和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

洲之内徹の眺望。

2010-09-07 | 他生の縁
山本善行著「古本のことしか頭になかった」を読み始めたら、
つぎに岡崎武志著「雑談王」とか山本善行著「古本泣き笑い日記」を、あらためてひらいておりました。そこから眺める洲之内徹氏への眺めが実にいいなあ。
と思ったので、その書き込み。

では、「古本泣き笑い日記」からはじめます。

「『好きなことがあっていいですね』とよく言われるけれど、たしかにそうなのだけど、一方で、古い本のことでこんなにも心動かされている自分を外から眺めると、何かから逃げているようでもあり、なんだかかわいそうにも思う。でもここまできたらやるしかない(?)。」(p26)

「旺文社の百を手帳で調べているとき、自分はいい歳をしていったい何をしているのだろう、なんという閑人なんだ、ほかにやることないのか、と寂しい気持ちになった。最近、こんなことしていていいのかお前、という声が頻繁に聞える。きまってそのあと寂しくなる。どこか身体が悪いのかもしれない。」(p96~97)


そして、この本で洲之内徹への言及は、p122~128。
「彼がその随筆で描くのは、なにも絵画そのものだけではない。むしろ、絵との出会い、画家との出会い、旅であり、生活であった。」(p123)
とあり、ます。

すこしもどって善行さんは、こうも書いておりました。

「『よくもまあ、毎日毎日古本ばかり、それしかないんかいな』と呆れ返っていると、『古本でお散歩』の岡崎武志の姿。この二人、古本屋まわりの回数、世界一とちゃうか。」(p103)

ここに登場する岡崎武志の「雑談王」にも、洲之内徹への言及があります。
ということで、引用しますが、
なかでも、「洲之内は絵かきに失望していた」(p159~161)の箇所が面白い。
ちょっと丁寧に引用。

「私が洲之内に関して不思議だったのは、年を取ってから、音楽を聴き始めていることだ。・・・・肥後さんの推測では、このころ、洲之内は絵かきに対して失望していたのではないか、という。・・・どうしてもこういう絵が描きたいということがない。・・今じゃどうだ。誰が賞を取った、誰が別荘を買った・・・そんな話ばかりだ。・・洲之内は抵抗のない絵かきが増えていることに我慢がならなかった。・・・・・・・・・
絵のことしか考えられない。絵以外のことは廃人同然になる。初期『気まぐれ』シリーズには、そんな火の玉のような絵かきが大勢登場し、凡人たる私を畏怖させる。

 『私はその絵を私の人生の一瞬と見立てて、
  その絵を持つことによって
  その時間を生きてみようとした。』(「セザンヌの塗り残し」)

人の描いた絵に、自分の人生を重ね合わせ生きる。そんなふうに洲之内は生き、そんなふうには生きられなくなったとき、うまいタイミングでこの世を去った。今回、肥後さんの話を聞いていて、そんなふうに考えた。」

ここで、山本善行さんの古書店「善行堂」のことを思い描きながら、
ひとつ、「雑談王」から引用してみましょ。

「洲之内は個展を開くとき、画家のアトリエを訪ねて出品する作品を選んだ。ところが画家が自信をもって洲之内の前に並べた作品は、彼の気にいらないことが多かった。逆に画家自身は気に入らないため、重ねた絵の後ろのほうに隠してあったものを、洲之内は目ざとく見つけ『これがいいよ。これでいきましょう』と言うのだった。・・・」(p169)


おっと、最後は、善行さんが引用していた洲之内徹の言葉。


「そういう明け暮れの中で、どうしようもなく心が思い屈するようなとき、私はふと思いついて、保井さんの家へ『ポアソニエール』を見せて貰いに行くのであった。その『ポアソニエール』は一枚の、紙に印刷された複製でしかなかったが、それでも、こういう絵をひとりの人間の生きた手が創り出したのだと思うと、不思議に力が湧いてくる。人間の眼、人間の手というものは、やはり素晴らしいものだと思わずにはいられない。・・・・絵というものの有難さであろう。知的で、平明で、明るく、なんの躊(ためら)いもなく日常的なものへの信仰を歌っている『ポアソニエール』は、いつも私を、もう返ってはこないかもしれない古き良き時代への回想に誘い、私の裡に郷愁をつのらせもしたが、同時に、そのような本然的な日々への確信をとり戻させてもくれた。頭に魚を載せたこの美しい女が、周章てることはない、こんな偽りの時代はいつかは終る、そう囁きかけて、私を安心させてくれるのであった。(「絵のなかの散歩」)」


山本善行と岡崎武志と、お二人の本をパラパラとめくっていると、
どうも洲之内徹が、まだ読んでいない洲之内徹が読みたくなってくるのでした。
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