原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

マツイとイチロー

2014年03月25日 09時36分47秒 | スポーツ

 

道東はまだ雪の中だが、球春が躍りだした。高校選抜がスタートし、今週末から日本のプロ野球が開幕。メジャーもいよいよスタートだ。ヤンキースの田中将大はどこまでやるか、などなど、今年もまた楽しみの日々が始まる。ま、ファンとしては今はお正月みたいな時節だ。そんな私は今年、イチローに注目している。野球人として晩節を迎えた彼が、どんな野球を見せてくれるかをだ。正直なところ、私はイチローファンではない。でも一野球ファンとして彼の動向が気になる。あれほどのスターがレギュラーの地位さえ危ない今シーズンを、どう過ごすのか、目が離せないのだ。

 

メジャーで通用する日本人選手と言えばほとんどがピッチャー。日本人ピッチャーの評価は完全に定着したと言っていいだろう。だが、バッターとなるとその評価はグンと落ちる。数多くの選手が海を渡ったが、ほとんどが成功しなかった。そんな中で成功者として認められた選手は二人しかいない。イチローと松井秀樹(以後メジャー的にマツイ)だけ。ロイヤルズ(ブリューワーズから移籍)の青木が頑張っているが、まだ成功とまでは言えない。彼も今年が勝負かもしれない。

突然、イチローとマツイ(すでに引退)を比較して論じるのは奇異に感じるかもしれない。が、これはマツイがヤンキースで活躍していた時代から、ずっと思っていたことであり、今年にかけるイチローを思うたびにマツイが浮かんでくる。タイプが違うのだが、二人は対のような存在なのだ。あくまで私にとっての話なのだが。

 

メジャーにおけるイチローの記録(年間最多安打、連続200本以上の安打)はメジャーの歴史の中でも特筆される。首位打者もとっている(二回)。日本人の野手がメジャーで活躍できる方法論を彼は示した。走力、肩、広い守備範囲、日本人がメジャーの選手に肩を並べられる術を示し認識させた。しかも巧みなバットコントロールでヒットを量産する。ボテボテの内野ゴロをヒットにする脚力は脅威を与えた。日本の野球の奥義がそこにあったか、と思ったほどである。WBCの二連覇はダテではなかった。

このイチローと対極にあったのがマツイだった。イチローから一年遅れでメジャーへデビュー。日本時代のホームラン王のイメージをそのまま持ち込んだ。イチローの巧打者に対して強打者をアピールする。さすがに当初は力のあるピッチャーの球に苦しんだが徐々に克服。二年目には30本のホームラン。そして3年連続して100打点をマーク。名門ヤンキースのクリーンアップを任される存在となった。体力負けをしない日本人をきっちりとアピールした。

 

ヒットを量産するイチローとメジャー級の力で強打するするマツイに日本のファンは躍った。だが、正直なところ、私は全盛期のイチローに少なからずの不満を感じていた。記録に対してではない。チームの成績にである。イチローがどんなに打っても、チーム(マリナーズ)は最下位に低迷していた。イチローのヒットがほとんど無駄打ちに感じたのである。どんなにたくさんヒットを打ってもチームが勝利しなければ価値は半減する。対するマツイはいつもヤンキースの勝利とともにあった。毎年のようにポストシーズンに出ていたし、2009年のワールドシリーズではついにMVPまで獲得する。マツイに対し記録的には圧倒的に上にいるはずのイチローが、妙にかすんで見えた。これは単にイチロー以外の選手がだらしないから、ということではないと思う。ピッチャーに与える1本のヒットのダメージの問題なのではないのか、そう思っていた。

イチローがボテボテの内野ゴロで出塁しても、ピッチャーは打たれたという感覚を持たない。運が悪かった程度にしか感じない。逆に自分の球は威力があると自信を持つ。次を押さえれば、という気持ちになれる。ところがマツイのように強烈に打ち返されると、ショックがある。やられたという気持ちが、次の打者に影響する。打たれたピッチャーに対する心理的な面で二人の打撃には大きな差があった。私がイチローの努力や記録を認めながらも、なぜかスーパースターを感じなかった最大の理由がこれであった。日本を代表する二人のバッターは実に対照的であった。

