ととじブログ

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人魚の棲む森 / 松本さゆり

2019-08-06 23:25:34 | 本/文学
小学生の頃のキラッキラッの夏休み。
楽しかったな。
最高だったな。
もう一度戻りたいな。
なんて思いながら、よくよく記憶を辿ってみると、最高の思い出も、今の自分とはプッツリと断ち切られていたり、辛くて悲しい結果に行きついていたり。
圧倒的な光のイメージに、細かい事が覆い隠されてるだけなのかも知れないな。
いやいや、でも夏はいいよ、夏休みは最高だよ!
そういうことにしておこう。
…と、ひと言でいうと、いや全然ひと言じゃないか、まぁ、そんなことを思わせてくれる小説だ。

この小説を初めて読んだのは、20年以上前の初夏、たぶん7月の上旬だったと思う。
当時、フリーで仕事を始めてから2、3年目で、毎日が忙しく、忙しい割には金は入らず、解決できない悩みや不安をいくつもかかえ、数か月先も見通せず、楽しいとは言い難い日々を過ごしていた。
そんな時にたまたまこの小説を読んで、変な言い方ではあるが、色々な事がどうでもいいと思うほど感動した。
「どうでもいい」と言うのは、仕事に対して手を抜いてもいいんじゃないかとか、適当に生きて行けばいいんじゃないかとか、もっと楽をしようとか、そういう事を思ったわけではない。
これから先、最悪のシナリオが進行していったとして、それがどうだというのか?
抱えていた悩みや不安が、どうということのない小さな事に思えた。
そんな意味での「どうでもいい」だ。

今ちょうど季節は夏真っ盛り、あの時の気分をもう一度味わえるだろうか、と改めて読み直した。
面白かったけれど、不思議と、初めて読んだ時に感じた感動は沸き起こってこなかった。
何でだろうな? と色々考えてみたり、部分的に読み返したりしてみた。
それでも、よくわからなかった。
でも、たぶん、たぶんだが、初めて読んだ時の自分の年齢や境遇、そしてその時の過去と未来、そういったものが、この小説を書いた時の著者と、何か強く共鳴したのかも知れないなと、そんな風に感じている。

人魚の棲む森
著者:松本さゆり
発行所:河出書房新社
1995年8月25日 初版発行


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