こころの声に耳をすませて

あの結婚生活は何だったのだろう?不可解な夫の言動はモラル・ハラスメントだった…と知ったウメの回想エッセー。

職場モラハラ その3

2006-11-04 12:41:26 | 職場モラハラ
 度重なる上司の嫌がらせを受けながらも、私は精神的にこの上司からなかなか離れられなかった。それは夫のときにもそうだったが、モラ特有の二面性に翻弄されたのだ。パートで勤め始めた頃の上司はとても優しかった。プライベートでもお世話になった。そして、正社員になった後、上司からの嫌がらせがあっても、別の日には優しく朗らかに笑いかけてくるときもあったのだ。上司から突然怒りをぶちまけられたりしても、「イライラしていたのだろう」「短気な人だから仕方がない」「責任ある立場はしんどいだろう」などと思い直すことが多かった。ただそうでも思わないと、日々の仕事を続けていられなかったこともあるが。

 しかしその後、はっきりと彼女の悪意を見せつけられる出来事があり、それが上司への不信感を一気に増大させ、また私自身が完全に打ちのめされることになった。
 ある日、出勤すると職場の同僚が困惑した表情で「話しがある」と私に声をかけた。「今?」と聞くと「今すぐに」と応える。イヤな予感がした。私達は空いている会議室に入った。昨晩同僚の家に、上司から電話があったという。そして同僚に向かって「あなたが主任にならない?」と言ったというのだ。同僚は驚き「とんでもない、だって主任はウメさんじゃないですか」と言うと「彼女は家のことであまり残業もできないし、会議の途中でも帰ったりするし…主任として何かあったとき、すぐ対応できないから」と答えたそうだ。「私はもちろん主任になるつもりなんてないって断ったけど。だってウメさんが主任なのに、そんなこと言うなんてほんとにびっくりしちゃって…。もしかしたら上司からも話しがあると思うけど、とりあえず昨日のことを伝えて、私がそんな気まったくないことを知ってもらおうと思ったのよ~」
 その時の私の顔はきっと青ざめていただろう。動悸が強くなり、手が冷たくなった。いったいどういうことなのだろう。主任を替えるなんて…私が何か不祥事を起こしたわけでもないし、一定の成果を上げてきたのに…そこまで私が憎いのだろうか…。
 上司はなかなかその話を振ってこなかった。私は同僚に言われたことが頭にこびりついて離れず、皆が私を否定しているのではないかと被害妄想的な思いに苦しんだ。生殺しにされた気分で1週間を過ごしたあと、上司から声をかけられたのだ。

 話しがしたいと、私は応接室に呼ばれた。上司の言い分はこうだった。これから益々事業が忙しくなり、その分主任の責任も増してくる。家庭の事情はよくわかるが、定時に帰らなければならないのなら、それ以降の時間の連絡や仕事に対応できない。それから、と上司は続けた。「ウメさんは、あの活動にあまり参加しないでしょ」…あの活動!?

 この会社はある政党を支持していた。私はそのことを知らなくもなかったが、社員にまで強制されるものとはまったく考えていなかった。もちろん、選挙の際に投票を促されることも社内ではなかった。また、当時はその政党に対しては特に嫌な印象もなかったので、ある程度は協力してきたつもりだ。例えば、政治色はまったく出さないものの、明らかにその政党を支持している関連企業のイベントを手伝ったり、仕事を回したり、といったことだ。ただ積極的に支持もしなかったので、例えば休日を使って行われる、その政党支持者が主催する交流会や講演会の参加は遠慮させてもらっていた(他の社員は仕方なく参加する場合が多かったようだ)。上司はそのことを言っているのだ。また上司はその政党の熱心な支持者でもあった。

 私は上司に言った。「主任の仕事とは、担当部署の業務に責任を持ち、所属する社員と協力して仕事を発展させることではないのですか?」
 上司は「あの活動も大事でしょ」と言い放った。結局これが一番言いたかったのだ。私はもう言葉もなかった。「わかりました。そうでしたら、主任の業務は私には難しいので、他の方にしてもらってください」
 上司は「私も相当悩んだのよ~」と、ほっとしたように言った。私は黙って部屋から出た。

 そして上司は経営陣にその話を上げた。しばらく検討されたようだったが、結局は上司の言い分が通ってしまった。私は主任を降ろされ、同僚ではなく別の部署から異動になってきた年配の女性が主任になった。その女性は以前全く違う種類の業務についていたため、この部署に配置されたときには驚いたようだった。しかし彼女は熱心な政党支持者であることは間違いなかった。また、上司を恐れていた他の社員達もこの一件について、反対意見を言う人は誰もいなかった。また主任を降ろされた私に気を遣ってか、一連の出来事が理解できなかったせいか、その話題について何か言ってくる人もいなかったのだ。主任をさせられそうになった同僚とも、少し気まずくなってしまった。

 それから私はずっと被害妄想に悩まされることになった。上司はもちろん、社員全員に私は嫌がられているのではないか。私の行動を誰かしらが常に見ていて、逐一上司に報告されているのではないか…。実際に主任を降ろされたことも非常にショックだった。上司への不信と怒りが沸々と煮えたぎっていた。私は口数も減り、いつも冴えない表情をしていた。この頃だ。夫のモラハラも相まって、円形脱毛症になったのは。
 苦しい日々だった。もう辞めようか…とも考えた。しかし私はまだ勤務を始めた頃の幻想にしがみついていた。優しい上司、明るい社員達。任された仕事の成果が上がったときの喜び。私はこの職場でずっと働き続けたいと思っていたのだ。
 また、もうすぐ同僚が産休に入ることも、辞めようとする気持ちを引き留めた。しばらく彼女が産休に入ったら、この部署も手薄になる。その間はがんばらなくては…。

 しかしその後、私はさらに踏みにじられることになる。上司は徹底して私を排除しようとしたのだった…