民事訴訟と刑事訴訟における「文書の写し」

2019-12-02 23:31:44 | 民事手続法

【例題】「領収証 甲野太郎様 金10万円 ただし慰謝料として 上記正に領収しました。平成28年9月28日 乙川次郎(印)」と題する文書が訴訟に提出されようとしている。

 

[<民事訴訟編>書証申出と「写し」の意義]

・文書を提出する方法によって書証の申出をする当事者は、当該申出をする時までに、裁判所と相手方のそれぞれに「証拠説明書1通+その文書の写し1通」を提出(直送)する(民訴規則137条1項2項)。これは、あくまでも「文書の写しの事前提出」にとどまり、書証申出そのものではない。□講義案127-8

・この事前提出をした上で、期日において、裁判所に対し、文書の原本(or正本or認証謄本)を提出する方法による書証の申出を行う(民訴法219条、民訴規則143条1項)。□講義案127

・通常、書証の申出(=文書の提出)と取調べ(=文書の閲読)は同時にされるので(「提出扱い」と称される)、採否の裁判が明示的にされることはない。□講義案154,125

 

[<民事訴訟編>特殊な書証申出(1):原本に代えて写しを提出する方法]

・既述のとおり、本来、写しを提出することでは適法に書証の申出をしたことにはならない(最二判昭和35・12・9民集14巻13号3020頁)。□講義案146

・もっとも、相手方において「原本に代えて写しを提出すること」に異議がなく、かつ、原本の存在及びその成立について争いがない場合には、例外的に、原本の代用として写しを提出することが認められる。この場合、書証目録の標目等欄には「領収証(写し)」と表示して、「原本の代わりにその写しを取り調べる=それによって原本を取り調べこととする」旨を明らかにする。同じく成立欄には「原本の存在・成立 認」と表示する。□講義案146-7

・なお、原則的運用と同じく、「文書の写しの事前提出」が要求されるところ、期日では重ねて「写し」の提出を要せず、事前提出した写しを指示して、それを資料として閲読することで原本についての証拠調べを行ったと扱うことも多い。□講義案147

 

[<民事訴訟編>特殊な書証申出(2):写しを原本として提出する方法]

・「原本に代えて写しを提出する方法」によって書証申出をしたところ、相手方に異議を述べられ、かつ、原本自体の提出ができなければ、もはや原本を取り調べることは不可能である。□講義案149

・このような場合に、「領収証写し」を原本(←その作成者は写しを作成したもの)として、書証申出をする途が考えられる。この場合、提出される手続上の原本は、「対応する真の原本が存在していたこと+その真の原本の記載内容が写し(=手続上の原本)のとおりであること」についての報告文書だと解される。□講義案148-9

 

[<刑事訴訟編>証拠書類の証拠調べ]

・証拠書類の取調べを請求する当事者は、「その標目を記載した書面」(実務では、証拠等関係カードや証拠調請求書)を差し出す必要がある(刑訴規則188条の2第2項)。□研究98

・証拠採用された証拠書類の取調べは、原本を朗読又は要旨の告知をする方式で行われる(刑訴法305条1項、刑訴規則203条の2)。□研究117

・証拠調べを終わった証拠書類の原本は、遅滞なく裁判所に提出する(刑訴法310条本文)。明文上、裁判所の許可を得たときは「原本に代えて謄本を提出すること」が認められているところ(刑訴法310条ただし書)、ここでいう「謄本」には、「抄本」や「単なる写し」も含まれると解されている(最一決昭和28・5・21刑集7巻5号1125頁)。実務では「原本提示の上、写しを提出します」などと述べて裁判所の許可を促すことがある。□研究117

 

[<刑事訴訟編>写しによる証拠調べ請求]

・証拠書類の原本ではなく、謄本・抄本・写しによる証拠調べ請求の可否について明文の規定はないものの(刑訴法310条ただし書は根拠とならない)、それらが原本と相違なく、当事者に異議がないときは、謄本等自体に独立して証拠能力を認めることができる(東京高判昭和27・4・15高刑集5巻4号610頁)。□研究118-9

・この場合、証拠等関係カードの標目欄には「領収証(写し)」と表示して原本と区別する。□研究45-6

・民事訴訟にいう「原本に代えて写しを提出する方法」に相当しようか。

 

裁判所職員総合研修所監修『民事実務講義案1〔四訂版〕』[2008]

裁判所職員総合研修所監修『刑事事件における証拠等関係カードの記載に関する実証的研究-新訂-』[2016]

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