「これこれ、兄妹喧嘩するんじゃないの」
「だって小母さん、翼君って絶対に私のことをお姉さんだって敬ってないだもん」
「え? 今、小母さんが兄妹喧嘩っていったのは、兄と妹の喧嘩って言ったんだけど?」
思いもしないことを言われてすぐに渉の頭が回らない。
「小母さんナイス。 ね、渉ちゃんには回転するアタマがないでしょ?」
言われ、翼をひと睨みすると雅子へ顔を向けた。
「え? あれ? えっとそれじゃあ・・・あ! 小母さんどういう事!?」
「だって、そう見えちゃうんだもの」
「私、男じゃないもん!」
雅子の言った兄妹喧嘩のそれぞれのポジションは、翼が兄で渉が妹という意味で言った。 実際に渉がどれだけ翼より年上であっても、体格的にも、精神的なものも、どこか残るかもし出す幼さの雰囲気も渉の方が翼より幼く見え、感じる。
だが渉にしてみれば、あくまでも翼より年上だ。 だからして妹ではなく兄の方と思ったようだ。
雅子と翼が目を見開いたあとに噴き出した。
「違うわよ。 そんな意味じゃないから」 言いながらも笑いが堪えられない。
「あー、渉ちゃん、ウケるー。 どうしたらそんな風に考えられるんだろう」 腹を抱えて畳の上を転がっている。
と、その時、和室の襖が開いた。
「おっ? なんだ、賑やかだな」 宮司が和室に入ってきた。
「あら、どうしたんですか?」 腹筋が笑っているのを押さえながら雅子が問う。
「翼を借りたいんだけど?」 雅子を見て言うと、次に翼に向かって言った。
「翼ちょっと手伝ってくれないか?」
見られた翼が絶え絶えに、腹を抱えていた手を収めると大きく息を吐くと起き上がった。
「はーい。 身体も鈍ってきたから丁度いいや」
「翼・・・鈍って来たから丁度いいって・・・」
こめかみに手をやる宮司と二人で家を出て行った。
「力仕事かしらね?」 二人を目で見送った雅子が言った途端、電話が鳴った。
「あら?」 一言残すと台所に電話を取りに行く。
渉はチビチビとお茶を啜って雅子の電話の返事を聞いている。
「ああ・・・それじゃあ、ええ、ええ、分かったわ」 話が終わって電話を切って渉に振り返った。
「渉ちゃん悪いんだけど、ちょっと一人で家に居てくれる?」
奏和に渉の身体がすぐれないから無理をさせないように、見遣っていてくれと言われていた。
「え? どうしたんですか?」
「ちょっと出てくるけど、すぐに帰ってくるから」 車のキーを手に取る。
ちょっと出る。 それは神社からどこかに出るということ。 それは車で出なければならない。
奏和に言われた。 身体のすぐれない渉。 その渉を引き回すことは出来ない。 車に乗せて渉と一緒に出掛ける方が、渉の身体が疲れるだろうと思った。
「あ・・・お散歩とかはしていいでしょ?」 磐座に行くのもお散歩だ。
「身体に無理がかからない程度ならね」 散歩くらいは、奏和が言う程には無理をさせていないだろうと思う。
「はい」 と返事をすると「小母さんもみんなも心配し過ぎなんだから」 と付け足した。
「じゃ、すぐに帰って来るからね」
「はい、行ってらっしゃい」
雅子を玄関まで送るとすぐに部屋にコートを取りに走った。
コートを身体に引っ掛け、ソロっと玄関を開ける。 翼もいない、無人になってしまう家。 鍵をかけるといつもの場所にカギを隠すように置いた。
誰にも見つからないように、木の陰に隠れながら少しずつ進んでいくと、授与所に座っているはずのカケルの姿がない。
「社務所に何かを取りに行ってるのかしら」 辺りを見回す。
「奏ちゃんも居ない」
境内の端に添って、手水舎の後ろから一気に山の中に走り出した。 山の中に入るとハァハァと息を上げながら膝に手をついた。
「体力なくなっちゃった・・・」 ゴクリと唾を飲むとまだ上がる息のままフラフラと歩き出した。
「クッソ、順也のヤツ遅すぎるだろっ!」
社務所から出てきた奏和がスマホを確認するが着信がない。 ダウンジャケットの内ポケットにスマホを入れると、足早に境内を歩き家の玄関の戸に手をかけた。
「あれ?」 戸に鍵がかかっている。
「まさか?」 縁側のある方に走った。
宮司と雅子、奏和が家に鍵をかけるとそのまま持って出るが、渉たちが家に鍵をかける時には、縁側の方にある決められた場所に鍵を隠す。
「あった・・・」
