写真は、村木道彦歌集。国文社。1200円。歌を読んでみよう。
いま にわの糸杉の樹にかぜがきて枝が動いているということ
高速道一直線に北をさし孤独はたれのむねかきむしる
背信という語 あかるいみずのいろ われはわれさえうらぎりている
そらは地にながるるとおもうくれがたの逆光の川 逆光の春
水風呂にみずみちたればとっぷりとくれてうたえりただ麦畑
ひだりてからみぎてににもつもちかえてまたあるきだすときの優しさ
天涯はみどりの孤独ここはどこ レインコートのえりたてるかな
するだろう ぼくをすてたるものがたりマシュマロくちにほおばりながら
秋いたるおもいさみしくみずにあらうくちびるの熱 口中の熱
めをほそめみるものなべてあやうきか あやうし緋色の一脚の椅子
これらの歌は、村木道彦が40年前、自身が22歳までに詠んだ歌だ。古さを全く感じさせない、かっこいい歌だ。これらの歌に出会ったのは、いまから34年前私が21歳の時だ。岸上大作や福島泰樹どちらかと言えば、泥臭い歌から短歌の世界に入った私にはとても新鮮の読めた。だが新鮮ではあるが何かストンとするものがなかったのを覚えている。そのかっこ良さからだろうか、高校教師の職を得た村木道彦は30歳を過ぎた頃に短歌をやめている。その教え子のひとりに、康 珍化がいる。しかも短歌を指導している。
まばたけばひとときにざくろ破(は)ち切れて銀器の熟れてゆく少女ら
康 珍化。
弟子もかっこよかった。
因みに、康 珍化は早稲田大学出身。村木道彦は慶応ボーイ。むべなるかな。