ジェイムズ・リーバンクス (著) 早川書房刊 2023/3初版 352P 2750円
祖父は羊飼いとして生き、その魂を私は継いだ。父は羊飼いとして生き、その技を私は学んだ。私は子どもたちに、何を残せるだろうか。オックスフォード大卒の羊飼いが家族の想い出と共にイギリス湖水地方の理想と現実を綴る、ベストセラー『羊飼いの暮らし』待望の続篇・・で 一作目の 羊飼いの暮らしーイギリス湖水地方の四季はベストセラーになったからお読みになった方も多いだろう。本書はその続編で 前半はファーマーとして苦悩し悩む日々 そして現在置かれている集約農業についての話だ。後半はビジネス的農業に対する疑問と古い混合農業の再評価 自然と共生する農業について書かれている。日本でも小規模な農家では十分な収益があげられず未来に希望を持てない若者はみんな都会に出ていき田舎は荒れる。結局田舎は高齢者だらけになり 自分たちが働けなくなったら離農し農地は未耕作で荒れる。結果 日本の農業は衰退していくわけで そういう意味では湖水地方の混合農業と同じようなのが現状だったりする。マスコミで集約化して機械化して効率的で利益のあげられる農業を誉める傾向があるが 工業的手法に基づいて行われる農業は自然と共生する・・という部分は無視して工業製品のように作物を大量生産しているだけに過ぎない。それでいいのか?とは思うが日本の農業がそういう方向に向かわざる得ないのは悲しいところでもある。英国の湖水地方と言えば 豊かな自然のまあ観光地なわけだが そこで古い混合農業で生きていくためには 農業以外で収入を得る必要があるし それができなければ離農するか 可能であるなら工業生産的な農業に転換するしかない・・というのは悩むところである。自然と共生する・って響きは素敵なんだけど それは別荘を建てて休暇の間リフレッシュするということではなく その土地で働き生きていくということなので 相当の覚悟と努力がいるわけで それはとても難しいことでもある。もう既に過ぎ去った感もあるキャンプブームだが あれとて自然の中で・・ではあるが 共生には程遠くいるのは一見自然の中だが それは破壊された商業的自然の中であって共生には程遠い。今ある自然を失わずに共生できればそれが一番いいのだが それじゃ食っていけないのよねぇ。あたしも一時期山暮らししていて 自然の良さも怖さも知ってるし 一度壊された自然は回復させるのがとても難しいのも知ってる。木を植えれば・・と言われるだろうが植林されるのは材として活用できる杉や檜の単一なので 緑に見えてもそれは工業的な自然でしかない。さて 羊飼いの暮らしは本棚にあるので これを借りて買うかどうするか悩んだんだが 欲しいがまだ高すぎる。本書に出てくるレイチェル・カーソンの沈黙の春も本棚にあるが・・ 結局予算が無い・・というか金が無ければ・・という悲しい現実は今の農業が置かれてる立場とよく似てるので苦笑せざるを得ない。本書はお薦めできる。買わなくてもいいから図書館には必ずあるので読んでいただきたい。前作の羊飼いの暮らしを読んでから こちらを読むと現実は美しいだけではなく苦労の連続だというのがよくわかる。