決められた場所に鍵が隠されていた。 と言う事は、渉が鍵をかけたという事だ。 雅子と共に行動を一(いつ)にしていないということが。
「っつ、渉・・・」 鍵を握りしめるとダウンジャケットのポケットに入れて走り出した。
境内を走ると、宮司の手伝いで歩いていた翼が目に入った。
「翼!」 翼が奏和を見止め、なに? といった目で見る。
「すぐに翔にそのまま社務所に居るように言っておいてくれ、すぐにだぞ! それと、母さんが帰ってきたら、渉のことは心配いらないからって伝えてくれ!」 鍵は持って出た。 渉が一人で出たとは思わないだろう。
「え? 奏兄ちゃんは?」
「ちょっと用を思い出した。 お前が親父の手伝いを全部手伝っておいてくれ」
「えーーー!? 俺一人でー!」 境内に居る参拝者が振り返る。
「バカ! 境内で大声出すな! 頼んだぞ!」
「え? あ! ・・・奏兄ちゃんの方が大声じゃんか!」 山へ走り去る奏和を見送ると、渋々踵を返してまだ社務所に居るカケルに伝言を伝えに行った。
「くそっ! 渉・・・」 一気に磐座まで走る。
山の中では時折、散策の声が聞こえるが、みな山の上の方に行っているようで、渉の居るであろう磐座の方からは人の声が聞こえない。
短い下り坂を一気に飛び降りて川の流れが見えた。
「居てくれ!」
すぐに磐座の前で手を合わす渉の姿が見えた。 途端、渉の姿が歪みだした。
「渉!!」 飛び込むように渉の腕をつかんだ。
段差のある向こう側に突っ込んだつもりで、こけないように思いっきり手を突っ張った。 ・・・つもりが何の手ごたえもない。
「へっ?」
『---映ゆ---』 第1回から第120回までの目次は以下の 『---映ゆ---』リンクページからお願いいたします。
『---映ゆ---』リンクページ
- 映ゆ - ~ Shou ~ 第124回
「ねぇ翼君、例のゲームどうなってるの?」 雅子が和室の座卓に茶を置くと座った。
「うん、毎日やってるよ」 渉の巫女姿をアニメ化したRPGゲーム。
翼の隣に座る渉がチラッと翼を見て言う。
「悪趣味」
「なんでだよ。 渉ちゃんの巫女姿可愛いよ」
以前、翼の友達が作ったゲーム。 主役のキャラクターは渉の巫女姿の写真を参考に出来上がっている。
「そうよ。 小母さんも翼君がスマホで撮った渉ちゃんの写真を元にしたキャラクターって言うの? 見せてもらったけど可愛く出来てたじゃない」
「巫女姿の渉ちゃんが馬に乗って敵をバンバン倒していくってところが現実の渉ちゃんとちょっと違うけどね」
「当たり前。 そんな残酷なことしないもん」
「あ、それと村人にいっぱい聞いて回って、それをヒントに敵地へ乗り込むってのも違うな」
「どういう意味よ」
「ヒントをもらって考えて行動するんだよ。 渉ちゃんにはそんな回転するアタマないでしょ?」
「あるわよっ!」
「これこれ、兄妹喧嘩するんじゃないの」
「だって小母さん、翼君って絶対に私のことをお姉さんだって敬ってないだもん」
「え? 今、小母さんが兄妹喧嘩っていったのは、兄と妹の喧嘩って言ったんだけど?」
思いもしないことを言われてすぐに渉の頭が回らない。
「小母さんナイス。 ね、渉ちゃんには回転するアタマがないでしょ?」
言われ、翼をひと睨みすると雅子へ顔を向けた。
「え? あれ? えっとそれじゃあ・・・あ! 小母さんどういう事!?」
「だって、そう見えちゃうんだもの」
「私、男じゃないもん!」
雅子の言った兄妹喧嘩のそれぞれのポジションは、翼が兄で渉が妹という意味で言った。 実際に渉がどれだけ翼より年上であっても、体格的にも、精神的なものも、どこか残るかもし出す幼さの雰囲気も渉の方が翼より幼く見え、感じる。
だが渉にしてみれば、あくまでも翼より年上だ。 だからして妹ではなく兄の方と思ったようだ。
雅子と翼が目を見開いたあとに噴き出した。
「違うわよ。 そんな意味じゃないから」 言いながらも笑いが堪えられない。
「あー、渉ちゃん、ウケるー。 どうしたらそんな風に考えられるんだろう」 腹を抱えて畳の上を転がっている。
と、その時、和室の襖が開いた。
「おっ? なんだ、賑やかだな」 宮司が和室に入ってきた。
「あら、どうしたんですか?」 腹筋が笑っているのを押さえながら雅子が問う。
「翼を借りたいんだけど?」 雅子を見て言うと、次に翼に向かって言った。
「翼ちょっと手伝ってくれないか?」
