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被告欠席の実務

2022-12-11 11:54:10 | 民事手続(訴訟行為)

【例題】Xは、B弁護士を訴訟代理人として、Yに対する損害賠償請求訴訟を提起した。Yに期日への呼出しがなされ、B弁護士が第1回口頭弁論期日に出廷したところ、Yは欠席した。

(case1)答弁書が提出されていない場合。

(case2)答弁書が提出されている場合。

 

[調書判決事案(1):擬制自白による欠席判決]

・擬制自白の成立:公示送達以外の適式の呼出しを受けた被告が第1回口頭弁論期日に欠席し、原告の主張した事実を争うことを明らかにしない場合、当該事実を自白したと擬制される(民訴法159条3項本文)。

・擬制自白の対象:「原告が陳述した事実全般(主要事実、間接事実、補助事実)」に及ぶ。特に主要事実に擬制自白が成立した場合、通常の自白と同様に、裁判所はそれに拘束される(民訴法179条)(※)。□コンメ(3)403、コンメ(4)67

※もっとも、「慰謝料、相当賃料額(←ただし、自白は有力な資料となる)、弁護士費用(たぶん)」等の法的評価を伴う陳述については、訴状記載のうちで「当該法的評価の基礎となる事実」のみに擬制自白が成立し、法的評価そのものである記載金額に裁判所は拘束されない。□コンメ(3)407、コンメ(4)60-1、講義案(1)281-2

※なお、本来の自白と異なり、擬制自白成立後であっても、被告が原告主張事実を改めて争うことは許される(時機後れの可能性はあるが)。□コンメ(3)403

・弁論終結の可能:被告の出欠にかかわらず、第1回期日時点で「裁判をするのに熟したとき」と判断されれば、裁判所の裁量で弁論を終結することができる(民訴法243条1項)。特に一方当事者が欠席している例では裁判所の裁量は大きくなり、出頭した原告が結審を求め(民訴法244条ただし書)、かつ、「審理の現状及び当事者の訴訟追行の状況を考慮して相当」と認められれば、裁判所は終局判決をすることができる(民訴法244条本文)。□コンメ(3)353、コンメ(5)5-6,27-8

・判決言渡期日の呼出し不要:民訴法94条1項は「期日の呼出し」の方法を定めるところ、呼出しは期日開始の要件であり、適法な呼出しがなければ期日が開けないのが原則である。この例外として、判決言渡期日の日時は、書記官から当事者へのあらかじめの通知を原則としつつ(民訴規則156条本文)、「判決言渡期日の日時を期日において告知した場合」には通知不要と法定されている(民訴規則156条ただし書)。すなわち、弁論が終結された期日において現実に出廷した原告に判決言渡期日の告知をしておけば、欠席した被告に判決言渡期日を通知する必要はない(※)。□コンメ(2)335,339

※旧法下の事案であるが、当事者双方が欠席した期日でも弁論終結が可能であることを前提にして、その際に法廷において判決言渡期日を指定すれば、欠席している当事者双方への告知の効力を有する旨が肯定されている(最二判昭和56年3月20日民集35巻2号219頁)。

・主要事実への擬制自白がされる場合の判決を「欠席判決」と呼称する。欠席判決の判決理由では「被告は、適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しないから、請求原因事実を争うことを明らかにしないものと認め、これを自白したものとみなす。」などと記載される。□手引95-6

・特則としての調書判決:被告が実質的に争っていない場合、判決言渡しの方式の特則として、裁判所は判決原本を作成しないで判決を言い渡すことができる(民訴法254条1項1号)(※)。この場合、判決書に代わる口頭弁論調書(いわゆる調書判決)が作成され(民訴法254条2項)、当該調書正本が被告に送達される(民訴法255条2項、民訴規則159条2項)。調書判決では「別紙」として訴状が引用されることが多いので、当事者は請求の趣旨などの記載を間違えないようにしたい。□コンメ(5)215-9、講義案(1)281-5、瀬木入門82-3、手引96-7

