小品日録

ふと目にした光景(写真)や短篇などの「小品」を気の向くままに。

内田百 「秋扇」

2006-09-16 23:59:59 | 内田百
百先生、ラヂオを廃すの巻。
ラヂオをつけると、つまらない事を言っているとか、演奏があまりに下手くそだったりして、却って聴き入ってしまい、腹を立ててしまうことになるというのが、その理由です。
そして、ラヂオを聴いていて一番困るのが天気予報を聴くことで、これは、病人が自分でしきりに体温や脈拍を測るようなものであって、実際の天気がどうなるものでもないから、何の役にも立たないとの御説です。
ラヂオを止めて先進的になった百先生、「なんだ、君の家には、まだラヂオがあるのか」と言ってみたくて仕様がない。

現代で言えば、テレビを廃す、ということになるのでしょうが、私にはとてもできそうにありません。
天気予報なども気になって何度も見てしまいますし・・・(笑)。

旺文社文庫『有頂天』で2ページちょっと。
ちくま文庫「百集成(12) 爆撃調査団」に収録。

爆撃調査団―内田百〓集成〈12〉

筑摩書房

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内田百 「北溟」

2006-09-10 22:52:43 | 内田百
埼玉県川越市の水田で、オットセイが捕獲されたとのニュースがありました。
海の生き物が埼玉の住宅地までやってきたというのですから、驚きです。

さて、膃肭獣(をつとせい)といえば、内田百の「北溟」です。

待合所で船を待っていると、大風が吹いて、波も荒れてきました。
風に乗ってふわふわ飛んでくるものがありましたが、何とその中には膃肭獣の子がいました。
すると、人々は、その膃肭獣の子を・・・
(コワイのでここには書けません)
なんとも不気味で、人間の恐ろしさを感じさせる百の恐怖系の短篇です。
罪の意識を呼び覚まされるような気がします。

旺文社文庫『北溟』で3ページ。
ちくま文庫『内田百集成3 冥途』に収録。

冥途―内田百けん集成〈3〉 ちくま文庫

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内田百 「爆撃調査団」

2006-08-17 23:55:26 | 内田百
終戦の年の秋、先の空襲で焼け出されて二畳の堀立小屋に住む百先生に、進駐軍からお呼び出しがかかります。
行く前の期待(「大きな自動車」・茶菓など)と、実際の調査の様子のギャップが、ちょっぴり可笑しく、また、皮肉を込めて書かれています。
しかし、「百鬼園戦後日記」の10/31と11/1の項を読めば、実際には、事前にどのような調査かはわかってるはずなので、このようなユーモアを含んだ内容に料理できるところが、百の才能ですね。
正面切った批判がなされているわけではありませんが、読む者は、どのような爆撃によって市民を恐怖に陥れることができるかということを追求するアメリカ(占領軍)の姿勢に、憤りを感じるはずです。
こういった文章でも、当時は発表することができなかったのか、終戦から9年後に書かれています。

旺文社文庫『無伴奏・禁客寺』で、6ページ。
ちくま文庫『内田百集成12』に収録されています。
爆撃調査団―内田百〓集成〈12〉

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内田百 「坊主の汗」

2006-08-08 23:59:59 | 内田百
暑さ厳しき折、汗の流れる毎日です。
「神主は汗をかくけれども、坊主は汗をかかない」と、百先生は思い込んでいます。
そう言われると、そうかも知れないなどと思わされてしまいます。
百先生は、神主さんに厳しく、儀式の最中にふうふう汗をかいているのは気に入らない、と言ってます。
それに比べて、芥川龍之介の葬儀で引導を渡したお坊さんは、酷暑にもかかわらず、すがすがしい顔をして、汗をにじませもしなかったらしいです。
汗に関するこの「定説」は、ホントでしょうか?
今度、お坊さんや神主さんをそっと観察してみましょう。
旺文社文庫『随筆新雨』で、3ページ。
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内田百 「河童忌」

2006-07-24 23:59:58 | 内田百
百と芥川は作風が全く異なりますが、なぜか気が合ったようです。
芥川の死因について、いろいろと想像されているが、それに加えて、「あんまり暑いので、腹を立てて死んだのだらう」と、死の二日前に会っている百は書いています。
そして、8年目の河童忌に、百が手向けた一句。
 「河童忌の庭石暗き雨夜かな」

