日野エンジン性能データ改竄による型式指定取消の影響
今次の日野自によるエンジンの排ガスおよび燃費データ虚偽による型式指定の取消は、日本の道路運送車両法に関わる型式認定制度が始まって以来、記念すべき初のもので、日本の産業史に残る愚行として記録されるべきものだろう。自動車不正というと、過去に度重なるリコール隠しや燃費偽装を行った三菱自の悪イメージが思い出されるが、その三菱自ですら、型式指定を取り消されると云うことはなかったのだ。それだけ、今次の日野自の虚偽データ提出での型式指定の取得の悪質性を、国交省も認めざるを得なかったと云うところだろう。
今次の日野自の不正としては、エンジン種別としては、E13、A09、A05C、N04Cの4種で、不正内容としてはE13、A09、N04(マイクロバス用のみ)が燃費の問題、A05Cだけが排気ガスの長期耐久性能の問題だ。
私見となるが、燃費データだけの問題なら、同じエンジンで正しい燃費計測をし直すことで、燃費審査値は低下することになろうが、型式データを取り消すまでに至らなかっただろう。また、取り消された型式指定も、まったく同じ使用のまま、正しい燃費データとして再申請すれば、再型式指定の取得はそれ程問題なく、比較的早期に復帰できるだろう。
ところがA05Cの排気ガスの長期耐久性能の問題は、長期耐久テスト(半年以上を要すると云う)中で触媒劣化からこのままでは排出ガス審査の基準をクリアできないことからとしか考えられないが、試験途上で触媒付きマフラーを交換していたと云うのだ。と云うことは、A05CのHS-SRCの耐久性の欠如を示すことであり、例えばHS-SRCから尿素SCRの浄化システムに変更する等して、エンジンの排出ガスシステムを大幅に変更(となると同じエンジン型式ではもはやない)しつつ、長期耐久試験も行う必用があると云うことになろう。となると、その解決には、開発機関および長期試験など入れても1年近く要する可能性がある。
ここで、この解決手法だが、日野自自身で新エンジンもしくは排出ガスシステムを新設計し直すか、他社の相当するエンジンに換装して、この機器を乗り越えるしかないだろう。実際、北米では、大型エンジンE13などの北米用の排ガス基準に通らないことを認知し、カミンズ製エンジンに換装しているという話しが伝わっているので、カミンズとかいすゞから同等エンジンを購入して換装する方が、対処機関は大幅に圧縮できる様に思える。ただし、これは日野自および日野エンジン設計エンジニアに取っては屈辱的な処置であるが、組織ダメージを最小限にするためには、検討していることだろう。
さて、表題の影響だが、下記の報道では、日野販売車の3割に影響(3割が当面販売できない)ということだが、燃費データの再認証でおそらく3ヶ月程度は新車販売が止まるだろう。日野自そのものは巨大メーカーだから、十分しのげるが、そこにエンジン部品や車両関連の様々な部品を納入していたサプライヤは影響を受けるし、その下の街の中小零細な製造業は、依存比率が高いところは、資金繰りが途切れアウトになるところも出て来るだろう。
日野だけに影響を見がちだが、今回N04Cエンジンは、マイクロバス系だけが燃費偽装となっているが、これがトラック系も加算されていたら、日野販売車の8割にも影響が及んだであろう。それ程、N04Cは小型(2トン)から中小型(3トン)クラスの最量販車種の主力エンジンであり、日野デュトロ、トヨタダイナ、トヨエースのエンジンとしてほぼ大勢を占めるものでありマイクロバスだけに留まったのは日野に生存の余地を与えたとも云える。
ただし、このマイクロバス(トヨタコースターとOEMのリエッセⅡ)は、概ね年間製造数2万台だが、その8割が海外輸出されており、およそこのジャンルのバスとしては、日本もだが世界でもベストセラーの車両だそうだ。従って、コースター関連へ納入していた、車体艤装部品のサプライヤーの孫請け以下の中小零細事業者の中には、危機に陥るところも、愛知県内(車両はトヨタ車体製だと認識するから)に出て来そうだ。
