こころの声に耳をすませて

あの結婚生活は何だったのだろう?不可解な夫の言動はモラル・ハラスメントだった…と知ったウメの回想エッセー。

職場モラハラ その5

2006-11-19 12:20:33 | 職場モラハラ
 分所に異動となり(いわば左遷というのだろう)、張りのない仕事をしながらも、精神的には安定を取り戻しつつあった私だった。しかし定期的にある本社との会議では、どうしてもモラ上司と同席しなければならず、その時は怒りと恐怖にも似た感情が沸々と湧き上がり、冷静さを装おうと必死だった。そしてモラ上司と同じ部屋の空気を吸っていることすら嫌悪した。ただひたすら我慢し、会議が終了したらさっさと会社を出た。
 モラ上司は「そのうちウメさんを分所の所長にしたいと思ってるの。重要な役割を背負って欲しいと思っているのよ」とにこやかな笑顔で私に言ったが、その気もないのにいい加減なことを平気でしゃべるモラ上司の言葉は非常に軽々しく聞えるだけだった。
 
 その年の夏、その地域一帯で催されるお祭りに、私の会社も参加することになった。他の商店や事業所とともに屋台を出したり、イベントの手伝いをすることになったのだ。私も本社の同僚達と一緒に、お祭りの打ち合わせや準備などを行った。
 そしてお祭り当日、私は会場に向かい、自分の職場のブースを探した。「あったあった…」と同僚達を見つけて近づくと、なんと…同僚達は皆浴衣を着ていた。私は驚いた。私はといえば普段職場に着ていくような服装だった。分所のおばちゃん社員は「あら~、みんなきれいな浴衣着て~!」と目を丸くして笑った。私は同僚に「なんで皆浴衣着てるの?」と聞くと同僚は「上司が、当日は浴衣にしようって言うから着てきたんだよ。そっちに連絡いかなかったの?」と言った。上司からの連絡なんて全くなかった。しかもお祭りの準備で何度か顔を合わせていたのにもかかわらず、上司は当日の服装など分所の社員にはまったく伝えなかったのだ。私が呆然としていると、モラ上司がこれまた浴衣を着て登場した。私をチラッと横目で見てから皆の方を向き、「おはようございます。じゃあ早速準備を始めて、10時からスタートできるようにしてください」とにこやかに言った。モラ上司は私には服装のことは何も触れずに、ただ笑っていた。近隣の会社の人たちも周囲でお祭りの準備をしていた。浴衣を着た上司や同僚達を見ては「おお~、今日はまたきれいですね~」「雰囲気出ていていいですね~」と声をかけていた。
 同じ分所のおばちゃん社員は、上司が単に連絡し忘れたのだと思っていたようだった。
違う。モラ上司のあの目…完全なる嫌がらせだった。私を貶めるための…。

 初秋のある日、モラ上司が突然分所にやってきた。少し前に来客があり、ちょうどその人たちが帰るところだった。モラ上司は客を見送る私に、いきり立った顔を向け「ウメさんね、私の許可なく黙って勝手なことしないでくれる!しかも私の部署の仕事について余計なこと言ったらしいけど、どういうつもり?あなたには関係ないし、そういうことはやめてよね。だいたいウメさん、仕事する気あるわけ?…」と、まくし立てた。ドアを開けかけた客は、驚き、気まずい表情でそそくさと出て行ってしまった。上司はその後もしばらくわめきちらしていた。私はただうつむいて立ちつくすだけだった。
 上司は、私が本社に立ち寄った際、同僚にある業務について尋ねられたため、ちょっとしたアドバイスをしたことが気に入らなかったらしい。同僚は私に教えてもらった、などというようなことを話したのだろう。それにしても来客のときに(帰りかけだったとしても)そんなこと言うなんて…私の信用もがた落ちではないか。しかも話し合いさえせず、一方的に責め立て、屈辱を浴びせる上司はなんなんだ?

 私の中で、職場への執着がブツッと音を立てて切れた。もういい。もうこんな職場で我慢するのはやめよう。上司に媚び、自分を貶めてまでここにいる意味はもうない。私によくしてくれた上司はもういないんだ。散々酷い扱いを受けながらも、私は何とか頑張ってきた。もうやめよう…もういいよ…。

 秋も深まったある日、私は「今日こそ上司に職場を辞めることを話そう」と決意した。朝、出勤のため家を出ると、ちょうど通り雨が上がったところだった。濡れた路面が朝陽を浴びてキラキラ光っていた。ふと顔を上げたら、空にはきれいな虹がかかっていた。私の目に思わず涙が盛り上がった。ああ、きっと神さまも応援してくれているんだ…私にエールを送ってくれているんだ…もう終わらせよう、きっと先には希望があるはずだ…!
 私はいつまでも虹を目で追いながら駅まで歩いた。

 その日、私はモラ上司に職場を辞めたい旨を伝えた。上司は「え~!?どうして~?」と大袈裟に驚き、私に退職を保留するよう話したが、私の耳には何もかも空々しく聞えるだけだった。そして私の退職届は受理された。辞めるまでの2ヶ月間、私は1日おわるごとにカレンダーに×印をつけた。あと○○日、あと何日、というように踏みしめるようにして日々を過ごした。


 そして私は、ある年の瀬に退職した。
 上司は私にお餞別、と立派なシクラメンの鉢をプレゼントしてくれたが、家に帰ったあと即座に捨てた。
 やっと終わった…やっと!!