見られた翼が絶え絶えに、腹を抱えていた手を収めると大きく息を吐くと起き上がった。
「はーい。 身体も鈍ってきたから丁度いいや」
「翼・・・鈍って来たから丁度いいって・・・」
こめかみに手をやる宮司と二人で家を出て行った。
「力仕事かしらね?」 二人を目で見送った雅子が言った途端、電話が鳴った。
「あら?」 一言残すと台所に電話を取りに行く。
渉はチビチビとお茶を啜って雅子の電話の返事を聞いている。
「ああ・・・それじゃあ、ええ、ええ、分かったわ」 話が終わって電話を切って渉に振り返った。
「渉ちゃん悪いんだけど、ちょっと一人で家に居てくれる?」
奏和に渉の身体がすぐれないから無理をさせないように、見遣っていてくれと言われていた。
「え? どうしたんですか?」
「ちょっと出てくるけど、すぐに帰ってくるから」 車のキーを手に取る。
ちょっと出る。 それは神社からどこかに出るということ。 それは車で出なければならない。
奏和に言われた。 身体のすぐれない渉。 その渉を引き回すことは出来ない。 車に乗せて渉と一緒に出掛ける方が、渉の身体が疲れるだろうと思った。
「あ・・・お散歩とかはしていいでしょ?」 磐座に行くのもお散歩だ。
「身体に無理がかからない程度ならね」 散歩くらいは、奏和が言う程には無理をさせていないだろうと思う。
「はい」 と返事をすると「小母さんもみんなも心配し過ぎなんだから」 と付け足した。
「じゃ、すぐに帰って来るからね」
「はい、行ってらっしゃい」
雅子を玄関まで送るとすぐに部屋にコートを取りに走った。
コートを身体に引っ掛け、ソロっと玄関を開ける。 翼もいない、無人になってしまう家。 鍵をかけるといつもの場所にカギを隠すように置いた。
誰にも見つからないように、木の陰に隠れながら少しずつ進んでいくと、授与所に座っているはずのカケルの姿がない。
「社務所に何かを取りに行ってるのかしら」 辺りを見回す。
「奏ちゃんも居ない」
境内の端に添って、手水舎の後ろから一気に山の中に走り出した。 山の中に入るとハァハァと息を上げながら膝に手をついた。
「体力なくなっちゃった・・・」 ゴクリと唾を飲むとまだ上がる息のままフラフラと歩き出した。
「クッソ、順也のヤツ遅すぎるだろっ!」
社務所から出てきた奏和がスマホを確認するが着信がない。 ダウンジャケットの内ポケットにスマホを入れると、足早に境内を歩き家の玄関の戸に手をかけた。
「あれ?」 戸に鍵がかかっている。
「まさか?」 縁側のある方に走った。
宮司と雅子、奏和が家に鍵をかけるとそのまま持って出るが、渉たちが家に鍵をかける時には、縁側の方にある決められた場所に鍵を隠す。
「あった・・・」
決められた場所に鍵が隠されていた。 と言う事は、渉が鍵をかけたという事だ。 雅子と共に行動を一(いつ)にしていないということが。
「っつ、渉・・・」 鍵を握りしめるとダウンジャケットのポケットに入れて走り出した。
境内を走ると、宮司の手伝いで歩いていた翼が目に入った。
「翼!」 翼が奏和を見止め、なに? といった目で見る。
「すぐに翔にそのまま社務所に居るように言っておいてくれ、すぐにだぞ! それと、母さんが帰ってきたら、渉のことは心配いらないからって伝えてくれ!」 鍵は持って出た。 渉が一人で出たとは思わないだろう。
「え? 奏兄ちゃんは?」
「ちょっと用を思い出した。 お前が親父の手伝いを全部手伝っておいてくれ」
「えーーー!? 俺一人でー!」 境内に居る参拝者が振り返る。
「バカ! 境内で大声出すな! 頼んだぞ!」
「え? あ! ・・・奏兄ちゃんの方が大声じゃんか!」 山へ走り去る奏和を見送ると、渋々踵を返してまだ社務所に居るカケルに伝言を伝えに行った。
「くそっ! 渉・・・」 一気に磐座まで走る。
山の中では時折、散策の声が聞こえるが、みな山の上の方に行っているようで、渉の居るであろう磐座の方からは人の声が聞こえない。
短い下り坂を一気に飛び降りて川の流れが見えた。
「居てくれ!」
すぐに磐座の前で手を合わす渉の姿が見えた。 途端、渉の姿が歪みだした。
「渉!!」 飛び込むように渉の腕をつかんだ。
段差のある向こう側に突っ込んだつもりで、こけないように思いっきり手を突っ張った。 ・・・つもりが何の手ごたえもない。
「へっ?」