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いわき市のおやじ日記

K流釣り、K馬、そして麺食いおやじのブログ。
山登り、読書、映画、陶芸、書道など、好きなことはいろいろです。

「2度目のはなればなれ」

2024年11月28日 | 映画

原題は「The Great Escaper」。スティーブ・マックイーンが出てきそうなタイトルです。

これを「大脱走者」とか「グレート・エスケーパー」という邦題にしなかったところがまずナイスです。

 

2014年夏、イギリスの海辺にある老人ホームに住む夫婦の話です。

夫はバーニー90歳。妻はレネ、年齢はたぶんちょっと下だと思います。

二人は仲睦まじく、レネはバーニーのために毎朝化粧をし、バーニーは体が弱ってきているレネに寄り添い、冗談を言いながら車椅子のレナを連れて散歩をします。

こんなふうに歳を取れたら良いなと思わせる理想的な老夫婦で、人生最後の日々を寄り添って生きています。

映画は二人の様子が交互に、そして今と70年前の様子が交互に映し出されて進んでいきます。

 

二人は第2次世界大戦中に知り合いました。

その頃の二人のキレッキレのダンスシーン、そして現在老人用歩行器と車椅子がないと出歩けないシーンの比較だけで、初老を過ぎ、中老になった私には目頭が熱くなります。

海軍兵となって戦地に赴くバーニー。この時が最初のはなればなれです。

 

現在に戻ります。

ある日、バーニーは老人ホームを出て行方不明になります。

歩行器を使いながら船に乗り、フランスに向かったのです。

バーニーがかつて戦ったノルマンディー上陸作戦から70年。その式典に向かいました。

これが2度目のはなればなれです。

決して離れないと誓ったバーニーでしたが、どうしても気持ちの整理をつけなければならない理由がありました。

そして妻のレナにもバーニーに秘密にしていることがありました。

 

老夫婦の愛情と戦争がテーマです。

バーニーが戦友の墓の前で「無駄な死だ」と2回呟いたのがとても印象に残りました。

 

バーニーは無事、老人ホームに戻りますが、その半年後に亡くなりました。

そしてレナはその7日後に後を追うように亡くなったそうです。

そう、これ実話を元にしているんです。

そしてレナを演じたグレンダ・ジャクソンさんは映画公開前の2023年6月15日にこの世を去りました。

夫役のマイケル・ケインさんは本作が最後の演技。華麗なる俳優人生に幕を下ろしました。

笑える部分と涙する部分と考えさせられる部分がありました。心温まる名作だと思います。


「侍タイムスリッパー」

2024年10月31日 | 映画

8月にたった1館で封切られたこの映画、SNSで評判になり9月下旬には139館にまで拡大したようです。いわきで観られるのはラッキーです。

こういう映画がもっと評価されるべきだと思いました。時代劇愛に溢れ、さりげなく人としての道を説き、単純に面白い、良い映画でした。

時は幕末、会津藩の武士、高坂新左衛門が長州武士と刃を交えた瞬間、落雷によって現代の京都時代劇撮影所にタイムスリップします。

そこで、斬られ役として名を揚げ、活躍の場を広げていき、・・・・・・・・・・。ネタバレになるのでここまでにします。

 

先週、武田鉄矢さんが「今朝の三枚おろし」でこんなことを話されていました(ちょっと記憶朧げ)。

 昔、少年マガジンが売れていた頃、マガジンのテーマは「勇気・正直・親切」だった。

 その後、少年ジャンプが売れるようななった。ジャンプのテーマは「努力・友情・勝利」だ。

どちらも大事ですが、今の日本人に欠けているのはマガジンのテーマのような気がします。そしてそれは時代劇とも共通すると思います。

子連れ狼のような勇気、遠山の金さんが悪を懲らしめ正直に生きることを諭すこと、木枯し紋次郎が「あっしには関わりのねぇこって」と言いつつ人を助ける親切さ。

闇バイト、いじめ、ハラスメント、虐待など、卑怯なことを許さない風潮を取り戻すには時代劇を復活させるしかありません

この映画を観て、時代劇の素晴らしさを再確認してほしいなと思いました。

 

最後に、とても残念だったのは映画館「ポレポレシネマズいわき小名浜」。

途中で5回ぐらい音声が切れました。5、6秒だったと思いますが、非常に重要なシーンで、セリフが聞こえない状況になりました。

それから、パンフレットが売り切れてました。どうしても欲しいので、入荷お願いします。メルカリだと2倍ぐらいするので。


「ぼくが生きてる、ふたつの世界」

2024年10月24日 | 映画

母と子の物語です。

他の家庭とちょっとだけ違うのは、子がコーダであること。

コーダというのは、耳が聞こえない両親から生まれた耳が聞こえる子のことです。

子の名前は五十嵐大。実在の人物で、その方が書いたエッセーが原作です。

幼い頃は大好きな母の通訳をするのが当たり前、母と道を歩いている時に、車から母を守ったりするのも当たり前でした。

しかし、大きくなるにしたがって、だんだん母が疎ましくなっていきます。

高校受験に失敗した時には、「俺、こんな家、生まれてきたくなかったよ!」、「全部お母さんのせいだよ!」なんてひどい言葉を投げてしまいます。

父の勧めで東京で働くことになりますが、うまくいかないこともたくさんあります。

そんな中でも母は、食べ物やお金を送り、ひたすら愛情を注ぎ続けます。

本当は大もお母さんが大好きなのに、なかなかそれを表現できません。

終盤、母と仙台で買い物をしたり食事をしたりするシーンから涙が止まりません。

私の周りに観客がいなかったのが幸いでした。

今こうしてブログを書いていても危ないです。

呉美保監督は「ずっと家族を描いていきたい。観終わった時に「そして人生は続く」と受け取ってもらえる映画を作っていきたい」と話しています。いいこと言うなぁ、他の作品も見てみようと思います。

