前ページ 2 この設計は役に立たない のつづき
11/22の鍬ヶ崎「防潮堤」の説明会では直立式防潮堤のことが提案されたが、それは唐突であると同時に信頼しがたいあやふやな設計であった。
直立式防潮堤のこと(2)
河川堤防との比較で考える。川と海
河川洪水や貯水ダムの堤防にかかる力と津波の防潮堤にかかる力の違いは何度も書いてきた。直立式は防潮堤の用をなさない。最近の作図から引用してみると──
津波の「運動の力」のベクトル図
<田老「第一防潮堤」の今(11=つづき)> より
河川堤防のかさ上げ
白い矢印のように水は堤防と平行に流れ、水の勢いの力は堤防には向かない。
以上の通りである。まさに津波は方向的に直角に強く襲撃(上図)するから、直立式防潮堤では役に立たないのである。洪水の力は方向的に堤防を強く打たないから、河川堤防は溢流を防ぐ高さにすればさえ良いのである(下図) ──といえる。直立式は河川堤防用だと言える。
●河川堤防にかかる津波の遡上衝撃力は50%~0%
次の図は閉伊川水門のページからの引用であるが、津波が河川堤防を打つ場合の進入角度による力の割合を示している。津波が防潮堤を打つ力を100%とした場合である。
結論をいえば、直立式は、防潮堤としては台形デザインの緩傾斜式にも劣るが、河川用の堤防(閉伊川河口など)としては効果的な考え方であるように思う。盛岡に持ちかえって河川用として一層みがきをかけてほしい。
●防潮堤にかかる津波の衝撃力は100%~
子供の頃の経験や、川や湖やダムや海に対面する感覚の違いからであろうか? 県土整備部は同じ誤りを、特に今次復興事業の現場で繰り返そうとしている。洪水に有効なら津波にも有効では? の類推(応用=アナロジー)は成り立たないことを県土整備部の中で厳しく厳しく確認しなければならない。両者は完全に別物なのである。岩手県県土整備部はしょせん内陸部の道路、河川改修、ダム建設に有効な実績を積んできたにすぎない(肯定)。人の命に関わることであった、海については0(ゼロ)からの出直しが必要である。
分からないことは沿岸部現地の人にきいて分析することが近道かつ正しいやり方であろう。岩手県県土整備部の人はそれをするべきである。
[関連記事] ▲宮古湾の津波防災はどうあるべきか?
宮古湾で長年住んできた海のベテランの方々が今次津波と向き合った証言である。
3 鍬ヶ崎「防潮堤」の建設位置
これまで書いてきた通り、提案された鍬ヶ崎「防潮堤」の位置は窮屈である。無理に鍬ヶ崎港岸壁に塀を並べたくても工事的に実現性がない。またこのような窮屈な防潮堤のある景観は即、鍬ヶ崎の地場産業を衰退させる動かしがたい障壁になる。とりかえしがきかないのだ。
なぜそう思うのか? そう思わさる理由は、県土整備部、宮古市が今次津波を経験しているはずなのに! 教訓にしていないからである。今次津波の前々から鍬ヶ崎「防潮堤」の計画は提案されていた。しかし、それは鍬ヶ崎の住民との合意がとれず事実上大津波に襲われて中止されたものであった。今また、古い計画をそのまま住民に押し付けようとしている。現実の大災害の経験で、県も市も古い計画の無効性を分からなければならなかったのだ。経験は根本的な発想の大転換を住民の方にもたらした。防潮堤の考え方、防潮堤の建設位置、防潮堤の高さ、防潮堤の効果、防潮堤の逆効果、防潮堤のメンテナンスなど、あらゆる角度から発想の大転換を計らなければならない、と。(大転換はすでに始まっているが)その立ち位置からみた時の上図の防潮堤の「位置」の提案は閉鎖的で窮屈すぎる。閉伊川水門と同じだ。
大転換の主な内容は、建設位置の沖合化と越流の容認である。順次明らかになるであろう。
(15)につづく