現代へのまなざし

日本とはなにかを探求します。

資本主義の暴力-同調圧力により加速する暴力と格差社会-

2019-06-22 12:10:40 | 政治
 スサノオと言えば、根の堅州国に行く際、アマテラスのもとへ赴くが(アマテラスはスサノオが自分の国を奪いに来たと考え、武装してスサノオを迎えた)、その際にスサノオは乱暴を働き、出雲国に追放される。出雲の国でスサノオは八岐大蛇を退治した。
 スサノオは荒ぶる神でありながら、荒ぶる八岐大蛇を退治している。暴力は神話にもつきものである。

 近代の啓蒙思想は、この暴力を否定し理性を持った合理的な市民による社会を訴えた。そして、民主主義社会が最善のものとして、現代でも多くの人達に受け入れられている。しかし、この啓蒙思想の理性絶対主義とも言える考え方は、マルクスやフロイト、ニーチェによって、その幻想を打ち砕かれた。さらに、啓蒙思想の発祥地であるヨーロッパにおいて、人間の無意識に着目し、人間の奥底にあるエロスやタナトスを打ち出したフロイトの考えを立証するかのように、ファシズムが生まれ、ナチスによる残虐な暴力やスターリニズムによる抑圧が行われたのである。

 第二次世界大戦での暴力と破壊を目の当たりにした人々は、民主主義、理性による制御の重要性を再認識し、理性による合理的な社会を目指した。一方で、ソヴィエト連邦による、資本による暴力の排除を目指した社会主義の実験を見据えながら、資本主義諸国は資本主義による暴力を排除するため、社会主義思想の一部、つまり福祉国家の考え方を取り入れ、資本の暴走を規制しながら政治運営を行ってきた。
 しかし、社会主義を目指したソヴィエト連邦とその同盟国は、民主主義の重要な部分である自由権を制限したため、資本による暴力を規制した資本主義国に比べ魅力を失い、内部から崩壊してしまった。社会主義の崩壊を受け、資本主義国では資本の暴力への規制を緩和し、資本のむき出しの暴力が頭をもたげ、格差が拡大する社会に変貌していったのである。それでも、先進資本主義国は、人間の理性や合理性を信奉し、また民主主義を根本原理に置いた政治運営を行っているようかの如き政治を運営しているのである。表面的には理性的で合理的に見えるにもかかわらず、なぜ資本の暴力により多くの人達が打ちのめされる格差社会が形成されたのであろうか。

 この現象を考察するときに有意義だと思われるのが、可視的空間と不可視的空間という考え方である。
 可視的空間、表面上に出てくる見える空間である。民主主義や理性的な人間が活躍する空間であり、日本では建前が活躍する空間である。啓蒙主義、理性による合理的な思考が支配し、悪徳は排除される空間であるが、それは人間の暴力的な本質を排除した空間でしかない。
 一方で、不可視的空間、表面上には現れないが、人間の本質、本音で満たされた空間であり、日本で「空気を読め」と言われる場合の「空気」の世界である。言語化されることがなく、法令にも現れることがない本音の空間、そこは荒ぶれる神が支配する空間でもある。この不可視的空間が、今の日本ではどんどん拡大しているようである。
 バブル崩壊までは、可視的空間が優位であり、人々は合理的に振る舞うべきだという思想に拘束されていた。それがバブル崩壊による生活水準の低下やインターネットの拡大による匿名発言の拡大により、徐々に変化し、不可視的空間における暴力の拡大という現象が広がった。
 匿名での発言、そこにはむき出しの暴力が見いだせる。不可視的空間であれば見ることは出来ないはずであるが、インターネットの中そのものが現実社会とは異なった世界であり、不可視的空間との境界が不明確になっている世界であると考えれば理解できることである。

 この不可視的空間が日本社会を徐々に覆っているのではないか。アベノミクスというまやかしの経済政策を展開している安倍政権に対する批判は、表だって聞くことは少ない。むしろ、みんなが期待しているアベノミクス批判をすることは許さないという圧力を感じる。この同調圧力こそが不可視的空間における暴力なのである。
 不可視的空間が拡大したとき、そこに、新たなナチズムを見いだすことができる。民主主義や理性による合理的支配が失われ、むき出しの暴力が、しかし、表に出ることなく、人々を背後から、怨霊のように縛り付ける。
 今の日本は、この不可視的空間が徐々に拡大しているように感じる。その先に見えるのは、価値が転倒した北朝鮮のような社会である。現代へのまなざしを忘れてはいけない。
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