Q3整理解雇において,解雇権濫用の有無を判断する具体的事情としては,どのようなものが考えられますか?
業績不振による事業場閉鎖,企業経営の合理化等,会社の存続を前提としつつ経営上の理由から人員削減を行う整理解雇は,労働者には必ずしも責任がないにもかかわらず行われるものであることもあり,有効な整理解雇を行うことは通常の解雇以上に難しくなっています。
整理解雇については,一般に,①人員削減の必要性,②人員削減の手段として整理解雇(指名解雇)を選択することの必要性,③被解雇者選定の妥当性,④手続の妥当性,の4要素を考慮して,証拠上,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合に該当するかどうかが検討され,その有効性が判断されることになります(労働契約法16条)。
①②③の要素は解雇権濫用の有無を判断する際の評価障害事実,④の要素は評価根拠事実と考えられますので,①②③について使用者側が主張立証し,④については労働者側が主張立証する必要があることになります。
①人員削減の必要性は,整理解雇が有効とされる上で必要不可欠の要素であり,他の要素の要求水準を設定する役割も有しています。
裁判所は,人員削減の必要性の有無について詳細に検討しますが,使用者の経営判断を尊重する傾向にあり,明白に人員削減の必要性がない場合を除けば,人員削減の必要性自体は肯定されるのが通常です。
ただし,人員削減の必要性がそれ程高くないにもかかわらず実施された整理解雇は,人員削減の手段として整理解雇(指名解雇)を選択することの必要性を欠くなどの理由から解雇権の濫用と判断されることが多いため,人員削減の必要性の程度についても慎重に検討した上で,整理解雇に踏み切るかどうかを判断する必要があります。
②人員削減の手段として整理解雇(指名解雇)を選択することの必要性に関してですが,使用者は,整理解雇を行うに先立ち,配転,出向,一時帰休,希望退職の募集などの他の手段によって整理解雇回避の努力をする信義則上の義務(解雇回避努力義務)を負うと考えられており,他の手段を十分に検討せずにいきなり整理解雇を行った場合,適切な手順を踏めば整理解雇が有効となり得たような事案であっても,解雇権の濫用と判断されるリスクが極めて高くなります。
この要素が否定された事案では,そもそも解雇回避措置の検討すらされていない事案が多いので,使用者としては,たとえ人員削減の必要性がそれなりに高い事案であっても,一定の手順を踏んだ上で整理解雇に踏み切る努力をする必要があるのだということを十分に認識すべきです。
③被解雇者選定の妥当性に関しては,人選基準そのものの合理性と実際のあてはめの合理性を検討する必要があり,その基準は使用者の恣意が入らない客観的なものであることが必要です。
人選基準を設けなかった場合や客観性・合理性を欠く人選基準に基づいて整理解雇がなされた場合は,被解雇者選定の妥当性を欠くと判断されるリスクが高くなります。
したがって,まずは客観的で合理的な人選基準の設定を行ってから整理解雇の対象となる労働者を選定し,後日,訴訟になった場合には,客観的で合理的な人選基準に基づいて整理解雇を行ったことを説明できるようにしておく必要があります。
④手続の妥当性についてですが,裁判所は,使用者は労働者に対して整理解雇の必要性と時期・規模・方法について説明を行った上で,誠意を持って協議すべき信義則上の義務を負うと考える傾向にあります。
要するに,使用者が労働者の理解を得るための努力をどれだけしたのかが問題となるわけですが,説明に十分な時間をかけず,資料の提示を行わず,抽象的な説明に終始したような場合には,この要素を満たさないと判断されることになります。
会社の財務状況が極めて悪く,整理解雇自体は不可避であったとしても,労働者に対して人員削減が必要な理由の説明をすることはできるはずです。
労働者にとって,失業するということは,労働者本人及びその家族にとって極めて重大な問題ですから,労働者の納得を得られる見込みであるかどうかにかかわらず,よく説明を行うべきと考えます。
なお,使用者が労働者に対して人員削減の必要性を丁寧に説明し,退職の条件についてそれなりに配慮したような場合は,労働者が合意退職に応じてくれることも多く,整理解雇する必要性がある人数が大幅に減ることも珍しくありません。
私としては,丁寧な説明・退職条件の提示により,労働者の同意を得た上で退職してもらうことを中心に考えるべきであり,整理解雇は,使用者が誠意を持って丁寧に説明・交渉しても話の通じない労働者に限定して,例外的に行うべきものであると考えています。
弁護士 藤田 進太郎