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ルポルタージュ・損害調査員 その21 【見積協定することの意味】

2022-07-10 | コラム
ルポルタージュ・損害調査員 その21 【見積協定することの意味】
 先日ある方の記事で記されていたのだが、これは多くの自整BP工場経営者や見積請求担当者の意見でもあるのだと想像できるが以下の様な調査員(アジャスター)の日常が記されていた。

 「保険会社のアジャスターから事故車の修理方法の確認について、『修理中の写真と交換部品の写真をお願いします。』と言われることは修理工場として日常的なことではないでしょうか。」

 確かに、元調査員として現役を離れ10年を超えるが、10年前でもそういうアジャスターは見られたが、その調査員の上位職になる指導者から、作成された損害調査報告書に添えられた見積書をチェックされた際、ホントにこの修理をが行われたのか?、それを確認したのか?、安易な損害認定ではないか?という責められ方をされることに対する防御であろうと想像する。なお、こういう攻め方をする上位職者の力量というか思考も安直だが、防御の前になすべき発言をしたのかと問いたい。

 私自身も、下位調査員(あくまで職責上で年齢は上下あった)に対する指導の立場で、その様な報告書のチェックを繰り返して来たのだが、そもそも論として、事前打ち合わせで何処まで詰めたのかと云うことを質すことがまず第1の要点であったと回想する。つまり、見積書なり請求書でその取替が行われたことを、写真があろうがなかろうが、それに至った事由を質すことがもっとも必用なことであって、よほど異常な不当なそういう項目を散見させる様な異常な見積なら根本から協定ということにはならないのだが、既に協定なされているものを今更認められないからと、再協定して来いとは、これはその上司だけでなく保険会社としても横暴という判断になるだろうという思いがあった。

 ここで思うのは、仮にも画像査定という前提ならともかく、立会を実施している事案においては、見積までその場で作成しなくとも、作業の実行(着工)に同意するからには、細かい部品はともかく、大物も主体として大枠の修理方針の打ち合わせなりを何処までしているのかと云うことを問いたいのだ。そのことをおざなりにしたまま着工を承諾しつつ、先の様な言葉を発してその工場から辞去しているとしたら、その調査員は少なくとも大物主体部品の取替もしくは板金という修理可否への参加を放棄しているということになるだろう。こうなると、果たしてその調査員の存在価値は何処にあるのかと云う問題になって来ると思うしかない。

 ここで、誤解がないように再度別の表現で繰り返すが、こと保険会社が関わる車両損害については、必ずしも修理費の全額でなくても負担するという前提にあれば、損害額を単に保険会社有利と云うことでなく、約款だとか一般社会通念上の公正さを追求しようという前提に立ち意見を述べる責務があると認識している。もし、調査員が修理費の前提となる個別部品の取替なのか修理なのか、中には損傷がない可能性がある部品の修理方法までをすべてその入庫工場に一任し、保険会社の持つ意見参加としての権利を放棄していると受け取れてしまうということがある。その放棄行為の理由付けに、先に記した上位職位者のチェックをガードしているとしたら、そんな調査員が立ち合う価値が保険会社にとって何処に生じるのか。これは広義に云えば善良な契約者を前提として、公平な査定に基づいた保険金支払を行うと宣言している保険会社として、問題視しなければならないと考えても間違いでないだろう。

 よって、特定の個別部品に限定して、初回打ち合わせの中で、工場側が取替を損保調査員は修理もしくは損傷はないという意見の相違が生じ、ちょっとまとまらないという曲面において、限定されたその部品の取替を写真に記録を頼むとか、部品伝票を添付してくれなら理解できるところだ。しかし、何ら下打ち合わせもなしで、先の口上を述べて工場を辞去する様子が伺えた場合、考え方が間違っていると教え諭して来たつもりだ。

 私の思いとしては、調査員には国家に与えられた権限はないが、その車両の一部もしくは全部の修理費を保険金として支払う前提において、社会一般に対し公平な査定を行うと云う意味で、工場の意見は尊重しながらも、その決定には意見参加する権利を持つという認識だ。もっと云えば、工場には顧客の要望とか仕上がり品質に責任を持たねばならぬというリスクは生じるのだが、一方で事故車修理の識者であれば当然理解するところだが、メカニカルな修理と異なりボデーの修理というのは、例え取替であっても、より多く取替部品を増やした方が高品質になる訳ではないことは理解しているところだろう。

