大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第41回

2013年10月22日 12時36分06秒 | 小説
『みち』 目次

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『みち』 ~未知~  第41回



出勤日。

この頃には会社で苦手なコーヒーを入れることも苦ではなくなってきていた。 そして階段の一往復くらいなら息切れをしなくなってきていた。 そしてふと

「もし文香の言うとおりだとしたら乙訓寺に行くと完全にしもやけが治るのかしら?」 そう思い図書館で借りていた本を返却ついでに週末の土曜日乙訓寺に向かった。

お寺に行って何をするわけでもない。 本堂の前に置かれているベンチにただ座っているだけだ。

マンションに帰り足を見てみると一段としもやけがよくなってきていた。

「足の甲は治ってる。 足の指も足先が赤いだけ。 それももう薄い色。 行く前はもっと濃い赤だったし範囲も広かったのに・・・うそでしょ。 ためしに明日も行こうかしら」 そして翌日、日曜日も出かけたのだがいつも座る本堂の前のベンチが無かった。

「あら? 昨日はあったのに」 辺りを見回してもベンチが見当たらない。

仕方なくお寺の中を歩いているとお墓の横に沢山の椅子があった。

「ここしか座る所がないのね。 お墓を見ながらって、ちょっと考えちゃうわね」 そう思いながらも椅子に座り暫くすると

「・・・何かしら・・・。 本堂の前で座っているのと違う感覚だわ」 暫く考えて

「何が違うのかしら。 お墓の前だからかしら。 うううん、それもあるかもしれないけど本堂の前は全然違う何かを感じるのよ。 あそこに座っていたときには気付かなかったわ」 そして

「ここはちょっと心がザワつくわ。 立ったままでいいから本堂の前の方がいいわ」 そう思いその場を立ち本堂の前に行った。

するとさっき無かったベンチが置かれていたのだがいつもと違う位置だ。

「あら、いつの間に?」 琴音はベンチに座った。 そして暫くして首を傾げた。

「ここもちょっと違うわ。 何が違うのかしら。 でも立ってるのもねぇ・・・ま、ここでもいいかな。 完全に落ち着かないけど悪くもなさそうだしここで座っていましょか・・・」 いつもと比べて落ち着いて座ってはいられなかったが1時間ほどを過ごした。

家に帰り足を見てみるとしもやけは完全に治っていた。

「底冷えのする京都でベンチに座ってしもやけが治るなんて有り得ないわよね・・・これって本当に文香の言うとおりなのかしら? ・・・まさかね。 偶然よね・・・」 

しもやけが治って数日後、仕事に集中が出来るようになったものの あまりの足元の冷えから今度は風邪を引いてしまった。 
仕事中にも咳が止まらなく鼻も詰まって息がしにくい。 頭もボォっとしている。 市販の薬を飲んでも一向に治らない。

「駄目だわ全然良くならない。 この薬ほんとに利くのかしら」 コンコンと咳をしながら薬のビンを眺めているとふと気がついた。

「あ、もしかしたら・・・風邪も治るのかしら・・・まさかね」 そう思う心と裏腹にしっかりと週末、ボォっとする頭で車を運転し乙訓寺へ向かった。

いつもの所にベンチが置かれていた。

「良かった、ベンチがあったわ。 やっぱりここじゃなきゃ落ち着けないわ。 でも今日も寒いのにただ座っているだけじゃ余計に風邪が酷くならないかしら・・・」 風も勢いよく吹いている。 木の葉のざわめく音が耳に染み入る。 咳をしながらも

「木の葉の音、鳥の声、ああ 少年野球の声かしら・・・」 最初に来た時に見た赤い色をもう絶対に見たくないと目を閉じる事が無かった琴音だったが この時は熱もあったからなのだろうかベンチに座り目を閉じ色んな音を感じていた。 
不思議に寒くはなかった。 そして意識は半分眠ってしまったようだ。

その意識が全部戻ってきた時に気がついた琴音。 

「わ、私こんな寒い中で半分寝ちゃってたんだわ。 どうするのよ熱が酷くなるじゃない」 そして正面を見たとき何かが違うことに気付いた。

「なに?」 辺りを見る。

「なんなの? どうして!」 琴音の目に映った風景は全て白黒だったのだ。 いや、全てというと語弊がある。

正面に見える不動明王像の前に供えられていた花の色だけは見えるのだ。 その花の色に気付いたから花以外に色が無い事に気付いたのだ。

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