【放射性物質拡散予測】
原子力規制委員会が24日に公表した放射性物質の拡散予測では、福井県内にある原発で重大事故が起きれば、滋賀県内にも影響が及ぶ可能性が示された。県は昨年に独自で実施した拡散予測との比較・分析を進め、防災計画の改定に生かす考えだ。
国の拡散予測では、全身への1週間の積算被曝(ひ・ばく)線量が、国際原子力機関(IAEA)の基準で避難が必要とされる100ミリシーベルトに達した地点を示しており、敦賀原発で長浜市余呉町付近、大飯原発では高島市西部の県境付近まで広がった。
県が昨年、独自に行った拡散予測では、甲状腺の被曝線量が屋内退避の必要な100~500ミリシーベルトになる範囲が、敦賀原発から最大43キロの長浜、高島両市に拡大。安定ヨウ素剤の服用が求められる50~100ミリシーベルト未満の範囲が、県内のほぼ全域に広がる結果が出ていた。
担当した県琵琶湖環境科学研究センター環境監視部門の山中直部門長は、国と県の予測が異なる理由について前提条件の違いを挙げる。国の予測では地形情報を考慮せず、気象条件も国が1週間とも同じ風向、風速、天候で試算したのに対し、県は実際のある1日の条件でした。
山中部門長は単純比較はできないとしながら、「国はありえない想定で予測した」とし、県の予測の方が実態に即しているとの見方を示した。ただ、今回の予測で重要なのは「放射性物質が最も遠くまで飛んだ距離だ」と指摘。架空の気象条件のため、今回は飛ばないとされた方向にも広がる可能性があり、避難の必要な範囲がより広い範囲に及ぶおそれがあるという。
国が、予測の公表と併せて防災重点区域を30キロ圏内に拡大したため、県は来年3月までに地域防災計画を見直す必要がある。嘉田由紀子知事は「県が作ったデータとどう違うのか分析し、防災計画に生かせるようにしたい」としている。(千種辰弥)
【首長ら「行政境界無意味」】
拡散予測の公表後、長浜市内で報道陣の取材に応じた嘉田由紀子知事は「国が責任を持ってシミュレーションを出してくれたことは評価したい」と話した。
福井県の大飯原発では避難が必要な被曝線量に達する範囲が32.2キロ先の京都市まで及んだことを踏まえ、「大気はつながっており、行政の境界で区切ることの不合理さを関西電力に自覚してもらい、被害予測に即して協定を結んでほしい」と要求。県が関電など3事業者と協議を進める原子力安全協定をめぐり、事業者側が長浜市について美浜原発のある福井県美浜町と隣接していないことを理由に協定の対象外としていることを批判した。
長浜市の藤井勇治市長も「(原発の)立地市、隣接市という仕分けが意味を持たないことが改めて示された」との談話を発表した。
福井県敦賀市にある敦賀原発から最短13キロにある長浜市余呉町中河内地区。集落の35世帯48人のうち7割近くが65歳以上の高齢者だ。21日には原発事故を想定した市の防災訓練があり、地区の住民らもバスで避難した。訓練に参加した小谷和男さん(80)は拡散予測について「原発の情報が増えるのはいいことだ」と話す一方、「集落には独り暮らしも多い。万が一の時にきちんと避難ができるのか不安だ」と訴えた。
高島市の西川喜代治市長は「県が定めた防護対策地域43キロを基にした防災計画を立てている」とし、今回の発表については「国からの説明がまだないので、情報収集を進めて内容を検討したい」と話した。(成田康広、八百板一平)