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整備白書R4年版より その1

2023-06-10 | コラム
整備白書R4年版より その1
 整備白書とは、日整連が会員工場から諸データの提出(毎年8/20期限)を受け、翌毎年3もしくは4月頃に発行している集計である。つまり、今年の整備白書の諸データは前年提出された、さらに前年の諸データに基づいており、発刊年の前々年の提出諸データとなる。すなわち、本年5月に入手した令和4年度版整備白書は、令和3年実績によるものだ。

 拙人は、この3年間整備白書を入手しつつ、この整備白書に目を通して来た。この白書には、日整連としての様々な動向分析とか、この業界の将来へ向けた方向性を記してある訳だが、その解釈については必ずしも同意できない文意も多い。また、例えば従来分解整備事業と呼ばれた整備事業者は、現在は特定整備事業という呼び方が正式名称となっているのだが、その特定整備事業とは従来の分解整備事業に新たにADASなど関連の運行補助装置の要となる電子整備制御装置については、分解でなく取外し、取り付け、位置調整を含む同装置の作動に影響を与える整備作業という定義となっている。

 実のところ、この特定整備事業について、新たに電子制御装置整備の認証については、次年令和6年3月末日までを猶予期間として残り1年弱を残すことになっているのだが、今年3月頃の時点で、全国の整備工場の普及率は45%程度に留まっているということがあると云われる。ただし、県別に見ると低率30%から高率80%までと、普及率については、全国でまばらな様だが、個別のデータは整理入手できていない。

 本来の整備白書と名乗り、自己業界の姿を真直に見詰める目があれば、こういう特定整備の普及状況とか何故普及が進まない低率県があるのかまで言及すべきと思うが、この整備白書には言及なされていない。

 しかし、整備白書には全工場ではないもの2年前の実態データが表出していることを鑑み、日整連の情勢判断としての文意に惑わされず、拙人独自の解釈をしつつその評価を記してみたい。拙人は日整連会員ではないが、この整備業界およびBP業界とも半世紀ほど触れ合い続けてきた中で、この業界のゆくえを憂慮する一人そいて、BEV(電池電動車)だとかADAS(先進安全車)とかで将来動向が定まりにくくなっている中、ある程度の方向性を指し示せれば幸甚と思うところだ。

 それでは、その1本文として解説をしていきたい。
 最新版整備白書(R4年版)で、自動車整備業諸表という集計表がある。この集計表を別添するが、ここから読み取れる、もしくは導ける数値を元に、気付くことを以下に記してみたい。

1.工場区分の定義
 日整連集計では、工場区分として以下の4区分に分離しているが、それぞれの定義は以下の通りだ。
・専業:整備売上が整備総売上の50%を超える工場(除くディーラー)
・兼業:兼業部門の売上が総売上の50%を超える工場(除くディーラー)で、中古車など販売店、石油販売店などが経営する工場。
・ディーラー:自動車製造社もしくは販売卸企業(自販社や輸入車インポーター)と販売特約を締結した企業が経営する工場
・自家:大手旅客・物流企業等で、主として自企業車の整備を行う工場。

 私見となるが、整備白書では多くを4区分で分類しているが、目立って異なる対極として、ディーラー以外とディーラーの2区分で対比しても十分という感を持つ。
 今次のR4年と前年のR3年との相違は、概観すればほとんどの項目で微減もしくは微増で、統計的には誤差の範囲に入るものと云えるだろう。ただし、その傾向として確実に微増する傾向の中には、暗雲漂う項目もある点に要注意だ。以下、項目別に目に付くものをピックアップする。

2.総売上
 売上は103%と微増しているが、金額的には前年5兆5千万が1878億円増加していることになる。ただし、これを工場数約92千工場とすれば、1工場当り200万円となる
 総整備売上で5兆7千億円というのが、この整備市場額と云うことになるが、実際にはBP業などやカーディティリング業で未加入工場分があるのでもっと大きな市場があるが、モータービジネス業としの総市場は8兆程度なのかと想像している。
 ちなみに、このR4年整備売上5兆7千万を整備関係従業員数547千人で除してみると、1名当り約1千万円/年ということになるのだが、これの引き上げを図りたいところだが、人口減、免許人口減、カーシェアリング、サブスク、ADASという時代の流れは、総整備市場を縮小させる可能性を大きく内在しているのだろう。