 ただし、ディーラーのフロント見積担当者などはそれなりにメカの知識はあるのだろうが、会社の売上目標と云うことも副次的なのかそれが主体なのかもしれないが、パーツリスト主体での取替前提での見積になりがちだ。逆にBP専業工場などはメカの知識がない故に、メカニカル部品は力学的にそこに力が働く余地はないにも関わらず、再修理への不安とかリスクを優先し、メカ部品を取替ることで、当座の安心を得ようという傾向がある様に感じる場合が経験上ある。

 こういう見積の段階で、調査員は何でも安くという思考ではなく、品質上からも直すことでメリットを訴求したり、メカ部品であって、ここには力学的に力は及ばないとかそれなりに知識を生かすのが使命であろう。例えば、タイヤとかホイールに大入力を受けておらず、前輪が後退したストラットは、アッパーマウントインシュレーターで、後方への動きがある程度の広い範囲で自由度を持たせているので損傷する道理がないとか、こういう説明により理解を得られれば、確かに作業範囲は減り総額として修理費が減る場合も多いのだろうが、そもそも作業範囲を拡大し、なれない作業に時間を費やすことが、必ずしも工場運営に寄与するとは限らないと思える。

 それと、冒頭の記事では、写真の重要性を述べているのだが、このことに異論はないが、損傷していないものをあたかも損傷したごとく写真を写すのは問題外のところだ。ところで、昨今は調査員が自らシャッキアップし、車両下部から写真を写す姿を見なくなった。それと、損傷しているものを写す場合、色々技法とか工夫があるのだろうが、如何にその損傷が酷く見える様な工夫(これは映画などで云うカメラワークに相当する演出とも云える)というのが基本思考として必用なのではないだろうか。まったく同じ損傷を写した場合でも、その様な思考を込めたカメラの視点と、まったくその様な視点がないものでは、同じ見積書が高くも低くも見えると云うことがある。ただし、こういうことは工場側が思考することでなく、調査員側が思考すべきものだろう。

 なお、私自身の現役時代は、先に述べた如くの思考で活動していたのだが、滅多に工場に写真や伝票の提出を依頼することはなかった。しかし、依頼もしないのに、工場側からやたら写真や伝票を送り付けて来ると云う案件は希にあり、そういう工場はある意味警戒したものだった。そういう工場がすべて悪意でそういう行為をしているとまでは思っていた訳ではないが、多くの場合は表現力が不足しているが故に、写真を見せれば理解するだろうという程度で悪意のある場合はないのだろう。ただし、写真でも、こんな部分塗るはずない部分までサフェーサー入れた写真だとか、何故かコピーを重ねた様な不鮮明な部品伝票を送って来るという場合があり、こういう悪質工場としか想定できない場合は、往時はそれなりに他社の同調査員だとか近隣の信頼ある工場とかに事前にそれなりの情報はないか聴取しつつ、抜き打ちではないが予告なしに伺い、本題を強いて早急に切り出さずに、工場の他の入庫車の様子だとか、雑談をしつつ過ごすと、工場担当者から、あの件だなと云い始めるのを待ち、本題として私も昨日や今日この仕事始めた訳でないので、どうしたのかなとやんわり責め立てない様な注意を払いながら話して行くと、相手からしびれを切らしてどうすればいいんだと効いてくればしめたものだ。
 それと、抜き打ち訪問は、放置しないでなるべく早めに行うのだが、その際経営者とかいない場合は、工員の一番上位職らしい人物にそれとなく「この前の○○(車名)の修理だけど、何時納めたのとか大変だった?」とか話し掛けると、本音がそっくり聞ける場合もあった。こういう場合、改めて何時頃社長は帰って来ると聞き、程なくならそのまま雑談しつつ過ごすし、判らないとなれば別の日に再訪問し、先と同じ様に雑談しつつ、この前にも訪問したんだが社長さんが不在だったが、工員さんに苦労して直した話しを聞きましたよなどと間接的に工員から修理の実情を聞いたことをさりげなく伝える。この場合も、責め立てる様な素振りは決してせず、私も立場もあるんですよと話すなりのことをして行くと、どうすればいいんだと聞いてくる。

 昨今は往時より熱は冷めた感はあるが、工場も調査員も見積研修というので見積を作る訓練はするのだが、どうすれば適正化できるかと云う思考が足りない様に思える。工場側はある意味調査員を返事をできなくさせる手法で追い込むのだが、特に昨今の調査員は保険会社に求められる公益性ある正義というより、善良な契約者に対する公平感の達成というべき正義(これを当時は査定正義と呼ぶ)に執着する必用はある様に思える。


#ルポルタージュ・損害調査員 #調査員は初回立会で意見交換もしくは意見表明が使命 #単なる御用聞きは生き残れない


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