ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『天国と地獄』の思い出

2017年03月24日 | 日本映画
“黒澤明についてのお題”があったので、思いついたことをフゥッと書いてみようと思った。

黒澤作品30本のうち、未見なのが『一番美しく』(1944年)、『續姿三四郎』(1945年)、『生きものの記録』(1955年)。
では、27作品で何が一番印象に残っているかと言えば、『天国と地獄』(1963年)となる。

この作品が封切られて数年経った、最初の大々的な話題も忘れられた頃に、隣り町の映画館にフィルムが回ってきた。
これが高校生の時。これを観たさに、興味もなさそうな妹を連れて電車に乗って行った。
劇場は意外なことに、暇そうなおじさんが2、3人だけ。

映画の内容は、身代金誘拐。
ただ、犯人が迂闊だったのは、誘拐した子供は製靴会社の常務の息子ではなく、その運転手の子。
犯人と常務の電話でのやり取り。常務の家は高台だから犯人から丸見えである。
この時間の流れの緊張感。観ている方がそれこそ手に汗を握って、ことの成り行きから目が離せない。

身代金を払う決意をした常務は、犯人が指定した特急こだまに乗り込む。
指定された場所で、カバンを窓から投げ落とそうとする。
このサスペンス。思い出すだけでも、その場面の光景がありありと目に浮かぶ。

そして、当時、話題になってよく知られていたカラーのワン・シーン。
身代金受渡しのかばんを焼却処分し、その場所がわかる、煙突のシーン。
あの場面を見て本当に鳥肌が立ってしまったその記憶が、鮮明によみがえる。

これを観る時、作品の出来として賛否両論があることは知っていた。
要は、後半に至って、犯人が特定できたのにもっと重罪にするために、犯人を泳がせることの可否である。
そのために、死者が出てしまったための倫理を、黒澤監督としてどう考えるかという問題に繋がる。

そういう問題が残るとしても、この映画を観終わった充実感は並大抵のものではなかった。
このさびれた町を後にして歩きながら、その時の満足感は今でも失われていない。

黒澤作品の傑作は、初期にたくさん排出され評価もされていたのに、
確かスティーヴン・スピルバーグや、ジョージ・ルーカスが彼を尊敬していると発言してから、
日本の評論家連も右へならえと天皇扱いにしたと、私は記憶している。
お笑い事である。
なぜなら、スピルバーグ等がヨイショした時期以降の、例えば『影武者』(1980年)から最後までの作品は面白くも何ともないからである。

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