YOUTUBEにアップしました!癖になったねんざの治しかた Ⅲ|反復性捻挫のアスリートリハビリ

2021年03月22日 | スポーツ障害

昨年末(年始だったかな?)に撮影し、第2部の公開から大幅に遅れていた

足関節捻挫のリハビリ動画がようやく完結いたしました!!

動画では

「なぜその運動を選ぶのか?」

「その運動を選択する目的はなにか?」

「根拠となるメカニクスは?」

と、要所要所にリハビリの要点解説をちりばめた内容となっています。

もちろん一般の方にわかるよう、平易な表現でかみ砕いた解説を心掛けました。

ご趣味でスポーツをなさる方、選手として取り組まれている方、

そして、運動をご指導されている方に届けたい、

そんな渾身の内容を3本の動画に詰め込みました。

いやぁ、頑張った…

あとは一人でも多くの方に発信した情報が届くことを願っています。

もしよろしければ、ご覧になってみてください。

 

癖になったねんざの治しかた Ⅲ|反復性捻挫のアスリートリハビリ


リフターズケア:ケンビキ~肩背部から首筋へと広がる痛み~

2019年01月13日 | スポーツ障害

「ケンビキ」なんて言われてもピンときませんよね。

調べてみると古くは肩背部から首筋に広がる痛みをケンビキと呼んだのだそうです。

←痛むエリア

ケンビキという言葉には肩こりなども含まれていたそうで、転じてその対処法であった按摩術のことをケンビキとよぶようになった、という話もあります。

按摩術=ケンビキ、というのも一般の方にはなじみがない言葉ではありますね。

按摩・マッサージ・指圧をお仕事とするには按摩マッサージ指圧師という国家資格を取る必要があるのですが、

その専門学校に行くと按摩術の別称にケンビキというものがあると教わります。

それぐらいマイナーで、現在ではトンと聞かなくなったケンビキという言葉ですが、なんとウエイトリフティングではいまだ現役で残っているんです。

いちどわずらうと肩背部から首筋に結構シビアな痛みが長く続くといわれ、ウエイトリフティング業界(!?)ではウエイトリフティング特有の故傷として恐れられています。

ケンビキになると(故障の程度にもよりますが)痛みのためにシャフト(バーベルの軸)を肩に乗せることができなくなります。

酷くなると息をするだけで刺すように痛みが広がるともいいます。

さて、このケンビキの原因は何なのでしょう?

ウエイトリフティング関連の資料には痛みの原因を第一・二肋骨や鎖骨の疲労骨折に由来する痛みだとあります。

ですがその一方で、実際に症状を持つ選手を調べてみたところ、骨になんら問題が見当たらないケースも多くあったという報告もあります。

結局のところ、原因がつかみきれない謎に包まれた故障とされているようです。

でも、私の見る限りではケンビキの正体は斜角筋の故障と考えて間違いないようです。

私の出会ったケースでは斜角筋のトリガーポイントであったり、肉離れ、付着する肋骨の骨膜部分の傷跡(瘢痕)であったり、

中には第1肋骨の骨膜炎であったという例がありました。

 

斜角筋は呼吸の補助筋で前・中・後と三つの筋束を持っています。

前・中が第一肋骨、後が第2肋骨に付着しています。

この配置から、クリーンのように肩から鎖骨にバーベルを乗せる動作では斜角筋に強い伸張ストレスが加わることになります。

クリーン&ジャーク(バーベルを肩に乗せて立つまでをクリーンといいます)

筋や腱は引き伸ばされながら耐えるようなシチュエーション(等尺性収縮や遠心性収縮)では通常の収縮(求心性収縮)よりも高いパフォーマンスを発揮します。

ですが、反面そうした収縮様式は筋腱の損傷を起こしやすいというデメリットも伴います。

クリーンのようにバーベルを鎖骨から肩でキャッチするようなシチュエーションが度重なれば、

ダンパーの働きを担う斜角筋はオーバーユースによる故障が起きても不思議はないのです。

斜角筋の付着部に微小損傷が繰り返されると骨膜炎や疲労骨折を生じます。

ケンビキについて疲労骨折まで進行したケースにはまだ出会っていませんが、骨膜炎が生じるような状態を放置すれば次に待っているのは疲労骨折です。

故傷のメカニズムとしては下腿に生じるシンスプリント※と同じです。

※シンスプリントというのはジャンプ動作の繰り返しから生じた脛の裏にある後脛骨筋という筋肉とその付着部(骨膜)に生じた故傷です。

ジャンプ動作(≒走動作)の繰り返しで後脛骨筋が何度も引き伸ばされ、骨膜から剥がれるように傷が累積して発症しますので、

ケンビキで見られる所見と照らし合わせるとシンスプリントと同じ手合いの故傷だといえるのです。


ちなみにケンビキのケースに置き換えてまとめると以下のような病期が考えられます。

1期:斜角筋筋膜の過労~微小損傷・トリガーポイント形成

2期:軽度~中等度の肉離れ

3期:付着部の骨膜炎へと発展

4期:疲労骨折、さらには骨折

経過としてはおそらくそんなところだと考えています。

ケンビキの原因が画像でとらえ切れない理由は、

同じケンビキであってもダメージの程度が明確な組織の損傷ではなく「機能障害」にとどまる時期が混在するためだと思われます。

このように、一見するととらえどころのない摩訶不思議な故障も、「機能」を基準に故障を読み解くという徒手医学のスタンスではそう困ることなく治療の方向性を見つけることができるのです。

なので、名も知れないような故障の相談も得意とするところ。

こうしたケースに出会うたび、徒手医学というものは実に優れた医療体系だ感心させられます。

さて話をケンビキに戻しましょう。

斜角筋の筋腹に瘢痕組織やトリガーポイントを作っているケースでは治しやすいのですが、難治例というのがあるんです。

それは肋骨上面の傷跡(瘢痕組織)が痛みの原因になっているケースです。

この部分、首をハンドルとしたストレッチやASTRも筋-腱や腱-骨膜の移行部にできた傷跡(瘢痕)はなかなか追いきれないんです。

いろいろ試してみた結果、骨膜表面に居座る瘢痕組織への対処には鍼治療が良いようです。

鍼を鎖骨の下に通して瘢痕組織にダイレクトにアプローチするのですが、なかなかに治療の切れがいい。

でも、この部分は肺の真上ですので、鍼でのアプローチには細心の注意が必要となります。

鍼での治療を検討されるのであれば信頼のおける先生にお願いすることをお勧めします。

イチゲンでいきなりお願いするにはリスクの高い相談だと…思います。

 

ケンビキの治療では前述の斜角筋に生じた瘢痕組織の解放のほかに、

胸郭に付着している腰方形筋・外腹斜筋・腹直筋の緊張緩和や骨盤底筋の緊張緩和も重要です。

とっても、重要です。

どういうことかと申しますと、

腰方形筋・外腹斜筋・腹直筋は胸郭を介して、骨盤底筋は体幹深層筋膜上をたどって

それぞれ斜角筋と綱引きをしているんです。

「ラテラルライン とよたま日記」の画像検索結果

図版引用:アナトミートレイン 第二版

しかも、それらの筋群はどれも斜角筋よりもボリュームが大きく、配置されている位置も斜角筋よりも有利な位置にあるんです(重力を味方につけた位置関係にあるということ)。

それらの筋が縮んでいると斜角筋の緊張も高くならざるを得ません。

なので、斜角筋を回復に導くには関連するそれら背景要因としての緊張を見落とすわけにはいきません。

例えば、私が見たケースで骨盤底筋の筋膜リリースで斜角筋の緊張がなくなった、というケースがありました。

まさか骨盤底筋の極一部の繊維の緊張が遠く離れた斜角筋に大きな影響を及ぼそうとは…大いに驚いた例でした。

ちなみに、骨盤底筋を含む前述の筋たちの緊張が強いということは体幹の支持機能に低下があるということになります。

ですので、体幹筋と股関節周囲筋の協調性を高めるための運動処方が体幹深層筋の機能異常の対処として必要となります。

それに関してはコチラの動画をご覧ください。

「骨盤の歪み」「側弯症」の運動療法~簡易チェックと修正エクササイズ~

なんでもそうですが、「黙って横になればピタリと治る!」ということはないのです。(;_:)

ケンビキといってしまうとウエイトリフティングをされる方以外は関係ないと勘違いされてしまいそうですが、

「1期:斜角筋筋膜の過労~微小損傷・トリガーポイント形成」などは実はデスクワーカーにもよくある相談です。

特に華奢で繊細な方にはケンビキと同様のエリアの痛みの相談はままみられる相談です。

少ない筋量で長時間のデスクワークをするというのは身体にとってはなかなかにハードなタスクとなります。

特に座った姿勢では腹筋群が脊柱の支えに使われにくいため、股関節周囲筋や深層筋、起立筋群が過労に陥りやすいので注意が必要です。

疲労困憊してしまった当初は疲労へのケアも大切です。

でも、骨格を重力に負けることなく支える力、「抗重力機能」を向上させるという解決策もあることを忘れずに。

そのためには、ウエイトリフティングやパワーリフティング、お勧めです!

以上、大分寄り道しましたが、「ケンビキ」についてのお話でした。


スポーツ障害||その5  各病期ごとの対処3/3

2018年09月25日 | スポーツ障害

さて、大分お待たせしておりますが、ようやく最終回です。

長文となりますが、お付き合いください。

 

今回はStage2・1の対処について。

と、その前にちょっと復習。

 

Stage:運動開始時には痛みがあるもののアップで消える。

Stage:運動開始時に痛みがあるもののアップでいったん消えるがトレーニング(競技の練習)終盤に再び痛み出す。

 

この運動開始時の痛みの正体は、傷跡の引き攣れでした。

傷跡の硬さが動く中で和らいだ結果として痛みが消えるという段階がStage1・2共通の特徴です。

Stage2に進行するとトレーニング(競技の練習)終盤に痛みが生じます。

この終盤の痛みの正体はStage1よりも患部のダメージが深く、傷跡となった組織自体の耐久性が低いためにトレーニング(競技の練習)終盤には患部が耐えきれずに炎症が生じたことによる痛みでした。

そうした諸問題への対処を以下にまとめてまいります。

 

○基本のルール

実はリハビリ全般での共通したルールでもあるのですが、トレーニングの際には「患部の違和感を上限とした負荷設定」を厳守してください。

組織は健常な組織でも耐久限度上限近くの負荷がかかってきたときには痛みを生じます。

この負荷がかかり続けると壊れてしまうということを「痛み」という形で教えてくれるのです。

これは怪我を負った組織や委縮した組織でも同じこと。

そのキャパは正常な組織よりも低いので、より軽い負荷でも痛みとして感知されるわけです。

つまり、ギリギリ痛みが感じられるレベルの負荷であれば再受傷してしまうというリスクは回避できると考えることができます。

でも、だからと言って痛みを負荷の上限を判断する指標にするのは危険です。

ゆっくりとしたモーションで徐々に負荷を高めながらおこなうトレーニングであれば、組織が傷ついてしまう前のレベルでの痛みを感知できるでしょう。

でも、ジャンプやスプリント、投擲といったクイックな運動では負荷が一気にピークを迎えますから、患部が破綻してしまわない範囲のコントロールが難しいため再受傷を避けるには不向きです。

