『今日の出来心』

シンガーソングライター&作詞家“久保田洋司”の365日書き下ろし公開日記です
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小墾田(をはりだ)の年魚道(あゆぢ)の水を 今日の出来心2016年2月19日(金)

2016年02月19日 09時05分05秒 | Weblog

小墾田(をはりだ)の 年魚道(あゆぢ)の水を

間(ま)なくそ 人は汲(く)むといふ

時(とき)じくそ 人は飲むといふ 

汲む人の 間なきがごとく 

飲む人の 時じきがごと

我妹子(わぎもこ)に 我(あ)が恋ふらくは

止(や)む時もなし

【万葉集 巻十三 3260】

訳)

小墾田の 年魚道の水を

間断なく 人は汲むという

絶え間なく 人は飲むという

汲む人の 間断がないように

飲む人の 絶え間ないように

あの娘への わたしの恋は

止む時もない

***

ある土地の、皆が共有しているイメージや、良いところを歌いこんで、

恋のニュアンスを入れて、歌い楽しむ、など、

今でも、ご当地ソングの常套手段ですが、

皆が、間断なく、水を汲み、絶え間なく飲む場面、

とっても面白いです。

行って、そこの水を飲みたくなります。

 

万葉集には、この歌に似ている歌が、これをふくめて4首あります。

例えば、天武天皇が詠んだことになっている、この歌↓

***

み吉野の 耳我の嶺に

時なくそ 雪は降りける

間なくそ 雨は降りける

その雪の時なきがごと

その雨の間なきがごとく

隈(くま)も落ちず 思ひつつぞ来し

その山道を

【万葉集 巻一 25】

***

天武の吉野入りの歌ですから、恋の歌ではないんですが、

恋の歌の形を用いている、あるいは、この歌は恋の歌に転化しやすい、と。

3620と、25、どちらが、先に作られたか、諸説あるそうです。

さっきの水を飲むお話にくらべて、雪、雨、となると、だいぶ、

景色が変わります。

こんな歌も↓

***

み吉野の 御金の岳に

間なくぞ 雨は降るといふ

時じくそ 雪は降るといふ

その雨の 間なきがごとく

その雪の 時じきがごと

間も落ちず 我はそ恋ふる

妹がただかに

【万葉集 巻十三 3923】

***

ここにある「ただか」というのは「直香」、。

その人独特の香、転じてその人をさす、と。

万葉後期の新しい表現だそう。

当時は、お風呂などないし、

その人独特の香、匂いは、今より、ぐっと感じられたものかもしれませんね。

嗅覚は、深いところで記憶と結びついているように思います。

今でも、人によって感じられる匂いに、記憶が連動していることが、

あるでしょう。

昨日の万葉集の講座、

似ている歌の形のこともとっても興味深かったけれど、

この「ただか」に、だいぶ引き寄せられたことでした。

「ただか」は、万葉集中、6例あるそうで。

他のも、見てみようと思います。

長くなりました。

今日はこのへんで。

素敵な一日になりますように。

美しい明日へ心をこめて歌っています。

洋司