投稿者:ゆうこ
先日、息子の今年度最後となる保育参観に出かけていった。一年間の集大成とあって、今回は年中の全クラス、総勢90余名によるミニコンサートを催してくれるという。息子もめずらしく気合いの入り方が違うようで、「絶対に早く来て、一番前で見てよ!」と、しつこく私に念を押した。「わかった。約束するよ」。そう言ってうなずきはしたものの、内心私は冷めていた。だって、ここのところ園行事では立て続けに、恥ずかしい思いばかりしている。始まりは、秋の生活発表会。周りをキョロキョロ、体をぐねぐねと、落ち着きがないのはうちの子だけである。隣の子にちょっかいを出し続け、挙げ句はデコピン攻撃で顰蹙を買った。ちょっと前までは、人前に出ると“借りてきた猫”だった彼のキャラは、確実に進化(?)を遂げたらしい。以来、今回こそはと勇気を出して園へ出向いてみるものの、おふざけの限りを尽くす息子を前に、いつになったらやめてくれるのかと祈るしかない。それでもまあ、見捨てないのが親ってもんである。言われたとおり、早めに家を出た。
さて、息子の幼稚園では、保育参観のたびに行われる「園長講話」がなにしろ人気である。幼児教育のプロとして保護者を指導するというよりも、三人の息子を育て上げたひとりの母親として、いかにたくさんの失敗を繰り返してきたかという経験談が人々を惹きつける。息子さんのうち一人は幼くして脳腫瘍を患い、死の危険に幾度もさらされながら、親子で乗り越えられたそうである。その必死の歩みのなかから生まれた育児観は、すべての母親の心を捉えて離さない。そんなわけで、毎回、保護者席は前列から奪うようにして埋まっていくのであるが、今回は趣がかなり違っていた。
「さあて、今日は皆さんに、ある体験をしてもらいますよ」。そう宣言するなり園長は、母親たちを誕生月ごとに並ばせ、ピアノの伴奏に合わせて、次々と舞台の上へ呼び上げた。「一月生まれのお母さん~♪ はいっ! 両手をあげて踊りましょっ! ララ ランランランラン ラ~ン!」。会場には、どよめきがあがり、当然、いやだいやだと渋る人たちで会場は混乱した。それでも、容赦なく園長の号令が飛ぶ。「ほらっ!次!2月生まれのお母さん~♪」。結局全員が代わる代わる舞台へ登らされ、お許しが出るまでポルカのステップを踏まされた。こんなに恥ずかしい思いをするのは久しぶりである。でも、いったいなんのためにこんなことを?
「さあ、もうお分かりですか? いま皆さんたちは、とっても恥ずかしいですよね。ドキドキしちゃって、もう、どうしていいかわからなかったでしょう? それが、これからここで歌を歌ってくれる子どもたちの、いまの気持ちなんです。普段、皆さんは舞台の下から子どもを見上げて、“あら捜し”ばかりしていませんか。ウチの子だけ口の開け方が小さいだとか、落ち着きがないだとか。まさかお家に帰って、“○○ちゃんは上手だったのに、どうしてあなたは……”なんてこと、言っていませんよね?」。どのお母さんも苦笑いをしてうつむいてしまった。まもなく後ろの扉が開いて、子どもたちが入場してくる。割れんばかりの拍手の渦。やる気満々だった我が息子はというと、右手と右足が同時に出ちゃって、ロボット歩きに必死だ。
そうだね、そうやっていつもキミは、一生懸命がんばってきたんだ。ついこないだまで、ボタンひとつはめられるようになっただけで、一緒に飛び上がって喜んだというのに。いったいどれだけのプレッシャーを、キミに強いてきたんだろう。自分が情けなくなった。
帰るなり、「なんで一番前に座らなかったのよぉ!?」と怒る息子に、心から謝った。だけど号泣して目は腫れ上がっちゃったし、とてもじゃないけど一番前では見られなかったよ。
育児サークル「わはは」
