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ビクターサービスエンジニアリング事件東京高裁平成22年8月26日判決(労経速2083-23)

2010-11-27 | 日記
被控訴人との業務委託契約に基づいて日本ビクター株式会社の音響製品等の修理等業務に従事する個人営業のビクターサービス代行店により労働組合として結成されたとする補助参加人分会,補助参加人大阪地本及び全日本金属情報機器労働組合ビクターサービス支部は代行店の待遇改善について被控訴人に対し団体交渉を申し入れたが,被控訴人が補助参加人分会が出席する交渉及び代行店に関する事項についての交渉に応じなかったので,補助参加人ら及び組合支部は上記団交拒否が不当労働行為に当たるとして大阪府労働委員会に救済申立てをしました。
本件は,被控訴人が,府労委から,組合支部に対するものを除き,労働組合法7条2号に当たる不当労働行為とされ,団体交渉に応ずべきことなどを命じられたため,これを不服として中央労働委員会に再審査を申し立てたところ,中労委により再審査申立てを棄却する旨の命令がされたことから,個人代行店は労組法上の労働者に当たらないなどと主張して,同命令の取消しを求めた事案です。
原判決は,被控訴人の請求を認容したため,控訴人がこれを不服として控訴しました。

本判決は,諸点を総合考慮し,本件委託契約に基づく被控訴人と個人代行店との関係には拘束,指揮監督とみられる部分があるが,全体として見れば,個人代行店は,一定の制約はあるものの基本的には被控訴人からの業務の依頼に対し許諾の自由を有し,業務に関し,時間的・場所的な拘束を受けず,業務の遂行について被控訴人から個々に具体的な指揮監督を受けることがなく,また,報酬は行った業務内容に応じた出来高で支払われているということができ,同代行店は,自己の計算と危険の下に業務に従事する独立の自営業者の実態を備えた者として,被控訴人から業務を受注する外注先と認めるのが相当であると判断し,控訴を棄却しました。

この判決については,以前,より詳しいコメントをしてますので,そちらもご参照下さい。

弁護士 藤田 進太郎


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大庄事件京都地裁平成22年5月25日判決(労経速2083-3)

2010-11-27 | 日記
本件は,原告らの子であるGが平成19年4月1日に被告会社に入社し,被告会社が運営する店舗で勤務していたところ,同年8月11日,急性左心機能不全により死亡したことにつき,Gの死亡の原因は被告会社での長時間労働にあると主張して,Gの相続人である原告らが,被告会社に対しては不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき,被告会社の取締役である被告C,被告D,被告E及び被告Fに対しては不法行為又は会社法429条1項に基づき,損害賠償を請求した事案です。

本判決は,Gに恒常的な長時間労働をさせていたことなどを理由として,被告会社の安全配慮義務違反等とGの死亡との間の相当因果関係を認定しました。
判決の認定した時間外労働時間は,以下のとおりとなります。

死亡前1か月間 103時間
死亡前2か月目 116時間
死亡前3か月目 141時間
死亡前4か月目  88時間

さすがに,時間外労働時間が100時間を超えると,訴訟で会社が防御するのはきついです。
できれば,1月当たり45時間以内,多くても80時間未満には抑えておきたいところです。

会社の責任が免れないのは仕方ないとしても,本判決の特徴は,取締役にも,会社法429条1項(旧商法266条の3第1項)責任を負わせていることです。
これが一般化された場合,それなりの割合の企業の役員も,会社法429条1項の責任を負う危険にさらされていることになるものと思われます。
また,不法行為責任と会社法429条1項の責任とで,取締役らの負う義務内容を異なるものとしている店についても,分析が必要です。

本判決は,まず,以下のような規範を定立します。

会社法429条1項は,被告会社内の取締役の地位の重要性にかんがみ,取締役の職務懈怠によって当該株式会社が第三者に損害を与えた場合には,第三者を保護するために,法律上特別に取締役に課した責任であるところ,労使関係は企業経営について不可欠なものであり,取締役は,会社に対する善管注意義務として,会社の使用者としての立場から労働者の安全に配慮すべき義務を負い,それを懈怠して労働者に損害を与えた場合には同条項の責任を負うと解するのが相当である。
被告会社においては,前記認定の被告会社の組織体制からすると,勤務時間を管理すべき部署は,管理本部の人事管理部及び店舗本部であったということができ,I店については,そのほか,店舗本部の第一支社及びその下部の組織もそれにあたるといえる。
したがって,人事管理部の上部組織である管理本部長であった被告Fや,店舗本部長であった被告D,店舗本部の下部組織である第一支社長であった被告Eも,労働者の生命・健康を損なうことがないような大勢を構築すべき義務を負っていたといえる。
また,被告Cは,被告会社の代表取締役であり,経営者として,労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築すべき義務を負っていたということができる。

その上で,以下のようなあてはめを行っています。

しかるに,被告会社では,時間外労働として1か月100時間,それを6か月にわたって許容する三六協定を締結しているところ,1か月100時間というのは,前記1(6)のとおり,厚生労働省の基準で定める業務と発症の関連性が強いと評価できるほどの長時間労働であることなどからすると,労働者の労働状態について配慮していたものとは全く認められない。
また,被告会社の給与体系として,前記1(3)アのとおりの定めをしており,基本給の中に,時間外労働80時間分が組み込まれているなど,到底,被告会社において,労働者の生命・健康に配慮し,労働時間が長くならないよう適切な措置をとる体制をとっていたものとはいえない。
確かに,被告会社のような大企業においては,被告取締役らが個別具体的な店舗労働者の勤務時間を逐一把握することは不可能であるが,被告会社として,前記のような三六協定を締結し,給与体系を取っており,これらの協定や給与体系は被告会社の基本的な決定事項であるから,被告取締役らにおいて承認していることは明らかであるといえる。
そして,このような三六協定や給与体系の下では,当然に,Gのように,恒常的に長時間労働をする者が多数出現することを前提としていたものといわざるを得ない。
そうすると,被告取締役らにおいて,労働時間が過重にならないよう適切な体制をとらなかっただけでなく,前記1(6)の基準からして,一見して不合理であることが明らかな体制をとっていたのであり,それに基づいて労働者が就労していることを十分に認識し得たのであるから,被告取締役らは,悪意又は重大な過失により,そのような体制をとっていたということができ,任務懈怠があったことは明らかである。
そして,その結果,Gの死という結果を招いたのであるから,会社法429条1項に基づき,被告取締役らは責任を負う。
なお,被告取締役らは,被告会社の規模や体制等からして,直接,Gの労働時間を把握・管理する立場ではなく,日ごろの長時間労働から判断して休憩,休日を取らせるなど具体的な措置をとる義務があったとは認められないため,民法709条の不法行為上の責任を負うとはいえない。

弁護士 藤田 進太郎
 

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