※「弁論終結時に出席した一方当事者への判決言渡期日の告知」と「調書判決」を組み合わせれば、弁論終結の直後に判決を言い渡すことも可能である。もっとも、私見では、少なくとも数日の間隔を設ける裁判官が多いか(たぶん)。

 

[調書判決事案(2):公示送達事案の被告欠席]

・公示送達事案≠擬制自白:公示送達による呼出しの場合、被告が期日に出席することは事実上期待できないから、擬制自白は成立しない(民訴法159条3項ただし書)(※)。この場合、原告には請求原因事実の立証が要求されるので、証拠説明書とともに必要十分な書証を提出しておく必要がある。□コンメ(3)408、講義案(1)282、瀬木入門83

※判決理由では「被告は、公示送達による呼出しを受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。」などと記載される。請求原因事実を認定する場合には「請求原因事実は、証拠及び弁論の趣旨により認められる。」などと続ける。□手引96

・なお、通常の送達奏功事案と同様に、第1回即日の調書判決の言渡しは可能である。□コンメ(3)408、講義案(1)282、瀬木入門83、手引96-7

 

[補足:人事訴訟の被告欠席]

・人訴事件≠擬制自白:人事訴訟では、民訴法159条1項が定める擬制自白が適用されない(人事訴訟法19条1項)。書証がない部分の認定は、陳述書や原告本人尋問で埋めることになろうか。

 

[答弁書が事前提出されている場合の処理]

・主張書面の擬制陳述:あらかじめ答弁書が事前提出されていれば、その陳述を擬制することができる(民訴法158条)。擬制陳述の要件は「欠席した被告が裁判所に主張書面を(事前)提出していること」で足り、原告からの受領書提出の有無には影響されない(たぶん)。

・乙号証の申出不可:欠席した被告から事前に「乙号証の写し」が提出されていても、期日での提出(民訴法219条)ができない以上、書証の申出はできない(書証の申出=期日での文書の提出)(※)。□コンメ(4)387、講義案(1)128

※「欠席した者は書証の申出ができない」という結論を直截に述べるのは、『注釈民事訴訟法第4巻』442。

・続行か終結か:答弁書に続行期日を望む旨の記載があれば、裁判所は答弁書を擬制陳述させた上で続行期日を指定することになろう。もっとも、その答弁書が「原告主張を争うことを明らかにしない(民訴法159条)」や、「続行してもムダ(民訴法244条)」と判断されれば、弁論を終結することができる(※)。例えば、「いわゆる『手許不如意の抗弁』のみ記載されている」「請求原因事実に対して包括的な否認をしているものの理由は明らかにせず、今後も出頭しないことを明言している」などが挙げられようか(私見)。□コンメ(3)363,360、瀬木入門84

※被告の立場であれば、答弁書に積極否認や実質的反論(又は予定する反論の方針)を明記することで、終結されないよう注意するべきであろう。

 

裁判所職員総合研修所監修『民事実務講義案1〔4訂版〕』[2008]

秋山幹男・伊藤眞・垣内秀介・加藤新太郎・高田裕成・福田剛久・山本和彦『コンメンタール民事訴訟法3〔第2版〕』[2018]

秋山幹男・伊藤眞・垣内秀介・加藤新太郎・高田裕成・福田剛久・山本和彦『コンメンタール民事訴訟法4〔第2版〕』[2019]

瀬木比呂志『民事裁判入門』(講談社現代新書)[2019] ※判例タイムズ社から出ていた『入門』の実質的後継書だろう。どぎつい裁判所非難は控え目なので読みやすい。

司法研修所編『10訂民事判決起案の手引〔補訂版〕』[2020]

秋山幹男・伊藤眞・垣内秀介・加藤新太郎・高田裕成・福田剛久・山本和彦『コンメンタール民事訴訟法2〔第3版〕』[2022]

秋山幹男・伊藤眞・垣内秀介・加藤新太郎・日下部真治・高田裕成・福田剛久・山本和彦『コンメンタール民事訴訟法5〔第2版〕』[2022]

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