主演の吉沢亮さん、忍足亜希子さん(この方はろうの女優です)がとても自然で、実の母子のようでした。

大がろうの方を助けようと思ってしたことに対して、ろうの方が「私たちのできることを奪わないで」って諭されるシーン、考えさせられました。最近の日本映画は印象に残る作品が多いです。

映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』公式サイト

映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』公式サイト

監督:呉美保 『そこのみて光輝く』 × 主演:吉沢亮 2024年全国ロードショー

映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』公式サイト

 

ぼくのお日さま

2024年10月21日 | 映画

雪が降り始め、雪が解けるまでの小さな恋たちの物語。

いい映画でした。カンヌで8分間のスタンディングオベーションだったそうです。映画評価サイトの評価も高いです。

 

小学6年の少年たくや、中学1年の少女さくら、元プロのフィギュアスケーターで現コーチの荒川、3人の話です。

たくやは内気で運動音痴。夏は野球、冬はアイスホッケーの練習をしますが、どちらも苦手です。

ふと目にしたのがフィギュアスケートの練習をするさくら。

たくやはさくらに一目ぼれしてしまいます。このシーン、マーク・レスターがトレーシー・ハイドを見つめているみたいでした。

さくらは荒川にひそかな思いを寄せていたと思います。

たくやは熱心にフィギュアスケートを練習し、荒川はそれをサポートし、やがてたくやとさくらのアイスダンスの練習が始まります。

二人の息が徐々に合い始めもう少しでバッチテスト、というところで3人の関係がギクシャクしてしまいます。

詳しく書きませんが、それぞれが負の感情を持つことになってしまいます。

余韻が思いっきり残ったラスト。切ない

さくらを演じた中西希亜良さんは12歳。川口春奈さんに似ています。お父さんはフランス人で、日本語、英語、フランス語が話せるそうです。初出演でこの演技、期待の新人ですね。


「箱男」

2024年09月27日 | 映画

安部公房は好きな作家で、10代から20代にかけていろいろ読みました。

(「密会」は単行本もあったはずですがすぐに探せませんでした)

「箱男」を最初に読んだのは20歳ぐらいの時だったと思います。

登場人物は多くないですが、その関係が複雑で、一体この部分は誰が一人称で書いてるのか、この部分は誰かの妄想なのかリアルなのか、などストーリーもテーマもほとんど理解できず、私には歯がたたない小説だと思いました。

 

映画「箱男」が封切られるというので、45年ぶりに再読しました。

少し内容を理解できたものの、頭の中は混乱し、曇りガラスで世界を見るようなぼんやり感があり、ぶつかっていったら思い切り跳ね返された気分です。

この小説は何度も読み返さないと理解するのは難しそうです。そもそも理解不能の不条理小説だから、理解しようとしないのがよいのかもしれません。

映画を観たらちょっとはスッキリするかなと思いましたが、まだまだ不明瞭な部分が多すぎてコメントが難しいです。

4日前に観たのですが、平日の昼間とはいえ観客は4人。私と同世代と思われる男性だけでした。

 

映画のサイトから引用します。

完全な孤立、完全な孤独を得て、社会の螺旋から外れた「本物」の存在。ダンボールを頭からすっぽりと被り、街中に存在し、一方的に世界を覗き見る『箱男』。

カメラマンである“わたし”(永瀬正敏)は、偶然目にした箱男に心を奪われ、自らもダンボールをかぶり、遂に箱男としての一歩を踏み出すことに。

しかし、本物の『箱男』になる道は険しく、数々の試練と危険が襲いかかる。

存在を乗っ取ろうとするニセ箱男(浅野忠信)、完全犯罪に利用しようと企む軍医(佐藤浩市)、 “わたし”を誘惑する謎の女・葉子(白本彩奈)......。

果たして“わたし”は本物の『箱男』になれるのか。そして、犯罪を目論むニセモノたちとの戦いの行方はー!?

 

箱男はインターネット社会にたくさん存在する、匿名で、自分は見られることを拒み、他者を一方的に見る(そして批判する)者たちに近いと思いました。

原作にこんな文章があります。

一度でも、匿名の市民だけのための、匿名の都市 ーーー 扉という扉が、誰のためにもへだてなく開かれていて、他人どうしだろうと、特に身構える必要はなく、逆立ちして歩こうと、道端で眠り込もうと、咎められず、人々を呼び止めるのに、特別な許可はいらず、歌自慢なら、いくら勝手に歌いかけようと自由だし、それが済めば、いつでも好きな時に、無名の人混みに紛れ込むことが出来る、そんな街 ーーー のことを、一度でもいいから思い描き、夢見たことのあるものだったら、他人事ではない、つねにA(おやじ注:Aは箱男になってしまった者)と同じ危機にさられせているはずなのだ。

これを50年以上前に書いた安部公房はやはりすごいと思います。

5年半かけて300枚の完成作に対し、書き潰した量は3,000枚を超えたそうですから、作者にとってみれば「そんなに簡単に分かってたまるか」ということなのかもしれません。

今夜は「映画を語る会」で「箱男」をテーマに語り合います。どんな感想が出るか楽しみではあります。