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日野自エンジン不正、国内出荷3割影響 型式取り消しへ
日経 2022年3月25日 13:58 (2022年3月25日 22:08更新)
国交省が開いた聴聞で、日野は出頭に代えて陳述書を提出した(25日、東京・千代田)
日野自動車によるエンジンの排出ガスや燃費性能のデータの不正問題で、同社は25日、国土交通省が通告した対象エンジンの型式指定を取り消す行政処分に対し「意見なし」と陳述書にて回答したと発表した。国交省は近く、道路運送車両法に基づきエンジンの指定を取り消す方針。同社の国内販売の3割を占める大型トラックなどで出荷再開のメドがたたない厳しい状況が続く。
国交省は同日、行政処分に関する会社の意見を聞く聴聞を開いた。国交省は日野の本社への立ち入り調査などをもとに、不正行為があったとして対象エンジンの型式指定を取り消す方針を18日に同社に通告していた。
型式指定は車両の出荷に必要だ。2017年の道路運送車両法改正で、不正な手段で型式を取得した場合は指定取り消しが可能となった。規定の適用は初めて。
日野は4日、中型、大型トラックと観光バスに搭載していた3種類のエンジンで不正があったと発表。同日、対象のエンジンを搭載していた車両の出荷を停止した。中型トラックは一部出荷が続いているが、大型トラックは全て止まっている。21年3月期ベースでは、大型トラックは同社の国内販売の3割を占めた。
出荷再開には新たな試験データをもとに型式指定を取得し直す必要があるが、メドは立っていない。同社の国内販売台数は全世界の4割を占める。出荷停止が長びけば収益に影響を及ぼす懸念がある。
同社は同日、対象のエンジンを搭載して販売した中型トラック約4万7000台でリコール(回収・無償修理)を実施することも明らかにした。これまで「不正があったかは不明」としていた小型エンジンの1種類についても、燃費性能を測定する認証試験で不正があったことを発表した。
#日野型式指定取消と想定される影響
今次の日野自によるエンジンの排ガスおよび燃費データ虚偽による型式指定の取消は、日本の道路運送車両法に関わる型式認定制度が始まって以来、記念すべき初のもので、日本の産業史に残る愚行として記録されるべきものだろう。自動車不正というと、過去に度重なるリコール隠しや燃費偽装を行った三菱自の悪イメージが思い出されるが、その三菱自ですら、型式指定を取り消されると云うことはなかったのだ。それだけ、今次の日野自の虚偽データ提出での型式指定の取得の悪質性を、国交省も認めざるを得なかったと云うところだろう。
今次の日野自の不正としては、エンジン種別としては、E13、A09、A05C、N04Cの4種で、不正内容としてはE13、A09、N04(マイクロバス用のみ)が燃費の問題、A05Cだけが排気ガスの長期耐久性能の問題だ。
私見となるが、燃費データだけの問題なら、同じエンジンで正しい燃費計測をし直すことで、燃費審査値は低下することになろうが、型式データを取り消すまでに至らなかっただろう。また、取り消された型式指定も、まったく同じ使用のまま、正しい燃費データとして再申請すれば、再型式指定の取得はそれ程問題なく、比較的早期に復帰できるだろう。
ところがA05Cの排気ガスの長期耐久性能の問題は、長期耐久テスト(半年以上を要すると云う)中で触媒劣化からこのままでは排出ガス審査の基準をクリアできないことからとしか考えられないが、試験途上で触媒付きマフラーを交換していたと云うのだ。と云うことは、A05CのHS-SRCの耐久性の欠如を示すことであり、例えばHS-SRCから尿素SCRの浄化システムに変更する等して、エンジンの排出ガスシステムを大幅に変更(となると同じエンジン型式ではもはやない)しつつ、長期耐久試験も行う必用があると云うことになろう。となると、その解決には、開発機関および長期試験など入れても1年近く要する可能性がある。
