人間は,ありきたりな日常生活の中で,時折,強烈な「刺激」が欲しくなるときがある。
単調な毎日の繰り返しの中で,非日常的な「刺激」を感じることにより,新たな活力が湧いてくる。
その「刺激」は,人によって,音楽だったり,映画だったり,演劇だったり,文学だったり,写真を撮ることだったり様々。
もしあなたが『美術』特に『日本美術』からまだ「刺激」を感じていないとしたら,江戸期の日本美術のアバンギャルドの世界へと誘ってくれる打って付けのテレビ番組がある。
それは,明日 月曜日からNHK教育テレビで始まる
「ギョッとする江戸の絵画」。
「知るを楽しむ この人この世界」シリーズのひとつとして,毎週月曜日の午後10時25分から10時50分まで,10月2日から11月27日までの8回で,伊藤若冲,曾我簫白,歌川国芳,岩佐又兵衛ら8人の江戸期の「異端の画家」たちが紹介される。
案内人は,美術史家の辻惟雄(のぶお)氏。
辻氏は,1969年に伝説的名著
「奇想の系譜」(ちくま学芸文庫)で,当時はまだ二流扱いされていた伊藤若冲,曽我簫白らを紹介し,現在のこれらの画家たちの人気の道筋を付けた人。
「奇想の系譜」は,今読んでも,その着眼点の鋭さと瑞々しい感性とが漲る名著で,一読の価値がある。
そこまではと思う方でも,この番組の
テキスト(683円)(上の写真)だけでも,できれば一読いただきたい。
辻氏の分かり易くも鋭い文章が約170頁にわたり味わえるほか,16頁のカラー図録も付いていて,お薦め。
是非,テキストを手許に置いて,番組も楽しんで頂ければと思う。
ところで,私が「奇想の画家たち」と出会ったのは,2001年に京都国立博物館で開催された若冲展だった。
その当時は,「奇想」という言葉も知らなかったが,モザイク画「樹花鳥獣図屏風」の銭湯のタイル絵にも似ていながら,妙に艶めかしい刺激を受けて,京博に何度も足を運んだものだ。
最初閑古鳥が鳴いていた展覧会場は,足を運ぶたびに,人で溢れかえるようになり,そして5年を経た今,若冲は,押しも押されぬ日本美術界のスターになり,「プライスコレクション展」は,全国4か所の巡業中(
プライスコレクション展のHP はこちら)。
関西にお住まいの方,11月5日まで京都国立博物館で開催中ですよー
九州にお住まいの方,来年1月1日(元旦!)から3月11日まで,九州国立博物館で開催されますよー
そして,愛知県立美術館でも来年4月から開催されますよー
また,プライスコレクション展の
オフィシャルブログもあって,例えば,前記の「樹花鳥獣図屏風」と同じモチーフで描かれた「鳥獣花木図屏風」をはじめ,展示作品が結構大きな画像で見られるという太っ腹!(
「鳥獣花木図屏風」はこちらからどうぞ)
HP上で,プライスコレクション展の展示作品を見るうちに,無性に,九博へ行きたくなってしまった
というわけで,奇想の画家たちに関心を持たれた方は,明日から始まる番組「ギョッとする江戸の絵画」をご覧下さい。
新たな「刺激」のメニューが増えること間違いないと思います。
全部はとても…という方でも,11月6日放映の伊藤若冲の回だけでもご覧頂ければ,江戸のアバンギャルドのめくるめく世界に関心を持たれるのではないかと思います。
なお,この番組でも取り上げられる岩佐又兵衛と歌川国芳について,以前,展覧会のレビューを書いたことがありますので,よろしければご覧下さい(
岩佐又兵衛はこちら,
歌川国芳はこちら)
ところで,今日の写真,番組テキストのバックには,田中一村の「奄美の杜(9)」を配置した。
その理由は…実は,昨年美術愛好家の間で大きな話題をさらった本のひとつに
「原寸美術館」という本がある。
これは,傑作絵画を最新鋭の印刷技術を使って原寸大で再現するという企画の本で,画家の繊細なタッチだけでなく,絵画の表面に生じた無惨なひび割れまで超忠実に再現した,文字通り凄い本なのだが,その第2弾として今年発売された
「原寸美術館 日本編」では,若冲の「動物綵絵」や簫白の「群仙図屏風」と並んで,なんと,我等が孤高の天才画家 田中一村の「奄美の杜(9)」が掲載されているではあーりませんか!
田中一村の主たる活躍の場,奄美大島でももっともっと大きく取り上げられても良いのではないかと思うのだが,残念ながら,この本が発売されてから3カ月以上が経つのだが,そのような情報に触れたことがなかった。
20世紀の「奇想」溢れる一村翁が,若冲や簫白たちと肩を並べるだけの人気を博する日が早く来るよう祈るばかりである。
【2006.10.1 Canon EOS Kiss デジタル with TAMRON AF18-200mm F/3.5-6.3】
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