イラン側の視点から
以下は、「イラン ジャパニーズ ラジオ」掲載の “反イラン映画「アルゴ」のアカデミー賞受賞” 2013/02/25(月) 22:43 の転載である。
良くも悪くも政治的な内容を持つ作品の評価には、複数の視点が必要である。
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アボルファトフ解説員
1979年に起こった、在テヘラン・アメリカ大使館占拠事件を題材とした反イラン映画「アルゴ」が、第85回アカデミー賞の最優秀作品賞を受賞しました。
反イラン映画「アルゴ」がアカデミー賞を受賞した一方、西側諸国の独立した映画関係者がこの映画の質の低さや、虚偽的なストーリーに疑問を提示しました。評論家は、アメリカ政府とCIAの支持がなかったら、この映画はアカデミー賞には選ばれていないだろうと表明しました。映画「アルゴ」は、1979年にイランで起きた事件を題材にしています。この時、テヘランにあるアメリカ大使館が、アメリカの内政干渉に抗議していたイラン人学生らによって占拠されました。
この映画のストーリーは、1979年にCIAのスパイたちが映画制作者を装ってイランに入国し、アメリカ人外交官6名を解放するというものです。さらに、イスラム革命を支持する学生らが大使館内に乱入した後、スパイの巣窟としてのアメリカ大使館から脱出したアメリカ人外交官の一部は、テヘランにあるカナダ大使公邸に逃げ込みます。この映画では、イランとアメリカでの物語が同時に映像化されています。アルゴという反イラン的な映画のアカデミー賞受賞は、改めて、ハリウッドにおいて政治が芸術よりも優位な立場にあることを示しました。
今回、この他の映画「リンカーン」、そして「ライフ・オブ・パイ、トラと漂流した227日」も受賞を争いましたが、そうした中で「アルゴ」が受賞を果たしています。しかし、加筆されたシナリオによる映画が最優秀作品に選出されたことの発端は、その芸術的面での独創性ではなく、その題材にあります。この映画は、最初の部分では1979年のイスラム革命以前のイランで、アメリカが専制体制の成立を惜しみなく支持したことが描かれていますが、35年前のイラン社会の現実とは違う様子が映し出されています。
この映画の質はともかく、その中で扱われているのは、歴史上の明白な虚偽であり、ベン・アフレック監督演じた当時のCIA諜報員トニー・メンデズと、当時テヘランに駐在していたケン・テイラー・カナダ大使の抗議の声を引き起こしています。映画「アルゴ」の虚偽的な内容とは逆に、アメリカは、これらの外交官らのテヘラン脱出には、決定的な役割を果たしておらず、カナダ大使が自らの責務に反する措置として、偽造のカナダ旅券を外交官らに渡し、彼らのテヘラン脱出の便宜をはかっているのです。
それでは、表面的には歴史物といえる、偽りの映画「アルゴ」が何故歓迎され、アカデミー賞を受賞しているのでしょうか?その答えとして、この映画の2つの特質を挙げる必要があります。
先ず第1に、この映画では、他のハリウッド映画作品と同様に、アメリカ人が正義の味方のヒーローとして登場し、悪と戦うストーリーになっていることが指摘できます。これは、ハリウッド映画の重要な特徴であり、宇宙人が地球を攻撃してくるような場合でも、地球を守り、人類を死の淵から救うのはアメリカ人という設定になっています。このため、CIAのスパイの助けなしで、アメリカ人外交官6名がテヘランから脱出した、という事実をそのまま映画化すれば、英雄気分を求めるアメリカ人の感情が満たされず、観客を呼べなくなります。このため、「アルゴ」のシナリオは虚偽にそったものになっているのです。
さらに、この映画のもう1つの特徴は、反イラン的な内容であるということです。現在、アメリカのメディアや政治家の一部の助けにより、アメリカではイスラムやイランに反対する感情が広まっており、イランやイラン国民を侮辱し、イランをいわゆる核の脅威として見せることは、アメリカで支持されています。このため、あれから33年が経過した現在、テヘランでのアメリカ大使館占拠事件について虚偽を仕立て上げることは、再びアメリカの娯楽産業の経営者の使命となり、オバマ大統領夫人はこれまでなかった措置により、そのメッセージの中で、映画「アルゴ」がアカデミー賞を受賞したことを伝えています。
実際、映画「アルゴ」は、西側諸国での反イラン感情をあおり、核問題においてイランを屈服させようとし、或いはイランとの軍事的衝突に向けた心理的な下地を整えようとしています。兎に角、この映画は改めてアカデミー賞獲得には芸術性や創造性よりも、政治に注目し、政治家の動向に倣う必要があることを証明しました。このため、アメリカ史上最高の大統領リンカーンの最も重要な日々までもが、映画「アルゴ」に対し色あせて見えます。それは、この映画が、映画「リンカーン」や「ライフ・オブ・パイ」では決して成し遂げられない使命を背負っているからです。