安全に使える指標は、故障した関節や筋腱にかかる負荷が危険水域に近づいたときに痛みより先に発せられる「違和感・不安感」です。

『あ、やばそう!』って感覚、怪我をしたことがあればお分かりいただけると思います。

この感覚をアプリヘンジョンサイン(不安徴候)といいます。

痛みを赤信号に例えるならばアプリヘンジョンサインは黄色信号といったところです。

より安全な指標として、アプリヘンジョンサインは非常に役に立ちます。

着実に回復するためには違和感・不安感を上限として、その上限までのパフォーマンスが回を重ねるごとに高まってゆくのを根気よく待つことです。

リハビリは慌てず急がず根気よく、です。

怪我の度合いにもよりますが、きちんと上記のルールに沿ったリハビリを積めば軽い故障で3~4週間、中等度で2~3か月で元のパフォーマンスまで戻ります。

ただ、重症例では半年からそれ以上かかったり、後遺障害として残ったりと結果はまちまち。

アクシデントによる怪我は別として、オーバートレーニングによるシビアな故障は負わないに越したことはないのです。

怪我をしてしまった時には目先の結果に固執しないでクレバーに振舞いましょう。 

 

○ウォーミングアップ「運動開始時の痛み」への対処

1、運動の可否の見極め

さて、Stage1・2の特徴としては「運動開始時の痛み」がありました。

これは患部に生じた炎症後の傷跡(繊維化・瘢痕化した組織)が運動時に引き伸ばされることで起こる痛みだと説明しました。

このように炎症の落ち着いた時期であれば動きながらストレッチがかかることで痛みは解消されます。

しかし、すべての動き始めの痛みが必ずしも炎症が落ち着いた後の痛みである保証はありません。

時にはまだ炎症が落ち着いていないせいで動作痛が出ている場合もあるのです。

その見極めにはStage3のときと同じく、MWMSがおススメです。

例えば肘が痛いとします。

そうしたときには肘関節のMWMsを行ってる最中の痛みの有無を診るのです。

この手法を行っているさなかに痛む場合は炎症が潜んでいるか、いまだ組織の回復が追い付かず脆いため自重での動作も控えなくてはならない状況にあることが分かります。

そうした反応が返ってきた際には2~3日、患部への運動刺激を外しましょう。

患部の状態が落ち着けばMWMsで痛むことはなくなり、安全にトレーニングに移ることができます。

 

参考資料として下記の動画をご覧ください。

MWMSの解説は0:38から1:38の部分となります。

 

テニス肘(上腕骨外側上顆炎)のセルフケア // とよたま手技治療院

 

無事にMWMSができる状態であればStage3の時と同じくスタビライゼーション(バランストレーニング)※に移り、競技練習への備えとします。 

「スポーツ障害その4」に肩関節をターゲットとしたMWMsとスタビライゼーションを含む動画を載せています。

話は少し脱線しますが、

私の介入では「競技練習」に移る前にウォームアップとして故障部位に対してMWMSとスタビライゼーションを取り入れています。

MWMsとスタビライゼーションを取り入れる理由は、患部の関節運動を正常化し、さらにこれから取り組む運動に耐えうる水準に関節の支持性を高めておかないと容易に再受傷してしまうからなんです。

不用意な再受傷を未然に防ぎ、着実な競技復帰を実現するのためにMWMsとスタビライゼーションは大いに役立つ手法です。

しかし、治療の領域で知る人ぞ知るMWMsも、リハビリの分野でお馴染みのスタビライゼーションも、スポーツの領域ではまだまだ一般的な手法ではないので、ここで伝えるうえで曖昧模糊とした話で終始してしまうのが歯がゆいところです。

私がスポーツの現場での仕事をする際には、これらの神経筋骨格系の機能を正常化する手法の数々を一連のルーティンとしてまとめてクライアントに提供しています。

「パフォーマンスチューニング」と名付けて提供しているのですが、まだまだ一般的な手法として広まっていないのでここで紹介したMWMs・スタビライゼーションはプラスアルファのお話として記憶にとどめておいてください。

2018/9/17横浜ベンチプレス大会・スクワット大会にて

パフォーマンスチューニングに関する指導依頼はとよたま手技治療院へ。

お待ちしています。

 

さて、脱線終了。

競技開始時の痛みの見極め(鑑別)の話に戻します。

 

MWMSですが、スポーツを指導される方にはぜひ知っていただきたい手法なので、そういう手法があるということを知っていただけたらと言及させていただきましたが、そもそもMWMSが一般的な手法ではありませんのでもう一つ現実的な対処を挙げさせていただきます。

例えば、痛む動作に対するパッチテストのような手法もあります。

以下に手順を説明します。

1、初めに痛む動作を選びます。

2、その動作の中でどの角度で痛みが出るのか、また自覚的な痛みの強さを確認します。

3、痛みを感じる角度の前に「張り感」や「違和感」「不安感」を感じる角度があるはずです。

そこまでの振幅で10回ほど動きを確認します。

4、一息ついてもう一度痛む動作を確認します。

痛みの軽減や痛まずに動かせる可動域の拡大などがあれば炎症や損傷の修復はひと段落ついていると判断できます。

つまりはその先のトレーニングができるということが分かる、ということです。

良性の変化があれば「3⇔4」を繰り返し、故障部位へのウォームアップとします。

 

○競技動作への取り組み 

Stage3・4での対処の主眼は怪我の回復と休養期間中の身体能力の低下をいかに阻止するかでしたが、Stageからはいよいよ競技復帰に向けた準備として競技動作を用いたリハビリに移ります。

ただし、対人競技ではゲーム形式の練習はまだ外しておきましょう

フェイントなどへ対応するためのランダムな体勢の変化に傷跡となった組織が耐えられるようになるのはもう少し先の話です。

まずは患部が競技に関する基本動作を競技レベルで行える状態になるまでの強化を目指しましょう。

初期にはジャンプ動作をともなわない、脚が地面に接地したままできる動作をゆっくりと正確に行うよう心がけましょう。

例えば、野球肩などではこの時期にゴムチューブ(セラバンド)を壁から引きながらの投球動作などを行うことがあります。

こうした例で私が注意するのはどの局面でも肩関節を弛緩させずに動くこと。

特にコッキングで肩関節前面の筋(肩甲下筋・三角筋前部繊維)が脱力してしまわないように注意を促します。

肩関節の違和感の出現を上限とし、スピードや負荷を上げてゆきます。

素早い動作でも肩関節を滑らかにコントロールすることができたらようやく軽いキャッチボールに移行します。

それも問題なければ徐々に出力を上げてゆきましょう。

でも、違和感が出たらそこまでです。

くれぐれも痛みに挑まないようにしましょう。

これがなにより一番重要!

何度も書きますが、痛みはその組織が持つ耐久限度を超える(もしくは超えそうな)刺激が与えられた時に生じるサインです。

回復のカギは患部に痛みが感じられない範囲の負荷に減らす工夫をすることです。

多くのケースでは「痛いながらも競技自体ができるから…」と痛みを我慢しつつ競技を続けてしまうのですが、それが落とし穴なんです。

それで切り抜けられるのは成長期にある18歳位まででしょう。

その回復も成長に向けた旺盛な代謝を日々繰り返される怪我の修復に浪費した結果なので、その間の努力は身体能力の向上にはつながりにくく、競技者としての成長も頭打ちとなっていることに注意が必要です。

中学~高校生の成長期は地力を高める大事な時期です。

その後の競技者としての成長も成長期に培った地力を土台に磨かれてゆくものですので、この時期には極力大きな地力を育てたいところです。

そのためにも不用意な怪我は「しない」「させない」

怪我をしたら長引かせずに治すことを第一に考えましょう。

「競技を続けていればどっかしらが痛いのは当たり前」とやってるうちにシビアな故障へと傷が深まっていったケースが五万とあるということはスポーツとともに青春を駆け抜けた経験を持つ方であればよくご存じのはずです。

過ちは過ちとして正視して、けして美談にしないこと。

次世代には同じ過ちを繰り返させないこと。

これは指導する大人の務めだと思います。

リハビリは先を見据えて、いたずらに競技への復帰を急ぎすぎず、おおらかに取り組みましょう。 

焦りは禁物です。

治り際が一番危ない時期ですから。

もうそろそろ復帰が見えてきた…なんてときに限って大きな故障を負ってしまう。

これ、結構よく聞く話なんですよね。

治療してきて断言できるのがこの時期に故障を繰り返す人はこの時期の過ごし方が絶対的に間違っているということです。

動けるようになるとすぐに元の練習メニューに戻してしまう。

そして、痛みがあっても練習の手を緩めない。

でも、そこに落とし穴があるのです。

そうしてしまう気持ちは痛いほどわかります。

動き始めの痛みもいったんは消えますし、終盤戻ってきた痛みもこらえられない程ではない…

しかも、そこそこの力が出せてたりもするわけです。

そうなると早く元の力を取り戻したくなるのが人情です。

しかし、患部にとって限度を超えたトレーニングが繰り返されれば再びStage3や4へと逆戻りしてしまいます。

ここは本来我慢のしどころなのですが、スポーツの現場では「競技をしていたら痛いのは当たり前」といった間違った観念が根づいていますので、そうした間違った対処を繰り返してしまうのも無理からぬことかもしれません。

しかし、改めるべきは改めないと…

戦略がものをいうようなスポーツだとだましだまし怪我と付き合っていっても競技者として上位に上ることもあるでしょう。

ですが、陸上競技やウエイトリフティングのようにフィジカルがものをいう競技ではそうはいきません。

選手としての人生は決して長くはありませんから、半年・一年のロスは非常に大きな損失です。

そうした損をしない(させない)ためにも故障に気が付いた時点で「今現在のベスト」にしがみつかずにクレバーな対応を心がけなくてはなりません。

勇気のいる話ですがすべての事象は理の中にあるのです。

強くなるには強くなる理があり、怪我をするには怪我をする理があります。

治るにも治るための理から外れることはないのです。

円滑な競技復帰のために選手も指導者もこの時期の過ごし方のルールを守っていただきたいですね。

安定した競技復帰を果たすためには患部の強度を健常な組織と同じレベルに引き上げるというステップを着実に踏むことが重要です。

その際の条件はもうご存知の通り、「痛みに挑まない」ことと「患部の違和感を上限とした負荷設定を守る」ことです。

ここを押さえてトレーニングを積んでゆけば安定的な回復を引き出すことができるのです。

 

○練習中に違和感が生じた際の対処

運動開始時の痛みを解消するためにMWMsなどのセルフケアをウォームアップに取り入れるようにお勧めしましたが、運動中に違和感が生じた際にも同様の対処を試します。

インターバル中にセルフケアを行って違和感を解消できるか試し、消えるようならばその先の練習へと駒を進めます。

しかし、アップで効果的だったケアエクササイズをしてもなお違和感が引かないようでしたら患部の組織はオールアウトしたと考え患部を使う練習はそこまでとします。

それから、ケアエクササイズがスタティックストレッチやラクロスボールやフォームローラーによる筋膜リリースであった場合、練習中に行うのをためらう方もいると思います。

理由はそれらの手法が運動神経を鎮静化させる効果を持つため筋出力が削がれるから、というものです。

でも、「痛み」というのはそれ自体が強力な筋力発揮の抑制因子です。

違和感のうちに散らせるものなら散らした方が力は維持できますし、正しく動ける状態でのトレーニングの方が安全性も運動による学習効果も高く、再受傷のリスクを低減できます。

こうした理由から、故障をしている時期には練習中にスタティックストレッチ/筋膜リリースを取り入れることも視野に入れてください。

故障時の特例みたいなものですね。

  

