重くて暗い内容でした。
手首を切るところなどは、冷静に読むことができませんでした。
「夜が明ける」という題なので、最後は明るく終わるのだろうと思いながら読んでいましたが、微妙な暗さを残したまま終わりました。
15歳(高校生)の時、「俺」はアキ(男性)と出会い、親友になります。 アキは長身で暗い顔つきで一見強そうですが、吃音で母親にネグレクトされていました
アキは高卒で劇団に入り、「俺」は大学卒業後、テレビ制作会社に就職します 。
しかし、アキは慕っていた劇団の主宰から「怖い」と言われてしまいます。「俺」はADとして寝る時間もないような状況で働きますが、ディレクターから罵られたり、タレントからハラスメントを受けたり、理不尽で超ブラックです。
二人とも少しずつ心身を壊していき、貧困の中でなんとか生活を続けますが…。
著者は小泉今日子さんとの対談の中で「政治が国民にどう向き合うべきかということを書いたつもりです」と話していらっしゃいました。
ヤングケアラー、貧困など、普段あまり意識したことがありませんでしたが、この小説の「俺」やアキのような若者はいるだろうし、日本にも貧困はあります。
小泉さんの言葉を借りますが、自分が何もしなくても国や経済は成長するのが当たり前で、政治や日本という国のありようについて深く考えなくても生きていける、と思っていました。
でも、苦しんでいる若者がいるということにもっと目を向けなければいけないと強く思い知らされました。
以下、印象に残った文章をいくつか。
世界に目を向けてみろよ。どれだけの不幸がある?飢えと貧困に苦しんでる子供達。体を売らなければならない女達。戦争で命を落とす男達。俺たちは、そんな人間達の不幸の上にあぐらをかいているんだ。最近の若い奴は甘いよ。仕事がしんどければすぐ辞める。上司にしごかれたらすぐ辞める。それは贅沢だよ。仕事を選んでる時点で、そいつらは恵まれてるんだ。無事に学校に行って、命が脅かされない状態で勉強が出来るだけで、恵まれてるんだ。
この世界には、誰にも知られていない不幸がある。
自らに与えられた環境に疑問を持つことが出来ず、ただただ現実を受け入れるしかなく、慢性的な、もはやその怒りで自分自身を殺してしまいかねないほどの怒りを抱えながら、生きていくしかない存在。
日本礼賛番組が増えたのも、彼らの存在が大きいと言われている。高度経済成長期を経験した、つまり「頑張れば必ず上向きになる」ことを信じ込まされてきた彼らは、日本の経済がどう頑張っても傾き続けていること、日本の「国力」が弱まっていることを受け入れられない。だからか、日本の職人技や技術が世界で称賛されているのをみると安心する。世界において日本が「さすが」と言われているのを見たいのだ。
でもいつからかな。恨むことが負けだと思うようになった。恨んでたら、恨んでる側が弱いんだって。
強い人は恨まないんでしょう?弱いから、弱さの中にいるから恨むんでしょう?
誰かの、世界の優しさを信じられないのは、その人が弱いからなんでしょう?
500ページを超える長編でしたが、わりと早く読み終えました。重いですが、読みやすい小説でした。
次は夏らしく明るい小説を読もうと思います。