ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

清水宏・6~『恋も忘れて』

2020年08月29日 | 日本映画
『恋も忘れて』(清水宏監督、1937年)を観た。

横浜。
一人息子の春雄と暮らすお雪は、立派な大人に春雄を育てようと、借金の清算のためホテルで働いている。
ホテルと言っても実質はチャブ屋である。
お雪は仕事場のダンスホールに行き、自分たちの待遇について女給たちと相談する。
気っぷがいいお雪はみんなを連れマダムと直談判をするが、マダムは逆に、客をもっと増やせと言い要求に応じない。
お雪は「今日は休む」と一旦は家に帰るが、春雄のことを思い、また店に出向く。

船着き場の倉庫が小学校1年の春雄の遊び場である。
ロープで拵えたブランコに春雄が乗って他の子たちと遊んでいると、大将格の小太郎がやって来て、「誰に断って乗っている」とそのブランコを独り占めにする。
体力的には小太郎が上だが、負けていない春雄はみんなに「ウチに来ないか、お菓子ごちそうしてあげるよ」と誘う。
その言葉に小太郎も反応し、みんなでアパートの2階の春雄の所へ行く。
小ぎれいな部屋を物珍しそうに見るみんなに春雄は、いい匂いがする母親の香水を服にかけてやる。

翌朝、春雄が学校へ行こうとすると、遊び友達たちが、「昨日香水をつけてウチに帰ったら親に叱られてしまった」と言う。
そして「あんな親の子と遊んじゃダメだ」と言われた、とこぼす。
丁度そこに現れた小太郎も同じことを言い、「これからは一切遊んでやらない」と、他の子たちを引き連れて行ってしまう。
一人になった春雄は学校へは行かず、一緒に遊ぼうと支那の子たちを連れて倉庫にくるが、学校帰りの小太郎たちにまたまた追い出されてしまう・・・

子どもたちの親の偏見で、春雄は仲間はずれにされてしまう。
母親のお雪は人から後ろ指をさされる職業に就いていてもしっかり者である。
それもすべては春雄のため。
だから春雄が友達から孤立しているのを知ると、不憫に思い転校させる。
初の登校日にお雪が付き添って行くと、春雄は母親が一緒だとまたみんなが遊んでくれないと困るからと、走って校門の中へ消える。
しかし、折角新しい学校で遊び友達が出来ても、小太郎によってまた仲間はずれにされてしまう。

雨の降る日、春雄はやっぱり学校へ行くのはやめ、一人倉庫で勉強し弁当を食べる。
疲れて寝ていると、そこに小太郎たちが来る。
小太郎につまみ出された春雄はフラフラになりながら家に着くが、高熱のため倒れてしまう。

話は遡って、お雪がマダムに待遇のことについて抗議した以後、店の用心棒が監視のためお雪に何かと付きまとう。
用心棒は恭助。
お雪は監視する恭助に、「折角なら家で洋酒でもどう?」と誘い、そんな二人に微妙な親密感が芽生える。

観光船が入ってきたある夜、ホテルは賑わい、お雪も外人客と踊っていたが、しつこいこの客はお雪を離さそうとしない。
嫌がるお雪の声に、恭助が飛んで来てその外人客を殴り倒す。
だが、「大事なお客に何てことするの」と怒るマダムは、恭助にクビを言い渡す。
帰り道、嬉しかったと言うお雪に恭助は「あんたの坊やのためだよ」と言う。
益々嬉しがるお雪との間に、二人はいつしか心が通い合う。

部屋に入った恭助は、眠っている春雄を見て「あんたも、この子のために早く足を洗うんだな」と言い、
お雪は「まだ、借金があるのよ。ドロンしろって言うの?それとも私を連れて逃げてくれるの?」と聞く。
それを受けて「まあ、よく考えておくよ」と恭助は立ち去っていく。

春雄がフラフラになりながら帰って倒れてしまった時、たまたま恭助が一人、部屋にいた。
恭助は、実はカムチャッカの漁場で3年ほど働くことにした、とお雪に言おうとしてやって来ていた。
お雪が留守だったため、恭助は「逃がしてやることも連れて逃げることも出来ない。俺は大手をふってお前を迎へに来るよ」と丁度、張り紙をして帰るところだった。
恭助が「しっかりしなきゃダメだ」と春雄を励ましていると、お雪も戻って来、医者に往診してもらう。
「雨にお濡れになったんですね。安静にしてあげてください」と言う医者の言葉に安心した恭助は、
「お母ちゃんの悪口を言うような奴はやっつけちゃえ。今度負けるんじゃないぞ」と、春雄を激励する。

お雪が、子どもの病気のためにお金の工面をマダムにして貰おうと店に行っている間に、熱のある春雄は出掛けてしまう。
そして、倉庫に行って、小太郎と対決する。
必死な春雄は小太郎に噛みついて勝つが、悲惨なことに無理がたたって息が絶えてしまう。

死んでしまった春雄に対するお雪の嘆き。
そこへ、カムチャッカ行きのあいさつに現れる恭助。
勇気付けのためにしたことが、取り返しがつかない出来事になってしまった恭助の後悔。
恭助は、お雪が今の仕事から足を洗う代金を、坊やのためにと置いて行く。

お雪が桑野通子。
恭助は佐野周二。
親が子を想い、子が親を想う。
そこに、この親子を愛し、二人の境遇をどうにかしたいと思う男。
わずか70分ちょっとの作品だが、もうこれは傑作としか言いようがない。

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