以下にセルフケアの一例として「肘の痛みの対処法」の動画を紹介します。

「特例」の手法の一例として、コンプレッションストレッチをご紹介しています。

肘の痛みのセルフケア|ベンチプレス、スナッチやジャークでの肘の痛みに~テニス肘・ゴルフ肘にもおススメ~

  

○テーピング/サポーターなどの装具による補強

これも上記同様、テーピングによって関節運動が安定するのならテープやサポーターの助けも借りましょう。

でも、油断は禁物です。

あくまで「痛みに挑まない」をルールとして遵守しましょう。

 

↓下肢の故障を例に

膝・足首の調整:ニーテープとアンクルテープ(TOYOTAMA TAPE)の張り方

動画の手法は関節のコントロールに関する深部感覚受容器に働きかけることで正常な筋バランスを取り戻す手法です。

状態が悪ければ筋バランスの改善では関節の支持性を取り戻せない場合もあります。 

そうした場合はエラスティックテープやコットンテープなどでの固定も視野に入れましょう。

 

○アイシング

練習後は速やかにアイシングをしましょう。

傷害された後の組織は脆い上に敏感で、すぐに炎症を起こします。

炎症という現象はまさに火事のごとく周囲の正常な細胞まで殺してしまいますので、ほったらかしにするとダメージからの回復に時間がかかってしまいます。

炎症が過度にならないようにとどめるために、練習後には速やかなアイシングお勧めします。

特にStage2ではアイシングを忘れないようにしてください。

氷嚢を使って10~15分のアイシング、氷嚢を外して5分の休憩。

これを2~3セット行います。

 

競技への復帰

運動開始時の痛みも癒えたあたりから実戦形式の練習に戻ります。

しかし、初めから10割の練習量をこなそうとせず、徐々に運動量・運動強度を上げてゆくようにしましょう。

経験上の話となりますが、Stage4からここまでの回復に係る期間は中等度で2~3か月、重症のものでは半年~といった印象です。 

Stage2と3を行き来して長くかかるものは途中でルールを無視して再受傷したケースです。

強い選手ほど「あと少し…」というところで魔が差してしまうので注意が必要です。

怪我をしたらバリバリだったころの自分ではなく今の自分を向き合うことが大切です。

それってすごく勇気のいることだったりするのですが、

そこをこらえて着実に積んでいければ怪我と痛みのループから抜けだせる日が来るということを記し、本シリーズの締めとさせていただきます。

以上、スポーツ障害への対処でした。

 

<あとがき>

人生100年時代。

健康余命やアンチエイジングへの関心が高まりを見せる今、高強度トレーニングへの理解も単純な「筋肥大」から神経系を含めた「機能強化」へと進化してきています。

スポーツをはじめとした活発な身体活動は美容と健康を保持増進するための力強い味方になります。

しかし、時に故障の憂き目にあうこともあるのも事実…

残念なことに一旦故障をした後の対処を間違うと、何度も同じ個所をを故障してしまったり、故障が身体のあちこちに飛び火するということもあるわけです。

でも、それは治しようのないものなのかというと決してそうではないんです(後遺障害は別として)。

故障を負った方の多くは痛みが引いたらすぐに元の運動負荷に戻してしまいます。

これが不味い。

傷が癒えたとはいえ怪我前より脆くなった患部にもとの強度の運動に耐えうる強度があるとは限りません。

むしろ、多くの場合は耐えられないケースの方が多いんです。

怪我を負ったあとは段階を追って故障個所を強化すること。

果てのない暗闇の中を進むような心細さを感じるかもしれませんが、明けぬ夜はありません。

事実、20代で半月板を削り取ったパワーリフターが30代で自己ベストを更新し続けるケースだってあるんです。

70代、変形した膝の痛みで歩くことすら辛い状態だったバレエダンサーも、きちんと手順を踏んだら再び跳ぶことができるようになったケースだってある。

それらは決して珍しいことではないんです。

彼らは絶望的な状況にあっても自分を信じて、あきらめずに、そしてクレバーに歩を進めた結果、競技復帰を手に入れたんです。

諦めず、そして焦らずに、コツコツと積み上げれば、またもとのようにスポーツを楽しむことができる日を迎えることができるんです。

この記事が故障のループから抜けられずに困っていらっしゃる方のもとに届くことを、切に願ってやみません。

 

2018/9/25 古川容司


スポーツ障害 || その4 病期ごとの対処2/3

2018年09月09日 | スポーツ障害

さて、前回の続きです。 

日常生活レベルの動作では痛まないが、痛みのために競技ができない状態にあるStage3では

患部の回復を積極的に促すためのセルフケアと並行して患部に負担をかけずに行えるトレーニングに取り掛かります。

だらだら書くと読みにくいと思いますので、項目ごとにまとめてみます。

 

セルフケアについて

具体的なアドバイスはケースバイケースなので、ここでは何を目的とするかについてお話します。

この時期、ダメージを負った組織はコラーゲンの繊維で覆われ瘢痕化し関節の動きが妨げられています。

ですので、まず手始めに関節の可動域を取り戻すことから始めましょう。

固くこわばった筋々膜に対してストレッチ、フォームローラー、テニスボールによる筋膜リリースなどがおススメです。

ただし、この時期の患部はデリケートなので刺激はソフトに抑えましょう

追いかけ過ぎは禁物です。

 

追いかけ過ぎにならないための工夫

1、はじめに関節の可動域を確認します。

  痛みを感じずに動かせる範囲を確認しましょう。

2、ストレッチや筋膜リリースを実施します。

  眉間にしわが寄らずにできる強さが目安です。

3、再度関節の可動域を調べ、可動性が広がっているか確認します。

  この時、痛みが強まったり可動性が1、の時よりも狭まるようならばセルフケアは中止します。

  好転しているようならば2→3を繰り返します。

そしてここがポイント‼  

ひとつ前のセットと比較して可動域の変化や痛みの軽減といった良性の変化がみられなくなったら、たとえ硬さや痛みが残っていてもそこで打ち止めとします。

一度に柔軟性を変えられる幅には限度がありますから、それを無視して痛みや硬さを完全に取り去ることに固執してしまうと刺激過多でダメージを負ってしまいます。

こうしたケース、結構多いのでご注意ください。

過ぎたるは及ばざるがごとし。

治るためには回復を待つ時間も必要な要件であることを忘れずに!

 

患部に負担をかけずに行えるトレーニングについて

これは工夫のしどころですね。

ただただ回復を待つのでは、故障によって損なわれた能力以外の能力も弱まってしまいます。

円滑な競技復帰のためにも患部に無理なく元気な部分を鍛えましょう。

例えばシンスプリントやジャンパー膝。

上半身のトレーニングなどを考えてみると、患部への負荷は排除できることが分かると思います。

ダンベルやマシントレーニングなど下肢への負荷のかからない種目であれば攻めた負荷設定でのトレーニングができますね。

他にも下肢の筋バランスの崩れを考慮した場合、体幹筋のトレーニングを行うなんて選択も可能です。

私の場合、ペルビックティルト(下に動画あり)やバランスボールなどのトレーニングを選択することが多いですね。

その理由は、末梢の故障の背景には体軸の機能不全が絡んでいるからなんです。

普段の練習ではできないレベルで徹底的にこの部位の能力を引き上げることに時間を費やすことで、

再発の予防や復帰後の成長の幅を引き上げる効果が期待できます。

このように、怪我というネガティブな事象も考え方ひとつでポジティブに活かしてゆくことが可能となるのです。

 

膝の痛みへの運動療法:ペルビックティルトによる下肢体幹の調整

 

 

患部の機能回復のための特殊な手法について

その1:MWMs

私の治療やケアサポートではStage2への移行を促すために運動併用モビリゼーション(MWMS:モビリゼーション・ウィズ・モーションズ)と言う手法を使います。

この手法は関節運動を妨げる硬さを安全に取りのぞきつつ神経制御を正常化する効果を持っていますので覚えておいて損のない手法です。

そもそも故障を負った関節は正しい軌跡で関節を動かすことができない状態にあります。

こうした関節はある方向へは動きを失い、またある方向への支えを失い、動かすたびにガタガタと異常な運動を繰り返してしまいます。(モーターコントロールの喪失)

この異常運動はトレーニングなどの反復動作による故障(RSI:反復性緊張損傷)の原因となりますので今後の運動訓練を始める前に正さなくてはなりません。

 

ちょっと話が脱線しますが…

じつはこうした異常運動、故障を自覚する前から存在しているんです。

スポーツ障害ではそうした無自覚に存在する異常運動の繰り返しで傷めてしまった、という側面があることを付け加えさせていただきます。

ちなみにこの無自覚な異常運動を「関節機能障害」なんて呼ぶのですが…話を本題に戻します。

 

重複しますが、異常運動をただすためには関節する骨同士が構造的に無理なく動くことを邪魔する「硬さ」を解消し、

構造的に無理のない動き収める神経制御(神経による筋肉のコントロール)を取り戻す取り組みが求められます。

これに対して、この運動併用モビリゼーション(MWMS)という手法はとても良い仕事をしてくれるということなんです。

運動併用モビリゼーションの適応条件は、このエクササイズを行う過程で「痛みや違和感を感じずにできること」です。

普通に動かすと痛い、でも、運動併用モビリゼーションでは痛まない!

ということであればGOサインです。

通常6~8回を良性の変化を確認しつつ、3~5セットほど行います。

まずは自重で無理なく関節を動かせるようになったら今度は負荷を高めてゆきます。

その2:スタビライゼーション

スタビライゼーションとは関節の安定性を再建するための運動療法の一つです。

MWMSよりも負荷が強くなるのでStage3の後期あたりから取り入れるます。

 

文章だけではわかりにくいと思いますので、MWMSからスタビライゼーションへの流れをまとめた動画を紹介します。

アスリートリハビリ~肩関節の調整から動的安定性の強化まで~

・肩関節のMWMS~3:47

・肩関節のスタビライゼーション3:48~4:58

スタビライゼーションは負荷の軽いものから順に紹介しています。

初めからすべてをやらなきゃならないのではなく、痛みや不安感のない範囲でできる種目を選んで実施します。

そうして関節の可動性と支持性が高まってきたところで徐々に競技動作に慣らしてゆきます。

 

続く


スポーツ障害||その3各病期ごとの対処1/3

2018年09月02日 | スポーツ障害

またまた間が空いてしまいました。

コンスタントに更新できず心苦しいのですが、ここの所忙しくって…

はい、いいわけです。

もういい年ですから泣き言いわずにやることやんなきゃですね…(-_-;)

 

さて、

前回はスポーツ障害の病期についてお話ししました。

スポーツ障害の病期は大きく分けて4つの段階があるという話です。

Stage1:運動開始時には痛みがあるもののアップで消える。

Stage2:運動開始時に痛みがあるもののアップでいったん消える。しかし、トレーニング(競技の練習)終盤に再び痛み出す。

Stage3:日常生活レベルの動作では痛まないが、痛みのためにトレーニング(競技の練習)ができない。

Stage4:常に痛みがあり日常生活レベルの動作も困難になる。

これを踏まえて、今回は各病期ごとの対処についてまとめたいと思います。

Stage1~4の順で紹介してきましたが、障害の回復は重症から軽症へと変化してゆきますので

対処編では状態の悪い順に説明することにします。

 

