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2011.6.1~。大津波、宮古市、鍬ヶ崎復興計画。陸中宮古への硬派のオマージュ。
 藤田幸右 管理人

大川小訴訟─未来からの視点

2018年05月22日 | 大川小学校(訴訟)

  

 大川小<二審判決>の意味するもの

 

 

 1判決の根拠は東日本大震災津波ではなく、過去の想定津波だった。その上で…

 

 ● 判決の趣旨はこうであった。 被告は東日本大震災の発生、規模を予見できなかったと言うが、2004年以来長く国家的予見であった宮城県沖地震の発生は予見できるはずである、というのが判決の本筋であった。否、予見レベルだけでなくその津波発生への「備え・対策」を怠ったのである、と厳しい。判決は徹底的に行政の落ち度や手抜き、怠りを指摘した。判事は「教育専門家として『児童の安全は教職員が守るから安心してください』と述べませんか」と聞き、明言を避けた市教委の元課長に強い口調で「『心配には及びません』という話はしませんか」と畳みかけた、と新聞は報じている=河北新報=。

 

● 判決の基準津波。 判決基準は東日本大震災地震(M9.0)津波ではなく2004予見されていた宮城県沖地震(M8.0)津波であった。明確なエビデンス、事実・証拠をもって判断する裁判としてはもっともである。東日本大震災当日の瞬間瞬間の判断も問われるとはいえ、その判断の根拠でもある津波への「備え・対策」の対象の基準津波は過去の(直近の最大クラス)宮城県沖地震津波であったと判決はいう。未発生の地震であったが国家的予知地震として地域住民のコンセンサスはとられていたといえる。仮に岩手県の沿岸自治体で同様の訴訟があるとすればその基準津波は宮城県沖地震を含め、明治三陸地震(M8.5)、昭和三陸地震(M8.0)等であったのではないか? 大川小裁判では基準津波に対する教育行政の「備え・対策」が問われたのであった。判決にある具体的なものはバットの森問題など全て納得できるとはいいがたいが概ね津波地帯の常識を指摘しているといえる。大川小の悲劇は回避できたと言う。

 

【解説】 被告は想定(外)と言って予知、能力、避難、対策が無であるように言い繕っているがそうではなく、想定という観念ではなく、現に過去存在し経験した津波対策に無限の方法が宿っているのである。裁判長は、地域には大昔から直近の津波を経て具体的な経験・知見蓄積があるとして想定(外)論を一蹴している。

 

 
 2AとBの間には深い無理解の断層が存在すると気づいた…

 

A 最大予見は常識中の常識。 上告理由の中で石巻市や宮城県は「津波の予見について学校現場に過大な義務を課している」「大川小が浸水することを予見することは専門家でも困難。防災や堤防の専門家でない校長らが予見することは不可能を強いるに等しい」と臆面もなく行政の責任回避を主張している。

専門性についても意図的な過誤がある。津波地帯の住民の多くは市長ら被告の主張に明らかに違和感を覚える。津波地帯に住むという事は津波についてのいわば無制限の専門性・予見性の中で日常生活を送っているからである。上に立つ者、こどもを預かる教育者、公務員、親などは専門家でなくても無制限の専門性、無制限の規模予測、無制限の避難予見の義務をもっている。

 

B 「学校現場に過大な義務」に違和感。 だから、上告理由の中の「義務」「専門家」「予見」はあたりまえの事で、第一の「義務」であり当然の常識なのだ。住民は皆「専門家」であり、そうでなければならないのだ。公務員、教育者は「地域住民よりはるかに高いレベルの知識と経験が必要だった」という判決の通りである。必ずしもより「正確な」予見でも、「学者」としての専門性でもないが、そこから汲み取る「知識と経験」の尊重である。

それらを「過大な義務」とする人たちは少なくとも津波地帯で生をうけた人ではない。内陸部で生まれ、津波の心配や気配のない内陸部で生き、津波地帯で長く生活したことがなく、津波の教育、津波避難の諭しをうけた事のない人たちである。あまりにも能天気だというしかない。

 

【解説】 A、Bの区別性はないが、要するに、津波地帯(津波経験地帯)の住民は一も二もなく津波を理解している環境にいる。世界最高の科学的知見も複雑な情報もアタマにすっと入っている。避難についても最善の方法を身にまとい自覚している。特に山や崖など高台の迫っている地区の住民にとっては津波はこわいものではないとさえ思われている。他方、そうでない地区の住人にとっては全ての事が分からない事であり初学者であるはずである。教育専門家であっても「心配には及びません」と言いきれない事も理解できる。(と記事を読んだりして私は気づいた)。「?」と、判事のいう事の意味を俄に理解できなかったかもしれない。側聞経験も含めて経験の有無の違いは温度差などの比喩を越えて計り知れない。しかし津波地帯からひとは火山地帯に赴任する事もある。

