ととじブログ

書きたい時に書きたい事を書いている、あまり統一感の無いブログです。

セント・オブ・ウーマン/夢の香り (SCENT OF A WOMAN)

2019-05-14 05:43:33 | 映画/ドラマ
映画「ゴッドファーザー」の三作品において、中心的な役マイケル・コルレオーネを演じたアル・パチーノ(Al Pacino)。
「ゴッドファーザー」を観ていて感じたのが「何でいつも立ち位置が低いんだろう?」ということだった。
「やや上方に向ける視線がかっこいいからかな?」あるいは「上官が椅子に座ったまま直立不動の部下に指示を与えるようなイメージで演出してるのかな?」などと思っていた。
ところが、ずいぶん後になってから、そうではなくて、単にアル・パチーノの身長がそれほど高くないからだという事を知った。

演技力はすべてを凌駕する、と言ってしまっては少々乱暴かも知れないが、少なくとも私のような者には身長の高低などまるで無いものにしてしまう程の力はあると思う。

映画「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」、タンゴの名曲「ポル・ウナ・カベーサ(Por una cabeza)」によるダンスシーン。

The Tango - Scent of a Woman (4/8) Movie CLIP (1992) HD

字幕が無くてもこれがどういったシーンなのか、断片的でもアル・パチーノがどんな人物を演じているのかが、何となくわかるのではないだろうか?

私はこの映画を、このシーンを観たいがために観たのだが、全編から比せば、小さな断片に過ぎないことがよくわかった。
名優による名作、つまらない感想を書いてまだ観ていない人に余計な先入観を一切与えたくない、そんな作品だ。


細雪 / 谷崎潤一郎

2019-05-12 04:35:37 | 本/文学
「細雪」について、このブログで初めて触れたのが昨年の3月14日。
読もうと思っているのだけれどどの本を買うか迷っていて…結局コレを買った! というくだらない記事をいくつかに分けて書いて、それっきりになっていた。

今まで感想文なり書評なり、何も書かなかったという事は読んでないんだろ? と思われるかも知れないが、読んだ。ちゃんと読んだ。
しかも、ずいぶん前に読み終わっている。
昨年の夏、7月下旬頃読み終わった。

読んだのだけれど、何を書けばいいのかわからないので、放置してきた。
海外にも知られている大作だし、アホな事を書いたらバカにされるしな、という気持ちもあった。
しかし、せっかく読んだのだし、時間が経つにつれて少しずつ忘れていくし、書くならばそろそろ放置も限界だぞ!
ということで、書いてみることにした。

今年の2月23日に「月光」(誉田哲也著)を読んで記事を書いた。
その中で「尋常じゃないクソ野郎が何人か出てくるが、普通の人ばかり出てきて、普通の事しか起きないのでは小説にならない」というような事を書こうと思って、やめた。
その理由はこの「細雪」にある。

一般的に言って、赤の他人や、知っている人でも特に好意を持っていない人の日常生活など興味は持てないし、聞いても面白くない。
子供がどうしたとか旅行でこうしたとかリア充話とかクソくらえ! といったところだ。
いまいち伝わらないかな?
言い方を変えよう。
例えば、会社の上司が撮った子供の運動会だの家族旅行だののビデオなんて観たって全然面白くないでしょ?

「細雪」は普通の人が営む、普通の日常生活が延々と続く小説だ。
もっとも、普通とはいっても、中心となる登場人物達は一般庶民ではなくお金持ちだし、特徴的な人もいるし、それなりに事件も起こる。
しかし、あくまでも日常の延長線上にある人や事件だ。
ヒーローやヒロインはいないし、宇宙人も出てこない。
謎の殺人事件も起こらない。
知らないおばちゃん達の世間話を延々と聞かされているようなものなのだが、なぜか面白いのだ。
不思議でしょうがない。

赤の他人の日常などには興味を持てないが、好きな人の日常となると話は別だ。
好きな人というのを、端的に自分が恋愛感情を持っている人とするならば、説明は簡単だ。
日常の、どんな些細な事でも知りたいと思う。
もし会社の同僚だったとしたら、今日は順調に仕事が進んでるんだろうか? お昼には何を食べたんだろうか? 残業するんだろうか? 誰と帰るんだろうか? 等々、ありとあらゆることに興味がある。

そう考えると「細雪」は人物描写が極めて巧みで、知らず知らずのうちに登場人物に感情移入してしまい、日々何を思い何を感じどんな話をしてどういう行動に出るのか? そういった微細な部分に心を惹かれてしまうから面白いのだろうか?

いや、違うな。
そんなに単純じゃない。
物語の中心にいる四姉妹それぞれ、それほど好きなタイプという訳ではないし、四姉妹を取り巻く多くの人々も特別魅力あふれるという程でもない。
それでも面白い。
不思議だ。

それで、まあ、そういうわけで、何かうまく説明できなくてよくわからないのだけれど面白かったよ、というのが感想だ。
何かちょっと、わざわざここまで読んでくれた人には申し訳ないのだけれど。

そうそう、ひとつだけ有意義な事を書いておきたい。
小説の中に、昭和13年(1938年)7月に起きた神戸地方の大水害の話が出てくるのだが、この部分を昨年2018年の西日本豪雨の直後に読んだので、非常に印象に残った。
描写も詳細で、相当な取材をして書いたのだろうなと感じた。
この部分だけ切り取って読んでも、かなり得る物があると思う。

それから、「細雪」は名作ということもあり、感想や評論が数限りなくある。
それらをパラパラと読んでみると、「何だ? 何言ってんだこいつ?」みたいなものも多々あり、感じ方は色々あるもんだなあと、そういうのもまた面白いと思う。


凍える牙 / 乃南アサ

2019-05-06 03:46:34 | 本/文学
凍える牙
著者:乃南アサ (のなみあさ)
発行所:新潮社
新潮文庫
平成12年2月1日 発行

以下、ネタバレ有り。


深夜の高速道路をひた走るオオカミ犬、疾風(ハヤテ)。
そして、CB400スーパーフォアを駆使し、それを追う音道(おとみち)貴子。
著者は、ただただこれを描きたくてこの小説を書いたんじゃないかと思う。
それほど、幻想的で神秘的、圧倒的なシーンだ。

ハヤテと音道は東京の昭島から千葉の幕張まで、休むことなく走り続ける。
時速50km弱という、人間の全力疾走を超えるスピードで。
直線距離は60km程度だが、辿ったであろう道を測ってみると120kmを超える。

走り続けた後、ハヤテは仕留めるべきターゲットに襲い掛かる。
そうすることが、ハヤテにとって唯一無二の存在である笠原と笑子との絆を守る事だから。
だが、残念ながら、麻酔銃の前に倒れる。
残念ながら、などという言葉は不謹慎であろう。
でも、かまわない。
この物語の主役は他の誰でもない、オオカミ犬のハヤテだ。

タフで強靭な肉体と崇高な精神力。
その神々しいまでの存在感を持ったハヤテに心を奪われてしまう、危険な小説だ。
コンビニだのエアコンだのシャワートイレだのくだらない物に飼いならされ、ダラダラ生きている自分が薄汚い無用な生き物に思えてきてしまう。

これを実写化しようとすると、過去に何度かされているようだけれど、難しいだろうなと思う。
ハヤテの「神々しいまでの存在感」は、個々の読者、それぞれの想像の中にあるわけで、それを損なうことなく実写化するのは極めて難しい。
まあ、あたりまえと言うか、それがゆえに文学が存在し続けているわけなのだけれど。