Stage4】

Stage4では傷の状態は強い炎症や損傷をきたした急性期と呼ばれる状態ですので競技は禁止です。

少なくとも受傷直後から3日は安静(動き回らず横になって過ごすという意味の安静です)にします。

セルフケアについて

受傷直後から強い炎症が落ち着き一心地つくまでは、痛めた個所以外の補強も避けましょう。

この時期には消炎剤の服用や患部のアイシング、患部の安静・保護を目的としたテーピングやサポーターなどの装具の使用を検討します。

ちなみに、患部に無理がかからないならば周囲の関節への穏やかなストレッチは可能です。

例えば後ろに反ると腰が痛むような場合、股関節前面の硬さ(股関節の伸展制限)や胸の硬さ(胸郭の伸展制限)を取ることで腰部の負担を減らし回復を促すことができます。

裏を返せば股関節や胸の動きの悪さを補うように腰部が働き続けたせいで腰部の故障をしたということなのです。

このように一部の関節に故障を負う場合、その背景要因として隣接した関節の動きの悪さが隠れています。

そうした背景要因への対処はStage4でも患部に負担がかからなければ行ってOKです。

ただし、その判断は一般の方には難しいかもしれません。

自身で判断する場合は「患部が痛まないこと」を条件としてください。

基本この時期はあまりいじくりまわさず身体が自身の傷を治すのを邪魔せずに待つ事が重要となります。

まさに果報は寝て待て。

受傷した組織の種類や損傷の深さにもよりますが、だいたい3~6日の安静で激しい炎症が落ち着き、自覚的にも一心地つける日がきます。

(血管網の多寡によって回復の速度に違いが出てきます。筋などの血管網の発達した組織は早く治り、靭帯や軟骨といった血管の分布が少ない組織の回復には時間がかかります。)

傷が浅ければこの時点で、深ければそこからもう数日待つと日常動作ができるまでに回復します。

日常動作ができるようになったことを確認したらSTEP3まで回復したとお考え下さい。

補足:損傷部位ごとの回復速度の目安※あくまで目安です

筋々膜の故障なら3日~1週間

靭帯や腱なら~3週間

軟骨や半月板、椎間板なら3~5週間

※傷がきれいに治るのではなく炎症や過敏性が落ち着くまでの目安となる期間です。

残念なことに軟骨や半月板、椎間板などの組織は一度傷つくとそのまま傷が残ることが多い組織です。

 

つづいてStage3…

と行きたいところですが、今日のところはここまで。

続きは次回!

なるたけ間を置かずに更新したいと思います(あくまで希望…)。

では!


スポーツ障害 || その2 障害の深さ~病期の話~

2018年08月14日 | スポーツ障害

さて、だいぶ空いてしまいましたが…

今回はスポーツ障害の「病期」についてお話しします。

 

「病期」というのは故障の深さを判断する指標のこと。

スポーツ障害の病期は大きく4つのステージに分けられます。

Stage1:運動開始時には痛みがあるもののアップで消える。

Stage2:運動開始時に痛みがあるもののアップでいったん消える。しかし、トレーニング(競技の練習)終盤に再び痛み出す。

Stage3:日常生活レベルの動作では痛まないが、痛みのためにトレーニング(競技の練習)ができない。

Stage4:常に痛みがあり日常生活レベルの動作も困難になる。

 

では、各病気を説明します。

 

Stage1では、ダメージを負った患部が一応の回復を終え「こわばっている」状態です。

私たちの組織は炎症後に縮むんですね。

それが引き攣れて痛むというのが「運動開始時の痛み」の正体です。

引き攣れた組織も動かされるなかでストレッチがかかり、引き攣れがなくなったことで痛みから解放されたというわけです。

しかし、ダメージを負った直後の組織は弱くなっていますので、

健常な部位に比べて運動後には強い筋肉痛に見舞われやすく、回復にも時間がかかります。

この時期に、患部の回復を待たずに健常な部位に合わせたトレーニングを重ねるとStage2へと足を踏み入れてうので注意が必要です。

 

Stage2ではいったん消えた痛みが終盤に戻ってきます。

これは患部が萎えて脆くなっているためです。

Stage1同様、患部の腫れは一応の終息を得たところからのトレーニングスタートなので、コワバリが取れた時点では痛みが消えます。 

しかし、度重なるダメージが十分に回復していないせいでStage1 よりも患部の運動負荷に対する耐久性が低いため、

後半はオーバートレーニングから局所的な炎症を起こしてしまうんです。

こうした状態に入った初期は練習後しばらく痛みますが、翌日には患部の「はり感」や「だるさ」に落ち着いたりします。

ここで油断してしまうんですよね。

特に成長期にある子供たち(~18歳)は回復力が高いのでこうした状況でも悪化を免れて現状を維持し続けたり、

持ち直したりするから見逃されがちなので周囲の大人はよくよく注意しなくてはなりません。

「悪化しないからいい」のではなく、旺盛な「成長する力」を競技力を高めるために使わずに怪我を治すために使い続けてしまっては競技力の向上につながりません。

本末転倒です。

成長期は地力を育む大切な時期です。

子供たちが貴重な「成長力」を無為に消費することの無いように、大人が目を光らせてあげてほしいなと思います。

ちなみに、練習後の痛みは徐々に長く残るようになります。

練習の翌日には引いていた痛みが翌日も残るようになり、終盤の痛みがより早い段階で現れるようになり…

それを無視し続けるとStage3へ足を踏み入れることになります。

 

Stage3ではさらに患部のダメージが深まった状態です。

状態としては炎症の一歩手前の亜急性期といったところです。

練習による患部の炎症が辛うじて収まってはいますが非常に不安定な状態だとお考えください。

この時期には日常生活動作は辛うじてこなせるものの、

競技動作のような強い筋力発揮には患部が耐えられなくなってきます。

ちょっと動くと脆くなっている患部が強い痛みを訴え、すぐに炎症を起こしてしまうような不安定な状態です。

本人が『これは病院に行かなくちゃダメかも…』と考えだすのもこの時期。

でも、試合が目前に控えていたりすると『今は病院に行っている場合じゃない』と無理を押して練習を継続したりします。

仮にこの時期、病院でレントゲンやMRIをとっても大きな損傷が見つかることはあまりありません。

「大した怪我ではない」と太鼓判を押されてしまうことすらあるので気を付けなくてはなりません。

画像診断的には大した怪我ではないと言われても、痛みの出方が「このあとビッグウェーブが来る」ことを物語っているんです。

なので、この時期に入ってしまった時点でアウト。

治療・回復に専念しなくてはならないんです。

本人の気持ちを考えると、それを宣告するのが身を引き裂かれるほど辛い。

でも、その後の競技人生を大きく左右する事態なので、冷静な判断が必要となります。

この時期に無茶して頑張るとStage4へと移行してしまいます。

 

Stage4では急性期、つまり怪我の状態になります。

痛みのために日常の動作に支障が出てきますし、練習どころではなくなります。

なので、病院嫌いの人も観念して病院へ行くのもこの時期。

そして、レントゲンやMRIで初見が取れだすのもこの時期です。

ちなみに、画像診断上「大したことないけどね」って言われることもままあるのですが、

症状の出方で判断した方が良い。

ここまで酷くなると怪我自体が治るのに数週間(以上)、そこからリハビリに数か月。

当然、長期の練習からの離脱が待っています。

しかし、多くのケースで痛みが落ち着いたら急に練習を再開してしまうんですよね…

たとえば膝を痛めた選手がいたとします。

「痛みが落ち着いた!よし、まずは軽くジョギングから!」

よく見る光景ですが、これアウト!

痛みが引いても患部は萎えてしまっていますから、安全で正しい関節運動を維持できません。

少なくとも「走る」という瞬発的な筋力発揮をともなうような動作はリスキーです。

運動を安全に行うには、膝関節が正常なコントロールを取り戻せていないといけません。

私だったらスクワットテスト(しゃがみ動作と起立動作)やランジテスト(踏み込み動作)といった一連の動作で

下肢-体幹に異常運動(ニーインやニーアウト、トレンデレンブルグやデュシェンヌ)が出ていないことを確かめてからGOサインを出します。

異常運動を認めた場合は異常運動を修正するための一手を打ちます。

それにはバランストレーニング(関節のスタビリティの再建)やフォームを意識した軽負荷でのスローリフティング(スクワット・リバースランジがおススメ)が有効です。

でも、現場ではそもそも問題を抽出する「評価スキル」が浸透していませんから、

「痛みが落ち着いた!よし、まずは軽くジョギングから!」となる…(-_-;)

故障個所の異常運動(←関節ががたついた状態をイメージしてください。)は意識にのぼりにくい上に故障の原因そのものです。

そうした問題をそのままにして運動を繰り返せばどうなるでしょうか?

「復帰⇔再受傷」の繰り返しとなるのです。

再受傷のたびに患部は脆くなってゆき、競技成績は下行の一途をたどり

最終的には競技を継続できず引退…

 

私もそうでした(´-ω-`)

でも、いまはウエイトリフティングをできるまでに回復しています。

やりようはあるんです。


次回は各病気ごとの対処についてお話ししたいと思います。

 


アスリートリハビリ~肩関節の調整から動的安定性の強化まで~

2018年08月01日 | スポーツ障害

書きかけのシリーズもあるのですが、肩の障害の相談でちょうど強化の段階に差し掛かってきた患者様が増えてきたので、参考資料として動画を挙げさせていただきました。

肩に限らず関節の故障の後、痛みが落ち着いたからと競技復帰したがすぐにまたぶり返してしまった…

という経験を持つアスリートは多いのではないでしょうか。

その理由は意外と簡単なんです。

 

痛みが引いた≠元に戻った

 

このことをイメージできないために、知らず知らずの内に患部に無理を強いてしまうことが再発を繰り返す原因です。

再発を繰り返してしまわないためにも競技復帰の前に患部の動的安定性を育むという一歩を踏んでいただきたいと思います。


この動画は肩関節の故障を例に「痛みが落ち着いてきた辺り」から行うリハビリのメニューを紹介しています。

 

ウエイトリフティング(ジャーク動作での故障)を対象に話を進めていますが、どのスポーツでの肩の故障でも活用いただけます。

野球肩の方にもおすすめです。

 

後半の強化のためのエクササイズは痛まずにできるものを選び、

やり込んでオールアウトを狙うのではなくゲーム感覚で「いかに上手に再現するか」を目標に取り組んでください。

 

故障後のガタついた関節を競技レベルでコントロールできるようになるためには、

その取り組みが神経系の適応を狙うトレーニングであることと同時に支持強度の向上にも役立つものであることが大事。

 

回復の時期による「神経系の適応」と「支持強度の向上」の優先順位を考えると、

たとえ軽負荷であっても正しい関節のコントロールが成されることが最初の課題となるので、

初期には動画の前半にある「肩の調整」のみか極軽負荷でのバランストレーニングでの対応となります。

 

その次に来るのが強い負荷でもコントロールを失わない強さを手に入れるという課題となりますので、

動画の後半を占めるバランストレーニングが主軸を占めて行くことになります。

 

競技復帰はそれらが充分にクリアできたあとの話。

 

動画の手法は神経制御の正常化と強化をバランスよく行える方法となりますので、

肩関節のスポーツ障害からの円滑な競技復帰、そして障害予防の一手としてお役立てください。

 

【アスリートリハビリ~肩関節の調整から動的安定性の強化まで~】


スポーツ障害 || その1・スポーツ障害とは

2018年07月28日 | スポーツ障害

さて、今回から数回に分けてスポーツ障害について、病態や病期、その対処についてまとめてみたいと思います。

まずはスポーツ障害という障害の解説から。

スポーツ障害というのはスポーツを通じて負ってしまった怪我のことですが、

大枠としては以下の二つに大別されます。

1、外傷

ラグビーやアメフトのようなコンタクトスポーツをイメージすると解り易いと思いますが、スポーツシーンでは不意に予期せぬ大きな外力にさらされることで故障を負うことがあります。

