ゆいもあ亭【非】日常

映画や小説などのフィクション(非・日常)に関するブログ

猫贔屓、犬贔屓。

2008-10-04 | Weblog
たまにはこんな記事はどうか。
「枕草子」第七段の口語訳。(もちろん私が訳しました)。

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上にさぶらふ御猫は(口語訳)

(清涼殿におります)(帝にお仕え申す)帝ご寵愛の猫は、五位の位を頂いた者であって命婦のおとどといって、ひどくかわいらしいので、帝もご大切になさっていらっしゃる(その)猫が、(ある日)お部屋の(ひどく)端の方に出て寝ているので、世話役の馬の命婦が、
「まあお行儀の悪いこと、お入りなさい。」
と呼ぶけれども(言うことを聞かないで)、日が差し照らしている日だまりに、眠ってじっとしているのを、おどすつもりで、
「翁丸はどこなの、命婦のおとどをたべちゃいなさい。」
というと、(この言葉を)本当かと思って、馬鹿者(な犬)は走って飛び掛ったので、(猫は)怖じ慌てて、御簾の中に逃げ込んでしまった。(そのときちょうど)ご朝食の部屋に帝がいらっしゃったので、(これを)ご覧になって、たいそうびっくりなさる。猫をご懐中にお入れになって、蔵人たちを呼び寄せると、蔵人の忠隆、なりなかが参上したので、
「不届きな翁丸めを打ち懲らしめて、犬島(犬を遠島=えんとう=にするということから。実際にはそのような特定の場所はない)に流してしまおう。今すぐに。」
とおっしゃりなさるので、皆々集まって、(翁丸を)狩り出し(てやろうと)大騒ぎする。馬の命婦のこともお叱りになって、
「世話役もとにかく替えてしまおう。まったく安心できぬ」
とおっしゃりなさるので、(馬の命婦は畏れ多くて)帝の御前にも顔出しもしない。犬は(皆が)狩り出して、滝口の武士などによって追放された。
「気の毒に、(今までは)たいそう威張ってのし歩いていたのになぁ。三月三日に、頭の弁が柳で頭を飾らせ、桃の花をくびに差させ、桜を腰に差したりして、(飾り立てて)練り歩かせなさった時には、こんな酷い目に遭うだろうとは思いがけもしなかったろうか」と(わたくしどもは)気の毒がる。
「(中宮様の)お食事の時には、(お余りをいただこうと庭先で)必ずこちらを向いて控えておりましたのに、(いなくなって)本当につまらないわ」などと(皆で)話して、三、四日ほどになった昼ごろ、犬がひどく鳴く声がするので、「どうして犬が、こう長時間にわたり鳴くのであろうか。」と(その声を)聞くうちに、(近隣の)たくさんの犬どもが(そちらの方を)尋ねて見に行く。
御厠人である女が駈けて来て、
「まあ大変だわ、犬を蔵人が二人して打ちのめしていらっしゃる。死んでしまうでしょう。帝が犬を流罪にしなさったその犬が、帰って参りましたということで、罰しなさっている」
と言う。これは嫌なしらせだわ。(やはり)翁丸だ。
「忠隆、実房など打つ」
と言うので、止めに(その女を)遣わすうちに、やっとのことで鳴き止み、
「死んだので、陣の外に放り捨てた」
と(聞いたと、戻った女が)報告するので、気の毒がりなどするその夕方、いかにもひどく腫れて、見るからにみすぼらしい犬で苦しげな様子の犬が、わななきまどっているので、
「翁丸かしら。(それともこのあたりには)近頃こんな感じの犬がうろついていたかしら。」
と言うと、(他の女房が)
「翁丸。」
と呼ぶけれど、(呼び掛けを)聞き入れもしない(見向きもしない)。「やっぱりそうよ」と(ある女房が)言い、「違うわよ」とも(別の女房が言い、)(みなが)口々に意見を申すので、(中宮様が)
「右近が(よく)見知っている(はず)。お呼びなさい」
といって、呼び寄せると、参上した。
「これは翁丸か」
と見分けさせなさる。
「似てはございますけれど、この犬はあまりにみすぼらしい姿でござるようです。また、『翁丸や。』とさえ呼びかけると、(普通は)喜んで駆け寄って参りますのに、(この犬は)呼んでも近寄ってきません。(翁丸とは)違う犬であるようです。『その犬は、打ち殺して(死骸を)棄てました。』と申していました。ひと二人をして打つなら、生きておりますでしょうか(いや、死んだでしょう)」
などと申すので、(中宮様は)お辛くお思いになる(ご様子だ)。
(日暮れて)暗くなって、食べ物を食べさせたけれど食べないので、やっぱり違う犬だと結論付けておしまいにしたその明くる早朝、(中宮様が)ご調髪、ご洗面などのお手伝いをさせなさって、お鏡を(私に)持たせなさってご覧になるので、お側仕えしている時に、犬が(お庭先の)柱のもとに座っているのを眺めやって、
「ああ、昨日翁丸をひどく打ったことよ。死んでしまっただろうことは気の毒だ。(生まれ変わって)何の身に今度はなったんだろうか。(打たれて死ぬ時には)どんなにか辛い気持ちがしただろろうか。」
とそっと言うと、この座っていた犬が(身を)震いに震わせて、涙を落としに落とすので、もうビックリしたことだ。「さてはやはり翁丸であったのだ。ゆうべは(素性が知れないように)隠れ忍んでいたのだなぁ」と、気の毒な思いに添えて、(その知恵の働かせ方に)感心することこの上ない。
お鏡をちょっと置いて、
「それじゃあ(やっぱり)翁丸かい」
と言うと、ひれ伏してひどく鳴く。中宮様もたいそうお笑いになる(異本では「おち笑はせたまふ」。「落ち」は「ほっとする。安心する」)。右近の内侍をお呼びになって、「こういうふうで」。と(事情を)おっしゃると、(女房一同も)笑い騒ぐので、帝もお聞きになって(中宮の御座所に)おいでになる。
「あきれたことに、犬なんかでも、こういう(身を包み隠そうという)気持ち(知恵)があるものなんだねぇ」
と(帝も)お笑いになる。帝お付の女房方も(噂を)聞いて、寄り集まって呼びかけるのにも、今はもう(安心して活発に)立ち動く。
「やはりこの顔などが腫れていることよ。何か手当てをさせたいものだわ。」
と(私が)言うと(他の女房が)、
「(あなたは)ついに(見事に)この翁丸の正体を見抜いたことだわ。」
などと笑う時に、蔵人忠隆が聞きつけて、台盤所の方から、
「(翁丸が戻ったとは)本当のことでござろうか。それなら検分しましょう。」
と言って寄越したので(私は)、
「まあとんでもないことです。まるでそのような者はおりません。」
と(取次ぎの者に)言わせると、
「庇いだてなさっても、私が見つける機会もございましょう。そんなふうにばかり隠し果せはなされないでしょう。」
と言う。
こんな経緯があって、お咎めが許されて、もとのようになり戻りました。(それにしても)やはり同情の声をかけられて身を震わせて鳴き出してしまったことが、このうえなく胸弾み胸に染みもしたことだ。(確かに)人間などは人に(同情の言葉を)言われて泣きなどするものだが(、犬でもそうなんだねぇ、とつくづく感じましたよ)。

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猫を猫かわいがりな帝と、犬贔屓な中宮(及び中宮房の女房方、とくに清少納言)がよい味でしょう?