夜中に、コーヒーをいれようとしたところ、挽いたやつをざっと床にこぼしてしまい、それでよけいに目が覚めて、よかったことである。何かがこぼれるというのは、なかなかに興味深い現象である。こちらの頭の中では、容器に収まっている形を、そいつだと思い込んでいるが、こぼれてしまえば、そいつはだいぶ自由に広がる。それでも床やらテーブルやらがあれば、完全に自由ということでもあるまい。コーヒー豆の完全なる自由の形、いえば人の完全なる自由の形について、考えてみたが、ま、風呂でお湯と一体化、空で空気と一体化、それですら、完全に自由ではないのだから、自由とはまことに不自由なことである。
洋司
洋司