谷沢健一のニューアマチュアリズム

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東北楽天の格言・箴言(その2)

2008-05-29 | プロ野球への独白
 3階フロアーには選手食堂も設けられていたが、「ほーっ」と目を見はらされたのは壁面である。通路も食堂も壁、壁、壁は隙間の無いほどに、格言・箴言の類が埋め尽くしていた。例えば、「敵を知り己を知る」「捕手はグランド上の監督である」など、誰の言葉かは記されてないが、「野村の眼」や「野村ノート」から抜粋されたものだと思われた。
 小原氏「さすが、野村監督ですね。飯を食う時でも、監督の言葉が飛び込んでくるんだ」
 岩越氏「いえ、これは監督よりも三木谷さんが選手たちの人間形成のために、自ら選んだ言葉が多いようです」
確かに、メジャーの指導者の言葉も畳一畳分ある。
 岩越氏「これは三木谷さんが気に入っているものです」
さすがに米国で学んだ人らしい好みである。
 28日現在、東北楽天は貯金2で、パリーグ3位をキープしている。交流戦も目下5勝2敗とチームの成長は著しい。それが格言・箴言のせいかどうかはしらないが、この球団は手を変え品を変え、いろいろな機会を利用して、野村イズムと三木谷イズムを浸透させようとしているようだ。2か月ほど前に日経のネットで島田オーナー兼社長のインタビュー記事を読んだ時も、それが感じられた。
 ひじょうに小さいとはいえ、私も組織の長であるが、そこで学習しているのは、リーダー個人の思いが集団の成員一人一人の思いに、どのように結びついていくか、である。リーダーは配下を動かす権力を持っているが、だからといって思い通りに配下を動かすとしたら、配下はリーダーのコマにすぎなくなる。
 「一将功成って万骨枯る」は、私の望むところではない。「万骨」でない人たちから見れば、どれほど戦上手の将軍であっても、たった一度の自分の人生が「枯る」なら、名将は殺戮(さつりく)者と同じである。つまり、一骨も枯らすことなく戦いで勝利を納めなければならないという、あまりにも困難な責務を負うのがリーダーだろう。
 大部分のプロ野球選手にとっては、球界に身を置くのは短い期間である。野村監督は、球界から去った後の長い人生でも通用するような思考法を身につけさせようと考えているようだ。他人の吐いた言葉を咀嚼することは誰にだって難しい。野村監督自身がその思いを年々強めているように見える。だからこそ、普段からじわじわと習慣化する工夫をしているのだろう。
 ひじょうに運良く、球界以外の場を知らずに済んでいる者はじつに少ない。野村監督もその一人である。私もそれにいささか近い人生を歩んでいるのだから、学ぶべきことは多い。球団スタッフであれ、スポーツメディアの関係者であれ、そのあたりをじっくりと考えて欲しいと、いつもひそかに願っている。