映画で楽しむ世界史

映画、演劇、オペラを題材に世界史を学ぶ、語ることが楽しくなりました

スピルバーグ監督の名作「アミスタッド」

2006-03-29 12:58:58 | 舞台はアメリカ

3月28日NHK衛星第二放送「アミスタッド

最初この映画を見たとき本当に感動した。現実にあった奴隷問題にフィクションを交えながら法廷ものに仕上げたスピルバーグの手腕、崇高、緊張感一杯の法廷場面、ヒューマンドラマ・・・文句なし頭が下がる。(映画で楽しむ世界史 113章)

この映画は実に多くの問題を提起する。

①奴隷船のアメリカ漂着がなぜ米、スペインの外交問題に発展するか

②とにかく奴隷は英語が話せない、どうやって彼等と意思疎通を図るのか

③西アフリカからの奴隷が捕獲され、大西洋のど真ん中で取引される経緯

④アメリカでの司法の独立性の問題、大統領は南部出身が多いなか しかし、最大のものは「奴隷」の法律的解釈・・・

⑤奴隷は人間なのか、物なのかで、総ての論理構成が変わってくる。

アメリカ独立時、最初の憲法では奴隷制問題の基本的部分は逃げた、先送りした。しかし個々の条文の一部では奴隷についての個別事項に触れざるを得ない。奴隷制度に利害関係を持つ人々は、そうした条文の解釈や適用を巡って様々な我田引水のための理屈や妥協を繰り広げる。 例えば以下のような規定が問題になる。

①1808年まで連邦議会は奴隷輸入を禁止してはならない(裏読み・・・最低1808年まで奴隷貿易存続、1808年ジェファソンは奴隷貿易を禁止する)

②連邦議会の下院議員の各州選出数を各州人口に比例さすに当たって、奴隷はその数の三分の二を算入する・・・奴隷も三分の二人間扱い

③逃亡奴隷の取り扱いを巡って、「奴隷が他の州に逃げ込んだ場合、当該諸州の法令によって解放されることはなく、奴隷所有者の要求によって返還させる」とする・・・奴隷は個人の財産、所有権の絶対性

④その他奴隷の売買、貸借、担保、労働、結婚、子弟などについて様々なことが発生するが、南部、北部とも州によって規定が異なる。人間扱いか物扱いか、人間扱いとしても色々な差別をどこまで認めるか・・・。

いずれにしてもあの「アミスタッド号」の奴隷たちは、コネティカット州のニューヘブンに漂着した。これが良かった。アメリカでも最も豊かかつ知的レベルの高いところ。18世紀早々にイエール大学が創設されており、「アンクルトムの小屋」を書いたストウ夫人や数々の知識人を生んだ、奴隷解放熱心州。これが南部だったらほとんど文句なしに処刑されていたであろう。

アンソーニー・ポプキンス扮する元大統領アダムスが、一介の弁護士として南部出身が多数の最高裁でアメリカの理想を説く場面が圧巻だ。

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