(写真は イコン『十字架礼拝』(モスクワ・1676-81)。色彩も構図も意味合いも重厚で好きだ・・・)
ロシア皇帝の至宝展
8月6日。 休日の夫と、『ロシア皇帝の至宝展』に行く。
会場は思ったよりも 人は少ない。
先日見た『ペルシャ文明展』にくらべて、見ている人の年齢層は少し高目。
耳に入る雑談から感じたのだが、ロシアの歴史に感心を示す人や豪華賢覧な調度品にうっとりとする人、美術に関心を示す人など、さまざまな思いを胸に、会場を歩かれていた。
『ロシア皇帝の至宝展』では、12世紀半ばから20世紀初頭までの ロシア宮廷内の工房で制作された美術品を紹介されている。
国立モスクワ・クレムリン(クレムリン=城壁)博物館が所蔵する工芸品や宝飾品、イコン、テキスタイル、絵画など多岐にわたる230点で構成。その数の多さには驚いた。
『クレムリン博物館』は、ロシア最大の武器工房だった建物を転用して、1806年、アレクサンドル1世によって創設されたとのこと。ここには、歴代皇帝ゆかりの宝物約10万点が収められている。
特に秘宝とされるのが、今回のチケットを飾る『クレムリン・エッグ』(K.ファベルジュ作・1904-6)。細やかな細工で、美しかった。
世界に名高いロシアの宝石職人カルル・ファベルジェが皇帝ニコライ2世の命を受けて制作した50数個のインペリアル・イースターエッグの中の一つ。
1903年の復活祭にニコライ2世と皇后アレクサンドラ・フョードロヴナがモスクワを訪問したことを記念して制作されたらしい。
ロシアの宝の中には諸外国からの頂き物が多い。
中でも興味深かったのは、イランからの防御面(銀製か・・・16世紀)とイランからの丸い防御盾(やはり銀製か・・・)。
丸い防御盾には宝石がちりばめられている。
家にあるイランの剣にも同様に宝石がちりばめられているが、よく似ているので、驚いた。
イランからの丸い防御盾は外国から貰った宝の中でも、五番目に立派だという。ちなみにロシアのたての中でも、二番目の立派さだというから、たいした品だ。
この二つの展示物は、イラン、トルコ、イラン、トルコといった並べ方がされていた。
私は頭の中でイランの防御面と丸い防御盾を合成し、よろいを着け、剣を持った 戦う人を想像していた。
ロシア展には直接の関係はないが、私は戦いには賛成しないが、深い歴史のロマンを感じていた。
このほかにもおそらくイランから来たであろうトルコ石が飾りたてられた装飾品や宝物の展示品に、目を奪われる。
ロシア文化の代表的な イコン(聖像)。
会場には、イコン絵画の中心的題材であるキリスト関係の品々。
愛撫する聖母が描かれた「憐れみの聖母」(14世紀後半)なども並ぶ。
今回展示されたイコンの数々は、戦乱をくぐり抜けてきたという意味でも、大変貴重だ。
イコンの説明を初め、イコン関連展示物の多さには目を見張ってしまうが、これがロシアなのだといった感じがする。
ロシアの刺繍は素晴らしかった。
細やかで、重厚な色彩。
材質を変えたり宝石をちりばめたり、ペルシャ湾で取れたかもしれない変形の真珠が連ねられたり・・・鮮やかな色彩のビーズやスパンコールも、心が奪われる。
棺の上におくため用いるような、大きな作品も多い。
私は刺繍の品々に見入っていた。
修道院の細かいレースなども、日本との宗教観の違いを感じる。
日常に使われるのであろうカバーも、レースで余れ、美的感覚の鋭さを肌で感じた。
閉ざされた修道院の中で、彼女たちは何を思い、一針一針と編み進めていったのだろうか・・・
肖像画も何点かあった。
ロシア色とか輪郭をぼかした平面的な描き方が特徴とかかれた作品もあった。
見ると、茶色中心。
輪郭はためらったクロッキーのような線の筆の運び方。
色は人物が書かれているというよりも、塗られたといったほうが性格かもしれない。
難しい肖像画であった・・・
皿や壺には、七宝焼きのような材質で描かれた絵。
人物や花が多い。
つるつるとした画材はガラス化、玉か、エナメルか、或いは絵の具か・・・
この描き方の名前を忘れてしまったのが、残念だ・・・
ちなみに『七宝焼き』を調べてみると、中近東から中国、日本に伝わったとのこと。
これを考えると、高技術な七宝焼きが有力説か・・・
金・銀製品や金属製品の皿や装飾品も多く、細やかな細工がなされていた。
素晴らしい・・・
金製の舟形をしたひしゃくのような取っ手のついた作品も数個あった。
形が素晴らしく美しい。
ひしゃくの内側には 多くな宝石が取り地けられているもが特徴。
一つだけ宝石の付いてないものもあった。
首飾りのの継ぎ目の両側に、二頭の龍を施したものがあった。
ペルシャ文明展でも腕輪で、同様の説明があったものが観られたが、龍の姿がなかった。
多分、この龍の頭が両脇、取れてしまったのであろう・・・
ロシアの龍の首飾りは、完全にペルシャの腕輪と同じ形状で共通点があった。
おそらくの品はイランから来たか、或いは、影響を受けたのであろうか・・・
会場には絵といい、工芸品といい、二頭龍の品が多くあった。
二頭龍はきっと吉兆文様か何かで、ロシアでも好まれたものらしい。
クレムリン工房製の吊り下げ香炉(1616年)も美しい。
四方向に大きな宝石が飾られている。
皇帝ミハエル・ロマノフによりトロイツェ・セルギエフ修道院に納められた、礼拝用の吊り下げ香炉だそうである。
ロシアの調度品には中近東に影響を受けたらしい文様が多い。
唐草文様の変形のものも多く描かれている。
ただ、ワザワザ、『ロシア唐草文』と記されていた。
ロシアはプライドが高いのだろうか・・・
『聖母の眠り』と名付けられたカメオ(12世紀=緑玉髄)も美しい。
十何人もの人物が狭い空間に彫られ、宝石を贅沢に飾られている。
美しいものに囲まれた会場を二時間という早足で回ったことを後悔している。
歴史などを把握しながら見回るのは、倍の四時間はたっぷりとかかるだろう・・・
中近東の影響を受けた品々も多く、また ロシアオペラ映画の好きな私には、大変有意義な時間を過ごすことができた。
『エルミタージュ美術館展』や『プーシキン美術展』とはまた違った視点で開催された今回の『ロシア皇帝の至宝展』も楽しめる展覧会であったことを喜んでいる。
乱鳥の『エルミタージュ美術館展』感想 ↓
http://blog.goo.ne.jp/usuaomidori/e/7f59457fe81f68a04cbb568c3a932aa7
乱鳥の『プーシキン美術展』感想 ↓
http://blog.goo.ne.jp/usuaomidori/e/2f1c84fc5bcec4ae46548290c6eccac9