3.工場数
 工場数(整備事業数(もしくは認証工場+指定工場の合計)で全国で91,700工場については、+156工場で微増だが、これは特定整備認証などで新規増加してのものだろう。平成29年からの流れで見れば、R3年まで微減して来ていたことを見逃してはならない。
 しかし、街の一般の小売業として見た場合、魚屋、八百屋、米屋、電気店などの小売業がほとんど壊滅した近現代の中にあっては、得意となる業種となるのではないだろうか。これはアマゾンなど、流通のIT革命とも云える影響なのだろうが、整備業、板金業、土木建築業などが、今に至るも残るのは、小売業でなくサービス業となることと、自動車の場合は車検に代表される国家行政、板金業は損害保険による事故支払い、土木業にあっては国家事業たる財政投融資という、ある意味利権とか収入源が確保されていることがあろう。
 これら、街の小売店が壊滅したのは、大資本による大規模店の占有とか、アマゾンなどのインターネット通販の影響だと思われるが、それが自整業にはあまり及んでいないと云うことが判る。その理由として想像できるのは、整備工場と街で増えたコンビニの店員と比べることで理解できる。コンビニ店員は、数日の教育で以後の業務がまっとうできるが、整備工員は、その様な教育期間ではとても継続的な作業はまっとうできないといえる。このことは、作業が平準化し難く、利益率の確保が見込み難いという要素となり、大企業が自整業に参入しない理由となっていると想像できる。
 一方、その様な外部からの浸食による淘汰がなくとも、さほど利益が十分でない(このことは給与額などから想定できる)にも関わらず、9万工場が生き残っている理由だが、2つの大きな理由からではないだろうか。1つは、車検という法に守られた制度により、業務量の一定量が確保できるということ。そして、もう一つは、事故車整備に関わり、対物および車両保険という保険制度により、必ずしも全額ではないにしても修理料金の確保ができることがあると想像できるが、先にも述べた通り修理市場が将来も安泰という保障はないのであって、何らかの戦略を思考する必用があるのだろう。

4.指定工場数
 指定工場(いわゆる民間車検工場)数はほぼ変化ないが、その比率は、約3万工場で、全工場(91,700)の約1/3だということ。

5.整備工員数(と整備要員総数)
 整備工員数は約40万名だが、整備関連従業員数547千名の73%となる。残りの27%は、工員以外の間接要員数であり、フロント接客員とか事務係りなどの要員であり、一定の割合は必須となるが、小規模工場ほど、その様な専従間接要員を配置し難いということがある。

6.1事業所(工場)当りの整備要員数
 これが示す4.4人ということが、この自動車整備業界の零細さを端的に示している数値となる。この4.4名は特定整備(認証)工場での法定最小数は2名、指定工場では法定最小数4名を一応満たすが、この零細規模では間接要員を配置することが総売上からも困難である他、工場運営には工場費として原価部分となる各種経費の減価償却が必用になるが、その捻出にも困難さが予想できる。
 以下の給与のところで記すが、どんなに少ない工員(認証工場での法定最小数は2名、指定工場では法定最小数4名)であっても、一定以上の工場費なり間接人件費を要す訳で、この業界の根本的零細さを示す値であろう。正直云って、この平均4.4名という要員数では、まともな工場費を捻出することは不可能だろう。
 また、専従間接員がない工場においては、工員自身が兼務することになる訳だが、このことは工賃売上に直接関与できない間接時間を増やすことになり、稼働率(多くの計算では68%が準用されているが実態は50%を切る場合もあり得るだろう)が低下することになる。

7.自動車保有台数
 近年、保有台数の頭打ち傾向は著しく、平均使用年数も乗用車で13年超、商用車で15年超と高車齢化してきている。近い将来予測される人口減、免許人口減、カーシェアリング、サブスクという時代の流れは、自動車保有台数の縮小にも大きな影響を与えると予測でき総整備市場を縮小させることになるだろう。

8.整備要員一人当りの整備売上高
 ここでは、4区分しているが、ディーラー以外とディーラーの2区分として見れば良いだろう。間接員を含んだ整備要員1名当り、ディーラー以外で約1千万円、ディーラーが2,300万と大きな格差が生じている。
 なお、ここでは分析のために、この整備売上を年間労働時間を2,000hとして除した値(時間当り単価)を計算してみると以下の様に計算できる。
・ディーラー以外 5,290円
・ディーラー 11,600円
合計 7,222円
 
 これは稼働率などを考慮せず、延べ労働時間当りの単価となり、一般のレバーレートの計算とは異なるが、経営指標としては参考となるものだ。やはり、ディーラー以外とディーラーでは、倍近い開きがある。ディーラー以外工場では、如何に向上させて行けるかが問題となるだろう。

9.整備要員平均年齢
 平成29年以降、すべての工場区分で微量ではあるが上昇している。ここでも、ディーラー以外とディーラーの対比という視点で眺めると、前者が51才、後者が37才と前者は後者より平均年齢が14才高い。このことは、ディーラー以外工場では、新入社員として若い従業員を確保できない実態を表出しているとみるべきだろう。ここにも、この業界の将来を見通す中で致命的な問題が内在していると思える。
 また、ディーラーの平均年齢が低いのは、若年齢新人を吸収していることもあるが、一方で高齢者の整備要員が他部門への移転や退職により高齢整備員が排除なされている傾向を実光景の姿として見る。

10.整備要員の年間給与額
 ここでも、ディーラー以外とディーラーという2区分で眺めて見るが、先の平均年齢で14才の差があるにも関わらず、給与はディーラーに100万円超劣るのがディーラー以外工場の実態だ。


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