僕と僕の母様 第29回
中学三年、高校受験の時 母様が公立高校に行ったら 携帯電話を買ってあげると約束してきたのだ。
母様にすれば 携帯電話で僕を釣れば ちゃんと勉強して 私立に行かず公立に行くと思っていたのであろう。
その結果、携帯電話に釣られること無く 特に勉強もすることなく 公立高校に合格した。
その上、推薦入試で入学が決まったものだから 他の一般入試を受ける生徒より早く入学が決まっていた。
入学が決まった時点で 高校に行くのと同じだと僕は言ったのだが 母様にしたら入学式を終えて 高校生として認められるのだから 入学式の後に携帯を買うというのだ。
この時点で母様との言い合いがあった。
大体中学の時点で 大半の友達が携帯を持っているのに いつまでガマンをさせるつもりなのかと 腹が立っていた。 毎日が言い合いだった。
そして何日も喧嘩腰の話し合いの結果、僕が勝った。
やっと買って貰った携帯なのだが 今度は請求書の金額での言い合いがあったのだ。
今はパケ放題とかが 充実しているけれども その時には今程 充実してはいなかった。
最初の請求書が六千円ほどで その後、着実に毎月上がっていって 最終的には三万円か、四万円ほどになっていた。 だから請求書がくる度に母様は怒っていたのだ。
怒った翌朝から 二、三日は口も聞きたくないといった感じで 目も合わせることもなく 行ってらっしゃいの見送りもないのだ。
この時代に携帯代が二万、三万なんて当たり前だし クラスのヤツなんて六万とか八万ってヤツもいる。 母様は全然分かっていないのだ。
それなのに毎月毎月、鬼のような顔で怒鳴り散らす。 僕もウンザリしていたのだ。
でも そんな日があるかと思えば こんな日もあったりと 忙しい母様だ。
ある朝、母様の怒りの「起きなさい」 という声ではなくて 階段をかけあがる音とともに「陵ちゃん起きて」 と言う母様の嬉しそうな声が 意識のどこか遠くで聞こえた。
そして次の瞬間に 僕の部屋に入ってきた母様が ベッドで寝ている僕の布団をおもいっきりめくって「陵也、陵也、陵也」 と三回言いながら、その度に僕の頭を三回叩いた。
仕方なく「なに~」 と言ってボオーっと目を開けながら モゾモゾとめくられた布団をかぶろうとすると
「起きて、起きて、起きて」 と、これまた三回言いながら その度に頭を叩いてくれた。
仕方ないので起きるふりをして 母様が下に降りたらまた寝ようと思い 少し体を起こしてみると 今度は手を引っ張りながら
「虹、虹、虹、きれいなの、すごく大きいの」 と言うではないか。
たしかに夜の月をきれいと思い 長い時間ずっと見ていることもあるし 星や流れる雲を見ているのは 心静かになれて僕も好きである。
でも今は僕の苦手な朝だ。 ましてやハア~っと息を吐けば 白いものが見える季節でもある。 地獄を感じながら起きてみた。
僕の家の裏側は何もない ただ土地だけがずっと続いているのだ。
それは表側を歩いていて 急に裏側に行くと 全然違う土地に来たような感じになるほどの景色の差だ。
家には階段の途中に 少し大きめの窓がある。 その窓は家の方向で言うと 裏側に当たる。
家の裏は そうだな 真っ直ぐ正面に一キロほどだろうか、その左右も これは一キロ以上に広く ずっと何もない土地が続いてるので 建物の障害もなく階段の窓や、二階の裏側の部屋の窓は 星空や月がきれいな夜や、雷の稲光を十分に満喫できる特等席である。
母様が「陵也、こっちこっち、早く」 と言って階段の窓の方を指さす。
階段の窓のところに立った母様の横に立って外を見てみた。
「ああ、たしかに大きいです。 きれいです。」 そう言って もう一度ベッドに戻ろうとすると
「ちゃんと見て。 こんなに大きくて くっきりはっきりしている虹なんて もう一生見られないかもしれないのよ。 あそこの大きい木の左を見て、あそこが虹の端っこよ。 虹の端っこを見られるなんて 想像もしたことなかった。 陵也も見られるなんて思ったことないでしょう。 きれいねー、嬉しいねー。」
とっても幸せなんでしょうが 僕は寒いです。 極寒です。 窓を閉めてほしいです。
その上 僕は近視で今眼鏡をかけたところで まだはっきりと物が見えません。
お弁当を作り終わってから 朝のコーヒーのお湯を沸かしているときに 下の部屋の雨戸を開け その時に虹を見つけたらしい。
上手い具合にお湯の沸く音が キッチンから聞こえてきた。 母様があわてて階段を下りていったのを見て ここぞとばかりに窓を閉めた。
もう一度ベッドに戻ろうとすると
「降りてきなさい、起きてなさい」 と言ういつもの母様の怒りの声が聞こえた。 見透かされてた。
いつもより随分と早い時間だ。
その後は仕方なく起きてボオーっと 出されたトーストを口にくわえて ヒーターの前に座っていたが 母様は消えてゆく虹をずっと見送っていた。
僕も時々呼ばれて 薄くなっていく虹を一緒に眺めさせられた。
その現象は不思議なことに 虹自体は小さくなっていたが 三日も続いたらしい。 ちなみに僕の極寒地獄は その日一日だけだった。
今回はいつもより長くなりましたのに 最後まで読んで頂きまして 有難うございました。
参加しております。 クリックのご協力をお願い致します。
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ご協力有難う御座いました。