 

マツイの引退を早めたのは怪我であった。絶頂時に左手首を骨折。結局これが引き金となってしまった。まだまだ現役でプレーできる身体であった。しかし彼は日本野球界に戻ることもなく、あっさりと引退する。この引き際にも残念な思いがあるが、彼らしいと感じた人も多かった。

イチローはこの点でも実に対照的である。明らかに全盛時代のバッティングから後退しており、常時出場しても3割を打てない現実が続いている。3割を打つのが当たり前と思われていたイチローが、である。マリナーズからヤンキースに移籍してもあまり状況が変わらなかった。レギュラーでないことも原因と言われるが、常時出ていてもそうはよくなると思えなかった。昨年はヤンキースにケガ人続出。出場の機会はいっぱいあった。それでも思うような(かつてのような)打撃ができていない。今年はさらに状況が悪く(補強選手が増えた)先発出場の機会もぐんと少なくなる見通しだ。トレードの話も出ている。しかし、当のイチローは引退のそぶりも見せない。まだまだ現役続行なのである。普通の巧打者になり、ボロボロになっても現役を続けるかのようなのだ。そんな彼の気持ちに興味を持った。どこまで彼はやるつもりなのだろう。今年はどうするのだろうかという興味だ。あれほどの記録を打ち立てた男がそこまでしなくてもいいのではと思うのは凡人の考え。やはり天才はどこか違うのではと、思い始めている。

 

振り返ってみれば、二人は高校時代から注目されていた。タイプは違うがともに天才だった。もしそのまま日本の野球界にいたなら、マツイは三冠王もホームラン60本も実現していたかもしれない。イチローは少なくても15年間は連続して首位打者であったろう。驚異的な日本記録を作っていたに違いない。そんな二人だが、安住の地を求めず、より高いステージを目指して荒野に踏み出していた。タイプはまったく違うが歩く道は一つだった。マツイが去った今、残されたイチローの動向が気になるのは当然なのかもしれない。

イチローがグランドで雄姿を見せるのは、あとそんなに長くはない(残念ながら)だろう。マツイのように潔く引き下がるのも日本的だが、イチローのように最後の最後まで現役を続けるというのも日本的精神に思う。念願の優勝リングを手にすることができるのだろうか。興味は尽きない。

子供の時に野球というスポーツに出会って、その道一筋に生きてきた二人の男。全く違うタイプのように見える野球人生であるが、実はそんなに変わっていなかったのかもしれないと思うようになってきた。いずれにしても、二人には強く日本人を感じさせる。舞台がアメリカだけに余計そう思うのだろうか。

 

球春は新しい興味を連れてやってくる。まだまだ、飽きることはない。


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2 コメント

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共感度100%! (numapy)
2014-03-25 10:12:14
まったく同じことを思っています。それにしてもよく纏めていただきました。
別の意味で、長嶋と王のライバル関係を思い出しました。
在京時代。勤務してた会社が彼らの版権を持ってた
元報知新聞の記者と同じビルにあったことから、彼らと何回か、写真を撮りました。
その時の対応がまさにイチローとマツイに被さります。
ひとつ、気が付いたことがありました。ヤンキース×マリナーズの試合で
マツイは打つが、イチローはあまり打てなかった。
マツイはイチローをそれほど意識してなかったけど、イチローは
ヤンキースとマツイをず過剰に意識してたんじゃないかと勝手に推測してました。
左手首の「軟骨変形剥離関節腱鞘炎」となりました。
運転もできず日常生活に支障ありです。やれやれ…。
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年齢もほぼ同じ (原野人)
2014-03-25 13:22:58
イチローが一つ上だったかな。ほぼ同世代が日本で活躍した後メジャーへ。いずれにしてもイチローは日本はもちろんアメリカでも殿堂入りするでしょう。引退後は一度は固辞した国民栄誉賞も受けるのではないかと思います。しばらくこういう選手は出てこないだろうな。と思うと、やはり今年のプレーはじっくり見ておく必要がありますね。
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