MENSA of TUM
今日は
ホールデンスタジオの第一回合同ミーティング。
朝10時。ホールデン研の向かいの作業室に、ホールデンの二つのスタジオの履修者が一堂に集まる。朝からドイツ語講座に出ていたかいくんともここで合流。東工大から留学している二人もホールデンスタジオにしたようだ。超初級ドイツ語講座で知り合ったイタリア人のギドもいた。どうやら今日は八時半からここでホールデンの講義があったらしい。すっかり忘れていた(どうせ起きれなかったと思うけど)。午後からその講義に付帯する演習があるというので登録させてもらう。来週からは早起きしてちゃんと出よう。椅子に座ってしばらく待っていると、ホールデンが登場。「そろそろ始めてもよろしいですか?」と確認し、スタジオの説明が始まった。
僕らが履修する「e-ch(ヨーロピアンコンセプトハウス)」は、オランダのデルフト工科大学との共同プロジェクト。デルフト工科大学では五カ年計画でやっているプロジェクトらしく、すでにマーケットリサーチまでは終わっているらしい。デザインはまだ始まっていないので僕たちが先鞭をつけるのだという。とても重要な課題になる、彼らにグッドと言わせるように頑張ろうとホールデンは言っていた。12月にデルフト工科大学の人とミーティングをするらしいのだが、今はまだ自由な発想の余地を残してはじめてみよう、とのこと。そして、ホールデンのヨーロッパ観、および彼が考える“ヨーロッパ的なるもの”のプレゼンテーションが始まった。僕が終始興奮していたのは言うまでもない。ホールデンのしゃべることを一字一句逃すまいと必死にメモを取った。まず、“ヨーロッパ的なるもの”を生み出した地理的条件から話は始まった。
【Horden】
ヨーロッパには入り江が多い。それらの入り江を介して国と国が隣接している。近いから行き来が簡単で、近いからいがみ合うこともある。そうした国と国との衝突の機会が多かったことが、ヨーロッパが急速に成長し得た要因になった。その地理的条件がアメリカとの大きな違いである。また、各地域ごとに気候条件が大きく異なることが、多様な住宅スタイルを生み出した。“ヨーロッパは一つ(EU)”かもしれないが、住宅の形式は一つには決定し得ない。それがまたヨーロッパ建築を発展させる推進力になった。それもアメリカとの大きな違いである(アメリカはまったく同じ住宅を全土で大量生産した)。ヨーロッパはたくさんのワンダフルプロダクトを生み出した。今回のスタジオにインスピレイションをもたらすように、それらを紹介していこう。
ここでホールデンはエアバス(小ぶりの旅客機)とエスプレッソを並べてみせる。
【Horden】
これがヨーロッパである。ボーイングではなく、エアバス。スターバックスコーヒーではなく、エスプレッソ。アメリカや中国が巨大なものを作り出す一方で、ヨーロッパは、そしておそらく日本も、スモールでハイクオリティなものをつくることに長けている。私の友人は建築学科を出て今はエアバス機の開発に携わっている。その逆もありうるだろう。建築もプロダクトも、いまや“ベリークローズ(とても近しい)”なのである。
そしてホールデンは次々とヨーロッパの優れたプロダクトを写真で提示し始めた。
【Horden】
マクラーレン、アストンマーチン、ポルシェ、スマート、フォルクスワーゲンが開発した「the one litter car」(1リットルの燃料で100km走れる)、BMWが開発したヨット、コンコルド、スウォッチ、riva設計のモーターボート、boeschのモーターボート、rutan(ボイジャー宇宙船を開発した人らしい)設計の飛行機…。それらはすべて、ハイクオリティでスモールスケールでローエナジーである。エアバスの内装からはインスピレイションを感じる。ファニチャーと建築は長い闘争関係にあったが、これからはそれらのインテグレイションを考えなければならないのだ。
そしてホールデンの考えるe-chのコンセプトスケッチが提示される。
ホールデンは住宅を4層に分けて考えようとしているようだ。空との関係を考える「スカイゾーン」、人間(必ずしも住人だけとは限らない)のことを考える「ピープルゾーン」、生産や交通のことを考える「グラウンドゾーン」、そしてサービス(設備?)を考える地下のゾーン。地下のゾーンをいかにスマートにつくるかがコストを左右するから重要だ、という論はフォスターも言っていた気がした。ホールデンは地上の土地そのものは「そのままにしておくこと」と注文をつけた。坂道だろうとでこぼこだろうと関係なく建築が立てるように、そしてその場所のありのままの状態を建築が傷つけてしまわないように(つまりフットプリントは小さくということか)。ホールデンは建築に影響するであろう作用因子を列挙した。
nature/skyview/energy/wind/sport/transit/culture