2、オーバーユース

いわゆる使い過ぎによる故障です。

身体を活発に使うということは決して悪いことではないのですが、何事も過ぎたるは及ばざるがごとし。

そもそもトレーニングで身体が強くなるメカニズムはトレーニングによって筋や腱、靭帯といった運動器に小さな傷(マイクロトラウマ)を入れ、そのごく小さな傷が癒えるとき、トレーニング前よりも強く大きく育つという「超回復」という現象がベースになっています。

もちろん、筋や腱が強くなるだけではありません。

血管の弾力性や骨の強化、神経機能の向上なんかも起こるんです。

運動が成人病や痴ほうの改善にも良いとされるのはこのためなんですね。

このように、適度な運動はアンチエイジングの妙薬ともいえそうです。

ちなみに、トレーニングがこの超回復につながるかどうかは適度な運動、適度な休養、適度な栄養補給がバランスよくなされているかどうかにかかっています。

 

これに対して過度なトレーニングとはどういう状況か考えてみましょう。

効果的なトレーニングをしたい場合、トレーニングによるダメージ(マイクロトラウマ)が回復したタイミングで次のトレーニングを行うことが効率的なトレーニングの条件となる、というのはご理解いただけると思います。

しかし、十分に回復しないままトレーニングを繰り返すことになりますと、筋や腱に小さな傷が蓄積してゆきますので、それらは次第に大きな傷=怪我へと発展してしまいます。

回復も待たずにトレーニングを繰り返すことのダメージは筋や腱だけではありません。

運動をコントロールしている神経自体が過労によってスペックが著しく落ちることで中枢性疲労というものも起こるんです。

ここまでくると「オーバートレーニング症候群」となります。

「神経の過労=中枢性疲労」これ、結構厄介なんですよね。

神経はいったんダメージを負うと回復が遅いんです。

しかも中枢性の疲労は自律神経の失調として現れます。

意欲や食欲の減退や全身の倦怠感、動機や不整脈なんかも起こりやすくなります。

自律神経がうまく機能しないと回復のためのスイッチが入りにくくなるので一旦こうした状況に陥ると長期化しやすいんです。

詳細は省きますが、こうした中枢性の疲労には脳の深部にある海馬という記憶や自律神経のコントロールに関する器官のダメージが絡んでいます。

この海馬のダメージ、実はうつ状態と関連が深いんです。

ダメージを負った海馬はストレスを回避して休養を取らせれば数週間で回復するとされていますが、このストレスを回避して…というのがなかなか難しく、精神安定剤の力を借りなくてはならないこともあるんです。

そこまでに至る前に適宜対処してゆきたいところです。

では、そのオーバーユースによる故障が深まるとそのレベルに応じてどんな症状が生じるのか、

次回はスポーツ障害の病期についてご説明します。


ジャークで刺すと痛む腰~伸展型腰痛では後脛骨筋の故障を見流さないように!という話~

2018年04月27日 | スポーツ障害

今回は腰痛の話です

相談の主はウエイトリフターのA君

あ、

相談者が特殊だからと言って『自分には関係ない』とは思わないでくださいね(^^;

ちゃんとみなさんに関係のあるお話しです

 

A君からは1か月ほど前に左のシンスプリント(ふくらはぎの奥にある後脛骨筋の故障)の相談を受けたことがありました

今回はふくらはぎではなく左腰が痛いというのですが、ちょっと珍しい痛み方でした

A君の腰痛はいわゆる「伸展型腰痛」です

このタイプの腰痛は「立ち際」や「後ろに身体を反らせる」といった動作で痛むのですが、

A君の腰痛の珍しいところはそうした動きでの痛みは比較的小さく、なんとジャークを刺したときの痛みが一番大きいというのです

ジャークといわれても解らない、という方のために動画を用意しました

ひとつご覧になってみてくださいm(__)m

脚を前後に開き、両腕をビシッと伸ばす動作が「刺し」です

A君の腰はこの「刺し」の動作で強く痛むというんです

伸展型腰痛の原因としてメジャーな筋は大腰筋です

大腰筋とは腰椎の前面から股関節の内側に延びる筋肉で、

ここを傷めると立ち際や伸展動作といった、股関節を後方に伸ばすような動きにともなって腰部起立筋に沿った腰痛が現れます

A君を調べたところ、やはり大腰筋の痙攣が見つかりました

(↓大腰筋)

早速カウンターストレインというテクニックで大腰筋の痙攣を抑えたところ、立ち上がりや伸展動作での痛みはなくなりました

しかし、ジャークの動作を確認すると途端に酷く痛がります

それどころかせっかくなだめた大腰筋の痙攣がまた元に戻ってしまい、治療も振出しに戻ってしまいました

こうしたリアクションから『椎間関節のダメージ(怪我)に由来する痛みなのではかなろうか?』とも考えましたが『いや待てよ…』と…

『確かシンスプリント(後脛骨筋の損傷)をしていたな…』とA君の既往歴が脳裏に浮かんだんです

↓後脛骨筋

後脛骨筋と大腰筋は内転筋や骨盤底筋群などを介して筋連結を持っていて、互いに強く影響しあう筋です

ぎっくり腰なんかで腰を触れないような時期には後脛骨筋のボールマッサージで大腰筋の痙攣を抑えることもできるぐらい、互いに強い影響力を持っています

A君の場合、シンスプリントという後脛骨筋の故障の既往があるので、後脛骨筋に残る瘢痕組織なりが大腰筋の痙攣を生んでいるのかもしれないと考えたんです

確かめるために後脛骨筋へキネシオテープを貼って見たところ、ドンピシャでした

大腰筋へのアプローチをしていないにもかかわらず痛まずにジャークを指すことができました

おそらくシンスプリントのダメージを引きずる左の後脛骨筋にジャークの動作で負荷がかかり、その影響を受けて大腰筋の痙攣が生じていたのでしょう

大腰筋の痙攣は二次的な症状だったということです

その後、左のふくらはぎを丹念に調べてみると、やはり後脛骨筋に瘢痕組織が見つかりました

瘢痕へのアプローチを丹念に施し、この日の治療は終了しました

3日後、A君からは痛まずに試合ができたとうれしい報告をいただきました

通常だったら腰椎部の外傷性の痛みと考えてもおかしくないシチュエーションだっただけに、

後脛骨筋のトラブルを見落とさずに拾うことができて良かったなと思います

しかし、後脛骨筋の傷跡が大腰筋にあそこまでドラマチックな症状を引き起こすとは…

やはり臨床という現場仕事は学びの宝庫だなと改めて感心させられました

これからも見落としのないようしっかり診断の眼を光らせてゆこうと気を引き締めた症例でした

END


トレイルランと膝外側痛:セルフケア動画あり

2017年10月21日 | スポーツ障害

2~3週間前の休日(月曜日・平日)のこと、

何を思ったか、人生初のトレイルランに挑戦してまいりました。

この日は午前中にウエイトリフティングを2H。

調子もそこそこいい感じ。

気分よく練習を終えたその帰り道。

ふと

『温泉に浸かりたい!』

と猛烈な温泉欲にとられまして…

トレーニング場が小田急線沿線でしたので、最初は『箱根に行ってしまおうか?』

なんて考えてたんですが、スマホをいじっているうちに

『どうせなら有酸素運動で汗を絞ってからビール&温泉を楽しみたい!!!』

と欲が出て、悪ノリ半分で高尾山を訪れたのでした。

この高尾山、ご存知の方も多いと思いますが、長短いろんなコースがあるんです。

電車の中では一刻も早くBEERと温泉を楽しみたかったので『一番短いコースを選ぼう』と考えていた私。

でも、高尾山に着いてみると『自然を感じたい…』とまた欲が出てきまして、沢伝いに登る6号路(90分のコース)をチョイス。

コースの入り口までは『ゆっくりと自然を噛みしめながら登ろう』と思っていたのですが、

そこにお仕事のメッセージ(Messengerっていうのを使っています)が届きます。

実は11/12に神奈川県で行われる

第22回神奈川県ノーギアパワーリフティング選手権大会・第21回神奈川県ノーギアベンチプレス選手権大会

で徒手医療協会としてイベントを行う事になっておりまして、

この日はそうした事務連絡をする日でもあったんです。

お仕事の話はスムーズに終わり、休日の解放感からか

「ちょっと山に来てるのよ(´∀`*)ウフフ」

とかなんとか送ったところ

「走れ!40分で登頂せよ!!」

とのメッセージが届きます。

流石は体育会系。

「頑張ります!」

とご返杯。

とはいえこれはお互い軽いジョーク。

まさか走ろうなんてこれっぽっちも…

これっぽっちも!?

 

いや、どうだろ? 

 

できるかな?

 

最近だいぶコンスタントにトレーニングしてるしな…

 

行けるんちゃうか!?

 

行くか!?

 

よし!行ってみよう!!!

 

と魔が差しまして、登山からトレイルランに変更と相成りました。

とはいえ初トレイルランですし、かつ高尾山は登山者も多いので他の人の迷惑にならないよう

「人がいるところでは歩く」をルールにスタートを切りました。

急に思い立ったので、ウエイトの練習道具やびしょびしょの着替えなどでパンパンのリュックを担いだまま。

一瞬『駅のロッカーに荷物を預けようか』とも考えたのですが、また駅まで戻るのもおっくうです。

『これもいいトレーニングになるやもしれん!』

と根拠のない自信を胸に所要時間90分の沢伝いのコースを走ること50分(2/3は歩いてましたが…)。

無事山頂に立つことができました(;´Д`)

途中3~4分の休憩を3つとったので、もう少し頑張れば45分ぐらいまでは縮められそう。

でも、40分はちょっと難しかったかな、といった印象でした。

 

山頂は多くの人で賑わっています。

茶屋もあって、「生ビール」の文字が目に眩しく映りますが、ここはぐっと我慢の子。

その強力な誘惑を

『もっと美味しいビールを飲んでやるんだ!』

とこれまた強い煩悩で振り払い、

帰りの道も走ることにしたのですが…

これが間違いのもとでした。

登りのタイムに気をよくして

『下りはもっと早く帰れるはず』

と走り出すも残り1/3というところで膝痛出現…

 

なんと教科書通りの腸脛靭帯炎を背負い込んでしまいました。

『せめてリュックを駅に預けていれば…』と後悔の念が脳裏をかすめます。

早くふもとの温泉でビールを煽りたかったのですが、

はやる気持ちと数百円をケチるケチ根性がアダとなった感じです。

なってしまったものは仕方がない。

腹をくくってその場でできうる対処(治療ですね)をすることに。

傷めているのは上の図の赤い斜線のあたり。

腸脛靭帯(膝の側面)と外側広筋(四頭筋腱部と腸脛靭帯の交差部遠位)です。

腸脛靭帯のテンションを下げるために筋膜張筋のストレッチ(スイッチバックという手法)をし、

外側広筋の緊張(スパズム)をなだめるのにポジショナルリリースを行います。

上の図の赤線のあたり、腸脛靭帯と外側広筋の滑りも悪かったので筋膜リリースも掛けました。

さらに、下肢の屈伸で働く膝周囲の筋肉たちの協調性をただすMWMSまで行ったところで一先ず治療を終えました。

軽く走って見たところ痛みは1/4ほどといったところ。

※当院に来ていただいている皆さんにはお馴染みのセルフケアとしてお伝えしている「あれ」です。

膝関節のMWMSの動画はコチラ↓

1/2

2/2

古い動画ですみません…

しかし、走り出すとじきに痛みもぶり返します。

そりゃそうです。

患部がダメージを負って炎症を起こしている最中ですから、本来的には運動自体を中止したいところです。

でも、ここは山。

自力で降りなきゃどうにもこうにもなりません。

そこで、いままで登山やトレランで膝を傷めて相談にいらした患者さん達から聞きかじった対処法を実践することに。

その対処法は…

 

斜面の方を向いて後ろ向きに降りる!

