現代へのまなざし

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中国の日本化-中国も長期停滞に陥るのか-

2023-08-14 09:43:23 | 政治
 中国の経済成長に伴い、覇権を脅かされかねないアメリカが中国との戦略的対決姿勢を強めている。さらに、日本でも中国の脅威を煽る報道がほぼ毎日行われ、中国の覇権主義を批判する論調で埋め尽くされているような状況となっている。
 しかし、中国は覇権国家になることができるのだろうか。中国の人口動態を見れば、中国が覇権国家になるのは困難だと感じるだろう。

 まずは、世界の経済状況について見てみよう。日本の生産年齢人口のピークだった1995年と直近の2022年のGDPの状況はどのようになっているか。
 アメリカのGDPは25兆4645億ドルと世界全体の25.4%、つまり、全世界のGDPの1/4をアメリカが生み出しており、現在も覇権国家と言えるような状況である。第2位は中国で18兆1000億ドルで全世界の18.1%を占めているが、驚くべき点は1995年との比較で24倍にもGDPが増えていることである。
 一方で日本は4兆2335億ドルで全世界の4.2%を占めているが、1995年の日本のGDPは5兆ドルを超えており、これは全世界のGDPの18%を占めていたが、2022年のGDPの金額は1995年と比べると76%と減少しており、他の先進国が大きくGDPを上昇させているにもかかわらず、日本だけがGDPが縮小しているのである。これは、人口動態、すなわち生産年齢人口が減り続けている点が大きな理由だと思われる。
 次の図は、世界のGDPに占める各国のGDPの割合を2022年と1995年で比較したものであり、人口ボーナスを終えた日本の割合が大きく低下する一方で、人口ボーナスがあった中国のGDPの占める割合が日本に変わって大きく上昇していることがわかる。




 さて、本題はここからである。

 次の日本と中国の人口ピラミッドの比較を見ると驚きの事実がわかる。
 (中国の人口ピラミッドは、 「人口ピラミッド - 世界の国々の人口ピラミッド 2023」のサイトから引用しています。  
  日本の人口ピラミッドは、「国立社会保障・人口問題研究所」からの引用です。)



 日本の人口ピラミッド(左側の人口ピラミッド)は1975年のもので、団塊世代が20代後半となってり、団塊ジュニアが生まれ始めた時期にあたる。この頃は日本の人口が増え続けていたため、子供は2人までなどと、人口抑制が話題になっていた時代だが、子供は2人までという国やメディアをあげたキャンペーンが効いたのか、1975年以降、日本の合計特殊出生率は2.0を超えることはなかった。しかし、団塊世代の絶対数が多かったため、団塊ジュニア世代も年間200万人を超える世代となっており、人口ボーナスはさらに進むことになった。1950年代以降、1990年までが日本の人口ボーナス期と言われている。
 右側の人口ピラミッドは中国の1995年のものだが、形としては1975年の日本の人口ピラミッドと似ている。人口動態はほぼ確実な統計だと言われているが、その形状がそっくりであれば、日本と同じような社会状況が中国でも生じるのではないか。
 日本の潜在成長率の低下には、生産年齢人口の減少が大きな影響を与えていると言われているが、中国の人口動態は日本に20年程度遅れて動いているように思える。つまり、中国は20年前後遅れて日本と同じような状況になるのではないか。
 歴史人口学者のエマニュエル・トッドによれば、日本は直系家族で中国は共同体家族だという。直系家族は権威主義的であり差別主義的とされ、共同体家族は権威主義的であり平等主義的だとされている。この観点からすれば、日本と中国は権威主義的であるという点で共通している。また、日本には中国の影響で儒教倫理が根付いてる部分があり、倫理的にも日本と中国には共通点がある。人口動態や文化的な背景から、中国も日本と同じような状況になる、つまり中国の日本化が進むように思える。

 次に2020年の中国の人口ピラミッド(右の図)を見てみよう。



 中国の人口ピラミッドを見ると、60歳前後の人口に比べて22歳前後の人口が多く(60歳前後の人達は文化大革命などの影響で餓死者が多く出たために大きく減っている)、日本の就職氷河期(=団塊ジュニアが就職する時期)と同じような構造になっているようにも見える。しかし、56歳以下の人口が非常に多いことから、今後、60歳定年を迎える人口が大幅に増加するため、日本の現状と同じように退職者に対する若手の人数が大幅に少なくなり、人材不足になっていくような状況となっている。
 人口動態から考えると、1995年以降の生産年齢人口が減り始めた日本と同じような状況、つまり潜在成長率の低下に伴う長期的な低迷が中国でも見られることになるのではないかと思われる。日本以上に格差が拡大している中国で、少子化と高齢化が日本と同じように進めば、国内需要が低迷するとともに社会保障費用が増大し、その結果として潜在成長率が低下し、日本と同じような長期停滞が起こる確率が非常に高いように思える。

 更に20年後の人口ピラミッドを見てみよう。



 2040年の中国の人口ピラミッド(推計、右の図)は、2020年の日本の人口ピラミッドと似たような状況になっている。なお、人口動態は、合計特殊出生率か死亡率に大きな変化がなければ、つまり、戦争や感染症によるパンデミック等が発生しない限り、大きく変化しないため、予測値は現実と大幅に乖離することはない。
 日本の経済成長率の低迷は人口動態に大きく影響されているが、中国の人口動態から考えると、中国でも日本化が進むような印象を強く受ける。つまり、中国はこれ以上大きく国力を伸ばすことができず、停滞期に入ってしまうことになるだろう。

 中国の人達の意識が日本よりもイノベーティブで現状維持に止まらないのであれば、つまり設備投資や人材育成、全要素生産性の向上を効果的に行うことができれば中国の成長は続くだろうが、一時報道されていた意欲の低下した中国の若者(寝そべり族)が増加するなど、日本と同じように現状維持バイアスの強い若者が多くなれば、中国は日本と同じような道をたどることになるだろう。

 人口動態をしっかりを認識すれば、中国が覇権を握ることは困難であり、中国脅威論を執拗に煽るマスコミは長期的展望に欠けていると言わざるを得ない。
 中国が日本を反面教師とし、日本化を避けることができれば、中国の国力は強化されるかもしれない。他方で、人口動態は一朝一夕に変わることはないものであり、日本とは次元の異なる経済対策やイノベーションを実行しない限り中国の国力強化は困難であろう。そもそも人口が14億人もいる中国で少子高齢化が進めば、大きなインパクトを伴って潜在成長率も低迷するだろう。そうなれば、中国も日本と同じよに長期停滞に陥る可能性が高いのである。

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