「竹杖記」にも芥川と海軍機関学校の思い出が書かれています。

「河童忌」は、ちくま文庫『百集成(6)』に収録。
間抜けの実在に関する文献―内田百けん集成〈6〉 ちくま文庫

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内田百 「牛」

2006-07-16 23:59:21 | 内田百
造り酒屋の一人息子である百先生は、子供の時からワガママいっぱい育ってきています。
なぜか牛好きということで、牛の玩具をたくさん並べているくらいはよかったのですが、そのうち本物の牛を飼いたい、とねだり出しました。
しかし、実際に牛を飼い始めると、すぐに飽きてしまったようです。
ご自身でも「自分ながらいやな子供であつたと思ふばかりである」とおっしゃってます。
スケールの大きいワガママですねえ。(笑)
子供の時から筋金入りということでしょうか・・・
旺文社文庫『鬼苑横談』で2ページ。
ちくま文庫『内田百集成12 爆撃調査団』に収録。
爆撃調査団―内田百〓集成〈12〉

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内田百 「窮屈」

2006-06-28 23:59:59 | 内田百
こだわり屋と思われる百先生ですが、実は合理的で、形式にこだわる人を茶化しています。
「あなたは酒飲みの癖に甘い物を食べるのですか」と客に怪しまれますが、菓子は下戸の食する物であると決めるのは窮屈である、との正論です。
椅子に腰掛けては絶対を食べない人や、左手でしか酌を受けない男など、その馬鹿馬鹿しさを面白可笑しく語っています。
何しろ、「おからでシャムパン」の柔軟さを持っている方ですから。
旺文社文庫『菊の雨』で、2ページ。
ちくま文庫『内田百集成<11> タンタルス』に収録。
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内田百 「正直の徳について」

2006-06-19 23:59:52 | 内田百
義母の病気で何日も会社を休んで専務から小言を言われた甘木君の話を聞いた百鬼園先生。
漱石先生が自分で出てきて、面会を求めた記者に、「留守だと云つたら留守だよ」と断ったエピソードを引き合いに出して、義理を果たす徳をとって、正直の徳を捨て、自分が病気だということにしてしまいなさい、と知恵(?)を授けます。
「自分一人が嘘言者になつて、その不徳に甘んずれば、規律を紊さず、人情にも背かず、又実際はその嘘にだまされるものもゐないでせう」、「美徳に違ひないが、それを行ふに貪婪であつてはいけない」など、いいこと言ってくれます。
旺文社文庫『凸凹道』で、約3ページ。
ちくま文庫「内田百集成7 百鬼園先生言行録」で読めます。
百鬼園先生言行録―内田百けん集成〈7〉 ちくま文庫

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内田百 「柵の外」

2006-05-31 23:58:26 | 内田百
先日(5/16)は、漱石の博士号辞退の手紙を取り上げましたが、今度は、弟子の百鬼園先生の芸術院会員辞退について述べた随筆です。
芸術院会員に選ばれたら、お断りしようと待ちかまえていた(?)百先生が、いよいよその念願を果たす時が来ました。
辞退の理由は、
「なぜと云へば、いやだから。
 なぜいやか、と云へば気が進まないから。
 なぜ気が進まないかと云へば、いやだから。」
との循環論理です。
本音は、題名に表れているように、英語の教科書に出ていたという、柵の外に出た豚の気持ちというわけでした。
漱石の生真面目な頑固さに対して、百先生は、ユーモアたっぷりにとぼけています。
旺文社文庫『夜明けの稲妻』で9ページ。
ちくま文庫「内田百集成 15」に収録されています。
蜻蛉玉―内田百〓集成〈15〉

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内田百 「蜥蜴」

2006-05-27 23:59:59 | 内田百
「私」は、女を連れて、見世物を見るために、真っ直ぐに続く道を進んで行く。
その見世物は、熊と牛を闘わせるというものである。
「私」は、見るのが厭になってしまうのだが、女の方はどんどん楽しくなっていく様子である。
「私」の気持ちを見透かしているようでもあり、次第に熱くなっていく女の手の感触が恐ろしいです。
「あなたはまだ本当のことを知らないのでせう」
『冥途』に収録されていて、岩波文庫・ちくま文庫などで読めます。
後の作品「風かをる」(『夜明けの稲妻』所収。ちくま文庫『百集成13』に収録。)では、懐かしい夢のような光景として描かれています。
夢の記憶が、『冥途』系の作品にどのように変化するのか、二つを読み比べてみるのも面白いと思います。
冥途・旅順入城式

岩波書店

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たらちおの記―内田百〓@6BE1@集成〈13〉

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