そしてcaltureはnature/community/commerseにつながっていく。コミュニティとはつまり人と人が付き合うルール。コマースとはアートをも含む商業行為。その家に誰が住むのか。それは自由だ。でも彼らがどんなスポーツを好み、どんなペットを飼っているのか。それを抜きにして設計を始めてはいけない。とホールデンは言う。
最後にホールデンがe-chに近いと考える古今東西の住宅が紹介された。
坂茂の紙の家、ゾーベックのr128/r129、伊東豊雄のロンドンパヴィリオン、UNスタジオのmobiushaus、フューチャーシステムズのjosefkhouse/houseinwales、ジャンプルーヴェ、フラー、ファンズワース邸、落水荘…。そしてリチャード・ロジャースのzip up house計画案(1968)。時にそれらの建築にインスピレイションを与えたと思われるプロダクトデザインを参照しながら繰り広げられるホールデンのエキサイティングなレクチャーに、僕は釘付けになってしまった。
その後、アシスタントティーチャーからドイツ語で事務連絡があったあと解散。
僕らのようにドイツ語がわからない学生は、解散後にアシスタントティーチャーからもう一度説明してもらった。来週の火曜日までに、リストアップされた住宅から好きなものを一つ選んでショートリサーチをしてくるらしい。そして10分間のプレゼンテーションをするのだと言う。僕は「futuro house」にした(ちょうど日本を出る前に太田さんの読書会でこの建築のDVDを見せてもらったばかりだったので)。ホールデンスタジオは提出物はすべてA3サイズらしい。ホールデンいわく、それがもっともコンパクトで高性能だから(プリンタで出力しやすいし)。それから、来週末に二泊三日でスイスに研修旅行に行くらしい。値段は299ユーロ。その旅行中の余興として、地球儀の絵柄が描かれた10cm四方のサイコロのなかに各自“ヨーロッパ的なるもの”を入れて持っていくらしい。「あなたたちのようなヨーロッパを外から見ている人が、どんなものを持ってくるのか楽しみだわ」とアシスタントさん。トーマスも心配して来てくれていたようで、聞き取れなかった説明やスタジオの基本的なルールを教えてくれたり、アシスタントティーチャーに僕らを紹介してくれたりした。「わからないことがあったらいつでも遠慮しないで研究室に来ていいからね!」と若いアシスタントさん。
そのあとトーマスとアネグレットとかいくんと東工大のうちべさんと僕で昼食。
メンザ(安い学食)が込んでいたので、カフェテリアに行く。外国語習得の苦労話や、ミュンヘンの必見建築などが話題。
トーマスらと別れ、僕とかいくんは午後から始まるワークショップへ。
演習室の机を片付けて、なにやら袋に入った長い棒材を運ばされ、修士の学生らしき人たちがそれを組み立てるのを見学。「飛行機をつくるワークショップ」と聞いていたのだけど、全然違うみたい。「これなんだろうね」とスペイン出身の学生と一緒に首をかしげながら、ドイツ語で声を掛け合いながらせっせと何かを組み立てる修士たちを僕らは遠巻きにして見ていた。やがてなにやらやぐらのようなものが出来上がると、「これを見てディテールのスケッチを4枚程度描いてください」との指示が。え、そういう演習だったの?皆、趣旨がよくわからないままともかく紙と鉛筆を持ってスケッチを始めた。僕は鉛筆がなかったのでペンで描く。組み立て作業はまだ続いていて、鳥かごのようなものが立ち上がろうかとしたまさにそのタイミングでホールデンが登場。僕らを指導しに来たというより、ここで誰かと打ち合わせをするようだ。なにやらライトなコンストラクションを組み立てる修士と、それを熱心にスケッチする学生。ホールデンが打ち合わせの背景に使うにはあまりにもできすぎたシチュエーションだな、と少し可笑しくなった。真剣に細部まで確認しながら描いている学生もいれば、たるそうな顔して適当に描いている学生もいる。ホールデンの秘書さんが僕のスケッチを覗きこんで「上手ねえ!日本では絵のお勉強をしていたの?」とほめてくれた。もちろんお世辞だろうとは思うけど。でも、すでにスケッチを描き終えた学生も何人か僕の絵を見に来て「うまいねえ」と言ってくれたので正直うれしかった。僕は描き始めると夢中になってしまい、描き終わった学生が一人減り二人減りするのも気づかず、3枚目まで描いて周りを見ると、30人くらいはいたはずの学生が、残っているのは僕とかいくんともう一人だけになっていた。4枚目はさすがに疲れて、雑なスケッチになってしまったかもしれない。3枚目でやめといた方がよかったかなあ。スケッチの下に名前と学籍番号を描いて提出。そのとたん、修士の学生がよってたかってあっというまに謎の構造物を解体してしまった。僕らが描き終わるのを待っていてくれたのだろう。
夕方からはかいくんと一緒に超初級ドイツ語講座に出て、帰りに大学の近くのリドルというお買い得スーパーで買い物して帰る。