企業の変化をマネジメントには、計画的変化(Planned change)と創発的変化(Emergent change) があり、計画的変化はトップダウン、創発的変化はボトムアップのアプローチとも言えます。
日本の新郷重雄の名前を冠したShingo Model による組織変化プロセスは、典型的なトップダウンによるビジョンとミッションが示された後、一転してボトムアップによる社員それぞれの行動が求められています。
わたしはこれを最初に見たとき 「どうしていきなりトップからボトムに組織変化のプロセスが移行するのか?」 理解できませんでした。
突然、何の脈絡もなく最上位のトップからボトムの現場に話がジャンプしているように思えました。 仮に誰もが納得する素晴らしいビジョンが示されたとしても、これまでの継続ではなく組織変化を起こそうとする企業が、組織のビジョン、ミッションが決まったからといって、すぐに日々の行動が変わるでしょうか? 正直なところ、この考え方には大きな違和感がありました。
これは現実性がないな.. と思っていたところ一冊の本に行き当たりました。 ジェーム・C・コリンズ著 「ビジョナリ―カンパニー」です。
そこにはこうあります。
- 組織には責任を持って仕事を成し遂げていく「規律」が必要である。
- 良い規律とは、わざわざ規則などに定めなくとも、従業員が自律的に行動する「規律の文化」と呼べるようなものである。
- 規律の文化を作るにはまず基本理念に沿って自ら行動できる従業員を育成することが重要である。
- 次に仕事の基本的なシステムやプロセスを確立し、それを順守した事業運営をする。
これは Shingo model による組織変革プログラムの、組織の構成員が「原理(意味合い)を理解することにより -> システムとして応用され ->ツールがつくられる」と殆ど同じ内容です。
一つ異なる点は「基本理念に沿って自ら行動できる従業員を育成する」という件です。 実際のところこれがビジョナリ―カンパニーで語られる「偉大な組織」を作る最重要課題ともいえるでしょう。 その課題を実現した経営者が偉大な経営者 - 例えば、アメーバ経営を実現した稲盛和夫氏 - と呼ばれるのでしょう。
トップダウンの理念を現場の行動にリンクし、日々の責任ある行動に転化するには、従業員の力が必要です。 従業員の力がなければ、あたかも柱のない建物の上にトップの理念が浮かぶ - 現実にはあり得ない組織が出来上がることになります。 そうした組織が長らえることは困難でしょう。
結局のところ、何とかモデルとかいかにも効果的な道具を借りてきても 「理念に沿って自ら行動できる人の育成ができる」ことが良い組織の実現の肝心要のところであるならば、真の経営とは実際、骨の折れる仕事だと思います。