オーバーユースシンドローム:いつも左の脚ばかり壊してしまいます

2014年08月17日 | コンディショニングの話

マラソンをこよなく愛するAさんは、かれこれ4年も前から左足の故障に悩まされてきました。

数か月トレーニングを重ね、タイムが上がってくると決まって左足が痛みだし、

そのせいで練習を数週間から1月ほど休まなければならず、

練習を再開した時にはまたタイムは振り出しに戻る…

そんなことを繰り返してきたと言います。

「オーバーユースシンドローム」ではよくあることです。

 

これには私もその昔、悩まされました。

結果として私はその競技を諦めたわけですが、

やっぱり、相当悔しかったんですね。

苔の一念ともうしましょうか、

今では、こうしたやっかいなスポーツ障害に対する解決法も

なんとか見つけることが出来ました。

こうして繰り返される「オーバーユースシンドローム」には、

マルユース(あやまった関節運動パターンの定着と考えましょう)が背景に居座っています。

 

ちょっと話が立て込んできそうなので、「なにがゆえに繰り返す」のか、整理してみます。

 

1、間違った関節運動(=ごく一部に物理的な負担が集まってしまう運動)が無意識で繰り返されることで

元気なところと疲労困憊するところのムラができます。

2、疲労困憊するところがいつもきまっているので、回復が間に合わなくなります。

3、回復しきれずに「ケガ」に発展します。

4、患部を休ませることで「ケガ」は治ります。

なので、痛みは治まるのですが、誤った関節運動パターンはそのままです。

競技を再開すると、傷付き弱くなった患部に再び「誤った関節運動パターン」による過度な物理的負荷が襲います。

5、再び怪我をします。

この時傷めるのは同じ個所の場合もありますし、別の個所の場合もあります。

それは、痛めた患部を守るために「かばった動き」=代償運動を繰り返すことで更なるマルユースに発展し、

今度は別の箇所にケガを生じてしまう、なんてケースもあるからです。

そうした例も特段、珍しいものではありません。

 

と、こうしたストーリーが成り立ってしまっているのです。

背景に異常運動があるために、「休養」や「運動量の調整」だけでは治らないことが多いのです。

対策としては、異常な動きを正し、患部にあった運動強度を選択して、丁寧にリハビリをすること!

それが出来てようやく、この「負の連鎖」から抜け出ることが叶うわけです。

 

Aさんの脚の故障は、ある時は膝のお皿周り(ジャンパー膝)、

またある時は脛の裏側(シンスプリント)

そしてまたある時は腸脛靭帯炎(膝外の鋭い痛みを伴います)と様々ですが、

壊すのは決まって左足なのだとか。

 

何でだろう?

 

ということで、色々とお調べになり、

私のYOUTUBEの動画をみてのご来院となりました。

有り難いことです。 

 

Aさんのお身体の動きを確認すると、

重心が少し左に寄っているようです。

そして左が向きやすく、右には向きにくい。

 

これって実はよくあるパターンなんです。

こうしたケースでは多くの場合、左にねじれた骨盤(左ト―ション)を持っています。

そして、筋緊張のパターンとしては、

右の半身は後脛骨筋・腸腰筋(特に大腰筋)の緊張が強く、(下図右半分に注目)

図版引用:アナトミートレインセカンドエディション トーマスマイヤ-ス著 医学書院


左半身では前脛骨筋から外転筋(とりわけ中臀筋や筋膜張筋)と内転筋が緊張し(共収縮:つまり拮抗する筋を同時に使って関節を固定しようとしているんですね)反対側の(つまり右)外腹斜筋づてに胸の下半分を左に引き込んでいます。

(下図の左足から右胸にかけての筋の配置に注目)

図版引用:アナトミートレインセカンドエディション トーマスマイヤ-ス著 医学書院

 

こうした状態では、走る際に左の踏み込みばかりが強くなります。

ですので、踏み込みの際にショックアブソーバーとなる

四頭筋や腸脛靭帯、そして後脛骨筋は過度に使われ続けることになります。

また、Aさんのように過度に左足へと重心を乗せた場合、

次の一歩を踏み出す際にはより強い力で地面を押さなければならなくなります。

そうした条件も上記の筋装置たちをオーバーユースに追い込みます。

こうしてAさんの脚は度々怪我を負うことになったのでしょう。 

 

では、対処はどうしたらいいのでしょう?