投稿者:ゆうこ
先日、息子の今年度最後となる保育参観に出かけていった。一年間の集大成とあって、今回は年中の全クラス、総勢90余名によるミニコンサートを催してくれるという。息子もめずらしく気合いの入り方が違うようで、「絶対に早く来て、一番前で見てよ!」と、しつこく私に念を押した。「わかった。約束するよ」。そう言ってうなずきはしたものの、内心私は冷めていた。だって、ここのところ園行事では立て続けに、恥ずかしい思いばかりしている。始まりは、秋の生活発表会。周りをキョロキョロ、体をぐねぐねと、落ち着きがないのはうちの子だけである。隣の子にちょっかいを出し続け、挙げ句はデコピン攻撃で顰蹙を買った。ちょっと前までは、人前に出ると“借りてきた猫”だった彼のキャラは、確実に進化(?)を遂げたらしい。以来、今回こそはと勇気を出して園へ出向いてみるものの、おふざけの限りを尽くす息子を前に、いつになったらやめてくれるのかと祈るしかない。それでもまあ、見捨てないのが親ってもんである。言われたとおり、早めに家を出た。
さて、息子の幼稚園では、保育参観のたびに行われる「園長講話」がなにしろ人気である。幼児教育のプロとして保護者を指導するというよりも、三人の息子を育て上げたひとりの母親として、いかにたくさんの失敗を繰り返してきたかという経験談が人々を惹きつける。息子さんのうち一人は幼くして脳腫瘍を患い、死の危険に幾度もさらされながら、親子で乗り越えられたそうである。その必死の歩みのなかから生まれた育児観は、すべての母親の心を捉えて離さない。そんなわけで、毎回、保護者席は前列から奪うようにして埋まっていくのであるが、今回は趣がかなり違っていた。
「さあて、今日は皆さんに、ある体験をしてもらいますよ」。そう宣言するなり園長は、母親たちを誕生月ごとに並ばせ、ピアノの伴奏に合わせて、次々と舞台の上へ呼び上げた。「一月生まれのお母さん~♪ はいっ! 両手をあげて踊りましょっ! ララ ランランランラン ラ~ン!」。会場には、どよめきがあがり、当然、いやだいやだと渋る人たちで会場は混乱した。それでも、容赦なく園長の号令が飛ぶ。「ほらっ!次!2月生まれのお母さん~♪」。結局全員が代わる代わる舞台へ登らされ、お許しが出るまでポルカのステップを踏まされた。こんなに恥ずかしい思いをするのは久しぶりである。でも、いったいなんのためにこんなことを?
「さあ、もうお分かりですか? いま皆さんたちは、とっても恥ずかしいですよね。ドキドキしちゃって、もう、どうしていいかわからなかったでしょう? それが、これからここで歌を歌ってくれる子どもたちの、いまの気持ちなんです。普段、皆さんは舞台の下から子どもを見上げて、“あら捜し”ばかりしていませんか。ウチの子だけ口の開け方が小さいだとか、落ち着きがないだとか。まさかお家に帰って、“○○ちゃんは上手だったのに、どうしてあなたは……”なんてこと、言っていませんよね?」。どのお母さんも苦笑いをしてうつむいてしまった。まもなく後ろの扉が開いて、子どもたちが入場してくる。割れんばかりの拍手の渦。やる気満々だった我が息子はというと、右手と右足が同時に出ちゃって、ロボット歩きに必死だ。
そうだね、そうやっていつもキミは、一生懸命がんばってきたんだ。ついこないだまで、ボタンひとつはめられるようになっただけで、一緒に飛び上がって喜んだというのに。いったいどれだけのプレッシャーを、キミに強いてきたんだろう。自分が情けなくなった。
帰るなり、「なんで一番前に座らなかったのよぉ!?」と怒る息子に、心から謝った。だけど号泣して目は腫れ上がっちゃったし、とてもじゃないけど一番前では見られなかったよ。
育児サークル「わはは」
投稿者:ゆうこ