 

すれ違う方に奇異の眼で見られつつも、これなら痛みなく下り降りることができそうです。

斜面に向き合って下ると痛みが感じられなくなったカラクリは股関節と膝関節の角度にあります。

腸脛靭帯炎は腸脛靭帯が大腿骨の突起(外側顆)との摩擦で生じますが、

その摩擦は膝が20~30度の浅い曲げ伸ばしで生じます。

基本的にはこの浅い角度の曲げ伸ばしが繰り返されることで腸脛靭帯炎が生じるのです。

なので、長距離走の選手には起こりやすく、短距離走の選手にはそうそう起こることが無いのです。

上の図から、斜面を背にくだる動きと向きあってくだる動きの

膝の角度を比較すればお判りいただけると思いますが、

膝の角度は右の「斜面に向き合う方」がふかく維持できているでしょう!?

さらに股関節の角度のふかさも斜面を向いている方が深い。

このことも腸脛靭帯の負荷の軽減に役立ちます。

腸脛靭帯は大腿筋膜張筋という股関節の筋肉とつながっていて、

この筋が引き伸ばされるようなシチュエーションでは靭帯の張りも強くなりますので、

股関節を伸ばしたところから膝を曲げると

大腿骨と腸脛靭帯の摩擦が強くなってしまうのです。

↑股関節の角度に注目。

斜面を向くことで股関節が深く曲がると筋膜張筋が緩みますから

腸脛靭帯も緩み、負荷も和らぐといった効果が得られるわけです。

さらに、後ろ向きで下る際に膝周りで働くのはハムストリングスとなりますので、

外側広筋を極力使わずに済むという点も大きな利点です。

 

その後も治療で痛みを散らしつつ、後ろ歩き(走り)でくだり

どうにか無事にふもとまで降りることができました。

山頂で目指した時間よりは遅れたものの、1時間での下山となりました。

そして、無事にBEERと温泉にありつくことができ、めでたしめでたし。

しかし、膝が腫れているのにBEERと温泉…

本当はNGなんですけどね(;^ω^)

 

その後、膝の故障はどうなったかというと、

そもそも軽症だったのと適宜治療した甲斐もあり、

受傷後3日でウエイトリフティングができるまでに回復しました。

明日はウエイトリフティングの試合に出場予定ですが、膝の不安はありません。

でも、受傷時は結構シビアな痛みが出ていて冷や汗ものな状況でした。

患者さんから膝を傷めた時の下山法を聞いていなかったら正直ヤバかったです…(+_+)。

患者さんに感謝です!!

この一件でトレランにのめり込む、ということは今のところはなさそうですが、

今回の反省を踏まえ、この秋の内にもう一度山を走ってリベンジしたいと思います。

次は何とか無傷で走り切ろう!

<おまけ>

○腸脛靭帯炎のセルフケア

・大腿筋膜張筋を中心に股関節外転筋群の過緊張への対処:テニスボールマッサージ

・外側広筋のトリガーポイントへの対処:テニスボールマッサージ

・ペルビックティルト

腹壁の諸筋による骨盤前面の支持性が高まることで下肢の筋バランスの正常化を引き出すことができます。
特に四頭筋や大腿筋膜張筋を含む股関節屈筋群の過緊張の緩和に効果的です。

・POINT!

セルフケアエクササイズを行う前にスクワットテスト(その名の通りスクワットをして痛みの程度や膝の曲がり具合を確認するテストです)と左右の腿上げを行ってからエクササイズに取り組んでみてください。

エクササイズ後にもスクワットと腿上げをしてみると、エクササイズの効果を確認することができます。


クライマーズ・インジャリー~下山時の膝外側痛~

2017年10月20日 | スポーツ障害

秋です。

読書の秋、

食欲の秋、

スポーツの秋、

そして登山の秋!

ということで、

今回は登山をされる方から寄せられることの多い、

あの!

「下山途中に出現する膝の痛み」についてお話しします。

上の写真では登っていますが、下山時の膝痛の話です。

え?

山登らないから知らない?

ですよねぇ…

山登りやトレイルランをする方からはよく聞く相談なんですけどねぇ…

これを書きながらも

『ちょっとマイナーなところを攻めすぎたかな…』

と不安が少々(*_*;

でも、ここまで来たら書き切ろうと思います!

 

相談者は60代男性のAさん。

Aさんはテント泊をしながら登山を楽しむという本格派。

時には山中で5日も6日もテント生活をおくるのだそうです。

しかし、今年は春先に痛めた膝が治らず

オンシーズンにもかかわらず「お散歩」程度の山歩きで我慢の日々。

お散歩程度にもかかわらず膝の痛みは続き

思うように回復が進まず困りはてたAさん。

そんなとき、Aさんのスマホが引っ張ってきた治療院が

我が「とよたま手技治療院」だったのだとか。

Aさんのような下山中に膝が痛みだすという症状の出どころの多くは外側広筋と腸脛靭帯です。

↑黄色く色分けされてるのが外側広筋と腸脛靭帯です。赤い斜線は痛む箇所です。

傷病名で言うと腸脛靭帯炎とされることが多いのですが、

どうも外側広筋の故障を見落とされることが多いように思います。

この手の相談の治療で私が持つ印象は、

腸脛靭帯炎と言われつつも実際のところは外側広筋の筋膜炎であったり

腸脛靭帯炎との合併であったりと、外側広筋の故障が絡んでくることが多いと感じています。

しかし、なんで下りで外側広筋と腸脛靭帯が痛んでしまうのでしょう?

その仕組みはいたって簡単です。

膝は曲げる際にはすねの骨が大腿骨に対して内旋(内へと捻じれる)し、

伸ばし切る際には外旋(外へと捻じれる)する構造を持っています。

下り坂を歩く(走るも同じ)ときは脛が曲げられるのを耐えるように

膝を伸ばす筋肉をブレーキとして使います。

この時、見た目上すねは折りたたまれ、同時に内へ捻じれる方向へと

押し込まれてゆきますが、ブレーキとして力が発揮される方向は

押し込まれまいと耐える方向、つまり脛を外捩じりし膝を伸ばす方向となります。

その方向へと力を発揮するのが外側広筋と腸脛靭帯(筋膜張筋)なんですね。

両者はすねの骨を外へ捩じりながら膝を伸ばす作用を持った筋肉なので、

下り坂で両者はダイレクトにブレーキとして使われるのです。

※腸脛靭帯は股関節外側で大腿筋膜張筋という筋肉につながります。この筋は腸脛靭帯のテンションをコントロールしています

筋肉や腱は引き伸ばされながら使われるようなシチュエーションでは

発揮できる筋力が通常の収縮よりも大きいものの、

その反面傷つきやすいという事実があります。

※腸脛靭帯は大腿筋膜張筋という筋肉につながりますので大腿筋膜張筋にとっての「腱」と考えることができます。

「引き伸ばされながら筋力を発揮する」といった

筋肉の収縮様式(働き方)を「遠心性収縮」と言いますが、

ブレーキとしての働きをになう外側広筋と腸脛靭帯は

下り坂を下るというシチュエーションにおいて

過度な遠心性収縮の反復を受けて傷つき故障してしまいやすい

というのも道理の通った話なのです。

これが下山時の膝の痛みの正体です。

 

さて、いつも通り寄り道がはなはだしい感じですが、

Aさんの膝の治療の話に戻りましょう。

正確な治療は評価から!ということで

スクワットテストという検査を行います。

スクワットテストでは「しゃがみ・立ち」の動作をチェックすることで、

・どの程度膝の動きが障害されているのか?

・どういった動きの狂いが出てくるのか?

を確認します。

Aさんの場合、左膝がしゃがみ切るのにあと15度足りないといった状態でした。

動きの狂いはスクワットを通じてつま先を膝が外に外れる「O脚」を呈しています。

幸いスクワット全体を通じて痛みは下にしゃがみきった時の膝外の痛みのみとのことでした。

これは炎症や損傷がひとまず落ち着いたときの兆候です。

つまり、Aさんの膝は徒手医学的な治療を存分に行える時期にあるということが、この痛みの出方を見るなかで判断できるのです。

そこからさらに詳細な評価をしたところ、Aさんの故障に対する治療上の問題点(主なもの)は以下の4点となりました。

・股関節外転筋群の短縮(これがAさんのO脚の原因でした。AさんのO脚は骨格的な問題ではなさそうです。)

・腸脛靭帯と外側広筋の癒着(炎症後の組織はしばしば癒着という隣同士の構造がへばり付いた状態に陥ります。)

・外側広筋のトリガーポイント形成(遠心性収縮によって微小損傷を繰り返した傷跡ともとらえることができます。)

・骨盤前面の腹壁による支持性の低下(下腹部の筋が下肢の土台となる骨盤を支え切れていないと股関節以下の筋が過緊張してしまうのです。)

評価で得られた所見から、Aさんの「下山時の膝の痛み」と運動障害は「腸脛靭帯と外側広筋の癒着」と「外側広筋のトリガーポイント」によるものだということがわかりました。

それらが起きやすくなる背景要因としては股関節外転筋群の短縮と体幹の不安定性という判断です。

 

治療としては通常炎症があるケースではやはりアイシングと安静が重要になります。

炎症が起きているときには患部をいじくるのはNGです。

炎症は3~6日で落ち着きます。

焦らず待つこともこうした状況では大切なことなのです。

炎症が落ち着いたら患部に生じた炎症後の癒着や繊維化を除く処置に移ります。

幸いAさんの膝は炎症期を過ぎており、すぐにそれらへの処置が開始できました。

治療後、スクワットはボトム(一番下)までしゃがむことができました。

切り返して立つ動作も痛まないと言います。

第一段階はこれでクリアです。

しかし、登山に耐えられる強さが取り戻されているかというとそれは別の話です。

山歩き、とりわけ痛みが出る下り坂を歩き切るだけの強度を取り戻すため

今の患部の強度に合わせて鍛える必要があります。

ここは「治療」ではなく「強化」なのです。

アスリートリハビリ、と言ってもいいでしょう。

また、同時に背景要因の「骨盤前面の腹壁による支持性の低下」への取り組みも必要です。

再びキチンと山登りができるようになるためには「目先の痛み」の解消だけでは不十分なんです。

完全復帰を果たすためにも

「膝に無理がかかる条件」が残っていたり、

そもそもの両筋腱(腸脛靭帯と外側広筋)の強度が山登りに耐えうる強度に届いてない

という問題が解決されなければ再発を繰り返してしまう

ということへの理解を患者さん自身がもつことがとても重要になってきます。

これはどの故障の相談でも言えることですね。

何度も書きますが、再び登山を楽しむためにはキチンと全身との連動性の正常化と

患部の強化の道筋をたどらなくてはなりません。

Aさんには、少しでも回復を早めるためにも自宅でできるケアをご提案しました。

中身は筋膜張筋をはじめとした外転筋群や腸骨筋・大腰筋や腰部起立筋へのテニスボールマッサージ。

これは炎症部位をいじらないので腫れがある初期でも安全にできることになります。

腸脛靭帯炎のケースならば大腿筋膜張筋を緩めることで靭帯と大腿骨との摩擦が緩和できますし、

外側広筋の故障のケースであっても股関節の伸展可動域を拡大し骨盤の前傾を緩和することで

膝にかかる力学的負担を軽減することができますので、

どちらのケースでも患部の回復を促すのに役立ちます。

さらに下腹部の骨盤前面への支えを取り戻すための体操として

「ペルビックティルト(骨盤傾斜の意)」を言うエクササイズを処方しました。

Aさんは初回の治療で痛みなくスクワットができるようになったと言っても

まだまだ治療は2~3合目といったところ。

今はまだ本格的な登山はできません。

恐らく今期は日帰り登山で我慢となるでしょう。

経験上はコツコツ運動療法にも取り組めば次のシーズンで復帰できるようになるだろうという目測です。

ですが、まだオンシーズンとのことですので、魔が差さないとも限りません。

回復期に魔が差すと大きなお釣りをもらうケースをよく見ますので、気を付けていただきたいところです。

以上、「下山時の膝外側痛」でした。

~終わり~


故障をした時も攻めのトレーニングを諦めない!!~「痛み」の有効活用法~後編

2017年03月22日 | スポーツ障害

さて、前回の続きです。

前回は傷めた時には傷めた時の攻め方があると申し上げました。

後編ではその攻め方について、治療家の視点から掘り下げてゆきます。

では、始めましょう。

 

