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トヨタで大異変…営業利益は5兆円なのに、章男会長の「信任率が爆下げ」してしまった「本質的な理由」

2024-07-13 | コラム
トヨタで大異変…営業利益は5兆円なのに、章男会長の「信任率が爆下げ」してしまった「本質的な理由」
2024.07.13 週刊現代 講談社 /月曜・金曜発売

井上 久男
ジャーナリスト
取材・文 井上久男(ジャーナリスト)/'64年生まれ。大手電機メーカーを経て、'92年に朝日新聞社に入社。経済部で自動車産業や電機産業を担当し、'04年に独立。著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』『サイバースパイが日本を破壊する』ほか
一部の投資家が、章男会長に「退場」を求める—5兆円超の利益を叩き出したにもかかわらず、今年のトヨタの株主総会はただならぬ雰囲気だった。前編記事【異変の兆しか…? トヨタ株主が白昼堂々「豊田章男を批判」それに対する章男会長の「驚愕の回答」】より続く。

豊田会長の影響力
グループ企業で最大のデンソーでも、豊田会長の影響力が強まっている。'19年から非常勤取締役に就任しており、「いまや豊田会長が実質的な経営トップ」(デンソーOB)と言われるほどだ。

デンソーはかつて、トヨタ以外にも売り先を増やして成長する「メガサプライヤー」を目指していたが、その路線は捨てたようで、生え抜きの経営陣は「トヨタにぴったりくっついて生き残る戦略を敢えて選んだ」と説明しているという。

こうして豊田会長の求心力は、トヨタおよびグループ内で表面的には高まっているように思えるが、一方で社外からの評価は芳しくない。その象徴が、今年の株主総会での、株主による豊田会長の取締役選任賛成率(信任率)の低さだ。'23年から12.64ポイント下落し、71.93%だった。'22年には95.58%だったから、2年連続で10ポイント以上の大幅下落となる。

米国の議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)とグラスルイスが、取締役会の独立性などを理由に豊田会長の取締役選任案への反対を推奨していたこと、グループ企業のダイハツ工業や豊田自動織機で相次いで起こった「認証試験」での不正がトヨタ本体でも行われていたことなども、グループガバナンスの責任者である会長の信任率が低下した要因の一つだ。

いまトヨタは空前の好業績である。にもかかわらず、豊田会長の信任率がこれほど低いことは何を意味するのか。

トヨタの'24年3月期決算は、売上高が前期比21%増の45兆953億円、本業でのもうけを示す営業利益が96%増の5兆3529億円となって過去最高を更新。日本企業で初めて営業利益額が5兆円を超えた。コロナ禍が終わって全世界で販売が回復していることや、ドル箱市場である北米での値上げに加え、円安による効果が収益を大きく押し上げている。配当を含めた株主対応施策にも熱心に取り組んでいる。

株主の批判の矛先は、不祥事を起こしたトヨタそのものではなく、関連会社を含めて巨大な企業グループを実質的に束ねている豊田会長に向かっていると筆者は見ている。というのも、佐藤社長への信任率は95.44%と高かったからだ。

カエサルの言葉
議決権行使助言会社が指摘する「取締役会の独立性」についても、一般常識に照らして、疑念が生じかねない役員人事をしていると言われても仕方ない。その筆頭が、今回の株主総会において、中日新聞元記者でトヨタグループ取材担当キャップを務めていた長田弘己氏が社外監査役に選任されたことだ。

監査役の役割は会社法上、「取締役の職務の執行を監査すること」にある。当然、取締役との関係においても独立性が求められる。たとえば、日産自動車でカルロス・ゴーン氏の特別背任につながる不正疑惑が内部告発された際、今津英敏監査役(当時)は、西川廣人社長(同)に報告せずに社内調査を行ったとされる。まして社外監査役となれば、取締役との個人的なつながりがない人物を選ぶべきだろう。

長田氏は今春まで中日新聞に勤務。業界では「トヨタ、特に豊田氏に関して好意的な記事を多く書くことで知られ、トヨタの担当を外れる際には豊田社長(当時)から感謝状が出たほど。つまり非常に近い関係にある」(大手紙のトヨタ担当記者)と言われている。

投資家側が疑問を持つのは当然だろう。

認証不正に関する豊田会長の発言も、理解しがたい部分がある。6月3日の記者会見で、認証不正がトヨタ本体でも起きた感想を求められ、「ブルータス、お前もか」などと語ったのだ。

Photo by gettyimages
ローマ帝国の独裁官カエサルが暗殺される際、暗殺者の中に側近のブルータスがいたとされる故事になぞらえ、「信頼していた人に裏切られた」ことのたとえとして使われる言葉だが、「信頼していた現場に裏切られた」と、責任転嫁しているようにも聞こえてしまう。

報酬は「1.6倍」に
さらに豊田会長は、複雑な認証試験について「全体像を把握している人は一人もいない」とも語った。一連の発言は、トヨタを代表して謝罪する局面で使うべき言葉ではあるまい。

この認証不正については、認証試験の手法が時代に合致していない面もある。複雑な問題だけに丁寧かつ戦略的な説明が求められる場面だったが、個人的な感情がそのまま語られたように見える。

また、法令が時代に合っていないのであれば、まずは業界として監督官庁に対応の申し入れを行うのが筋だろう。豊田会長は長らく日本自動車工業会の会長職を務めており、認証制度改革を進めることができる立場にあったはずだ。

もはやトヨタ社内に会長を諫めることのできる側近はいないのではないか—豊田会長の言動からは、そんな印象さえ受ける。その一方で、豊田会長の'24年3月期の役員報酬は、前期比62%増の16億2200万円。

6月26日付日本経済新聞によると、トヨタの総務・人事本部長の東崇徳氏は「グローバル企業の報酬水準に合わせた。経営者として一層責任を持ってもらいたいということを意識して見直した」と説明しているという。ならば、豊田会長は自らの発言や行動の重みを、もっと意識すべき局面にあるのではないか。「週刊現代」2024年7月13日号より

#トヨタで章男会長の「信任率が爆下げ」


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