 

簡単なことです。

正しく身体が機能しない原因を探って解消して、傷付いた患部をまた鍛え直せばいいんです。

具体的には以下の3点に着目しました。

・痛めてしまった左下肢の正常なコントロールを取りもどす。(故障によって正常な運動が出来ないでいるからです)

・骨盤を含め、全身の右回旋の協調性を取りもどす。(故障の原因となる「左脚へ乗り過ぎる癖」を解消するための第一歩です)

・走行時の重心が左にばかり流れないようトレーニングをする。

(壊れずに走るための第2歩といったところです。先日紹介した「走るための体幹トレーニング」参照のこと)

 

あと、これがとっっっっても重要!!!!

 

「古川ルール」(笑)を理解し、

ルールに則ってリハビリを実施すること!

 

「古川ルール」というのは冗談ですが、回復期のトレーニングには外せないルールがあるのです。

そのルールとは、「患部の声」に耳を傾けること。

具体的な工程は以下の通りです。

 

痛めた場所に「違和感」を覚えたら、練習を中断

⇒関節機能を正常化するエクササイズ(治療の際にお伝えしたもの)を実施する

⇒A、「違和感」が消えるならば練習再開!以下、同じ工程の繰り返し

 B、「違和感」が消えない場合はそこで痛めた個所を使うトレーニングは終了!

 

【ポイント】

一度目のエクササイズの実施(違和感の出現)までの練習量や時間、

それから練習終了までの時間と練習量をメモします。

その後、練習を重ねる際に、一度目のエクササイズ実施までの時間が

「先送り」になったり、こなせた練習量が多くなっていれば

順調に回復していることが解ります。

 

逆に、短くなっていたら、練習量や強度が「痛めた患部」にとって過度であることが解ります。

その場合は、運動量・強度・休養のタイミングが適正なのか

もう一度練習メニュー全体の見直しをしてみましょう。

 

と、長くなりましたが、このような判断に則って「身体を練り直す」ことが出来れば、

オーバーユースシンドロームの負のスパイラルから脱出することは可能です。

 

陥りやすい誤りは、故障前のメニューをこなすことに躍起になることです。

大事なのは患部の耐久性に沿った運動強度を選ぶことです。

それには、なにを何KGで何レップ…といった指標は忘れてください。

弱っている患部が「もうお腹いっぱいだよ!」となったとき、局所に疲労を感じます。

これが前述の「違和感」の正体です。

でも、周囲の筋バランスが狂っているせいで追い込まれただけかもしれませんので、

いったん、関節機能を修正するエクササイズを行ってみるわけです。

完全に患部が疲労していたら、エクササイズ後も「違和感(だるさ)」は消えることはありません。

しかし、周囲とのバランスが取れることでまだ余力を残していた場合は、「違和感」は消えてくれます。

つまり、患部にとって最適な運動量まで、安全に追い込むための判断が出来るということなんです。

 

こうしたエクササイズは、通常一回の来院ごとに、一つづつ覚えていただきいています。

それにはちゃんと理由があって、

人間、一時に覚えられるのは3手までといいますので、

いっぺんにあれこれ伝えても家に着いた頃には忘れていることがほとんどなんです。

なので、一回の治療で一回のエクササイズの紹介となるのです。

もったいぶってるわけでも意地悪しているわけでもないのです。

 

ただ、Aさんは遠方からの来院で、繁く通っていただくことができないため、

いっぺんに5つのエクササイズの紹介をすることになりました。

普通は無理なのですが、どのエクササイズも私のYOUYUBEのページ

動画で紹介しているものでしたので、なんとかなるだろうということで…(^_^;)

いやはや、文明の進歩って素晴らしい!

 

次にあう時には、故障の心配もなく、楽しく練習できるようになっていることを祈っています。

 


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