 

【痛めている間も成長を諦めない!~「痛み」というサインの有効活用~】

前編でお話しした通り、ケガを負った個所は組織の耐久性が低くなっています。

なので、怪我を負う前には問題なく耐えられた負荷であっても、組織が耐えられずに壊れてしまうような「過剰な負荷」となってしまうような状況も生じるわけです。

そうしたときに患部が発する警報が「痛み」だという前提をご理解いただきたい。

この事実、裏を返せば「痛み」を感じない範囲の動作や負荷であれば故障を悪化させることは無いということです。

傷ついた組織も回復の速度を上回る傷がつかなければ癒えます。

脆くなった傷跡もトレーニング(リハビリ⁉)によって負荷される微細な傷が回復の範囲内のものであれば、ちゃんと超回復して強化することができるのです。

大事なのは匙加減なんですね。

その匙加減は「何%の負荷で何Repを何Sets」といった尺度ではなく「痛みが出ない範囲」であるということです。

実際は痛みが出る前に「違和感(不安感)」が出てきますから、それを感じたらその負荷を超えようとはしないよう気を付けるということです。

さて、「痛み」というサインを実際に故障時のトレーニングに有効利用するための要点は以下の2点。

1:痛みが出ない範囲の重量を選ぶ

2:痛みが出ない角度の中で運動をする

 

 簡単でしょう⁉

もう少し具体的に言いますと、

例えば…

スクワットで深くしゃがむと膝が痛むようなケースを挙げましょうか。

このケースで言うならば、

「痛まない範囲で(つまり浅め)の屈伸にとどめてスクワットをする」

ということです。

しゃがんでいって患部に違和感を感じるか感じないかのところで切り返す。

そんな感じです。

この時、重量は「患部が痛まない範囲」で追いかける(増してゆく)ことになります。

つまり…

攻めていいんです(*^^*)

あくまで膝の痛みがない範囲で、ですけどね。(^^;

 

具体的な工夫としては、ベンチ台をお尻の下に置いてお尻がベンチに触れたら立つ「ボックススクワット」なんて方法や

パワーラックの中でセーフティーバーを高めに上げてバーベルのシャフトがバーに触れたら立つ、

といった工夫でしゃがむ「深さ」を「痛み(違和感・不安感)の出ない深さ」に調整してスクワットをするんです。

通常、スクワットは浅くなればなるほど扱える重量は高くなりますので、膝の状態によっては今まで担いだことの無いような大きな重量を担ぐことにもなります。

そうなると体幹に掛かる負荷は今までの経験にない領域にまで達することになりますので、体軸の強化にも役立てることができます。 

普段の練習では強化しきれない能力を高めることができますね。

それが復帰後のパフォーマンスにプラスに働くことも十分に期待できます。

これぞ怪我の功名ってやつです。 

それから、重くなると痛みが出るようなケースもありますよね。

重りが軽いうちは痛みなく底までしゃがむことができるのに、メインセットに差し掛かると痛くなる。

そうしたケースでは痛みが出ない範囲まではフルスクワットも「可」です。

患部に違和感が感じられ始めたら(痛みが出る手前とうこと)高さを調節したスクワットに切り替えてみてください。

この場合でも、同じく患部の痛まない範囲で重量は追いかけることになります。

ちなみに重量を追いかけるときには5~3RepMAX(87~90%)あたりまでが妥当です。

なぜ1MAXではなく3~5RepMAXなのか?というと、故障の背景に考慮しての選択です。

怪我の背景にはフォームの崩れが必ず絡んでいます。

「フォームの崩れ方=怪我の現れ方」とも言えますので、再受傷のリスクを避けるためにもフォームをしっかりとコントロールしておく必要があるんです。

患部の痛みが生じることなく、重量に挑戦しつつもフォームが安定していられる範囲が何%かは個人差があると思いますが、個人的には95%から先の重量(=2Rep)はちょっとしたフォームの崩れも立て直すのが難しくなりますから

若干のフォームの崩れもなんとか立て直しが効く範囲ということで3~5Repとしました。

あくまで私自身の練習を通じた感想なので、自身の経験と照らし合わせて決めてください。

この3~5REPが「選手クラス」の方に当てはまるかどうかは一考の余地ありなのですが、

重量挙の試合なんかをみていても、95%を超えるような場合には失敗も増えてくるように思います。

それは試合独特の緊張感の中、平常心を保ちがたいという心理的要因も作用しているのでしょう。

怪我というアクシデントに遭うと「自信の喪失」を抱きやすく、そうした心理的な脆さからもフォームが乱れやすくなります。

そうしたところを照らし合わせての「3~5Rep」です。

 ま、自身があれば3、不安が勝てば5といったところでしょうかね。

それよりも、大事なのは

「痛み」を気合で乗り越えようとしない

ということです。

「痛み」は「乗り越えるべき壁」にせず、安全にトレーニングができるシチュエーションを探すための

「センサー」

として利用しましょう。

間違っても

「ボールは友達!痛くない!!」byキャプテン翼

的な発想はしないように。

 

ただ、この方法にも死角はあります。

運動時、私たちは興奮状態に入りますので「痛み」への感度は鈍るんです。

これが曲者… 

運動を終えたあとに症状の悪化がみられるようであれば「頑張り過ぎ(やり過ぎ)」のサインです。

そうした場合は「追い込み方」を工夫してみるのも手です。

 

例えば、

 

1、痛みなく担げる範囲の角度と重量で3~5RepMAX(90%~87%)実施

2、RM法を使って40~50%の重量を算出し、スロートレーニングで追い込む

 

 「1、」は今までの話のことです。

ここでの工夫は「2、」の「スロートレーニング」です。

「スロートレーニング」については何度か私のブログでも触れているので解説は省きますが、その利点をおさらいすると以下の通りです。

 

・成長ホルモンの分泌促進⇒故障部位の回復促進と筋肥大

・軽い重量でゆっくりとスクワットを繰り返すので、運動のエラーに気付きやすい⇒動作スキルの向上

 

ご存知の方も多いと思いますが、

成長ホルモンなどのホルモン分泌の促進は怪我からの回復に力強い味方となってくれますが

成長期を終えるとその分泌量は1/4とだいぶ少なくなってしまいます。

それを補うためにもスロートレーニングは強い味方となってくれます。

それだけをとっても「2、」のフェーズは意味を持つわけですが、その効用は「スキルの向上(フォームの正常化の意)」にも及びます。

繰り返しになりますが、怪我の背景にはフォームの崩れが必ず絡んでいます。

ですので、その点を修正するのにはじっくりと自身のフォームと向き合う必要があるわけです。

ゆっくりと動作を反復するスロートレーニングはフォームを確認しつつ修正するのに好都合。

怪我の回復を早め、怪我の原因も正してゆく

一粒で二度おいしいというか、非常にいい仕事をしてくれるのです。

 

と、まあツラツラと書きましたが、

故障時の対処として一番大事なのは可否の判断基準を明確に持つことだというのが私の意見です。

このように「痛み」を「安全な刺激量」を判断するための指標とするならば、

怪我というネガティブな出来事も取り組みようではポジティブに活かすことだってできる!ということを知ってほしいと思います。

とはいえ、怪我をしないに越したことはないのですがね(^^;

以上、【故障をした時も攻めのトレーニングを諦めない!!~「痛み」の有効活用法~】でした。

=おわり=


故障をした時も攻めのトレーニングを諦めない!!~「痛み」の有効活用法~前編

2017年03月15日 | スポーツ障害

デッド(リフト)よりスクワットが強くなってこそリフター(重量挙げの選手)

とは私のリフティングの師匠の言葉。

その言葉にあるように、ウエイトリフティングの選手たちはスクワットのトレーニングに余念がありません。

しかし、丸太のような太ももを持つ彼らでも膝の故障を抱えるケースもしばしば。

…と書くと、「重量挙はケガし易そう」と思われてしまいそうですが、それは大きな誤解です。

実際のところは球技や格闘技よりも

障害発生率はウエイトリフティングのほうが優位に低い=安全!!!!

ということを申し添えておきます。

それもそのはず、「正しいフォームを追いかけてゆく」という前提で行うのであれば…の但し付きですが

故障予防・競技復帰のための選択肢として「ウエイトトレーイング」が挙がるほどですのでね。

ウエイトトレーニングは基本、ケガをしにくいスポーツなんです。

ただ、どの競技でも選手であれば常にギリギリの線まで追い込んで自分を高めてゆきますので、

故障を負うリスクとも常に背中合わせにあります。

なので、痛みなくまっさらな身体で競技生活をしている選手の方が少ないのは

スポーツ選手全般の「あるある」でもあるのです。

ま、それを善しとは思いませんが、それはあくまで現状「そうだ」ということ。

さて、今日の本題。

このところスポーツ選手へのメンテナンスやコンディショニングが増えておりまして、そこでのお話を少々。

そこでは

「怪我をしない」「怪我からの回復」「競技力の向上のベース」

などをテーマとした講義も行っています。

前回は選手の皆さんへ「故障」を抱えているときのトレーニングで外してはいけない

「ルール」についてお話をさせていただきました。

 

内容はこうです。

『テーマ:故障時のトレーニングにおけるルール』

【痛みとは何だろう?~身体の発する「警告」に耳を傾けよう~】

「痛み」は「何が起こった時」に発せられるのでしょうか?

組織が傷ついたとき?

