メザスヒカリノサキニアルモノ若しくは楽園

地球は丸かった 太陽が輝いていた
「ごらん、世界は美しい」

感動の映画と美しい風景と愛おしい音の虜

ミセス・ノイズィ

2020年12月11日 | 思想
ミセス・ノイズィ
を観ました。


小説家であり、母親でもある主人公・吉岡真紀(36)。
スランプ中の彼女の前に、ある日突如立ちはだかったのは、隣の住人・若田美和子(52)による、けたたましい騒音、そして嫌がらせの数々だった。
それは日に日に激しくなり、真紀のストレスは溜まる一方。
執筆は一向に進まず、おかげで家族ともギクシャクし、心の平穏を奪われていく。
そんな日々が続く中、真紀は、美和子を小説のネタに書くことで反撃に出る。
だがそれが予想外の事態を巻き起こしてしまう。
2人のケンカは日増しに激しくなり、家族や世間を巻き込んでいき、やがてマスコミを騒がす大事件へと発展……。
果たして、この不条理なバトルに決着はつくのかーー?!


天野千尋監督です。
予告編を観て興味をいだきましたがはじめましての監督さんなので見に行こうか?結構迷いました。
しかしながら常に新しい発見や出会いを求める癖なので勢いつけて見に行きましたが。
想像の遥か上を行くめちゃくちゃおもしろいハイレベル映画だったので観て本当に良かったです。

このテーマ、この世界観の映画では最大限の起承転結って感じで非常に巧妙な物語でした。
この手の映画にしては予想外にネタバレ注意な作品なので。
この作品を最大限に楽しむために情報入れずに観ることを最初におすすめします。

誰もがもれなく嫌な気分になるであろう引越し先でのご近所トラブル。
そして家族との衝突。
優しい夫との価値観や思惑のすれ違い、思い通りになってくれない幼い娘とのやり取り。
上手く行かない物書きの仕事の上に隣の部屋から聞こえる騒音。
序盤からかなりハイストレスな展開と個々の描写でなかなか感情揺さぶられました。

ハイストレスが基本的には苦手で登場人物たちの知性にイライラしてしまうものですが意味あるハイストレスでした。
主人公が小説家なのに思慮浅くてヒステリックでなかなか共感できなかったのですがちゃんと回収がありました。
小説家って冷静でクレバーで論理的な人が多いイメージが強いので基本的には違和感強かったですが。

思ったより大分早いタイミングでどんでん返しというか裏側の描写がありました。
今や当たり前の手法となった自分が好きな初期のガイ・リッチー式です、木更津キャッツアイなどに代表される。
同じ時間、同じシーンを違う登場人物の視点で見せていくやつですね。
ただしここまで巧妙なやつはそうそう記憶にないくらい巧妙でした。
その切り替えシーンのインパクトや世界観の変わり方もかなり見事でした。

視点によって同じものがここまで違って見えるという観点では過去トップクラスです。
なんとなく正義を刷り込みますが決してそれが正義ってわけじゃないという、
映像作品ならではの効果を最大限に利用していたと思います。

一応ホームドラマな作品ですがこの手の物語はどんどん破綻して崩壊していくものですが。
それだけでは終わらない凄い回収な終盤でした。
しかも過剰に盛り上げてるような雰囲気もなく実に上質に巧妙に仕上げていました。
どんな作品を観ていても大抵の人は漠然と次の展開を予想するものですが、いちいちその上を行ってました。
この手の物語で考えうる最大限の起承転結をしていたと思います。

SNS社会の炎上商法の中身の無さや、消費社会の価値観への痛烈なアンチテーゼを説教くささもなく見事に入れ込んでいたと思います。
物語や人物は表面だけではわからない。
現実社会でもそういうことで人の評価や誹謗中傷が行われたりしているけど遠回しにそこに一石を投じているようで痛快でした。
編集者が言う主人公の書く小説の立体感が無い、みたいな指摘が結局映画全体の芯を食っているようで見事でした。
ネット上などで簡単に人を批判したりしてはいけないですね。

巧妙な物語と売れっ子キャスティングに頼っていない作品作り。
個人的にはカメラを止めるなと同じ引き出しに入れたい作品でした。
社会的に話題になってバズってもおかしくないクオリティの映画だったと思います。
深く観ることも出来るしシンプルに面白がることもできました。
笑ってる人も泣いている人もいてそれは素晴らしい作品の象徴だと思います。

子役の子がかなり小さいのになかなか素晴らしいナチュラル演技してました。
もちろん子役のポテンシャルも大きいでしょうがあのくらいの歳の子にナチュラル演技の演出出来る監督は優秀だと思います。
その観点からも監督さんはとてもハイセンスで才能ある人なのだと思います。

主演は実力派女優の篠原ゆき子です。
近年、ドラマや映画で非常に秀逸な演技で強いインパクトを残していますが主演は珍しいイメージです。
正直、興行的な引きは弱いとは思うのですがそれを差し置いても実力を重視しているキャスティングは好感度高いです。
お客を呼ぶためより作品を良くするためのキャスティングにふさわしい主演でした。
適度にヒステリックで観ている人をイライラさせたり同情させたり流石でした。

ご近所トラブルの相手役を大高洋子が演じていました。
プロフィールを見ると自分が観ていた作品に出ているのですが認識はしてなかった気がします。
なので今作で初めてまともに見たと言っていいと思うのですが、凄いインパクトでした。
今年最大の発見って言いたいくらい素晴らしい女優さんでした。
ヤバい怖い面と非常に優しい面。
フリが効いてる分終盤には泣かされました。
多くの人に今作の演技を見てもらいたい!って大声で言いたいくらい絶賛でした。
今年の俺アカデミー賞助演女優賞の最有力候補です。

主人公の夫役の長尾卓磨も初めて認識したくらいの俳優でしたが実にいい塩梅でしたね。
ちょっと内面が見えない距離感で描写されているのが見事でした。
主人公目線では歯がゆいですが個人的には最初からこの人に共感して見れました。

お隣の夫役の宮崎太一も知らない役者でしたが素晴らしい存在感でした。
結構難しい役どころだったと思いましたが説得力ありました。

炎上商法を仕掛ける主人公の従兄弟を米本来輝が演じていましたがこの人も良い役者でした。

子役の新津ちせも何処までが演技なのか?って思うくらい見事な演技でした。
天才子役としてブレイクしてもおかしくないポテンシャルを感じました。

想像以上に面白い映画でかなりオススメな一本でした。


そんなわけで8点。
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