中学三年、高校受験の時 母様が公立高校に行ったら 携帯電話を買ってあげると約束してきたのだ。
母様にすれば 携帯電話で僕を釣れば ちゃんと勉強して 私立に行かず公立に行くと思っていたのであろう。
その結果、携帯電話に釣られること無く 特に勉強もすることなく 公立高校に合格した。
その上、推薦入試で入学が決まったものだから 他の一般入試を受ける生徒より早く入学が決まっていた。
入学が決まった時点で 高校に行くのと同じだと僕は言ったのだが 母様にしたら入学式を終えて 高校生として認められるのだから 入学式の後に携帯を買うというのだ。
この時点で母様との言い合いがあった。
大体中学の時点で 大半の友達が携帯を持っているのに いつまでガマンをさせるつもりなのかと 腹が立っていた。 毎日が言い合いだった。
そして何日も喧嘩腰の話し合いの結果、僕が勝った。
やっと買って貰った携帯なのだが 今度は請求書の金額での言い合いがあったのだ。
今はパケ放題とかが 充実しているけれども その時には今程 充実してはいなかった。
最初の請求書が六千円ほどで その後、着実に毎月上がっていって 最終的には三万円か、四万円ほどになっていた。 だから請求書がくる度に母様は怒っていたのだ。
怒った翌朝から 二、三日は口も聞きたくないといった感じで 目も合わせることもなく 行ってらっしゃいの見送りもないのだ。
この時代に携帯代が二万、三万なんて当たり前だし クラスのヤツなんて六万とか八万ってヤツもいる。 母様は全然分かっていないのだ。
それなのに毎月毎月、鬼のような顔で怒鳴り散らす。 僕もウンザリしていたのだ。
でも そんな日があるかと思えば こんな日もあったりと 忙しい母様だ。
ある朝、母様の怒りの「起きなさい」 という声ではなくて 階段をかけあがる音とともに「陵ちゃん起きて」 と言う母様の嬉しそうな声が 意識のどこか遠くで聞こえた。
そして次の瞬間に 僕の部屋に入ってきた母様が ベッドで寝ている僕の布団をおもいっきりめくって「陵也、陵也、陵也」 と三回言いながら、その度に僕の頭を三回叩いた。
仕方なく「なに~」 と言ってボオーっと目を開けながら モゾモゾとめくられた布団をかぶろうとすると
「起きて、起きて、起きて」 と、これまた三回言いながら その度に頭を叩いてくれた。
仕方ないので起きるふりをして 母様が下に降りたらまた寝ようと思い 少し体を起こしてみると 今度は手を引っ張りながら
「虹、虹、虹、きれいなの、すごく大きいの」 と言うではないか。
たしかに夜の月をきれいと思い 長い時間ずっと見ていることもあるし 星や流れる雲を見ているのは 心静かになれて僕も好きである。
でも今は僕の苦手な朝だ。 ましてやハア~っと息を吐けば 白いものが見える季節でもある。 地獄を感じながら起きてみた。
僕の家の裏側は何もない ただ土地だけがずっと続いているのだ。
それは表側を歩いていて 急に裏側に行くと 全然違う土地に来たような感じになるほどの景色の差だ。
家には階段の途中に 少し大きめの窓がある。 その窓は家の方向で言うと 裏側に当たる。
家の裏は そうだな 真っ直ぐ正面に一キロほどだろうか、その左右も これは一キロ以上に広く ずっと何もない土地が続いてるので 建物の障害もなく階段の窓や、二階の裏側の部屋の窓は 星空や月がきれいな夜や、雷の稲光を十分に満喫できる特等席である。
母様が「陵也、こっちこっち、早く」 と言って階段の窓の方を指さす。
階段の窓のところに立った母様の横に立って外を見てみた。
「ああ、たしかに大きいです。 きれいです。」 そう言って もう一度ベッドに戻ろうとすると
「ちゃんと見て。 こんなに大きくて くっきりはっきりしている虹なんて もう一生見られないかもしれないのよ。 あそこの大きい木の左を見て、あそこが虹の端っこよ。 虹の端っこを見られるなんて 想像もしたことなかった。 陵也も見られるなんて思ったことないでしょう。 きれいねー、嬉しいねー。」
とっても幸せなんでしょうが 僕は寒いです。 極寒です。 窓を閉めてほしいです。
その上 僕は近視で今眼鏡をかけたところで まだはっきりと物が見えません。
お弁当を作り終わってから 朝のコーヒーのお湯を沸かしているときに 下の部屋の雨戸を開け その時に虹を見つけたらしい。
上手い具合にお湯の沸く音が キッチンから聞こえてきた。 母様があわてて階段を下りていったのを見て ここぞとばかりに窓を閉めた。
もう一度ベッドに戻ろうとすると
「降りてきなさい、起きてなさい」 と言ういつもの母様の怒りの声が聞こえた。 見透かされてた。
いつもより随分と早い時間だ。
その後は仕方なく起きてボオーっと 出されたトーストを口にくわえて ヒーターの前に座っていたが 母様は消えてゆく虹をずっと見送っていた。
僕も時々呼ばれて 薄くなっていく虹を一緒に眺めさせられた。
その現象は不思議なことに 虹自体は小さくなっていたが 三日も続いたらしい。 ちなみに僕の極寒地獄は その日一日だけだった。
今回はいつもより長くなりましたのに 最後まで読んで頂きまして 有難うございました。
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