ここで、この解決手法だが、日野自自身で新エンジンもしくは排出ガスシステムを新設計し直すか、他社の相当するエンジンに換装して、この機器を乗り越えるしかないだろう。実際、北米では、大型エンジンE13などの北米用の排ガス基準に通らないことを認知し、カミンズ製エンジンに換装しているという話しが伝わっているので、カミンズとかいすゞから同等エンジンを購入して換装する方が、対処機関は大幅に圧縮できる様に思える。ただし、これは日野自および日野エンジン設計エンジニアに取っては屈辱的な処置であるが、組織ダメージを最小限にするためには、検討していることだろう。
さて、表題の影響だが、下記の報道では、日野販売車の3割に影響(3割が当面販売できない)ということだが、燃費データの再認証でおそらく3ヶ月程度は新車販売が止まるだろう。日野自そのものは巨大メーカーだから、十分しのげるが、そこにエンジン部品や車両関連の様々な部品を納入していたサプライヤは影響を受けるし、その下の街の中小零細な製造業は、依存比率が高いところは、資金繰りが途切れアウトになるところも出て来るだろう。
日野だけに影響を見がちだが、今回N04Cエンジンは、マイクロバス系だけが燃費偽装となっているが、これがトラック系も加算されていたら、日野販売車の8割にも影響が及んだであろう。それ程、N04Cは小型(2トン)から中小型(3トン)クラスの最量販車種の主力エンジンであり、日野デュトロ、トヨタダイナ、トヨエースのエンジンとしてほぼ大勢を占めるものでありマイクロバスだけに留まったのは日野に生存の余地を与えたとも云える。
ただし、このマイクロバス(トヨタコースターとOEMのリエッセⅡ)は、概ね年間製造数2万台だが、その8割が海外輸出されており、およそこのジャンルのバスとしては、日本もだが世界でもベストセラーの車両だそうだ。従って、コースター関連へ納入していた、車体艤装部品のサプライヤーの孫請け以下の中小零細事業者の中には、危機に陥るところも、愛知県内(車両はトヨタ車体製だと認識するから)に出て来そうだ。
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日野自エンジン不正、国内出荷3割影響 型式取り消しへ
日経 2022年3月25日 13:58 (2022年3月25日 22:08更新)
国交省が開いた聴聞で、日野は出頭に代えて陳述書を提出した(25日、東京・千代田)
日野自動車によるエンジンの排出ガスや燃費性能のデータの不正問題で、同社は25日、国土交通省が通告した対象エンジンの型式指定を取り消す行政処分に対し「意見なし」と陳述書にて回答したと発表した。国交省は近く、道路運送車両法に基づきエンジンの指定を取り消す方針。同社の国内販売の3割を占める大型トラックなどで出荷再開のメドがたたない厳しい状況が続く。
国交省は同日、行政処分に関する会社の意見を聞く聴聞を開いた。国交省は日野の本社への立ち入り調査などをもとに、不正行為があったとして対象エンジンの型式指定を取り消す方針を18日に同社に通告していた。
型式指定は車両の出荷に必要だ。2017年の道路運送車両法改正で、不正な手段で型式を取得した場合は指定取り消しが可能となった。規定の適用は初めて。
日野は4日、中型、大型トラックと観光バスに搭載していた3種類のエンジンで不正があったと発表。同日、対象のエンジンを搭載していた車両の出荷を停止した。中型トラックは一部出荷が続いているが、大型トラックは全て止まっている。21年3月期ベースでは、大型トラックは同社の国内販売の3割を占めた。
出荷再開には新たな試験データをもとに型式指定を取得し直す必要があるが、メドは立っていない。同社の国内販売台数は全世界の4割を占める。出荷停止が長びけば収益に影響を及ぼす懸念がある。
同社は同日、対象のエンジンを搭載して販売した中型トラック約4万7000台でリコール(回収・無償修理)を実施することも明らかにした。これまで「不正があったかは不明」としていた小型エンジンの1種類についても、燃費性能を測定する認証試験で不正があったことを発表した。
#日野型式指定取消と想定される影響