それも正解の一つです。

でも、それだけではありません。

痛みは何某かのストレス(物理的な外力・代謝産物のような化学物質など)に組織がさらされたとき

その組織が「これ以上は耐えきれない」「これ以上の負荷がかかると壊れてしまう」ような負荷を受けたと感じた時に発するサインであるということを押さえていただきたいんです。

どういうことか。

例えば、私が関節技を掛けられたとします。

私の関節には激痛が走り、瞬時に、そして本能的にタップアウト(降参する時の合図。相手の身体やマットを2~数回手でたたく。)することでしょう。

この時、私がムキになって我慢したり相手が「降参」の意思表示を無視して壊しにきたりしていないという前提でいうと、技を解かれた私の関節は痛みもなく何事もなかったように動かせます。

つまり「痛み」=「組織の損傷」ではないということなんです。

技を掛けられている時の私の関節はこういっていたんです。

「これ以上の力がかかってきたら壊れてしまうよ!!!!!」

と。

この出来事は、組織がその耐久限度を超えようとする負荷にさらされたときから「痛み」は発せられているということを物語っています。

これは傷害された組織も同様。

そのことを踏まえると、故障時の練習でも攻めうる余地が見えてきます。

 

【「痛み」とは喧嘩をしてはいけません!~回復期に陥りがちな誤りを知ろう~】

一般的なスポーツの現場での状況を見ると、

故障した選手が持つ選択肢が以下の二つしか用意されていないケースにしばしば遭遇します。

A、故障の痛みに耐えてみんなと同じメニューで練習する

B、故障しているので練習しない

「A」のケースでは真面目な人ほど悲惨な目に合うことになります。

怪我をしていても痛みを我慢してそれまで通りの練習をこなそうとすれば傷は深まるばかりです。

早晩「B」へと移行してしまうでしょう。

「B」のケースは一見よさそうなのですが、やはりそれ一辺倒だとダメなんです。

確かに怪我を負っても無茶をしなければちゃんと身体は傷ついた箇所を修復してくれます。

なので、時期が来れば多くの場合で「痛み」は終息を向かえます。(そうでないケースはまさに治療対象です)

しかし、痛みが引いても患部は長い休養の間に弱く萎縮していますので、

いきなり元の運動強度・運動量にもどすと再発の憂き目にあいやすいのです。

痛みが落ち着いても元の耐久性がないので、

通常メニューに戻る前に患部の強度に合わせた運動強度・量の段階的な増加が必要です。

何事もALL or NOTHINGではダメなんですね。

ちなみに私はこの発想で競技自体ができなくなった口です。

経験者は語る…なのです。(;^ω^)

でも、そうは言ってもコーチも実際には具体的にどういった順序を踏めばいいのかわからないわけです。

なので、痛みが落ち着くといきなり元の練習メニューに戻ってしまう。

「様子を見ながらやるんだぞ!」と言い含めても、

選手だってなにを基準に「様子」を見ればいいのかわからないわけですし、休んだ分を早く取り戻そうと無茶もします。

そうすると、先に述べたように故障した箇所が耐えられずに再受傷するか、

弱い部分をかばって別の場所を壊すか、といった残念なことになってしまうんです。

そうした残念な経過をたどらないためには「痛み」とケンカをしないでむしろ

「痛み」を味方につけることが重要です。

ではどうやれば「痛み」を味方につけられるのでしょうか?

ここは傷めた時には傷めた時の攻め方があるということを知っていただきたい。

=後編へ続く=

次号【痛めている間も成長を諦めない!~「痛み」というサインの有効活用法を知ろう~】



フォアフット走法と腸腰筋由来の股関節(鼠径部)痛 =完結編=

2016年12月16日 | スポーツ障害

さて、たぶんこれで完結編。

「そもそも論としてフォアに拘るべきか?」といったところも踏まえ

身体の特性に合わせた走り方についての考察です。

そう、考察なんですよね。

なので、私の個人的考えであることをお忘れなく。

 

今までを通してまとめるならば、

フォアフット走法は「身体をバネのように使う点」が運動の効率化の肝となっているようです。

(詳しくはフォアフット走法と腸腰筋由来の股関節(鼠径部)痛 =その2= =その3=をご参照ください

では何がバネとなるのかと言えば、主には腱そして筋膜となるでしょう。

腱は靭帯や筋膜と同じくコラーゲンという蛋白の線維で出来ています(※筋膜は少量のエラスチンというゴムのような繊維も含まれてます)ので、

前出のネグロイドやコーカソイドの関節周囲の靭帯の発達の良さを考えれば、彼らは腱も強いのだろうと思われます。

逆に、関節の柔らかな、つまりコラーゲンの発達の弱い方(多くの日本人⁉)の場合、腱の発達も弱い傾向にあるでしょう。

そうした場合は、腱や筋膜などのバネを使うよりも骨格を上手に使った走り方の方が合っています。

骨格を使った走りとは、関節を複合滑車装置として使うことで運動の効率化を実現している走りだとご理解ください。

複合滑車は定滑車という位置を変えない支点と動滑車という位置を変える支点が組みになった滑車装置で、

一組の複合滑車で伝わる力を2倍にすることができます。

いくつも合わせれば4倍6倍…と力が強くなってゆくわけです。

それを踏まえ…

筋肉と関節は滑車装置だと言われています。

これを複合滑車装置として使うにはどうすればいいのでしょうか?

私の見解では、

関節ではなく胴体・太もも・すねといった節々の中心に定滑車としての運動中心を作り、

股関節・膝・足首は動滑車として定滑車をつなぐライン上に寄せる、もしくは離すといった運動をすれば複合滑車としての作用を得ることができると考えています。

では、そうした走りとはどんな走りなのか?

それはずいぶんと前に流行った「ナンバ走法」が良い例だと思います。

私はあの走りは骨格を主として筋(筋膜ユニット)を従として使った走りだと解釈しています。

ちなみに、

どちらの走り方も重力を上手に味方につけることが大切な条件となると思われますが、

フォアはバネを使って跳ねることで重心を引き上げ、そこから得た位置エネルギーを落下による運動エネルギーに変え、またその接地時の床からの反力をまたバネによって加速させることで走るという運動を効率よく継続させている(と考えている)点と

ナンバは重心を引き上げずに倒れこむことで位置エネルギーを運動エネルギーに変え、倒れる前に次の脚(という骨組み)を継いでゆきつつ、それらを複合滑車として身体を連動させる中で倒れた分の位置エネルギーを補い、走るという運動を効率よく継続させている(と考えている)点で

対照的な走法だなって感じます。

…伝わりにくいでしょうね、字だけだと。(-_-;)

フォア=重心を斜め上方へと跳ね上げる

ナンバ=重心を斜め下へ転がす

そんなイメージです。

え?

よくわかんない⁉

ま、仕方がない。

そこのところが知りたい人は、治療院にチューニングを受けに来てください。

 

話は戻って…

 

治療家目線でモノ申せば、

走り方を変えたことで故障をしてしまうと、ついその走り方が悪いのか?と考えられてしまいがちですが、

そうではないのですね。

 

フォアは腱や筋膜の(コラーゲン線維)の弾性を利用するエネルギー効率の高い走りであることは間違いない。

ナンバも骨格を複合滑車として利用するエネルギー効率の高い走りであることは間違いない。

大切なのは自身の身体の特性に合った走り方を選んだかどうか、だと思われます。

世界的に長距離の早い外人さん達が皆フォアフット走法が得意だったとしても、

彼らの身体特性というものもあっての「効率的走法」ですから、

足首の軟らかい方の場合は「ナンバ走り」のようなスリ足に近い方法の方がよいかもしれません。

というのが私の意見です。

でも、フォアフット走法の優れた点も手にしたい!

と考えるのであれば、それなりの準備をすればよいでしょう。 

フォアでケガを負う方はその走り方をするための構造物、つまりは腱の強度が間に合っていない点と、

反射的で強い筋力発揮を含む運動全体をコントロールできてないことに問題があるとみています。

※それに関しても「腱の強度」に依存しているのではないかと思いますが、それもいまは置いておいて。

 

フォアを自身の走りのプラスにしたいのならば、件の故障(腸腰筋の故障)の背景となる

「過労して縮みあがったふくらはぎ」からの異常運動の連鎖、これを止めるための準備が必要です。

あ、ここで「話が飛んだ」と感じた方はシリーズ全般をご覧になってくださいね。

下腿の筋腱をしなやかに鍛えるには縄跳びも良いでしょう。

腸腰筋にばかり負担をかけないようにするためには脚全体を丁寧にコントロールできていることも大事です。

それにはバランスツールを使ったスクワットやランジといったトレーニングもお勧めです。

そうした方法は、またの機会にでもお伝えできたらな、と思います。

興味をお持ちいただいた方はお気軽にご相談を。

以上、「フォアフット走法と腸腰筋由来の股関節痛完結編」でした!

 


フォアフット走法と腸腰筋由来の股関節(鼠径部)痛 =その4=

2016年12月06日 | スポーツ障害

この記事、2年前に書くつもりで途中で放置してしまっていた記事(ワザとじゃないですよ(;^ω^)忙しさで忘れてたんだと思います。)なんですが、

先日患者さんから「続きが読みたい」とのリクエストをいただき、2年の月日を超えてのシリーズ再開となりました。

2年…

ずっと気にかけていてくれたんでしょうかね?(^^;

有り難いやら申し訳ないやらです。

で、今回はまず故障時の対処の手法から紹介させていただきますね。

 

さて、対処について。 

先ずはじめに、故障の対処の基本を押さえましょう。

痛みが増してきた時期には、痛みの原因が患部のダメージ(損傷・炎症)によるケースを疑います。

運動開始から運動後に向けた痛みの増悪というのもダメージのサインの一つです。

走り始めが痛くてもその後落ち着く…なんて時も運動の終盤に向けて再び痛みが増す時には要注意。

こうした時期には痛みが現れる前の「違和感」の時点で無理せず運動は中止しましょう。

患部のダメージ(炎症・損傷)が疑われる時には3~6日の安静を心がけます。

多くは3日、長くても6日もすると炎症が落ち着き、痛みが一段回軽くなりなります。

ですので、

「お、昨日より大分軽くなったぞ!」

となるまで、運動は我慢しましょう。

それから安静にしている間、痛む箇所のアイシングも忘れずに。

ビニール袋に溶けかけの氷を入れて、「15分冷やす→5分外して休ませる」を3セット程行いましょう。

患部の炎症が落ち着いたら徐々にケアを始めます。

おすすめしたいセットは

1、足首の調整

これ、いい方法なんですけどもだいぶ前の資料なんですよね…

今はもっと動きを使った方法をチョイスすることが多いかも。

でも、動画がないんですよね…

すみません。

NEWバージョンに興味のある方は…ご来院いただけますでしょうか(^^;

ちなみに足首の動きに足部が影響しているケースもありますね。

そうした場合は下の動画のエクササイズがおススメです。

「外反母趾」の対処として紹介していますが、足底筋膜炎やモートン病にも効果ありです。

 

2、膝関節の調整

膝の調整は以下の二つ。

これらの手法はあらゆる膝の故障に対応できます。

変形性膝関節症にも効果大です。

細かい用途は以下の通り。

大腿骨と脛骨の間、つまり脛骨大腿関節の動きをただすのには下の方法になります。

 

膝のお皿と大腿骨の間、つまり膝蓋大腿関節の動きをただすのには下の方法になります。

これは膝蓋軟骨軟化症とかジャンパー膝へ処方することが多いですね。

 

3、股関節の調整

 

これらは関節の働きを正常化する作用を持つものですので、

障害予防やウォーミングアップに活用できますので、ぜひお役立てください!!!

 

 

さて、

次回は「そもそも論としてフォアに拘るべきか?」といったところも踏まえ

身体の特性に合わせた走り方についても考えてみたいと思います。

って、いまフォアフット走法ってどうなんだろう?

まだ話題になってるんだろうか⁉

その点も患者さんに聴いとけばよかったな…(-_-;)

ま、2年前の書きかけの記事にはそこに踏み込もうとした跡があるので、

2年前の自分の意図を汲んで書き上げようと思います。

だいたいの内容はフォアとナンバの対比となりそうです。

では!

=つづく=


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