ととじブログ

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凍える牙 / 乃南アサ

2019-05-06 03:46:34 | 本/文学
凍える牙
著者:乃南アサ (のなみあさ)
発行所:新潮社
新潮文庫
平成12年2月1日 発行

以下、ネタバレ有り。


深夜の高速道路をひた走るオオカミ犬、疾風(ハヤテ)。
そして、CB400スーパーフォアを駆使し、それを追う音道(おとみち)貴子。
著者は、ただただこれを描きたくてこの小説を書いたんじゃないかと思う。
それほど、幻想的で神秘的、圧倒的なシーンだ。

ハヤテと音道は東京の昭島から千葉の幕張まで、休むことなく走り続ける。
時速50km弱という、人間の全力疾走を超えるスピードで。
直線距離は60km程度だが、辿ったであろう道を測ってみると120kmを超える。

走り続けた後、ハヤテは仕留めるべきターゲットに襲い掛かる。
そうすることが、ハヤテにとって唯一無二の存在である笠原と笑子との絆を守る事だから。
だが、残念ながら、麻酔銃の前に倒れる。
残念ながら、などという言葉は不謹慎であろう。
でも、かまわない。
この物語の主役は他の誰でもない、オオカミ犬のハヤテだ。

タフで強靭な肉体と崇高な精神力。
その神々しいまでの存在感を持ったハヤテに心を奪われてしまう、危険な小説だ。
コンビニだのエアコンだのシャワートイレだのくだらない物に飼いならされ、ダラダラ生きている自分が薄汚い無用な生き物に思えてきてしまう。

これを実写化しようとすると、過去に何度かされているようだけれど、難しいだろうなと思う。
ハヤテの「神々しいまでの存在感」は、個々の読者、それぞれの想像の中にあるわけで、それを損なうことなく実写化するのは極めて難しい。
まあ、あたりまえと言うか、それがゆえに文学が存在し続けているわけなのだけれど。


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