 

 

3未来の標準津波は過去の「東日本大震災」津波。それ故に消えた二つの基準

 

大川小二審判決が出るまで少なくとも判例的な基準は何一つなかった訳で、市民も行政も手探りで、防災、復興を行って来た。しかし、判決以後、未来の津波に対しては「東日本大震災」規模の大津波を基準にして「備え・対策」するようになる。心構え、危機管理、ソフト・ハード防災、防潮堤、避難、避難道、避難マニアル、復興戦略など、防災対策から震災復興に至るまで、未来の全ての判断基準は「東日本大震災」津波の大きさや規模が大筋でクリアされていなければならない事になった。これが自然災害一般の最低限の「法の支配」であると言ってもいい。すでに、南海トラフ地震津波にはそのような「備え・対策」がとられ始めている。東北でもとりあえず次の2例は存在理由がなくなってしまった。

 

● L1、L2クラスの基準がなくなった。 今後問題が起こるたびにL1L2を言い出す人はいなくなるだろう。未来の予見するべき基準津波は「東日本大震災」津波になったのだ。L1L2は国交省、農水省の官僚が防潮堤を思いつきでひねり出した際、防潮堤構造(高さ)をどうするか決める一律単一の基準を、超拙速超恣意超抽象的に策定したものだ(官僚は意味もなく一律単一を目指す)。その後、思惑通り地域事情や住民の意思を無視して予算を地方に無理強いしながら全国に防潮堤の壁を張りめぐらせている。今や大川小訴訟の第二審以来その基準は意味を失っただけでなく悪例の見本として引用される以外に歴史に顔を出す事はなくなった。その存在はどこから見ても不可解で滑稽だ。いわく「数十年から百数十年に1度」…

 

● 防潮堤の合理性はなくなった。 防潮堤は全てL1規模の津波を対象に、その防災対策として建造されておりL2規模の津波には効果が無い。大川小判決に見るように未来の基準津波は(時制が未来にずれて)その時点ですでに過去の「東日本大震災」(L2)津波である。今後人命に関わる事故が発生した場合の「備え・対策」に防潮堤は無効であり、それとは別の対策がとられていない場合に行政責任が問われる事は必至である。今ある防潮堤には防災効果がないため行政には全面的にその賠償責任が生ずる。

未来の想定外の巨大津波に対して「予見すべきであった」対象津波(※)はその時点ではすでに過去現象の「東日本大震災」津波という事になる。想定外、巨大として逃げるのではなく、対応策として基準津波への対応策がとられているかどうか? が第一の争点になる。前述したが南海トラフ地震津波では防潮堤抜きにそのような対応策がすでに模索され始めている。一方、今現在時点で東北地域で教訓とするべきは、「東日本大震災」規模の津波の発生は一番早かったが対応策という点では一番遅れているという逆説的現実である。意識して未来からの教訓に以て瞑すべしだ──。

 ※「大川小校長らが予見すべき対象は東日本大震災の津波ではなく、2004年に想定された『宮城県沖地震』(マグニチュード8.0)で生じる津波」(裁判判決より)と明言している。

 

 【解説】 大川小訴訟二審判決の特徴は東日本大震災の「備え・対策」は過去の宮城県沖地震津波を基準に考えるべきであった、ということ。これは情緒的に東日本大震災を即効基準にしようとする被告に対抗する現実的エビデンスとして提出された基準津波であり、鋭敏で合理的である。アナロジー的に(時制を未来にずらして)、未来の想定外等津波対策については過去の「東日本大震災」津波が基準になる。そこをクリアしてない津波対策はことごとく備えが無い~不十分とされて、訴訟では敗北せざるを得ない。眼前で現在造っている防潮堤は「東日本大震災」津波をクリアしていないから現時点ですでに未来の法的備えとしては無意味なものである。今後防潮堤とその周辺で起こる災害トラブル訴訟は、ノークリア防潮堤を理由としてほとんどが行政の失態となる。
未来の訴訟分野の問題が、そのまま、過去、現在、未来の現実津波の防災~避難の基準になるかどうかは、そうはならないであろう、一つ一つこれからの問題になる。しかし、判例として後世にこの二審の判断が残る限り、全ての地上の問題に本質的に有効な基準として残る。

 

 

4被告石巻市は第二審判決を不服として上告しているが、最高裁が国家的忖度を意図しないかぎり差し戻されるはずである。

 

 ● 大川小訴訟原告団と行動を共にする。

2018.5.14 日本経済新聞

 

 

 

 

 


<参 考>

設計津波の選定(P.11 P.14)宮城県 2011.9.9 

 

 

 

 

 

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