和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

何をうしなふ。

2010-06-24 | 詩歌
佐佐木幸綱著「うた歳彩」(小学館)は1991年11月刊行。
現代歌人を交えた、歌を、歌人を単位としてまとめた一冊。
さまざまな歌人が登場しております。
私に興味をひいたのは、現在新聞の歌壇の選者としてお名前を見かける人が
ところどころに散見していること。

そんなひとりに毎日歌壇の選者・篠弘氏の名前がありました。
だいたい1人の歌人に4頁がわりふられて歌と、その歌人とを紹介しておりました。
篠弘(しのひろし)氏は昭和26年東京生まれ。窪田章一郎に師事とあります。
「卒業後、小学館の書籍編集部に勤務」と、本文にありました。
その編集部の会議のようすが歌われており、その歌がひろわれています。
ということで、私に新鮮な驚きだったので、紹介。

立項に過ぎしひと日の夜に入りて急(せ)かれつつなす会議愉しも

人厭ふ心きざして席にゐる時のはざまにいくたりも来る

進行を大掴みしてみづからの身を洗ふがに固まる意志ぞ

照明の黄のやはらなる夜半にして声ごゑは満つ編集室に

さらに
「歌集『百科全書派』には、会議をうたった歌が多い。現代の企業はどこでも会議が多いが、チーム・ワークが重要なポイントとなる百科事典編集では、とくに会議が多いのであろう。」(p340)と佐佐木氏は指摘して、会議の歌をつぎに引用しておりました。


条件を両目つぶりて述べしあと取りとめなき言葉をさがす

われに問ふ言葉はせめぐ上に立つものの立場を虚しといふや

少しづつ何をうしなふ加速してもの決まりゆく午後の会議に

いだされし企画悉く否(いな)みたる会議の終りに悲しみは来つ

言ひ過ぎし会議の後を降りきたる地下の茶房に一人となりぬ

こう引用したあとに、佐佐木幸綱氏はこう書いております

「近代・現代短歌史はたとえば若山牧水とか石川啄木のように、会社に入っても決して長つづきしない、組織になじまないタイプの人たちによって作られてきた。サラリーマンの歌もあるにはあるが、不遇な、しいたげられた下っぱサラリーマンの歌が主流であった。篠弘のように、組織を押し進めて行く側の、しかも上層部の人の歌は、これまでの短歌史にはほとんどなかった。篠弘の歌はそういう点で新しい。」

うん。会議を歌ったというのは、私もはじめて出会いました。
読めてよかった。
コメント
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